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蛙の王女様

 ダイフゴー基地の一角で、リュビィは正座していた。


 目の前には、海宝瑠璃。


 その横には、大きな買い物袋が置かれている。


「リュビィ」


「はい」


「今日は街へ行って、お使いをしてきなさい」


 リュビィは目を輝かせた。


「街! ごはんある?」


「遊びに行くのではありません。買い物ですわ」


 瑠璃は紙を一枚渡した。


 そこには、日用品、紅茶、掃除道具、真珠から頼まれた食材などが、細かい字で書かれている。


「この通りに買ってくること。余計なものは買わないこと。知らない人について行かないこと。道草を食わないこと」


「道草って食べられるの?」


「そういう意味ではありません!」


 リュビィは首をすくめた。


「カニィ……」


 瑠璃は財布を渡す。


「お金はきっちり入れてあります。無駄遣いは許しませんわよ」


「十円余ったらアイス買っていい?」


「余りません」


「カニィ……」


 真珠は少し心配そうに言った。


「リュビィ、一人で大丈夫ですか?」


「大丈夫! リュビィは愛の戦士!」


 財前守が端末から顔を上げる。


「買い物能力と戦闘能力は別問題だ」


 京極怜音が笑う。


「まあ、迷子になったら歌えば誰か気づくだろ」


 金城豊は少しだけ不安そうに言った。


「早く帰ってこいよ」


「うん!」


 リュビィは元気よく飛び出していった。


 基地の水場では、蛙娘がじっとその後ろ姿を見送っていた。


「ゲコ……」


     *


 街の商店街。


 リュビィは紙を見ながら、ぎこちなく歩いていた。


「紅茶、洗剤、スポンジ、真珠の頼んだお魚……」


 途中、たい焼き屋の前で三分止まった。


 クレープ屋の前で五分止まった。


 アイスクリーム屋の前では、ほとんど動かなくなった。


 だが、瑠璃の言葉を思い出す。


『余計なものは買わないこと』


 リュビィは涙をこらえた。


「人間社会、厳しい」


 それでも何とか買い物を済ませ、最後の店で洗剤を買おうとした時だった。


 店員が言った。


「はい、全部で千二百八十円ね」


 リュビィは財布をひっくり返した。


 硬貨がころころと台の上に転がる。


 百円玉。


 五十円玉。


 十円玉。


 一円玉。


 数えて、数えて、もう一度数える。


「……千二百七十円」


 十円足りなかった。


 リュビィの顔が青くなる。


「まけてください」


「え?」


「十円、まけてください」


 店員は困った顔をした。


「ごめんね、うちはそういうのは……」


 リュビィの目に涙が浮かんだ。


「まけてください。瑠璃に怒られる。ごはんもらえない」


「いや、そんなこと言われても」


 リュビィは両手を合わせた。


「お願いです。リュビィは日本一の美少女です」


「それは関係ないかな」


「愛の戦士です」


「もっと関係ないかな」


 リュビィが本格的に泣きそうになった時、横から小さな手が伸びた。


 十円玉が一枚、台に置かれる。


「これ、使ってください」


 リュビィが振り向く。


 そこにいたのは、小学生くらいの少年だった。


 小野寺翔太。


 以前、蟹女に助けられた少年である。


 だが彼は、目の前の金髪の美少女が、あの時の蟹女と同一人物だとは気づいていなかった。


 リュビィは目を輝かせた。


「十円!」


 翔太は少し照れたように言った。


「困ってたみたいだから」


「ありがとう! あなた、いい人!」


 リュビィは洗剤を買うことができた。


 店を出ると、彼女は翔太に向き直る。


「お礼する!」


「え、いいですよ。十円だし」


「リュビィ、恩は返す。海の皇女だから」


「海の……?」


 翔太は首をかしげた。


 リュビィは深く考えずに言った。


「遊ぼう!」


     *


 二人は近くの公園へ行った。


 翔太は最初、少し戸惑っていた。


 知らない金髪のお姉さんが、十円のお礼に遊ぼうと言ってくる。


 普通なら怪しい。


 だが、リュビィはあまりにも無邪気だった。


