第六話 再会
今日が雨でも、晴れでも、台風でも。一日は始まり、時間は刻々と刻む。
「えー、探して、来ちゃいました。」
退職する前の求人募集の最終面談に残った書類成績上優秀ではある女性。あの時は大学院生だっただろうか。
彼女から自己紹介で漏らしたストーカー気質が当時の不採用理由だとふと思い出してしまい、ため息を堪えて、
「いらっしゃいませ。ご注文は。」
席に着くとメニューをしっかり読む。
「3種類の飲み比べ。同じエスプレッソのソロでよろしくお願いします。」
予想を裏切る頼み方。これが面接でも発揮された。
誠実ブレンドを粉にする。
バスケットに詰めてやや甘めのダンパーを掛けるとマシンにセットする。
カップにお湯を張り温めている間にソーサーとスプーンを並べ、カップのお湯を捨てる。
抽出。僅かに早く切り上げてソーサーに乗せると、
「誠実ブレンドのエスプレッソです。」
続いていい人ブレンドを粉にする。
バスケットに詰め強めにダンパーを掛けるとマシンにセットする。
温めていたカップのお湯を捨て抽出。先程よりも早く切り上げてソーサーに乗せると、
「続いていい人ブレンドのエスプレッソです。」
コミュ障ブレンドも粉にしてバスケットに詰める。ダンパーは強め。マシンにセットしカップのお湯を捨てると抽出。リストレット気味に切り上げる。
「最後にコミュ障ブレンドのエスプレッソです。」
彼女は何も喋らず、スマートフォンのカメラを私に向けていた。
ピコン。と音がして止めたのであろう。
チェイサーの水を用意する。
「私、味にはうるさいから。」
そう言って角砂糖2個をそれぞれのデミタスカップに落とすと、よく混ぜて少し啜る。
「あーこのお店ってそうなんだー。」
「わーこれ好みかも。」
「えっ、待って待って!」
一人で飲み比べてはしゃいでいる。
「で、好みは?」
「断然にコミュ障ブレンド。ちょっとコンビニに行ってくるので、そのまま置いてて。あ、代金は置いておきますね。」
三千円を財布から取り出すとカウンターに置いて店を飛び出した。
ここから最短のコンビニは徒歩10分。
予約席と表示して洗い物をする。
彼女は20分もかからずに到着。ワンピースで全速力ダッシュしてきたのか、髪は残念な事になっている。
「迷惑だったら言ってください。ここでアイスクリームを食べます。いえ、食べさせてください。お願いします。チェイサーにソーダも飲ませてください。決して汚しません。」
「正直迷惑だ。店の外でやってくれ。」
「外ならいいって、ありがとうございます。」
頭を下げるとドアの外でアイスクリームを食べ、店の中で冷めたエスプレッソを口にする。
アイスクリームはあの姿勢だと黒板の蝶番に置いているのか。
流石に10回を超えると滑稽に見えて、つい。
「空調が無駄にもったいない。中で食べてくれ。」
その時の彼女の幸せそうな顔は忘れられそうに無い。
750mlカップの半分までアイスクリームを食べた頃、
「コミュ障ブレンドのエスプレッソひとつ。追加で。」
何をするかは想像出来た。
コミュ障ブレンドも粉にしてバスケットに詰める。ダンパーは強め。マシンにセットしカップのお湯を捨てると抽出。2度目もリストレット気味に切り上げる。
「お待たせ致しました。コミュ障ブレンドのエスプレッソです。」
ためらいもなくアイスクリームに掛けている。
「至福だぁ。」
溶けたアイスと冷めたエスプレッソ。
生クリームを使ったアイスコーヒーやカフェオレを届けたい。少し悔しく提案してみる
「もう一杯だけ、この店の最高を呑むかい?」
「あ、お腹の都合で次回の楽しみにします。」
残念な事とすべきか、当然か。
「ご馳走様でした。追加の千円を置いておきますね。」
「次はコミュ障ブレンドでお気に入りになる、とっておきの一杯だ。」
「とても嬉しい提案です。次は誰かと来たいと思います。」
少なくとも、2人。また来店するであろうきっかけは掴んだ気がした。




