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お嬢様勝負

 金城豊は、若き財閥総帥である。


 金城財閥。


 銀行、商社、不動産、重工業、ホテル、海運、放送事業。


 その巨大な財閥の頂点に立つ青年が、まだ二十五歳の独身男性となれば、当然のように周囲は騒がしくなる。


 財産目当てで言い寄ってくる女。


 家の名を上げるために近づく令嬢。


 政財界の縁談。


 海外名家との紹介話。


 金城邸に届く見合い写真だけでも、厚い束になるほどだった。


 だからこそ、周囲の人間は早いうちから、豊に婚約者を定めていた。


 名門海宝家の令嬢、海宝瑠璃(かいほうるり)


 家柄。


 教養。


 立ち居振る舞い。


 財閥総帥の妻として申し分ない女性。


 そのはずだった。


     *


 金城邸の大広間。


 瑠璃は白いドレス姿で、豊の隣に立っていた。


 今日は金城財閥の親族と重役を集めた小さな昼食会だった。


 とはいえ、小さいとは金城家基準である。


 出席者は数十人。


 料理は一流ホテルから呼ばれた料理長。


 花は専属の花屋。


 食器は海外の名窯。


 まるで社交界の縮小版だった。


 その場に、一人の女性が現れた。


 長い黒髪。


 淡い藤色のドレス。


 扇子を持ち、背筋をまっすぐ伸ばした気品ある立ち姿。


 鷹司美麗(たかつかさみれい)


