正月は目出鯛
クリスマスが終わると、街はあっという間に正月の顔になった。
昨日まで赤と緑の飾りが並んでいた商店街には、門松としめ縄が置かれ、洋菓子店のショーケースには「謹賀新年」の文字が躍っている。
そして金城邸も、例外ではなかった。
広い正門には巨大な門松。
玄関には立派なしめ飾り。
大広間には生け花。
そして、重箱に詰められた豪華なおせち料理。
金城豊、財前守、京極怜音の男三人は、珍しく和服姿だった。
豊は黒紋付。
守は落ち着いた紺の着物。
怜音はなぜか黒地に銀の模様が入った、妙に派手な着物である。
「正月らしいな」
豊が満足そうに言う。
守は淡々と答えた。
「年始の来客対応としては妥当だ」
怜音は扇子を広げる。
「俺の場合、和服でもロックになる」
「静かにしていればな」
「ひどいな」
そこへ、花園真珠が入ってきた。
いつもの黒と白のメイド服。
新年の朝でも、彼女は変わらない。
「皆様、明けましておめでとうございます」
丁寧に頭を下げる真珠を見て、豊は眉をひそめた。
「真珠」
「はい」
「なぜメイド服なんだ」
真珠は少し不思議そうに答える。
「メイドですので」
「正月だぞ」
「はい。ですから、いつもより丁寧にお掃除いたしました」
「そういう意味じゃない」
豊は立ち上がった。
「振り袖を着ろ」
真珠は目を瞬かせた。
「振り袖、でございますか?」
「正月なんだから着物だ。命令だ」
真珠は困ったように目を伏せる。
「ですが、わたくしは着物を持っておりません」
その言葉に、食堂の空気が少しだけ静かになった。
ソフィア・アレクセーエヴナが、黒パンではなく餅を箸でつつきながら顔を上げる。
「真珠、メイド服以外の服はないのか?」
「普段着はいくつかございます」
「正月用は?」
「ございません」
真珠は穏やかに答えた。
「花園家にあった着物は、すべて売られてしまいましたから」
豊の表情が変わる。
ソフィアも箸を止めた。
花園家。
かつては旧家だった。
母の着物。
姉妹の祝い着。
家紋の入った品々。
だが、両親の死後、中学生だった真珠は相続税を払えず、家も土地も家財道具も売り払うことになった。
着物も一枚残らなかった。
真珠は静かに笑った。
「仕方のないことです。もう昔の話ですから」
「昔の話じゃない」
豊は短く言った。
真珠が顔を上げる。
「坊ちゃま?」
「少し待っていろ」
*
数分後。
使用人たちが、大きな桐箱をいくつも運んできた。
真珠は驚く。
「これは……」
豊は桐箱の一つを開けた。
中には、美しい振り袖が収められていた。
淡い桃色の地に、白い花と金糸の模様。
袖の裏には、小さく花園家の家紋が入っている。
真珠の息が止まった。
「花園家の……」
豊はうなずいた。
「お前の家から売られた着物だ」
「どうして、ここに」
「呉服屋に声をかけて探させた。古物商、質屋、旧家の蔵、いろいろ回らせた。全部ではないが、見つかったものは買い戻した」
真珠は震える手で、振り袖に触れた。
懐かしい手触り。
幼い頃、母が大切にしまっていた着物。
自分のものではなくなったと思っていたもの。
もう二度と戻らないと思っていたもの。
「坊ちゃま……」
「俺のものとして買った。だから正確には、まだお前のものではない」
豊は少し照れくさそうに言った。
「だが、今日は命令だ。正月は、その着物で奉仕しろ」
真珠は目を伏せる。
「ですが、わたくしが着るには……」
「命令だ」
豊は強引に言った。
「金城家のメイドとして、正月の客前にふさわしい格好をしろ」
真珠はしばらく黙っていた。
そして、静かに頭を下げた。
「……承知いたしました」
ソフィアが桐箱を覗き込む。
「私の分もあるのか?」
豊は別の箱を開けた。
そこには、黄色地に荒波と花をあしらった着物が入っていた。
「お前にはこれだ」
ソフィアは目を丸くした。
「私も?」
「花園家の姉だろう」