 ブランコに乗って大喜びし、滑り台を逆から登ろうとして注意され、砂場で横歩きをして子どもたちに不思議がられた。


「お姉さん、大人なのに子どもみたいですね」


 翔太が言うと、リュビィは胸を張った。


「リュビィは昨日まで蟹だったから」


「……冗談ですか?」


「たぶん」


 翔太は苦笑した。


 変な人だ。


 でも、悪い人ではない。


 彼はそう思った。


 その時、公園の前を通った人がアイスクリームを食べていた。


 リュビィの目が釘付けになる。


 指をくわえて、じっと見つめる。


「アイス……」


 翔太はため息をついた。


「食べたいんですか?」


「瑠璃が余計なもの買うなって」


「じゃあ、僕がおごります」


「おごる?」


「買ってあげるってことです」


 リュビィの顔がぱっと輝いた。


「あなた、神?」


「ただの小学生です」


 翔太はアイスクリームを二つ買った。


 リュビィは白いバニラアイスを受け取り、幸せそうに食べた。


「冷たい。甘い。すごい」


 翔太はその様子を見て笑った。


 自分よりずっと年上に見えるのに、自分より子どもっぽい。


 不思議なお姉さんだった。


 やがてリュビィは買い物袋を持ち直した。


「帰らないと、瑠璃に怒られる」


「家、どこですか?」


「ダイフゴー基地」


 翔太の表情が変わった。


「ダイフゴー?」


「うん」


「お姉さん、ダイフゴーの知り合いなんですか?」


 リュビィはにっこり笑った。


「仲間!」


 翔太は驚いた。


 ダイフゴー。


 そして、あの赤い蟹の怪物。


 彼の中で、記憶が少しだけ動いた。


 けれど目の前のリュビィと、あの蟹女は結びつかなかった。


「じゃあ、また会えますか?」


「会えるよ。十円ありがとう!」


 リュビィは大きく手を振って走っていった。


 翔太はその背中を見つめていた。


「変な人だったな……」


 けれど、心の奥に何かが残った。


 ダイフゴー。


 カイサーン。


 自分を助けた赤い蟹の怪物。


 そして、自分より子どもっぽい金髪のお姉さん。


 翔太は小さく拳を握った。


「僕も、何かできるようにならなきゃ」


     *


 ダイフゴー基地。


 リュビィが戻ってきた時には、予定よりかなり遅くなっていた。


「ただいま!」


 瑠璃は待ち構えていた。


「遅いですわ」


 声が冷たかった。


 リュビィはびくっとする。


「十円足りなくて、少年がくれて、公園で遊んで、アイスを――」


「遊んでいたのですか?」


「ちょっとだけ」


「お使いを頼まれて、遊んで、アイスまで食べて、帰りが遅くなったと?」


 瑠璃の口調は、いつもよりきつかった。


 リュビィはしょんぼりする。


「ごめんなさい」


「謝れば済むと思っているのですか。あなたはもうペットでも蟹女でもありません。人間として、戦士として、自覚を持ちなさい」


「カニィ……」


「カニィではありません!」


 基地が静まり返る。


 真珠がそっと言った。


「瑠璃様、少し言い過ぎでは……」


「真珠さんは甘すぎますわ」


 瑠璃は苛立っていた。


 理由は自分でも分かっている。


 リュビィは人間になり、追加戦士になり、歌まで歌い、皆から注目されている。


 その無邪気さが、人を引きつける。


 豊も、真珠も、基地の皆も、どこかリュビィに甘い。


 そして、真珠への嫉妬とは別の形で、瑠璃の心をざわつかせていた。


 リュビィは目に涙を浮かべた。


「リュビィ、ちゃんと買ってきた」


「当然ですわ」


 リュビィはとうとう泣き出した。


「カニィィ……」


 その時、警報が鳴った。


『緊急警報。市街地高速道路付近にカイサーン反応』


 守が端末を見た。


「高速移動体を確認。速度、時速三百キロ」


 豊が立ち上がる。


「三百キロ?」


 モニターに映ったのは、長い吻を持つ怪人だった。


 鋭い背びれ。


 しなやかな身体。


 怪人バショウカジキ男。


 その怪人は、カジキのような形をした異形のバイクにまたがり、道路を疾走していた。


「バショショショ! 地上の道路も海流も、最速の俺様のものだ!」