 海宝家に劣らぬ名門、鷹司家の令嬢である。


 美麗は瑠璃の前に立ち、優雅に一礼した。


「ごきげんよう、海宝瑠璃様」


「ごきげんよう、美麗様」


 瑠璃も礼を返す。


 空気が一瞬で張りつめた。


 美麗はにこやかに言った。


「本日は、金城様に大切なお話があって参りましたの」


 豊は眉をひそめる。


「俺に?」


「ええ」


 美麗はまっすぐ豊を見た。


「若き金城財閥の総帥。その隣に立つ妻として、わたくしこそが相応しいと考えております」


 大広間がざわめいた。


 瑠璃の目が鋭くなる。


「何をおっしゃっているのかしら」


 美麗は微笑んだ。


「瑠璃様。婚約者の座をお譲りいただけませんこと?」


 真珠が銀の盆を持ったまま息をのんだ。


 怜音は小声で言う。


「うわ、正面から来たな」


 守は冷静に周囲を見る。


「ただの恋愛問題ではない。重役たちの反応から見て、金城財閥内部の派閥争いが絡んでいる」


 実際、美麗の背後には金城財閥の一部重役たちがいた。


 豊を瑠璃ではなく、鷹司家と結びつけたい派閥。


 若き総帥を利用し、自分たちの影響力を強めたい者たち。


 美麗の挑戦は、ただの女同士の争いではなかった。


 財閥の権力をめぐる戦いでもあった。


 瑠璃は扇子を広げた。


「婚約者を譲れ、ですって。ずいぶん下品な申し出ですわね」


 美麗は微笑みを崩さない。


「では、どちらが金城様の隣に立つに相応しいか、お嬢様として勝負いたしませんこと?」


「勝負?」


「ええ。家柄だけではなく、教養、礼儀、審美眼、社交性、そして人を従える器。お嬢様力を競うのです」


 瑠璃は一歩前に出た。


「受けて立ちますわ」


 豊が口を挟もうとする。


「待て、勝手に俺を賞品にするな」


 だが、瑠璃と美麗はすでに火花を散らしていた。


 怜音が肩をすくめる。


「完全に置いてけぼりだな、総帥」


     *


 第一勝負は、テーブルマナーだった。


 長い食卓に、数えきれないほどのナイフとフォークが並ぶ。


 スープ。


 魚料理。


 肉料理。


 デザート。


 瑠璃と美麗は、ほとんど完璧に食事を進めた。


 音を立てない。


 姿勢を崩さない。


 会話も上品。


 どちらも隙がない。


 審査役を務める金城財閥の重役たちはうなる。


「これは互角ですな」


「どちらも見事」


 瑠璃は余裕の笑みを浮かべた。


「当然ですわ」


 美麗も微笑む。


「この程度は、勝負にもなりませんわね」


 その時、給仕をしていた真珠が、倒れかけたワイングラスを一瞬で受け止めた。


 しかも、盆を傾けることなく、音も立てずに。


 誰もがその動きに目を奪われた。


 美麗が真珠を見る。


「あなた、ただのメイドにしては身のこなしがよろしいのね」


 真珠は静かに頭を下げた。


「恐れ入ります」


 瑠璃は少し誇らしげに言った。


「真珠さんは金城家のメイドですもの。粗相などいたしませんわ」


 だが、美麗の目には別の興味が浮かんでいた。


     *


 第二勝負は、生け花だった。


 瑠璃は白百合を中心に、品よくまとめた。


 海宝家の令嬢らしい、清楚で高貴な作品。


 美麗は藤と菖蒲を使い、流れるような優雅さを見せた。


 鷹司家らしい、華やかで計算された作品。


 またしても互角。


 だが、ここでも真珠が目立った。


 片付けの際、落ちた一輪の小さな花を拾い、余った枝と葉で小さな一輪挿しを作ったのだ。


 それは豪華ではなかった。


 だが、控えめで、澄んでいて、妙に心に残る美しさがあった。


 豊は思わず見つめた。


「真珠、それは?」


「余ったお花が可哀想でしたので」


 美麗の眉がわずかに動く。


「……ふうん」


 瑠璃もその一輪挿しを見て、何も言えなかった。


 派手さでは自分たちの方が上。


 だが、真珠の花には、人の心を静かに包む何かがあった。


     *


 第三勝負は、ピアノ演奏だった。


 瑠璃は名門女子大仕込みの端正な演奏を披露した。


 美麗は技巧に優れた華麗な演奏で会場を沸かせた。


 拍手が起きる。


 美麗は瑠璃に微笑んだ。


「いかがかしら?」


「悪くありませんわ」


 その時、重役の一人が冗談めかして言った。


「せっかくですから、金城家のメイドさんにも一曲お願いしてみては?」


 真珠は驚いた。


「わたくしが、ですか?」


 豊が言った。


「無理ならいい」


 真珠は少し迷った後、静かに首を振った。


「いいえ。弾かせていただきます」


 彼女はピアノの前に座った。


 演奏は、瑠璃や美麗ほど技巧的ではなかった。


 けれど、音が優しかった。


 幼い頃、豊と遊んでいた金城邸の庭。


 失った家族。


 仕える日々。


 言えない恋。


 守りたい人。