ソフィアは少し言葉に詰まった。
「私は、まだ……花園朱珠だって全部思い出したわけじゃない」
「それでも、お前は真珠の姉だ」
ソフィアは着物を見つめた。
黄色い布地に、金の波模様。
どこか海を思わせる柄だった。
「……悪くないな」
怜音が笑う。
「ソフィアの和服姿か。これは見ものだな」
ソフィアは睨んだ。
「変なことを言ったら、正月から海に沈める」
「まだ何も言ってないだろ」
*
しばらくして。
大広間に、真珠とソフィアが現れた。
真珠は桃色の振り袖姿。
普段のメイド服とは違い、旧家の令嬢だった頃の面影がはっきりと浮かび上がっている。
上品で、静かで、少し儚い。
けれど、背筋はまっすぐだった。
ソフィアは黄色地の着物。
着慣れていないせいで少し歩き方が荒いが、その不器用さも含めてよく似合っていた。
姉妹は並ぶと、やはり顔立ちも体格もよく似ている。
真珠は磨かれた宝石のように。
ソフィアは荒波に洗われた金のように。
豊はしばらく言葉を失った。
怜音が横からひじでつつく。
「見とれてるぞ」
「黙れ」
守は冷静に言った。
「二人の顔貌類似度は高い。姉妹であることが視覚的に非常に分かりやすい」
「そういう感想じゃないだろ」
リュビィがぱたぱたと走ってきた。
「真珠、きれい! ソフィアもきれい!」
ソフィアは少し照れた。
「そうか」
「リュビィも着たい!」
その一言で、全員が顔を見合わせた。
*
さらに数十分後。
リュビィにも振り袖が着せられた。
白地に赤と金の模様。
金髪と白い肌に、妙に映える。
見た目だけなら、どこかのお姫様か、外国から来た美少女モデルのようだった。
リュビィは袖をぱたぱた振っている。
「これ、動きにくい」
真珠が優しく直す。
「袖を振り回してはいけません」
「カニの鋏みたい」
「違います」
豊は思わず言った。
「見た目だけは美少女だな」
リュビィが振り向く。
「中身も美少女!」
怜音が小声で言う。
「水風呂に入って脱皮する美少女だけどな」
リュビィは胸を張る。
「神秘の美少女!」
守は淡々と記録していた。
「振り袖着用時のリュビィ。外見的には年齢不詳の美少女。行動は幼児的傾向」
「書かないで」
「研究記録だ」
ソフィアは笑った。
「まあ、正月らしくていいじゃないか」
真珠は小さくうなずいた。
「はい」
大広間に、花園家の着物が戻ってきた。
それだけで、少しだけ正月が温かくなった気がした。
*
その頃。
街の神社前商店街は、初詣客で賑わっていた。
屋台。
破魔矢。
甘酒。
おみくじ。
振り袖姿の人々。
家族連れ。
めでたい空気に包まれた正月の街。
だが、そのめでたさを狙う者たちがいた。
黒い泡と瑠璃色の闇が、神社の池から噴き上がる。
現れたのは、二体の怪人。
一体は、鯛の顔をした男。
赤い魚体に、やたらと飛び出した目玉。
その目は「目出たい」の駄洒落そのもののように、ぎょろりと前に突き出している。
怪人鯛男。
もう一体は、巨大な海老の飾りをまとった女怪人。
体は海老の甲殻風。
頭には正月飾り。
背中には鏡餅のような丸い装甲。
その上に乗った海老飾りが、まるで彼女自身と一体化している。
怪人海老女。
「タイタイタイ! 正月は目出鯛!」
「エビエビ! 腰が曲がるまで長生きしろエビ!」
二体は、そろって神社前に立った。
人々が悲鳴を上げる。
「怪人だ!」
「正月から!?」
鯛男が目玉を飛び出させる。
「めでたい正月を、カイサーンのめでたさで支配するタイ!」
海老女が鏡餅の上に乗った飾りのような姿でくるりと回る。
「人間ども、正月飾りになるエビ!」
怪光線が放たれた。
門松が海藻に変わる。
破魔矢が海老の触角に変わる。
おみくじが鯛の鱗に変わる。
鏡餅の橙が小さなヒトデに変わる。
甘酒がなぜか海老味の味噌汁になる。
人々は混乱した。
「めでたいけど、何か違う!」
「縁起がいいのか悪いのか分からない!」
「海老味噌汁は美味しい!」
