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愛の戦士リュビィ

 一夜明けたダイフゴー基地は、いつもより騒がしかった。


 理由は一つ。


 昨日まで蟹女だった存在が、人間の姿になって基地の中を歩いているからである。


 金髪に白い肌、そして青い瞳。


 見た目だけなら、まるで絵本から出てきた異国の姫君だった。


 その少女――リュビィは、基地の床にぺたんと座り込んでいた。


「おなかすいた」


 花園真珠は、にこやかな顔でモップを差し出した。


「ほら、リュビィ。床掃除をしてください」


 リュビィはモップを見つめた。


「これ、なに?」


「モップです」


「食べるもの?」


「違います。床を掃除するものです」


 真珠は少し厳しい声で言った。


「もうペットではないのよ。人間は働かないと食べさせてもらえないからね」


 リュビィは首をかしげた。


「働くってなに?」


 金城豊が思わず額を押さえる。


「そこからか」


 真珠は根気よく尋ねた。


「海の底で暮らしていた時は、どうしていたの?」


 リュビィはきょとんと答えた。


「鯛やヒラメがお世話してくれた。真珠だって餌くれたじゃない」


 豊がすぐに突っ込んだ。


「鯛やヒラメって、竜宮城かよ」


 リュビィは甘えるように笑った。


「地上人は私たちの世界を竜宮城って呼んでるって聞いたよ」


 豊は固まった。


「カイサーンじゃないのか?」


「それはクラーケンが勝手に言ってるだけだよ」


 基地に沈黙が落ちた。


 財前守が眼鏡を押し上げる。


「重要情報だ。つまり、カイサーンという名称はクラーケン政権下の政治的呼称であり、本来の海底王国とは別概念ということか」


 京極怜音がギターを抱えたまま言った。


「おいおい、いきなり世界観がひっくり返ってるぞ」


 豊は混乱したように言った。


「ちょっと待て。急に言葉が通じるようになったら、余計に混乱してきたぞ。他のカイサーン怪人は日本語が通じていたよな。どうしてリュビィだけ通じなかったんだ?」


 リュビィは少し悲しそうな顔になった。


「みんな、海の悪魔と契約したから……」


 その声は、昨日までの「カニィ」とは違う。


 幼く、少し拙いが、確かに人間の言葉だった。


「私は海の悪魔の力を受けなかった。だから地上の言葉が分からなかった。でも、昨日、大地の神から命をもらったから、大地の民の言葉が分かるようになったんだよ」


 真珠が静かに聞いた。


「大地の民……私たちのことですね」


「うん」


 リュビィは胸元に手を当てた。


「私のお父さんは、竜宮城の主だったの。でも、クラーケンに殺されて……」


 瑠璃は表情を引き締める。


「蟹大王のことですわね」


 リュビィはうなずいた。


「お父さんは、海の民と大地の民は争わないで、静かに暮らせばいいって言ってた。でもクラーケンは違った」


 守が疑問を投げかけた。


「クラーケンは北欧神話に出てくる怪物ですよね。どうして日本の海にいるのですか?」


 リュビィは少し考えながら答えた。


「人間に追われて逃げてきたって言ってた。クラーケンの故郷は、人間が油を掘り出して、真っ黒にして、住めなくなったんだって」


 豊たちは黙った。


「だからクラーケンは人間を憎んでるの。お父さんは、かわいそうだから平和な海で静かに暮らそうって受け入れたのに……」


 守が端末を操作する。


「おそらく、クラーケンの故郷を潰したのは北海油田史上最悪規模の原油流出事故だろうな。海底生態系に大きな被害が出たはずだ」


 瑠璃は小さくつぶやいた。


「私たち人間が起こした災厄だったのね」


 怜音も珍しく黙っていた。


 クラーケンはただの悪ではない。


 人間に故郷を奪われた者でもあった。


 だが、それでも。


 その憎しみで無関係な命を奪っていい理由にはならない。


 豊は低く言った。


「だからといって、俺たちの親や、多くの人を殺していい理由にはならない」


 リュビィはうなずく。


「うん。お父さんもそう言ってた。だからクラーケンを止めようとして、殺された」


 基地に重い空気が流れた。


 その時、怜音がふと顔を上げた。


「ちょっと待て。さらっと重要なことをスルーしてないか」