 そんなものが、音の奥ににじんでいた。


 豊は、何も言えなかった。


 瑠璃は胸の奥が痛んだ。


 美麗は、初めて笑みを消した。


 演奏が終わると、会場は静まり返った。


 そして、自然に拍手が起こった。


 怜音が小さく言う。


「勝負っていうより、心を持っていかれたな」


 守もうなずく。


「評価基準が変わった。技術ではなく、人格の品位が表出している」


     *


 一方その頃。


 金城邸の外では、カイサーンの怪人が庭園へ忍び込んでいた。


 優雅なヒレ。


 真珠のような装飾。


 背筋を伸ばした立ち姿。


 怪人タイ女。


 鯛をモチーフにした女怪人である。


 彼女は庭に置かれた彫像を見て、鼻で笑った。


「タイタイタイ。地上人の成金趣味は見ていられませんわね」


 戦闘員たちが頷く。


「ギョギョー」


 タイ女は扇子のようなヒレを広げた。


「人間は下品。欲望まみれ。財産、家柄、婚約者。何もかも奪い合うばかり。それに比べて、我らカイサーンこそ気品あふれる海の種族」


 彼女は金城邸の大広間を見上げる。


「お嬢様勝負? 笑わせますわ。本当の気品とは、海の底にこそあるのです」


 タイ女の目的は、金城財閥の昼食会を混乱させ、人間たちの醜さをさらけ出させることだった。


 そして、その混乱に乗じて豊を狙う。


 まさに人間の派閥争いにつけ込む作戦だった。


     *


 大広間では、最後の勝負が始まろうとしていた。


 題目は「客人へのもてなし」。


 瑠璃と美麗が、それぞれ即席の茶席を用意し、客人をもてなす。


 表向きは上品な勝負。


 だが、美麗の陣営は明らかに瑠璃を追い詰めようとしていた。


「海宝家は格式こそありますが、近年は少々保守的ですな」


「鷹司家との結びつきの方が、金城財閥の海外展開には有利でしょう」


 重役たちがわざと聞こえるように言う。


 瑠璃の手がわずかに震えた。


 真珠はそれに気づいた。


 瑠璃は強い。


 気高い。


 だが、婚約者としての立場を脅かされ、豊と真珠の関係にも心を乱されている。


 今の瑠璃は、完璧なお嬢様の仮面で自分を支えているだけだった。


 美麗はその隙を見逃さない。


「瑠璃様。顔色が優れませんわ。婚約者の座が重荷でしたら、いつでもわたくしが代わりますのに」


 瑠璃は言い返そうとする。


 だが、その瞬間、広間の扉が吹き飛んだ。


 タイ女が現れた。


「タイタイタイ! 醜いですわね、人間ども!」


 会場が悲鳴に包まれる。


「怪人だ!」


「カイサーン!」


 タイ女は優雅に一礼した。


「ごきげんよう、下品な地上人の皆様。わたくしはカイサーンの貴婦人、タイ女。あなた方の醜い争いを見物に参りましたの」


 豊は立ち上がる。


「カイサーン!」


 美麗は腰を抜かしそうになりながらも、重役たちの後ろへ下がった。


 瑠璃はすぐに前へ出る。


「ここは金城家の客人を迎える場。無作法者はお帰りなさい」


 タイ女は笑った。


「おや、地上のお嬢様。あなたも心の中では嫉妬と不安でいっぱいではありませんの?」


 瑠璃の顔が強ばる。


 タイ女は続ける。


「婚約者を奪われるのが怖い。メイドに心を奪われるのが悔しい。そんな醜い心で気品を語るとは、笑わせますわ」


「黙りなさい!」


 瑠璃が叫んだ。


 だが、いつもの余裕はなかった。


 その時、真珠が静かに瑠璃の前へ出た。


「瑠璃様」


「真珠さん?」


「お下がりください。今はお客様の避難が先です」


 真珠はメイドとして、客人たちへ頭を下げた。


「皆様、こちらへ。慌てず、廊下の奥へお進みください」


 その声は穏やかだった。


 怪人を前にしても乱れない。


 客人を第一に考える。


 自分の感情を抑え、場を整える。


 それは、ただの使用人の動きではなかった。


 本物の品格だった。


 美麗は、避難しながら真珠を見つめていた。


「どうして……」


 真珠はタイ女に向き直る。


「気品とは、相手を見下すことではございません」


 タイ女の目が細くなる。


「何ですって?」


「人を守るために、自分の感情を抑えること。困っている人に手を差し伸べること。礼を失わないこと。それが本当の品格だと、わたくしは教わりました」


 美麗が思わず尋ねた。


「あなた……本当にただのメイドなの?」


 真珠は静かに答えた。


「今は金城家のメイドでございます」


 怜音が小声で言う。


「今は、ね」


 守が続ける。


「花園家はかつて相当な名家だった。没落や事故で立場が変わっただけで、教育水準は高い」


 豊は真珠を見つめていた。


 そうだ。


 真珠もまた、ただの使用人として生まれたわけではない。


 彼女は品の高い家の娘だった。


 両親を失い、金城家に入った。


 そして自分をメイドとして律してきただけだ。