鯛男は目玉をぎょろぎょろさせた。
「タイタイ! 困惑するがいいタイ!」
海老女は甲殻の腕を振り上げる。
「新年はカイサーンのものエビ!」
*
金城邸地下基地。
警報が鳴る。
守がモニターを表示した。
「神社前商店街にカイサーン反応。二体同時出現だ」
豊が画面を見る。
「鯛と海老か」
怜音が笑う。
「正月らしいな」
真珠は振り袖姿のまま表情を引き締めた。
「人々の新年を乱すなど、許せません」
ソフィアも着物の袖をまとめる。
「この格好で戦うのか?」
守が言った。
「戦闘に支障が出る。変身すれば問題ない」
リュビィは振り袖姿でくるっと回った。
「リュビィ、これで戦う?」
「駄目です。変身してください」
豊はブレスを掲げた。
「新年早々、出撃だ!」
*
神社前商店街。
鯛男と海老女は、正月飾りを海の生き物だらけに変えていた。
「タイタイ! 目出鯛光線!」
鯛男の飛び出した目玉から光線が出る。
当たった獅子舞が、鯛の頭になった。
「エビエビ! 正月海老締め!」
海老女の触角が伸び、屋台をぐるぐる縛る。
そこへ、五人の戦士が駆けつけた。
「富轟チェンジ!」
「ダイフゴー!」
五色の光が弾ける。
「巨万の勇気! フゴーレッド!」
「相場を制する知略! フゴーブルー!」
「漆黒の旋律! フゴーブラック!」
「荒波育ちの黄金魂! 新フゴーイエロー!」
「奉仕の真心! フゴーピンク!」
「富轟戦隊!」
「ダイフゴー!」
リュビィも皇女の十字架を掲げる。
「皇女の十字架!」
「母なる海と父なる大地の命を持つ者!」
「愛の戦士リュビィ、参上!」
鯛男が目玉をさらに飛び出させた。
「タイタイ! 来たタイ、ダイフゴー!」
海老女が笑う。
「エビエビ! リュビィも来たエビね!」
リュビィは指を差した。
「正月を変にしたら駄目!」
鯛男が胸を張る。
「変ではないタイ! 目出鯛タイ!」
ブラックが呟く。
「めでたいの圧が強いな」
ブルーが解析する。
「鯛男は目玉から変換光線を出す。海老女は触角と甲殻による拘束戦闘が得意だ」
レッドが号令を出す。
「二手に分かれるぞ。俺たち五人は鯛男を抑える。リュビィは――」
その時、空から青白い炎が走った。
金属の足音。
赤、黒、金の巨大パワードスーツ。
フゴードラゴンが着地する。
『海老女は任せろ』
リュビィが笑顔になる。
「ドラゴン!」
レッドはうなずいた。
「よし。リュビィ、フゴードラゴンと一緒に海老女を止めろ!」
「うん!」
*
ダイフゴー五人は鯛男と対峙した。
鯛男は目玉をぎょろぎょろ動かす。
「タイタイ! 正月から働くとは大変タイ!」
レッドが銃を構える。
「お前らが暴れるからだ!」
「目出鯛ビーム!」
鯛男の目玉から光線が放たれる。
レッドたちは散開する。
光線が当たった屋台の焼きそばが、鯛めしに変わった。
ブラックが思わず立ち止まる。
「うまそうだな」
ブルーが叫ぶ。
「集中しろ!」
イエロー、ソフィアが弓を引く。
「イエロー・ハードショット!」
矢が鯛男の足元を射抜く。
ピンクがサーベルで斬りかかる。
「ピンク・サーベル!」
鯛男は目玉を飛び出させて避けた。
「タイタイ! 目が出ているからよく見えるタイ!」
ブラックがギターアックスを振る。
「じゃあ、その目を回してやる!」
ギターアックスの衝撃波が鯛男に命中する。
鯛男はぐるぐる回った。
「タイィィ! 目出鯛のに目が回るタイ!」
レッドが叫ぶ。
「今だ!」
*
一方、リュビィとフゴードラゴンは海老女と戦っていた。
海老女は鏡餅の上に乗った海老飾りのような装甲を輝かせる。
「エビエビ! 正月飾りの海老は長寿の象徴エビ! つまり私は縁起がいいエビ!」
リュビィが首をかしげる。
「じゃあ悪い怪人じゃない?」
フゴードラゴンが低い声で言った。
『人々を襲っている時点で悪い』
「そっか」
リュビィはリュビィ・タクトを掲げる。
