第五話 洗礼
今日も、今日とて。日課は変わらない。
朝7時に入って珈琲とお客様と向き合う。
「邪魔するよ。」
ガタイの良いサングラスを掛けた5人組。
「いらっしゃいませ。生憎3席しかありません。ご容赦ください。」
「なら、おい。2人は表で立ってろ。」
「へい。」
ドアが開き出ていく2人。
「表に立ってる者の分も含めて、アイスコーヒー5つだ。」
「ブレンドはお任せでよろしいですかね?」
「ああ。」
誠実ブレンドを粉にする。
グラスとサーバーに氷を詰めてマドラーでステアすると、その水を切る。
エスプレッソを抽出しお湯で割るとサーバーにて急冷し、そのコーヒーをグラスに注ぐ。
先ずは二杯。
「お待たせ致しました。誠実ブレンドのアイスコーヒーです。」
コルクのコースターを敷き、ストローとガムシロップポーション、35%生クリームの入ったミニポッドを提供する。
二度繰り返した頃に、
「ここからが教育なんでね。違うブレンドで同じスタイルのアイスコーヒーを。」
とぶっきらぼうにリーダー格であろう男が頼む。
5杯の誠実ブレンドのアメリカーノスタイルアイスコーヒー。
「いい人ブレンドと言うもので入れますね。」
豆を粉にする為、後ろを向いた時飲んで良いとリーダー格の男性が指示したのだろう。
「「ありがとうございます。」」
お供している2人がグビグビと飲む。
「飲んだら外にいる者と代われ。」
グラスとサーバーに氷を詰めてマドラーでステアすると、その水を切る。
エスプレッソを抽出しお湯で割るとサーバーにて急冷し、そのコーヒーをグラスに注ぐ。
「お待たせ致しました。いい人ブレンドのアイスコーヒーです。」
タイミング良く扉が開き、
「「失礼します」」
コルクのコースターを敷き紙ナフキンを置いた上にグラスを乗せ、ストローとガムシロップポーション、35%生クリームの入ったミニポッドを提供する。
「まぁ外は暑かっただろ。お前ら好きなのを選べ。」
アイスコーヒーは5人で来たのに6つ。
しかも紙ナフキンが敷かれた1つと、水滴を纏わせた3つ。
好きなのを選べ。
サングラスを掛けているが、髪型からあの彼だ。組織では新入りなのだろう。紙ナフキンの敷かれたグラスに手を伸ばそうとすると、
「おい新入り。それは兄貴の物だ。一番新しいだろ?」
もう一人はお目付役なのだろう。
声を掛けたお目付役は誠実ブレンドのグラスを手に取り、新入りにも促す。
頭を押さえつけられ兄貴分に顔を合わさず、
「失礼しました。」
と大きく身体を曲げ待つ。
「謝るのは俺にじゃない。お前はこの店にだろうが。店の主にこの紙ナフキンの一杯を。」
と、いい人ブレンドを押し付け、
「ドリンクをこれで迷う事はないだろう。早よ飲め。」
と、リーダー格はグラスを片手に促す。
「飲んだら表で待っていろ。」
「いつの時代も下っ端の育成は手を焼く。」
ぼそっと呟いてしまった。
「面目ねえ。うち会社の若い者が食い逃げしたと聞いて、謝罪のやり方も知らないときたもんでよ。」
「あの件は私も気が立ってしまった事、きちんとお支払いは頂きましたので不毛な事は水に流しましょう。」
「有り難え。繰り返す様なら締めるのみよ。」
リーダー格はサングラスを外し、2つのアイスコーヒーに誰も使わなかった生クリームを次々と入れる。
「俺たちもそこそこ馬鹿で生きているが、あんたが誠実で助かった。まぁ、あんたも飲め。」
あのこってりとした生クリームコーヒーをお互いが一気に飲み終わるのを見届けると、お代の6千円を置いて店を出て行った。




