バカンス
ダイフゴー基地に、久しぶりの平和な朝が来た。
怪人反応なし。
カイサーンの動きなし。
海の悪魔の気配もなし。
金城豊はモニターを見上げ、静かに言った。
「今日は休む」
財前守が眼鏡を押し上げた。
「合理的判断だ。連戦による疲労が蓄積している」
京極怜音はギターケースを抱えたまま笑う。
「いいねえ。海辺のホテルでも取ってくれよ、金城」
豊はすでに手配していた。
「貸し切りだ」
怜音が指を鳴らす。
「さすが大富豪」
海宝瑠璃は少しだけ表情を緩めた。
「たまには優雅な休暇も必要ですわ」
花園真珠も微笑む。
「では、皆様の荷物を準備いたします」
その横で、リュビィが目を輝かせた。
「海? 海に行くの?」
「ああ」
「わーい、海だ!」
リュビィはその場で跳ねた。
白いワンピースの裾がふわりと揺れる。
真珠はにこやかに言った。
「リュビィも一緒に参りましょう」
「うん!」
「ただし」
真珠は大きなバッグを持ち上げた。
「働いていただきます」
「カニ?」
*
海辺のホテルは、まるで映画に出てくるような豪華さだった。
白い外壁。
青い海を望む大きなテラス。
プライベートビーチ。
金城財閥が所有する高級リゾートホテルである。
ダイフゴーの五人とリュビィは、ホテルのスイートルームで水着に着替えた。
やがて、全員が砂浜へ出る。
豊はシンプルな黒い水着姿。
守はラッシュガードを着て、日差し対策も完璧。
怜音は派手なサングラスに、周囲にはいつものように美女軍団。
瑠璃は上品な白と黄色の水着姿で、令嬢らしい優雅さを崩さない。
真珠は淡い桃色の水着姿で、普段のメイド服とは違う柔らかい雰囲気だった。
そしてリュビィ。
彼女はいつもの白いワンピースのまま、砂浜へ飛び出した。
「わーい、海だ!」
リュビィはその場でワンピースを脱いだ。
下には白いビキニを着ていた。
金髪が潮風になびき、青い瞳が太陽の光を受けて輝く。
怜音が口笛を吹く。
「おお、さすが自称日本一の美少女」
リュビィは得意げに胸を張った。
「日本一!」
その瞬間、真珠が怖い顔でリュビィの肩を掴んだ。
「脱ぐな」
「カニ?」
「リュビィは働きなさい」
真珠はバッグを開けた。
中から、リュビィ用のメイド服が出てくる。
黒と白の、しっかりした長いスカートのメイド服。
どう見ても真夏の砂浜には暑苦しい。
リュビィは後ずさった。
「それ、なに?」
「リュビィ用のメイド服です」
「暑いよ?」
「働くとは、そういうものです」
真珠は豊へ向き直り、深く頭を下げた。
「坊ちゃま。本日はお休みを頂きます。雑用はリュビィに申しつけてください」
そう言うと、真珠はパラソルの下に座り、優雅にくつろぎ始めた。
豊は少し困ったように笑った。
「真珠も休暇だからな」
リュビィはメイド服を押しつけられ、泣きそうな顔で叫んだ。
「カニィィ……」
*
数分後。
リュビィは長いスカートのメイド服を着せられていた。
砂浜。
真夏。
太陽。
海。
その中で、彼女だけが完全に仕事着である。
リュビィはトレーを持って、パラソルの間を歩いていた。
「冷たい飲み物、いる人ー」
怜音の周囲には、いつもの美女軍団が集まっていた。
サングラス姿の美女。
派手な水着の美女。
怜音にうちわで風を送る美女。
その中の一人が、リュビィを見下ろした。
「ちょっと、そこのメイド」
「リュビィ?」
「怜音様に冷たいもの持ってきて」
リュビィは首をかしげた。
「怜音は自分で歩けるよ?」
美女は眉をひそめた。
「口答えしないの」
彼女は軽く足を上げ、ハイヒールのつま先でリュビィのお尻をつついた。
「ほら、早く」
「カニィィ!」
リュビィは悲鳴を上げた。
だが怒らない。
むしろ、昔の蟹女時代の反射なのか、妙に卑屈な動きで頭を下げた。
「はい、持ってきます」
次の瞬間、リュビィは横歩きで消えた。
神速のカニ歩きだった。
砂浜に横向きの足跡だけが残る。
美女軍団は唖然とする。
「なに今の動き……」
数秒後、リュビィはジュースを持って戻ってきた。
「どうぞ」
両手で差し出す。
美女は偉そうに鼻で笑った。
「フン。最初からそうすればいいのよ」
リュビィはにこにこしている。
「冷たいよ」
怜音はその様子を見て、少しだけ苦笑した。
「おい、あんまりいじめるなよ。そいつ、一応神様公認の追加戦士だぞ」
美女は冗談だと思って笑った。
「はいはい、怜音様」
リュビィは自分の分のジュースを見つめた。
「私のは?」
真珠が遠くから言った。
「仕事中です」
「カニィィ……」
*
