しいと出会い(3)
続きです。
しいと他の生徒7人、それから神楽先生は施設の職員から注意事項を聞いて、各々振り分けられた部屋に移ることになった。
「じゃあ、これで解散ってことで。みんな山岳宿泊学習のしおり、持ってるよね。これからはそれに従って行動してね」
あんな事もあったので、神楽先生のその言葉の後、特に誰が何を喋るでもなく自然と解散になった。
「あの、先生」
「あ、高梨さん。ちょうどよかった。言いたいことがあったんだ。それで、何かな?」
「私、プリントしか貰ってないんですけど。現地でいろいろ教えてもらえるって雛子ちゃんが言ってた気がするし……その何とかのしおりってやつ、持ってないです」
「ほんと?何かの手違いかな。先生のでよかったらあげるけど……あっ、しまった。ごめんね、高梨さん。先生もう一回下に戻って荷物取ってくる予定だったから、しおりも一緒に置いて来ちゃったんだ。でも女子の方だと思うし、誰か先生に聞いて来ようか」
そう言って神楽先生は女子の部屋の方へ走って行って、数分後に帰ってきた。
「ほんっとごめん。部屋の振り分け作業の時ちゃんと確認したはずなんだけどなあ。高梨さん、間違えて男子と一緒の部屋に振り分けられててさ。女の先生と同じ部屋でも良かった今すぐ案内できるんだけど、それで良いかな?」
「嫌です」
良いですと答えるつもりが、何故か嫌ですになってしまった。何でだ。
「そっか。やっぱり嫌だよね。同性でも先生だもんね。んー。あ、そうだ。オレ一人部屋だし、高梨さんに部屋譲って、オレが高梨さんと一緒の部屋になるはずだった子の部屋に行けば良くない?うん、良い考えだ。そうしよう」
「まあ、良いですけど」
そういうことになった。
「あ!ほんとに忘れるところだった。はい」
そう言って神楽先生は自分が背負っていたビジネスリュックを下ろして財布やら携帯やらを取り出したあと、渡してきた。
「何ですか?」
「あ、ごめんごめん。あのさ、持ってきたんだよね。高梨さんの荷物」
「へ?」
「だってさ、日本に衛星落ちるとかダメでしょ。大変そうだったしさ、持ってきたんだよ。何いるかわからなかったから、とりあえずパソコンとスマホと充電器を持ってきたんだけど、もし他にいるものがあったら言ってね」
「え、いや、あの。あのカバン、ロックがかかってたんですけど。私昔パスワード忘れて解除に1日かかったんですけど、どうやって開けたんですか?」
「それはその、昔先生のこと誘拐してきた宇宙人の力を借りて?」
すごい意味わからないことを言っているけど、あの鍵を解けたのも、あのジジイに見つからなかったのも全て奇跡だ。しいにはこれが誰かがこの状況をどうにかしろと言っているのだと、そう思えた。
「訳わかんないけど、ありがとうございます」
「じゃあオレはあの先生をどうにかしてくるよ。部屋は201だから。男子が入ってこれないように、ちゃんと鍵しとくんだよ。じゃあ頑張って」
神楽先生は言うだけ言って外へ走って行ってしまった。
もしかしたら、出来るかもしれない。そう思った。
まずは部屋探し。親切なことに、ロビーの壁にデカデカと施設案内図が貼ってあった。どうやらここの玄関ロビーを右手に進んだところに階段があって、その階段の右と左に部屋が広がっているらしい。ちなみに左手は食堂になっていた。風呂が見当たらない……
行ってみて分かったが、階段を中央に、右手が男子、左手が女子と割り振られているようだった。201は階段から最も遠い角部屋。そりゃあ鍵をかけろという訳だ。
言われた通り部屋に入ってまず鍵をかけ、急いでリュックの中身を確認した。本当になんて人だ。トイレに行っている間にロックを解いて必要なものだけ持ってくるなんて。
スマホとパソコンの電源を入れると、すぐに電話がかかってきた。
「わがむすめえええええええええ」
うるっさい!
「ごめんね、ごめんねえええええ」
「なんなの、お父様」
「パパのせいだよねえ。パパのせいで、ごめんねええええ」
「何、何の話?」
「いやあ、青島くんに衛星が日本に落ちそうだって聞いてさあ。でも、依鶴が協力してくれないって聞いたからさあ。パパ、依鶴に仕事忘れて山楽しんで欲しくて、電波妨害してたんだよお。でももう大丈夫!いつも通りどころか、どこでもいつもの二倍以上早く通信できるようにしておいたから!パパ、依鶴が独立するって言ってくれて嬉しかったんだ。だから、この困難も依鶴なら乗り越えて野望を掴めるはずだから。頑張ってくれよおお」
これまた嵐のように、お父様も言いたいことだけ言って電話を切っていった。ていうか、自分の父親に電波妨害されてたとか、どんな親子だよ!