 守が説明する。


「バショウカジキは海の生き物で最も速い部類とされ、瞬間的には時速百キロ以上で泳ぐとも言われる。あの怪人はその特性をバイクで強化しているようだ」


 怜音が言う。


「最高速度三百キロか。走って追いつくのは無理だな」


 豊は全員を見た。


「出るぞ」


 リュビィは涙をぬぐった。


「私も行く」


 瑠璃は一瞬、何か言いかけた。


 だが、飲み込んだ。


「……勝手に遅れないことですわ」


 リュビィは小さくうなずいた。


     *


 市街地高速道路。


 バショウカジキ男は、カジキ型バイクで道路を縦横無尽に走り回っていた。


 先端の鋭い吻がガードレールを切り裂き、突風で車が横転しそうになる。


「バショショショ! 遅い遅い!」


 ダイフゴーが到着する。


「富轟チェンジ!」


「ダイフゴー!」


 五人が変身し、並び立つ。


「富轟戦隊!」


「ダイフゴー!」


 リュビィも皇女の十字架を掲げる。


皇女の十字架クレースト・ツァレヴナ!」


 青と緑の光が彼女を包む。


「母なる海と父なる大地の命を持つ者!」


「愛の戦士リュビィ、参上!」


 バショウカジキ男は笑った。


「六人そろっても追いつけまい!」


 カジキ型バイクが唸りを上げる。


 次の瞬間、怪人の姿が消えた。


 いや、速すぎて見えないのだ。


 レッドが二丁拳銃を撃つ。


「レッド・ミリオンショット!」


 だが弾はすべて空を切る。


 ブルーが大砲銃を構える。


「速度が速すぎる。照準が合わない」


 ブラックがギターアックスを構えた瞬間、背後から突風が走った。


「ぐあっ!」


 ブラックが吹き飛ぶ。


 イエローが矢を放つが、バショウカジキ男は矢より速く回り込む。


「遅い!」


 ピンクもサーベルを構えるが、足元をかすめるようにバイクが通過し、よろめいた。


 リュビィも横歩きで動こうとする。


 だが相手は速すぎた。


「カニィ!」


 リュビィは転びそうになる。


 バショウカジキ男は高笑いした。


「愛の戦士も、足がなければただの飾りだ!」


 その時、基地から通信が入った。


 画面に映ったのは蛙娘だった。


「ゲコゲコ! ゲコ!」


 豊が困惑する。


「今は忙しい!」


 蛙娘は必死に鳴く。


「ゲコ! ゲコゲコ!」


 リュビィの表情が変わった。


「蛙娘が言ってる」


 ブルーが聞いた。


「何と?」


「私に乗れって」


 全員が一瞬黙った。


 ブラックが叫ぶ。


「乗れって何にだよ!」


 蛙娘が基地の転送装置に飛び込む。


 次の瞬間、緑色の光が高速道路脇に現れ、蛙娘が跳び出した。


「ゲコ!」


 リュビィは蛙娘の前に立つ。


 蛙娘はじっとリュビィを見る。


「ゲコゲコ」


 リュビィはうなずいた。


「分かった」


 彼女は蛙娘の背中へまたがった。


 レッドが驚く。


「リュビィ、何をするつもりだ!」


 リュビィは叫んだ。


「ツァレヴナ・リグーシカ!」


     *


 蛙娘の身体が緑色の光に包まれた。


 丸い目がライトへ。


 跳ねる脚が車輪へ。


 背中の王冠飾りがハンドルへ。


 滑らかな緑の身体が、流線形のバイクフレームへ変形する。


 蛙と王女と大地の力を宿した神速バイク。


 ツァレヴナ・リグーシカ。


 リュビィはそのシートにまたがり、ハンドルを握った。


 バイクの前面には、蛙娘の目を思わせる二つのライトが光る。


 排気音ではなく、低い「ゲコォォン」という不思議な音が響いた。


 ブラックが叫ぶ。


「蛙がバイクになった!」


 ブルーが目を見開く。


「生体変形メカニズム、解析不能」


 イエローが呆然とする。


「完全に新しいおもちゃですわね」


 ピンクが言う。


「蛙娘様、すごいです!」


 レッドは拳を握った。


「行け、リュビィ!」


 リュビィはハンドルを握りしめた。


「うん!」


 ツァレヴナ・リグーシカが走り出す。


 最初は跳ねるように。


 次に滑るように。


 そして、風を切るように。


 緑の光を残して、リュビィは高速道路を疾走した。

挿絵(By みてみん)