その頃、海の中。
青い水面の下で、無数の黒い影が集まっていた。
小さな身体。
単眼。
頭の一本角。
カイサーンの新型戦闘員、ミジン子である。
普通の戦闘員より小柄だが、数が多い。
海水浴客たちが楽しむ砂浜へ、次々と浮かび上がってくる。
「ミジミジー!」
「ミジー!」
海から湧いて出たミジン子たちは、黒い単眼と頭のツノで海水浴客を威嚇した。
「きゃああ!」
「怪物だ!」
「逃げろ!」
浜辺は一瞬で大混乱になる。
リュビィを蹴った美女も、悲鳴を上げて転んだ。
ミジン子戦闘員が彼女へ迫る。
「ミジミジー!」
美女は怯えて動けない。
その時、長いメイドスカートが風を切った。
「やめなさい!」
リュビィだった。
メイド服のまま脚を高く上げ、ミジン子戦闘員へ蹴りを叩き込む。
戦闘員は派手に吹っ飛び、砂浜に突き刺さった。
「ミジィ!」
リュビィは美女の前に立つ。
「大丈夫?」
美女は呆然としていた。
「あ、あなた……」
リュビィはにっこり笑った。
「怜音にジュース持っていった人だよね」
「さっき、私……」
「うん。お尻痛かった」
それでも、リュビィは怒っていなかった。
彼女にとって、人を守ることは自然なことだった。
それが自分を蹴った相手でも、関係なかった。
*
砂浜では、瑠璃と真珠が水着姿のまま戦っていた。
瑠璃はビーチパラソルを槍のように振るい、ミジン子を弾き飛ばす。
「無粋ですわ!」
真珠はビーチチェアを盾にし、迫る戦闘員をかわして蹴りを入れる。
「皆様、ホテルの方へ避難してください!」
豊、守、怜音もそれぞれ水着姿のまま戦闘員を押し返していた。
怜音はギターケースを持ってきていないため、サーフボードを武器にしている。
「俺の休暇を邪魔するな!」
守は砂浜用のパラソルスタンドを使い、器用に戦っていた。
「小型だが数が多い。群れで襲う戦術か」
リュビィはメイド服を脱ぎ捨てると、白いビキニ姿でミジン子をまとめて蹴り飛ばした。
その時、海の向こうから大きな影が浮かび上がる。
半透明の傘。
長く垂れる触手。
青白く光る身体。
怪人クラゲ男だった。
「クラゲゲゲ……楽しいバカンスはここまでだ。海水浴客どもを痺れさせ、クラーケン様への土産にしてくれる」
触手から電撃が走る。
砂浜の看板が黒焦げになった。
豊が叫ぶ。
「変身だ!」
五人はブレスを掲げる。
「富轟チェンジ!」
「ダイフゴー!」
赤、青、黒、黄、桃の光が弾ける。
「巨万の勇気! フゴーレッド!」
「相場を制する知略! フゴーブルー!」
「漆黒の旋律! フゴーブラック!」
「気高き黄金の誇り! フゴーイエロー!」
「奉仕の真心! フゴーピンク!」
五人が砂浜に並び立つ。
「富轟戦隊!」
「ダイフゴー!」
リュビィも胸元の十字架を握った。
だが、まだメイド服のままだ。
「ちょっと待って!」
彼女はメイド服を脱ぎ捨てる。
中は白いビキニ。
リュビィはその姿のまま、皇女の十字架を掲げた。
「皇女の十字架!」
青と緑の光がリュビィを包む。
白銀の装甲。
赤い宝石。
海と大地の輝き。
「母なる海と父なる大地の命を持つ者!」
「愛の戦士リュビィ、参上!」
クラゲ男は触手を揺らした。
「追加戦士か。痺れさせてやるクラゲ!」
*
クラゲ男の触手が伸びる。
電撃を帯びた触手が、ダイフゴーへ襲いかかる。
レッドは二丁拳銃で撃つ。
「レッド・ミリオンショット!」
だが触手は半透明の身体に吸い込まれるように衝撃を逃がした。
ブルーの大砲銃も効きにくい。
「物理攻撃、エネルギー攻撃ともに拡散されている」
ブラックがギターアックスで斬りかかる。
「なら切る!」
だが触手に絡まれ、電撃を浴びる。
「ぐあっ!」
イエローとピンクが同時に攻める。
「イエロー・ゴールドアロー!」
「ピンクサーベル!」
しかしクラゲ男はふわりと浮き、攻撃をかわした。
リュビィは剣に変形したクレースト・ツァレヴナを構える。
「海の生き物なら、私の相手だよ!」
クラゲ男が笑う。
「元蟹女が、クラゲに勝てると思うなクラゲ!」
触手がリュビィへ伸びる。
リュビィは横へ跳ぶ。
また横へ。
さらに横へ。
神速のカニ歩きだった。
クラゲ男は触手を何本も伸ばすが、リュビィの横移動を捉えきれない。
「なぜ横にばかり動くクラゲ!」
「蟹だったから!」
リュビィは一気に間合いを詰めた。
「クレースト・ツァレヴナ!」
剣が赤く光る。
触手をまとめて斬り払う。
「クラゲェ!」
クラゲ男がよろめく。
レッドが叫ぶ。
「今だ、みんな!」
五人の武器が合体する。