何にしろ、これで準備は整ったはずだ。
しいは時間を忘れて作業に没頭した。
敵の目的は東京に衛星を落とすことらしい。
タイムリミットは刻一刻と迫っていた。
状況を打開するには、こうするしかなかった。
「ほんとですか姫さん」
「うん。人のいないところに落とす」
「そんなところ、日本にあるんすか」
「ある。日本アルプス」
「まさか」
「そのまさか。青島、道は全部閉鎖。万が一にも人が居るなんてこと、無いようにして。マスコミが来るようなことは絶対阻止だよ。出来るよね?」
「姫さんの仕事に比べたら余裕です」
「よく言った」
本当になんだかんだでそんなこんなで、結局海に落とすのは無理っぽかったので、山に落とすことにした。ハッキングも何もかも、しいに掛かればお手の物だった。
「高梨さーん?鍵閉めちゃって、どうしたのーお?何かあったなら、先生話聞くよーお?」
扉のところに養護教諭的な人が来たらしい。
こんな時に、なんて面倒なやつだ。
「先生に話すのは嫌です。神楽先生を出してください」
「それがねーえ、最近臨時で担任やってるおじいちゃん先生が倒れちゃってーえ、付き添いで下山してーえ、たぶんもうすぐ戻ってくるはずなのよーお」
どんな裏技を使ったんだ……
「だからーあ、まだ居ないんだけどーお、帰ってきたら言っておくわねーえ。あとーお、30分で食堂が空くからーあ、気が向いたら来てねーえ」
そう言ってその女教諭は去っていった。
*
その後無事に衛星は落下予測地点に落下した。もちろんけが人は一人もいなかったし、青島とお父様のおかげで隕石が落ちたことになったし、貴重な宇宙研究材料になるとして、一帯の土地をグループで買い取ることになった。
夕飯には間に合わなかったけど、山頂に帰ってきた後事情を知った神楽先生が、自分が隠し持ってきたカップラーメンを部屋に持ってきてくれて、一緒に食べた。奇跡を起こしてくれた人と食べたカップラーメンは変わった味がした。
その後野外風呂騒ぎやらなんやらで夜は過ぎていった。
翌日、昨日と同じようにロープウェーで下山すると、待ち構えていたのは大量の報道陣だった。あのジジイが心筋梗塞で倒れて、それを適切な処置で神楽先生が命を繋ぎ止め、近くの病院まで付き添ったという動画がSNSに投稿され、バズりにバズり、こぞってその姿を報道陣が撮りにきたらしい。
もう本当に報道陣に飲み込まれそうな勢いだった。
最初、駐車場でしいは自分の車に乗り換えて帰る予定だったのに、人の山人の山で帰るに帰れず、結局学校のバスに同乗して学校まで行く羽目になった。
もちろん学校にも報道陣は押し寄せていたので、保護者の確認が取れるまで待機、一人一人チェックして、確認できたものから順に帰れることになった。
「先生、すごいことしたんだね。心筋梗塞なんて、どうやって起こしたの?」
しいと神楽先生は問い質されるのを避けるために、体育館を抜け出して廊下を歩いていた。
「宇宙人の手を借りて、ね」
「なにそれ。先生って面白いこと言うんだね」
「そうかな?」
「うん、そうだよ。ねえ、神楽先生。ありがとね。先生のおかげで誰も死なずに済んだ」
「そんな大袈裟な。オレはちょっと手伝っただけだよ」
「ううん。先生のおかげ。全部全部、先生のおかげ」
「そっか。なんか照れくさいな」
茜色が二人を照らし出している。
「そうだ。ぜうす先生でどう?」
「ん?」
「神楽の神と神様仏様の神で、ぜうす先生!良い名前だよ」
「そうかな」
「そうだよ。ね、ぜうす先生!これから、よろしくねっ」
*
「へえ。そんな事があったんだ」
「雛子ちゃんだから話すんだからね?」
「はいはい」
「ぜうす先生、今なにしてるかなー?」
「ほんとに好きだね。ぜうす先生のこと」
「そりゃそうじゃん!ぜうす先生が奇跡を起こしてくれたんだもん!好きにならない訳ないじゃん。最初っから、好きだったし……」
「ふうん」
いつの間にか、夕方になっていた。
今日も、あの日のような茜色の空だった。
絶対ぜうす先生のとこにマスコミ仕向けたの青島だよね。
知らんけど。