「リュビィ・タクト、ラブリー・スラッシュ!」
白い光の剣が海老女に迫る。
だが、海老女は硬い甲殻で受け止めた。
「エビエビ! 正月海老甲殻!」
フゴードラゴンがドラゴン・クロウを展開する。
『ドラゴン・クロウ』
鋼の爪と海老の甲殻がぶつかり、火花が散る。
海老女の触角が伸び、リュビィの腕に巻きつく。
「捕まえたエビ!」
「カニィ!」
リュビィが反射的に叫ぶ。
フゴードラゴンが即座に踏み込む。
『リュビィを離せ』
翔太の内部モニターには、リュビィの拘束状態が赤く表示されていた。
外の声は大人の低音だが、中の少年はかなり焦っている。
「リュビィさんを捕まえるな!」
ボイスチェンジャーを通した声だけが響く。
『許さない』
フゴードラゴンの胸のコアが輝いた。
『ドラゴン・ブラスター』
青白い光弾が海老女の触角を撃ち抜く。
リュビィが解放される。
「ありがとう、ドラゴン!」
『問題ない』
リュビィはにこりと笑った。
「ドラゴン、やっぱり優しい」
フゴードラゴンは一瞬だけ黙った。
内部で翔太は顔を赤くしていた。
『戦闘に集中しろ』
「はーい」
*
鯛男は、ダイフゴー五人に追い詰められていた。
「タイタイ! 新年早々、縁起が悪いタイ!」
ブルーが言う。
「敵の目玉が弱点だ」
ブラックが笑う。
「目出鯛だけに目が弱点か」
レッドが二丁拳銃を構える。
「決めるぞ!」
五人の武器が合体する。
「富轟バスター!」
鯛男は目玉を飛び出させて慌てる。
「待つタイ! 正月は笑って過ごすものタイ!」
レッドが叫ぶ。
「人の正月を乱しておいて言うな!」
「ダイフゴー・ゴールドバースト!」
黄金の光弾が鯛男を直撃する。
「目出鯛ィィィ!」
鯛男は爆発した。
*
同じ頃、リュビィとフゴードラゴンも海老女を追い詰めていた。
海老女は鏡餅装甲を回転させる。
「エビエビ! 鏡餅海老プレス!」
リュビィはタクトを構える。
「リュビィ・タクト、ラブリー・レイ!」
白い光が海老女の動きを止める。
フゴードラゴンが腕部装甲を開く。
『ドラゴン・ブラスター、最大出力』
二つの光が重なる。
「愛の光!」
『科学の炎』
「一緒に!」
『撃つ』
白い光と青白い光が海老女を貫いた。
「エビィィィ! 新年の海老飾りがぁぁ!」
海老女も爆発した。
*
だが、黒い泡が広がる。
カイサーン城からクラーケンの声が響いた。
「海の悪魔よ、目出鯛と海老飾りを巨大なる正月の災いへ変えよ」
ラピスラズリの瑠璃色の力が重なる。
「大地の悪魔よ、新年を迎える者たちの浮かれた心を縛りなさい」
鯛男と海老女が、二体同時に巨大化した。
「巨大目出鯛タイ!」
「巨大海老飾りエビ!」
レッドが叫ぶ。
「豪商軍!」
リュビィが続く。
「ソウルアーク!」
フゴードラゴンが空を見上げる。
『アトミック・ドラゴン』
豪商軍、ソウルアーク、アトミック・ドラゴンが出現する。
だが、相手は二体。
巨大鯛男は目玉光線で豪商軍を狙い、巨大海老女は触角でソウルアークを縛る。
アトミック・ドラゴンが援護するが、二体の連携が意外に厄介だった。
ブルーが叫ぶ。
「二体の正月エネルギーが相互補完している。片方を倒しても、もう片方が再生補助を行う可能性がある」
ブラックが言う。
「じゃあ同時に倒すしかないな」
フゴードラゴンの声が響く。
『聖商龍なら可能だ』
レッドはうなずいた。
「よし、三聖合体だ!」
アトミック・ドラゴンが天へ舞い上がる。
ソウルアークが白い魂の光を放つ。
豪商軍の胸部が開き、富轟エネルギーが金色に輝く。
「三聖合体!」
「完成!」
「聖商龍!」
聖商龍が新年の空に降り立つ。
背中の白い翼。
胸の青白い炉心。
手にした龍尾の槍剣。
巨大鯛男と巨大海老女が同時に襲いかかる。
「目出鯛ビーム!」
「海老締め触角!」
聖商龍は槍剣を回転させ、二体の攻撃を弾いた。
リュビィが叫ぶ。
「お正月はみんなで笑う日!」
ピンクが続ける。