二丁拳銃。
大砲銃。
ギターアックス。
弓。
ピンクサーベル。
「富轟バスター!」
リュビィも銃形態に変えたクレースト・ツァレヴナを構える。
「蟹光線!」
レッドが叫ぶ。
「ダイフゴー・ゴールドバースト!」
黄金の光弾と赤い蟹光線が同時に放たれる。
クラゲ男へ直撃した。
「クラゲェェェ! 休暇を潰すつもりが、私が潰されたクラゲェェ!」
クラゲ男は爆発した。
*
しかし、海面が黒く泡立つ。
クラーケンの声が響いた。
「海の悪魔よ、クラゲ男の痺れる魂を捧げ賜う」
黒い霧が海から立ち上り、巨大なクラゲの影が出現した。
巨大クラゲ男である。
「クラゲゲゲ! 巨大電撃でホテルごと痺れさせてやる!」
レッドが叫ぶ。
「豪商軍だ!」
*
ダイフゴー基地から五体のメカが出撃する。
「ドゾウー、発進!」
「コバンダー、行くぜ!」
「キンカー、参りますわ!」
「ギンカー、軌道安定!」
「ドウカー、出ます!」
五体が空で合体する。
「豪商合体!」
「完成!」
「豪商軍!」
巨大ロボは海辺に降り立つ。
巨大クラゲ男は空中を漂いながら、電撃触手を放った。
「クラゲ電撃!」
豪商軍の装甲に火花が散る。
ブルーが叫ぶ。
「電撃が機体内部へ侵入している!」
イエローが歯を食いしばる。
「このままでは操縦系が焼かれますわ!」
そこへ、海から光が浮かび上がった。
リュビィの前に、魂の箱船ソウルアークが現れる。
「ソウルアーク、来て!」
豪華客船の姿から、光の巨大ロボへ変形する。
リュビィはソウルアークへ乗り込んだ。
「みんなを助ける!」
ソウルアークは光の錨を放ち、巨大クラゲ男の触手を絡め取る。
豪商軍がその隙にハードカレンシーソードを構える。
レッドが叫ぶ。
「同時攻撃だ、リュビィ!」
「うん!」
豪商軍の剣が黄金に輝く。
ソウルアークの胸に魂の光が集まる。
「必殺!」
「ハードカレンシー!」
「ティーターノマキアー!」
二つの必殺技が同時に放たれた。
黄金の剣撃と魂の光が、巨大クラゲ男を貫く。
「クラゲェェェ! バカンス気分で来るんじゃなかったクラゲェェ!」
巨大クラゲ男は海上で大爆発した。
豪商軍とソウルアークは、夕日の海を背に並び立った。
*
戦いが終わった後。
ホテルのビーチには、再び穏やかな空気が戻っていた。
海水浴客たちは避難から戻り、ダイフゴーへ拍手を送っている。
リュビィは変身を解き、また白いビキニ姿に戻っていた。
そこへ、先ほどリュビィを蹴った美女が近づいてきた。
彼女は少し気まずそうに頭を下げた。
「あの……さっきはごめんなさい。ひどいことしたのに、助けてくれて」
リュビィは首をかしげた。
「ひどいこと?」
「その、蹴ったこと……」
「ああ」
リュビィはにこっと笑った。
「もう痛くないよ」
美女は目を伏せる。
「本当にごめんなさい」
リュビィは子供のように無邪気に言った。
「いいよ。助かったならよかった」
美女は驚いたようにリュビィを見た。
そこに怒りはなかった。
見返りも求めていなかった。
ただ、人を助けて嬉しそうに笑っているだけだった。
真珠はその様子を遠くから見て、少しだけ微笑んだ。
「リュビィは、本当に変わりませんね」
豊がうなずく。
「ああ。蟹女の頃から、あいつはそうだった」
瑠璃も静かに言った。
「無邪気すぎて、少し腹立たしいくらいですわ」
怜音は美女軍団を見回す。
「お前たち、今度からリュビィをいじめるなよ」
美女たちはそろってうなずいた。
「はい、怜音様」
守は端末を閉じる。
「本日の戦闘記録。リュビィの防衛行動は、感情的報復より救助を優先。愛の戦士という名称に矛盾なし」
リュビィはそれを聞いて胸を張った。
「私は愛の戦士だから!」
真珠がメイド服を持って近づく。
「では愛の戦士リュビィ、片付けをお願いします」
リュビィの笑顔が消えた。
「また?」
「はい。働かないと夕食はありません」
「カニィィ!」
砂浜に、リュビィの悲鳴が響いた。
ダイフゴーの休暇は、結局いつものように騒がしく終わっていった。
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## 次回予告
街へ出たリュビィは、芸能事務所のスカウトに声をかけられる。
元蟹女、まさかのアイドルデビュー?
歌も踊りも知らないリュビィが、愛の力でステージに立つ!
だが、その輝きを狙ってカイサーンの怪人が現れる。
次回、富轟戦隊ダイフゴー。
## アイドル・リュビィ
カニィの歌声が、街に響く!