 豊が振り向く。


「何だ」


「リュビィの親は竜宮城の主だった、ということは」


 豊も気づいた。


「コイツが乙姫なのかよ!」


 リュビィは胸を張った。


「えへへ」


 守が真顔で言う。


「よく考えたら、人間なわけがないんだよな。蟹だったのか」


 怜音が頭を抱える。


「美少女に生まれ変わったのって、乙姫様だったからか!」


 リュビィは無邪気に照れる演技をした。


「えへへ。私は日本一の美少女だよ」


 真珠は冷静にモップを差し出した。


「ここは竜宮城ではないのよ。美少女でも働かないと餌はもらえないからね」


 リュビィは絶望した顔で鳴いた。


「カニィィ」


 豊は笑った。


「言葉が通じても、そこは変わらないんだな」


     *


 その頃、海岸近くの工業地帯に、カイサーンの怪人が現れていた。


 長く突き出た鋸状の吻。


 鮫のような身体。


 ぎらつく目。


 怪人鋸鮫男ノコギリザメである。


 彼は港のクレーンを鋸で切断し、コンテナを破壊していた。


「ノコノコノコ! 地上人の鉄も、富豪の鎧も、この鋸で切り刻んでやる!」


 戦闘員たちが周囲で暴れる。


「ギョギョー!」


 基地の警報が鳴り響いた。


『緊急警報。港湾工業地帯にカイサーン反応』


 豊は立ち上がった。


「出撃だ」


 リュビィもモップを放り出して立ち上がる。


「私も行く!」


 真珠が言った。


「掃除は?」


「帰ってからやる!」


 瑠璃が冷たく言う。


「絶対にやりませんわね」


 リュビィは聞こえないふりをした。


     *


 港湾工業地帯。


 ダイフゴーの五人とリュビィが駆けつけると、ノコギリザメは鉄骨を切断していた。


「ノコノコ! ダイフゴー、来たか!」


 豊はブレスを掲げる。


「変身だ!」


「富轟チェンジ!」


「ダイフゴー!」


 赤、青、黒、黄、桃の光が弾ける。


「巨万の勇気! フゴーレッド!」


「相場を制する知略! フゴーブルー!」


「漆黒の旋律! フゴーブラック!」


「気高き黄金の誇り! フゴーイエロー!」


「奉仕の真心! フゴーピンク!」


 五人が並び立つ。


「富轟戦隊!」


「ダイフゴー!」


 リュビィは少し遅れてポーズを取った。


「リュビィもいるよ!」


 ブラックが笑う。


「まだ変身できないだろ」


 その直後、ノコギリザメが突進してきた。


「ならば、ただの美少女から切り刻んでやるノコ!」


 レッドが前へ出る。


「させるか!」


 レッドの二丁拳銃が火を吹く。


「レッド・ミリオンショット!」


 だが、ノコギリザメは鋸の吻を高速で振動させ、光弾を切り裂いた。


 ブルーが大砲銃を撃つ。


「ブルー・マーケットキャノン!」


 巨大光弾すら、鋸で真っ二つにされた。


 ブラックがギターアックスで斬りかかる。


「ブラック・ロックアックス!」


 鋸と斧がぶつかる。


 火花が飛び散り、ブラックが押し負けた。


「ぐっ!」


 イエローの矢も、ピンクのサーベルも、鋸の前に弾かれる。


 ノコギリザメは笑った。


「ノコノコノコ! この鋸は海底の岩盤すら切り裂く! ダイフゴーなど敵ではない!」


 五人は次第に追い詰められた。


 リュビィはその姿を見て、胸元に手を当てた。


 そこには、昨夜から光を放つ小さな十字架があった。


 海の女神と大地の神が残した祝福。


 皇女の十字架。


 皇女の十字架クレースト・ツァレヴナ


 リュビィは十字架を握りしめた。


「母なる海……父なる大地……」


 その声に、波が応えた。


 地面が応えた。


 十字架が輝く。


 リュビィはそれを高く掲げた。


皇女の十字架クレースト・ツァレヴナ!」


     *


 青と緑の光が、リュビィを包んだ。


 白いワンピースが光へ溶ける。


 金髪が風に舞う。


 海の泡のような白銀の装甲。


 大地の緑を帯びた腰布。


 胸には赤い宝石の紋章。


 背中には蟹の甲羅を思わせる守護紋。


 両腕には鋏を模した銀の装甲。


 足元に波と草花が広がる。


 リュビィは一回転し、右手を胸に当てて名乗った。


「母なる海と父なる大地の命を持つ者!」


 背後に青い海と緑の大地の光が重なる。