 真珠の中には、誰よりも静かな気品があった。


     *


 タイ女は不快そうにヒレを振った。


「偉そうに! 人間の分際でカイサーンの気品に意見するとは!」


 豊はブレスを掲げた。


「みんな、変身だ!」


「富轟チェンジ!」


「ダイフゴー!」


 赤、青、黒、黄、桃の光が弾ける。


「巨万の勇気! フゴーレッド!」


「相場を制する知略! フゴーブルー!」


「漆黒の旋律! フゴーブラック!」


「気高き黄金の誇り! フゴーイエロー!」


「奉仕の真心! フゴーピンク!」


 五人が大広間に並び立つ。


「富轟戦隊!」


「ダイフゴー!」


 タイ女は扇子状のヒレから真珠色の刃を飛ばす。


「真珠鱗刃!」


 フゴーイエローが弓で迎撃する。


「イエロー・ゴールドアロー!」


 フゴーピンクは避難する客人を守りながら、ピンクサーベルで刃を弾く。


「皆様、下がってください!」


 タイ女はピンクを見て笑う。


「メイドが客を守る。実に使用人らしいですわね!」


 ピンクは静かに言った。


「はい。わたくしはメイドです」


 ピンクサーベルが光る。


「ですが、守る心に身分は関係ありません!」


 ピンクの剣が、タイ女のヒレを弾いた。


 レッド、ブルー、ブラックが連携して戦闘員を倒す。


 イエローはタイ女に向かって矢を放つ。


 だが、タイ女は優雅な動きでかわした。


「気品に欠ける攻撃ですわね!」


 イエローが怒る。


「ならば、お望み通り上品に仕留めて差し上げますわ!」


 しかし、タイ女はイエローの心の乱れを見抜いていた。


「嫉妬で手元が狂っておりますわよ」


「くっ……!」


 その隙をタイ女の刃が襲う。


 だが、ピンクが割って入った。


「瑠璃様!」


 ピンクサーベルが刃を受け止める。


 イエローは息をのんだ。


「真珠さん……」


 ピンクは言った。


「瑠璃様は、豊様の隣に立つ方です。ここで心を乱されてはなりません」


 イエローは一瞬、何か言いたげにする。


 だが、すぐに弓を構え直した。


「分かっていますわ」


 ピンクとイエローが並ぶ。


 美麗は、その姿を見ていた。


 婚約者とメイド。


 ライバルであるはずの二人が、互いを支えている。


 それは、美麗が思い描いていたお嬢様勝負とはまったく違うものだった。


     *


 レッドが叫ぶ。


「みんな、決めるぞ!」


 五人の武器が合体する。


 二丁拳銃。


 大砲銃。


 ギターアックス。


 弓。


 ピンクサーベル。


 黄金の必殺砲、富轟バスターが完成する。


「富轟バスター!」


 タイ女が叫ぶ。


「人間ごときが、カイサーンの気品を超えるなど!」


 ピンクが静かに言った。


「気品とは、誰かを見下すためのものではありません」


 レッドが引き金を引く。


「ダイフゴー・ゴールドバースト!」


 黄金の光弾がタイ女を直撃した。


「タイィィィ! 下品なのは、わたくしの方だったというのぉぉ!」


 タイ女は爆発した。


     *


 だが、黒い海風が吹き込む。


 クラーケンの声が響いた。


「海の悪魔よ、タイ女の飾り立てた気品を捧げ賜う」


 金城邸の庭園の向こうに、巨大な影が立ち上がった。


 巨大タイ女である。


「タイタイタイ! 今度はこの屋敷ごと海の社交場にして差し上げますわ!」


 レッドが叫ぶ。


「豪商軍だ!」


 リュビィも基地から通信で叫んだ。


『リュビィも行く!』


 だが、今回の主役はピンクとイエローだった。


     *


 五体のメカが出撃する。


「ドゾウー、発進!」


「コバンダー、行くぜ!」


「キンカー、参りますわ!」


「ギンカー、軌道安定!」


「ドウカー、出ます!」


豪商合体(ごうしょうがったい)!」


「完成!」


豪商軍(ゴウショーグン)!」


 巨大ロボは金城邸を守るように庭園の外へ立つ。


 巨大タイ女は扇子のようなヒレを広げ、真珠色の光弾を放つ。


「巨大真珠鱗刃!」


 豪商軍はハードカレンシーソードで受け止めるが、光弾の数が多い。


 ブルーが叫ぶ。


「防御が追いつかない!」


 イエローが言う。


「庭園を傷つけさせませんわ!」


 ピンクが続く。


「お客様も、お屋敷も、守ります!」


 キンカー左腕とドウカー左足が同時に光る。


 イエローとピンクの操縦が重なった。


 豪商軍は舞うように巨大タイ女の攻撃をかわす。


 その動きは、まるで社交ダンスのように優雅だった。


 ブラックが叫ぶ。


「おお、今日は上品だな!」


 ブルーが分析する。


「イエローとピンクの同期率が高い。防御と回避の連携が最適化されている」


 レッドがうなずく。


「このまま決める!」


 巨大タイ女が叫ぶ。