「誰かの新年を奪うことは許しません!」
ソフィアが言う。
「縁起物なら、縁起物らしく大人しくしていろ!」
レッドが叫ぶ。
「決めるぞ!」
聖商龍の槍剣に、科学の炎、聖なる力、海と大地の力が集まる。
フゴードラゴンの低い声が響く。
『科学の炎よ』
リュビィが続く。
「聖なる力よ!」
ピンクとイエローが叫ぶ。
「大地と海の力が一つとなり!」
ブルーとブラックが重ねる。
「煉獄の炎となりて!」
レッドが叫ぶ。
「罪を清めん!」
「必殺!」
「プールガートーリウム!」
聖なる煉獄の炎が、巨大鯛男と巨大海老女を同時に包み込む。
「目出鯛ィィィ!」
「海老ィィィ!」
二体は光に包まれ、同時に大爆発した。
空には、鯛と海老の形をした煙が浮かび、すぐに初日の出の光の中へ消えていった。
*
戦いの後。
神社前商店街は元に戻った。
門松は門松に。
破魔矢は破魔矢に。
おみくじも普通のおみくじに戻った。
ただ、屋台の一つだけが「新春限定・鯛茶漬けと海老汁」を始めていた。
ソフィアが買おうとして、真珠に止められた。
「今は任務中です」
「正月だぞ」
「任務中です」
リュビィは振り袖姿に戻り、甘酒を飲んでいる。
「甘い」
豊は真珠とソフィアを見る。
「着物、よく似合っている」
真珠は少し赤くなる。
「ありがとうございます」
ソフィアは照れ隠しにそっぽを向いた。
「動きにくいけどな」
「それでも似合っている」
ソフィアは何も言わなかったが、少しだけ嬉しそうだった。
フゴードラゴンは、少し離れた場所に立っていた。
レッドが声をかける。
「フゴードラゴン。正月から助かった」
『必要なことをしただけだ』
リュビィが近づく。
「ドラゴン、明けましておめでとう」
フゴードラゴンは一瞬沈黙した。
内部で翔太は少し驚き、それから小さく笑った。
『……明けましておめでとう』
その声はボイスチェンジャーを通して大人の声だったが、どこか優しかった。
リュビィは嬉しそうに笑う。
「今年もよろしくね」
『必要な時に現れる』
「それ、いつも言う」
『気のせいだ』
ソフィアが腕を組む。
「やっぱり怪しいな」
フゴードラゴンは答えず、背中の推進翼を展開した。
青白い炎を噴き、空へ飛び去っていく。
リュビィは手を振った。
「またね、ドラゴン!」
*
夕方。
金城邸。
大広間では、改めて新年の祝いが行われた。
豊、守、怜音は着物姿。
真珠とソフィアは花園家の着物。
リュビィは白い振り袖。
テーブルには、おせち料理と雑煮。
そして、なぜか鯛の塩焼きと海老の天ぷらが追加されていた。
リュビィは鯛を見て言った。
「さっきの怪人?」
「違います」
ソフィアは海老天を見ている。
「これはうまそうだ」
真珠は微笑んだ。
「正月らしい食卓ですね」
豊は静かに言った。
「花園家の着物を、また着てもらえてよかった」
真珠は袖をそっと撫でた。
「本当に、ありがとうございます」
「礼はいらない。俺がしたかっただけだ」
ソフィアも小さく言った。
「……私も、悪くなかった」
真珠が微笑む。
「朱珠姉さんだった頃のあなたにも、きっと似合っていたと思います」
ソフィアは少し黙る。
そして、いつものように言った。
「私はソフィアだ」
「はい。ソフィア」
二人は小さく笑った。
リュビィが折り紙の蟹を正月飾りに混ぜようとして、真珠に止められる。
「リュビィ様、それはクリスマスの時の飾りです」
「お正月蟹」
「そういうものはありません」
「作ればある」
「ありません」
怜音が笑い、守が記録し、豊が苦笑する。
新しい年が始まった。
まだラピスラズリは戻っていない。
カイサーンとの戦いも終わっていない。
フゴードラゴンの正体も分からない。
それでも、この瞬間だけは、確かに穏やかだった。
新年の平和を守るため。
子供たちの笑顔を守るため。
失われた家族の思い出を、少しずつ取り戻すため。
戦え、富轟戦隊ダイフゴー。