「愛の戦士リュビィ、参上!」


 ダイフゴーの五人が驚く。


 レッドが叫んだ。


「リュビィ……変身したのか!」


 ブラックが口笛を吹く。


「追加戦士ってやつだな!」


 リュビィは十字架を前に掲げた。


「クレースト・ツァレヴナ!」


 皇女の十字架が光り、細身の剣へ変形する。


 リュビィはまっすぐノコギリザメへ駆けた。


「行くよ!」


 ノコギリザメが鋸を振る。


「生まれたての戦士など!」


 鋸と剣がぶつかった。


 だが、次の瞬間。


 リュビィの剣が、ノコギリザメの鋸をすぱりと切断した。


「ノコォッ!?」


 鋸の先端が地面に落ちる。


 ダイフゴーは呆然とした。


 ブルーがつぶやく。


「切断力、計測不能」


 イエローが言う。


「神の力、反則ですわね」


 リュビィはさらに十字架を掲げた。


 剣が光に戻り、今度は小型の銃へ変形する。


「クレースト・ツァレヴナ、ガンモード!」


 銃口に赤い光が集まる。


「必殺!」


 リュビィは狙いを定めた。


蟹光線(クラボ・ルーチ)!」


 赤い蟹爪型の光線が放たれ、ノコギリザメを直撃した。


「ノコォォォ! 俺の鋸がぁぁ!」


 怪人鋸鮫男ノコギリザメは大爆発した。


 リュビィは銃をくるりと回して、得意げに胸を張った。


「勝った!」


 レッドが笑う。


「やるじゃないか、リュビィ!」


 リュビィは嬉しそうに振り返った。


「ご飯もらえる?」


 ピンクが即答した。


「それと掃除は別です」


「カニィ……」


     *


 だが、爆煙に黒い海風が流れ込んだ。


 クラーケンの声が響く。


「海の悪魔よ、鋸鮫男の断ち切る魂を捧げ賜う」


 爆煙の中から、巨大な鋸の影が立ち上がる。


 巨大ノコギリザメである。


「ノコノコノコ! 巨大になれば、この鋸も復活だ!」


 巨大な鋸吻が、港の鉄塔をまとめて切り倒した。


 レッドが叫ぶ。


「豪商軍だ!」


     *


 ダイフゴー基地の格納庫が開く。


 五体の富豪メカが飛び出す。


「ドゾウー、発進!」


「コバンダー、行くぜ!」


「キンカー、参りますわ!」


「ギンカー、軌道安定!」


「ドウカー、出ます!」


 五体のメカが空を舞う。


豪商合体(ごうしょうがったい)!」


 ドゾウーが胴体に。


 コバンダーが右腕に。


 キンカーが左腕に。


 ギンカーが右足に。


 ドウカーが左足に。


「完成!」


豪商軍(ゴウショーグン)!」


 巨大ロボは港へ降り立った。


 ハードカレンシーソードを抜き、巨大ノコギリザメへ斬りかかる。


 だが、巨大ノコギリザメの鋸が、剣を受け止める。


 火花が散る。


「ノコノコ! さっきとは違うぞ!」


 豪商軍は押し返される。


 巨大鋸が胸部装甲をかすめ、火花が飛んだ。


 ブルーが叫ぶ。


「装甲損傷!」


 イエローが歯を食いしばる。


「豪商軍の剣でも切り負けるなんて!」


 ブラックが叫ぶ。


「だったらリュビィはどうする!」


 その時、リュビィは海を見つめていた。


 胸の十字架が震えている。


 深い海の底から、声が聞こえた。


     *


 深海に沈んだ豪華客船が横たわっていた。


 金城夫妻と花園夫妻。


 そして、多くの乗客たちの魂が、成仏できずにその船の周りを漂っていた。


 彼らは、突然奪われた命の理由を知らなかった。


 なぜ沈められたのか。


 なぜ家族と引き裂かれたのか。


 ただ悲しみだけが、深海に残っていた。


 そこへ、蟹大王の魂が現れた。


 巨大な蟹の姿をした、かつての竜宮城の主。


 蟹大王は静かに呼びかけた。


「大地の民よ。今こそ、我が子たちのために力を貸してくれ」


 金城夫妻の魂が揺れた。


 花園夫妻の魂が光った。


 沈んだ船に眠る、すべての魂が呼応する。


 地上に残した子どもたち。


 豊。


 真珠。


 そして、海と大地の和平のために生まれ変わったリュビィ。


 彼らを守りたい。


 その願いが、一つになった。


 深海に横たわっていた豪華客船の残骸が、光に包まれる。


 錆びた船体が輝き、割れた甲板が修復され、魂の光が船全体を満たしていく。


