第十三話「神様のため息・ポセイドンの悩み」
パルテノン神殿には、観光客が沢山いたので私たちは裏口に回りました。大理石でできた高さ2mほどの柱を、みんなでくるりと一周しました。
「いつも観光客が多いので、この柱を一周するのです。そうすると、観光客がいないパルテノン神殿を楽しむことが出来るのです」
「ほ~、それはありがたいです」私は感心しました。
「うっほ~」ゆきおさんも興奮しました。
「やるじゃねぇか」ホルモン氏は、これで一儲け出来ないか考えていました。神殿の中に入ると、アテナが出迎えてくれました。
「あら、リコさん。お久しぶりです」
アテナさんは、白い鎧兜に身を包み、赤いマントを羽織っているものの、清楚ないでたちでした。
「アテナさん、お久しぶりです。この方たちは、ごまんたるの常連さんたちです」私たちが紹介されました。
「こんにちは」
「うっほ~」
「わたくしは、こういうものです」ホルモン氏は名刺を渡しました。
【穂留野紋太郎】
・有名政治家の知り合いのいとこ
・有名サッカー選手のファン
・有名野球選手と同じ誕生日
・有名芸能人と同じ星座
※儲け話を聞くのが得意です
ホルモン氏は、もみ手をしながらアテナさんににじり寄りました。
「ときに、アテナさん。ひとつ儲け話があるのですが、・・・」と言って、いやらしい目つきでアテナさんを見つめました。
「ぞっわっ!」アテナさんの身の毛が弥立ちました。
「あら、ごめんなさい。わたくし暇ですが、忙しいので失礼します」と言って、リコさんに会釈をして行ってしまいました。
「(逃げましたね~)」ホルモン氏以外が、状況を瞬時に理解しました。
「ちっ! 儲かる話になるところだったのに・・・ぺっ」と言って、唾を吐きました。
「ちょっと、ホルモン氏! 神聖な神殿のなかで、そういう真似はやめてください! アナタは、何か所出入り禁止になりましたか?」リコさんは怒りました。
「んも~、怒る姿もカワイイね~。その顔が見たくて、ワザとやっているのさ~」
「あなたを、見捨てて逃げたいです!」リコさんは不機嫌でした。
「何も聞けませんでしたね~」私は残念でした。
「仕方がありません。ポセイドン神殿へ行きましょう」私たちは、ポセイドン神殿へ向かいました。
【ポセイドン神殿】バルカン半島の南端、スニオン岬にある海神ポセイドンを祀る神殿。紀元前444年に建てられた当時は、42本の大理石の円柱が並んでおり、6mのポセイドンの銅像がおさめられていたという。アテネの70km南に位置し、エーゲ海を一望できる。
私たちがスニオン岬に着くと、目の前に素晴らしい壮大な神殿が建っていました。
「! 素晴らしい!」私はため息が出ました。
「うっほ~」ゆきおさんも興奮していました。
「ね? ステキでしょ?」リコさんが言いました。
「? 何でぇ、ただの壊れた神殿じゃねえか」ホルモン氏がぶっきらぼうに言いました。
「・・・やはり、アナタには見えませんか。こんなステキな神殿が・・・」リコさんは残念そうでした。
「ん? 何か見えんのか?」ホルモン氏には、建築当時の壮大な神殿が見えていませんでした。そこにポセイドンさんが現れました。
「これは、これは、リコさんじゃないか。お久しぶりだね」白髪と白い顎髭が印象的でした。胸板も厚く、歴戦の刀傷が腕や足に残っていました。
「ポセイドンさん、お久しぶりです。こちらは、ごまんたるの常連さんたちです」
「こんにちは~」と、私は挨拶をしました。
「うっほ~」と、ゆきおさんも挨拶をしました。
「ごびさば~」と言いながら、ホルモン氏がポセイドンさんににじり寄りました。
「(うっぷっ!)」ポセイドンさんは、何かを堪えている様子でした。
「いつも尊敬しております。ですからひとつ、私を儲けさせてください」下衆な笑みを浮かべ、もみ手をしながら、ポセイドンさんにへりくだりました。
「こ~の、スカタン!」と言って、ポセイドンさんはホルモン氏にチョップをしました。
「初対面の相手に向かって、要求をするなどもっての外だ。スカタン半島まで飛んで行け~」と言って、ホルモン氏を蹴飛ばしました。
「リコさん、さよ~なら~。こんど結婚してね~」と言って、ホルモン氏は何処かに飛んで行きました。
「面倒なのがいなくなって、スッキリしたわ。ポセイドンさん、失礼しました」
「いや、い~んだよ。あの手の者は、追放するに限る。アテナより伝言があった」
「アテナさんから、お聞きでしたか」
「パルテノン神殿内で唾を吐いた罰だ。じつにけしからん!」
「大変失礼しました」
「もう、罰は与えた。水に流そう」ポセイドンさんは、寛大な方でした。私は、疑問に思いました。
「ポセイドンさん、質問してもよろしいでしょうか?」
「? お主の名は何という。何を生業としておるのだ?」
「はい。わたくし猫田銀杏と申します。作家をしております。楽しいことや、珍しいことを文章に書いて皆さんに伝えております」
「うむ。質問を許そう」
「私たちの知っているギリシャ神話の中では、ポセイドンさんとアテナさんは激しい戦いをされました。随分アテナさんと親しげですが、仲直りされたのですか?」
「うむ、みんな誤解しておるんだ」
「と、仰いますと?」
「お主たちと違って、神はみな長生きだ。いつまでもケンカしておるのはしんどいのだ。アテナのことなど恨んでおらんわ。勝敗を決めたのも『贈り物合戦』だ。血など流しておらんのだ」
「なるほど、寛大でいらっしゃる」
「ねこたとやら、考えてみなさい。年を取れば取るほど、知人も友人も少なくなっていくものだ。ただでさえ、少なくなっていく友人とケンカすることはない。みんな仲良くせねばならん。それにアテナは、ゼウスの一番お気に入りの娘ではないか。カワイイ姪っ子をいつまでも憎み続けるはずがなかろう。邪な目で物事を見る者は、いつも悪いところしか気にしないものだ。それではイカン」
「仰る通りでございます」
「だのに、神話の世界では、いつまでもワシは暴れ者だ。無限に怒り続ける訳がなかろう」
「その通りでございます」
「弟のゼウスは、浮気ばかりが騒がれるし、兄のハーデスも嫁のペルセポネ誘拐で有名だ」
「存じ上げております」
「人は、悪い面ばかりを誇張して、ワシたちを反面教師にばかりする。『悪い面ばかりに目を向けてはいかん』と書いて、世の中に広く正しく伝えるのだ」
「仰せに従います」私は、ポセイドンさんの話を、取材用ノートの『閻魔帳』に書き入れました。
「『アテナとの戦に敗れてスニオン岬に追いやられた』とか、『嵐が激しいのは、ポセイドンに貢ぎ物を贈らないからだ』とか、ワシのイメージが悪くなる噂はコリゴリだ。ワシは暴れん坊ではないし、搾取王でもない」
「お目にかかれて、確かめることが出来ました」
「よろしく頼んだぞ!」
「承知しました」