     *


 バショウカジキ男は驚いた。


「何だそのバイクは!」


 リュビィは叫ぶ。


「蛙娘!」


「バイクだろ!」


「蛙娘!」


 ツァレヴナ・リグーシカは地面を蹴るように加速する。


 カジキ型バイクと並ぶ。


 時速百キロ。


 二百キロ。


 三百キロ。


 バショウカジキ男が歯を食いしばる。


「俺様の速度についてくるだと!」


 高速道路から海岸沿いのバイパスへ。


 トンネルを抜け、橋を渡り、海を見下ろす崖沿いの道へ。


 リュビィとバショウカジキ男のバイク戦が始まった。


 バショウカジキ男は鋭い吻で横から突いてくる。


「バショウスピア!」


 リュビィは車体を倒してかわす。


 ツァレヴナ・リグーシカの車輪が緑の光を放ち、壁面を一瞬だけ走る。


「すごい!」


 リュビィは笑った。


 だがバショウカジキ男も負けていない。


 カジキ型バイクがジャンプし、上から突進する。


「最速突撃!」


 リュビィはハンドルを強く握った。


「蛙娘、跳んで!」


「ゲコォン!」


 ツァレヴナ・リグーシカは蛙のように跳躍した。


 空中で一回転し、バショウカジキ男の背後へ着地する。


 リュビィはクレースト・ツァレヴナを銃に変える。


「今!」


 赤い光線が放たれた。


蟹光線(クラボ・ルーチ)!」


 バショウカジキ男のバイク後部に命中する。


「バショッ!」


 カジキ型バイクが火花を散らし、速度を落とす。


 リュビィは追い抜きざまに剣へ変形させた十字架を振るった。


「愛の疾走斬り!」


 鋭い光の一閃が、カジキ型バイクの側面を切り裂く。


 バショウカジキ男は道路へ投げ出された。


 ダイフゴーの五人が追いつく。


 レッドが叫ぶ。


「今だ、みんな!」


 五人の武器が合体する。


「富轟バスター!」


 リュビィも横に並び、クレースト・ツァレヴナを構える。


「蟹光線!」


 レッドが引き金を引く。


「ダイフゴー・ゴールドバースト!」


 黄金の光弾と赤い光線が、バショウカジキ男を直撃する。


「バショォォォ! 俺様の最速伝説がぁぁ!」


 怪人バショウカジキ男は大爆発した。


     *


 しかし、黒い海風が吹き込む。


 クラーケンの声が響いた。


「海の悪魔よ、バショウカジキ男の疾走する魂を捧げ賜う」


 爆煙の中から、巨大な影が立ち上がる。


 巨大バショウカジキ男。


 その背には、巨大なカジキ型マシンが一体化している。


「バショショショ! 今度は巨大高速突撃だ!」


 レッドが叫ぶ。


「豪商軍だ!」


 リュビィも叫ぶ。


「ソウルアーク!」


     *


 五体の富豪メカが空を舞い、豪商軍へ合体する。


豪商合体(ごうしょうがったい)!」


「完成!」


豪商軍(ゴウショーグン)!」


 同時に、海からソウルアークが浮上し、巨大ロボへ変形する。


 だが巨大バショウカジキ男は速かった。


 巨大とは思えない速度で海岸を疾走し、豪商軍の横を通過するだけで突風を起こす。


 ブルーが叫ぶ。


「大型化しても速度が落ちていない!」


 ソウルアークも光の錨を放つが、敵はそれをかわす。


 リュビィはツァレヴナ・リグーシカへ呼びかけた。


「蛙娘、もう一度力を貸して!」


「ゲコォン!」


 ツァレヴナ・リグーシカは緑の光になり、ソウルアークの脚部へ合体した。


 ソウルアークの足に、蛙の跳躍力を宿した車輪ユニットが装着される。


 守が驚く。


「バイクが巨大ロボの機動補助装備に変形した」


 ブラックが笑う。


「どこまでおもちゃ売る気だ!」