 海と大地の平和を願う魂の箱船。


 ソウルアークが、目覚めた。


     *


 海面が割れた。


 港の沖合から、まばゆい光を放つ巨大な豪華客船が浮上する。


 豊は操縦席で息をのんだ。


「あれは……」


 真珠も声を震わせる。


「十年前の、豪華客船……?」


 リュビィの胸の十字架が輝く。


「みんなの魂が呼んでる」


 豪華客船ソウルアークは、光に包まれながら変形を始めた。


 船首が胸部装甲へ。


 煙突が肩へ。


 甲板が翼のように展開し、船体が腕と脚へ組み替わる。


 豪華客船が、巨大ロボへ変形した。


 魂の箱船、ソウルアーク。


 リュビィは光に導かれ、ソウルアークの操縦席へ転送された。


 操縦席には、暖かな光が満ちていた。


 その中で、リュビィは一瞬だけ見た。


 金城夫妻。


 花園夫妻。


 蟹大王。


 そして、名もなき多くの魂たち。


「みんな……」


 蟹大王の声が響く。


「リュビィよ。海と大地を結ぶ者として戦え」


 リュビィは涙をぬぐった。


「はい!」


     *


 巨大ノコギリザメは、新たなロボを見て吠えた。


「ノコォ! 今度は何だ!」


 ソウルアークが前へ出る。


 豪商軍の隣に並び立つ。


 レッドが叫んだ。


「リュビィ!」


「レッド、私も戦う!」


 巨大ノコギリザメが鋸を振る。


 ソウルアークは船首を思わせる盾で受け止めた。


 さらに、光の錨を鎖のように放ち、敵の鋸を絡め取る。


「ノコッ!?」


 豪商軍がその隙にハードカレンシーソードで斬り込む。


 巨大ノコギリザメがよろめく。


 リュビィは操縦桿を握りしめた。


「母なる海、父なる大地、そして魂の箱船よ!」


 ソウルアークの全身が輝く。


 船体の側面に、無数の魂の光が灯る。


「命と愛の力を!」


 胸部装甲が開き、青と緑と金の光が集まる。


 リュビィは叫んだ。


「ティーターノマキアー!!」


 ソウルアークから放たれた巨大な光の奔流が、巨大ノコギリザメを包み込む。


「ノコォォォ! 魂の光がぁぁ!」


 巨大ノコギリザメは光の中で消滅し、大爆発した。


 爆炎の中、豪商軍とソウルアークが並び立つ。


 海と大地。


 富と魂。


 二つの力が、初めて肩を並べた瞬間だった。


     *


 戦いの後。


 ダイフゴー基地では、リュビィが再びモップを持たされていた。


「どうして? 私、追加戦士になったよ。ソウルアークも呼んだよ」


 真珠はにこやかに言った。


「それはそれ、これはこれです」


 瑠璃もうなずく。


「戦士でも床掃除はできますわ」


 守が付け加える。


「むしろ戦力が増えたことで、基地維持管理の人員としても期待できる」


 怜音が笑う。


「がんばれ、愛の戦士」


 リュビィは豊を見た。


「レッド、助けて」


 豊は少しだけ笑った。


「命は金じゃ買えない。でも昼飯は働かないと出ないらしい」


 リュビィは絶望した。


「カニィィ……」


 その鳴き声に、全員が笑った。


 蛙娘も水場から顔を出して鳴く。


「ゲコゲコ」


 リュビィはモップを握りしめ、しぶしぶ床を拭き始めた。


「愛の戦士リュビィ、床掃除します……」


 真珠は満足そうにうなずいた。


「よくできました」


 リュビィは小さくつぶやく。


「竜宮城では鯛とヒラメがやってくれたのに」


 豊が笑いながら言った。


「ここはダイフゴー基地だ」


 リュビィは少し考え、にっこり笑った。


「うん。ここも好き」


 その言葉に、基地の空気が少しだけ温かくなった。


 蟹女だった少女は、もう守られるだけの存在ではない。


 愛の戦士リュビィとして、海と大地と人間の間に立つ新たな仲間になったのだ。


---


## 次回予告


 戦い続きのダイフゴーに、つかの間の休暇が訪れる。


 海辺のホテルへバカンスにやって来た五人とリュビィ。


 水着、豪華な料理、青い海。


 だが、楽しい休暇の裏で、カイサーンの影が忍び寄る。


 次回、富轟戦隊ダイフゴー。


## バカンス


 海辺のホテルで、またしても事件が巻き起こる!


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