「わたくしの気品がぁ!」


 五人の操縦席が黄金の光に包まれる。


「必殺!」


 ハードカレンシーソードが輝く。


「ハードカレンシー!」


 豪商軍の剣が、巨大タイ女を一刀両断する。


「タイィィィ! 本当の気品、学び直しますわぁぁ!」


 巨大タイ女は大爆発した。


     *


 戦いの後。


 金城邸の大広間は、少し荒れていた。


 だが客人たちは無事だった。


 昼食会も、お嬢様勝負も、もう続けられる状態ではない。


 美麗は瑠璃の前に立った。


「海宝瑠璃様」


「何かしら」


「今日の勝負、わたくしの負けですわ」


 瑠璃は意外そうに見る。


「ずいぶん素直ですのね」


 美麗は首を振る。


「いいえ。わたくしが負けた相手は、瑠璃様ではありません」


 その視線は、真珠へ向いた。


 真珠は驚く。


「わたくしですか?」


「ええ。あなたです」


 美麗は静かに言った。


「テーブルマナーも、生け花も、音楽も、客人への心配りも。あなたは自分を誇示しなかった。けれど、誰よりも品がありました」


 真珠は困ったように目を伏せる。


「わたくしは、ただメイドとして……」


「その『ただ』が、わたくしたちにはできませんでした」


 瑠璃は黙って聞いていた。


 悔しさはある。


 だが、否定はできなかった。


 今日、最後に勝ったのは自分ではない。


 美麗でもない。


 真珠だった。


 真珠は豊の隣に立とうとしなかった。


 けれど、結果として誰よりも豊を支え、客人を守り、場の品格を保った。


 それは、お嬢様力という言葉でふざけて測れるものではなかった。


 豊が真珠を見つめる。


「真珠」


「はい、坊ちゃま」


「今日のお前は、立派だった」


 真珠の頬が少し赤くなる。


「恐れ入ります」


 美麗は小さく笑った。


「金城様。あなたの周りには、恐ろしい女性ばかりですのね」


 怜音が横から言う。


「それは同感だな」


 瑠璃は扇子を広げる。


「おーほほほ。わたくしも含めて、ですわね」


 美麗は優雅に一礼した。


「婚約者を譲れという話は、取り下げますわ。今のままでは、わたくしにはその資格がありません」


 彼女は真珠を見て、少しだけ笑った。


「いつか、あなたのような品格を身につけてから出直します」


 真珠は深く頭を下げた。


「もったいないお言葉でございます」


 美麗は去っていった。


 背後の重役たちも、気まずそうに引き下がるしかなかった。


 派閥争いは、今日のところ失敗に終わった。


     *


 その夜。


 ダイフゴー基地。


 リュビィは話を聞き、首をかしげた。


「お嬢様勝負って、なに?」


 怜音が笑った。


「真珠が一番お嬢様だったって話だ」


 リュビィは真珠を見る。


「真珠、お嬢様?」


 真珠は慌てる。


「違います。わたくしはメイドです」


 守が冷静に言う。


「両立可能だ。メイドでありながら品格は令嬢以上という結論」


 瑠璃は少し複雑そうに紅茶を飲んだ。


「認めたくはありませんが、今日の勝者は真珠さんでしたわ」


 真珠は困ったように微笑む。


「わたくしは勝負をしたつもりはございません」


 豊は静かに言った。


「だから勝ったんだろうな」


 その一言に、真珠は少しだけ目を伏せた。


 瑠璃はその様子を見ていた。


 胸が痛む。


 だが今日、彼女は真珠の強さも見てしまった。


 敵として憎むには、真珠はあまりにまっすぐだった。


 それでも、豊の視線が真珠へ向くたび、心の奥に黒い嫉妬が生まれる。


 瑠璃はカップを置き、静かに言った。


「真珠さん」


「はい」


「今日のところは、あなたの勝ちですわ」


 真珠は驚いた。


「瑠璃様……」


「ですが、豊様の婚約者はわたくしです」


 その言葉には、いつもの高慢さだけではなく、不安も混じっていた。


 真珠は深く頭を下げた。


「存じております」


 豊は何も言えなかった。


 金で買えないもの。


 命。


 愛。


 そして、人の心。


 どれほど財産があっても、自分の心すら思い通りにはできない。


 豊はそのことを、日に日に思い知らされていた。


---


## 次回予告


 金城豊は、ついに自分の本心を抑えきれなくなる。


 選んだ相手は、婚約者の瑠璃ではなく、長年そばにいたメイドの真珠。


 豊は真珠にプロポーズする。


 しかし真珠は、身分違いだとその想いを受け入れない。


 婚約者としての誇りを傷つけられた瑠璃の心は、嫉妬に飲み込まれていく。


 次回、富轟戦隊ダイフゴー。


## プロポーズ


 愛は、誰かを幸せにするのか。

 それとも、誰かを壊してしまうのか。


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