 リュビィは操縦桿を握る。


「行くよ、ソウルアーク!」


 ソウルアークが跳んだ。


 巨大な身体が、信じられない跳躍で空中へ舞い上がる。


 巨大バショウカジキ男の突進を上からかわし、着地と同時に光の錨で敵の背を捕らえる。


「バショッ!?」


 豪商軍が前に出る。


 レッドが叫ぶ。


「今だ!」


「必殺!」


「ハードカレンシー!」


 豪商軍の剣が黄金に輝く。


 リュビィも叫んだ。


「ティーターノマキアー!」


 ソウルアークの魂の光が放たれる。


 二つの必殺技が、巨大バショウカジキ男を挟み撃ちにした。


「バショォォォ! 最速でも逃げ切れないバショォォ!」


 巨大バショウカジキ男は大爆発した。


 豪商軍とソウルアーク、そしてツァレヴナ・リグーシカの光が、夕暮れの海岸に輝いた。


     *


 戦いの後。


 ダイフゴー基地では、リュビィが再び瑠璃の前に立たされていた。


 リュビィは小さくなっている。


「帰りが遅くなったことは、反省していますの?」


 瑠璃の声は、先ほどより少し柔らかかった。


「はい」


「知らない人にお金をもらったことは?」


「十円だけ」


「金額の問題ではありません」


「はい……」


 真珠が横から言った。


「でも、その少年のおかげで買い物はできました」


 豊もうなずく。


「翔太という少年か。礼を言わないとな」


 リュビィは顔を上げる。


「いい子だった。アイスくれた」


 瑠璃はため息をついた。


「アイスのことは忘れなさい」


 蛙娘は水場のそばで、何食わぬ顔をしていた。


「ゲコ」


 怜音が蛙娘を見る。


「お前、バイクになれるなら最初から言えよ」


「ゲコ」


 守が真剣に端末を構える。


「ツァレヴナ・リグーシカの機構を調べたい」


 蛙娘はぴょんと逃げた。


「ゲコ!」


 リュビィは笑った。


「蛙娘、恥ずかしがり」


 豊はリュビィに言った。


「今日はよくやった。でも、お使いで道草はするな」


「はい」


 瑠璃は静かに付け加えた。


「……言いすぎたことは、少しだけ謝りますわ」


 リュビィは目を丸くした。


「瑠璃が謝った」


「少しだけです!」


 リュビィは嬉しそうに笑った。


「少しだけ許す」


 瑠璃はむっとしたが、何も言わなかった。


     *


 その頃。


 街の公園では、小野寺翔太がひとりでノートパソコンを開いていた。


 画面には、ニュース映像が映っている。


 ダイフゴー。


 カイサーン。


 愛の戦士リュビィ。


 そして、以前自分を助けた赤い蟹の怪物の目撃情報。


 翔太はまだ、蟹女とリュビィが同一人物だとは気づいていない。


 彼にとってリュビィは、自分よりも子どもっぽくて、アイスで喜ぶ、不思議なお姉さんだった。


 だが、彼女がダイフゴーの仲間であることは分かった。


 そして、カイサーンとの戦いが本物であることも。


 翔太はキーボードを叩く。


 ニュース記事。


 怪人の出現場所。


 海岸線の地図。


 ダイフゴーの戦闘パターン。


 少年とは思えない速さで、情報を整理していく。


「あの蟹の怪物も、きっと何かを伝えようとしていたんだ」


 彼は小さくつぶやいた。


「僕も、何かできるはずだ」


 翔太はノートの端に、大きく文字を書いた。


『カイサーン対策』


 その下に、もう一つ。


『ダイフゴーを助ける方法』


 天才少年、小野寺翔太。

 彼は密かに、戦う準備を始めていた。


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