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体操服から始めるニート生活  作者: 兎虎彩夜華
17/26

しいと出会い(2)

4ヶ月も空いたのであらすじを。


 前回のあらすじ

しいは雛子にぜうす先生と出会った日の話をし始める。

しいは山に宿泊学習に行くことになって、個性的な7人の生徒と神楽剣志に出会う。ロープウェーで山頂に移動している途中、青島から電話がかかってきて……

 




「姫さん、よく聞いてください」


「早く言ってよ。別にオーディオ設定にしてみんなに聞いてもらってもいいんだよ?まあ、元々私が喋ってるのは丸聞こえだけどね」


「姫さん、本当に状況が状況なんでそれはやめてください」


「あーはいはい。で?」


「俺らが打ち上げた衛星が地球に向かってます」


「それがどうしたの?」


「4時間半から5時間後に、その衛星が日本に墜落します」


「「「「「「はああああああああ?」」」」」」


「ふっふっふ」


 どうやらオーディオ設定にしなくてもみんなに丸聞こえだったようで、ゴンドラ内に6人の驚きの声と謎男子三号の奇怪な笑い声が響き、それから間も無く永峰君の無言の圧も相まって狭い密室には不安の思念が立ち込めていた。


「それって2年前くらいに打ち上げたやつだよね。まだ1ヶ月か2ヶ月くらい後じゃなかった?」


「いや、今日打ち上げた奴っす」


「はあ?意味わかんないんだけど。あのさあ、なんで何年も後に太平洋のど真ん中に着水するはずのが日本に向かうことになるわけ?ていうかそれもいくつもデータ取って、研究とかに役立ててからだよねえ。バカなの?ねえ、バカなの?いや、それよりもさ、あの、あいつ、メガネのもじゃもじゃならどうにかできるんじゃないの?」


「いや、それが……」


「それが?」


「世界各地からハッキングを受けてまして。瀬中(せなか)だけではどうにもならないですよ。」


 本当にとんでもないことになっているらしい。瀬中はちょっとやそっとじゃ音を上げないし、青島だって、しいがいなくてもやれる事ぐらいやるはずだ。それでもしいに電話を掛けてきたということは、チームのメンバーではもう手の施しようがないということだ。でも。


「ちょっと残念なこと言っていい?」


「え、あ、はい」


 ちょっとどころじゃない残念なこと。それは……


「私のパソコン、電波妨害されてて他と通信できないんだよね。なんでこのスマホで電話できてるかは知らないけどさ。そういうわけで今すぐどうこうするのは無理」


 ということなのだ。しいの知らぬ間にそうなっていた。


「麓にいた時からなんかおかしいと思ってたんだけどさ。別に自分のパソコンだけで出来ることもいっぱいあるし、宿泊学習だからそんなに仕事してる余裕もないかなって。それに青島は仕事中だし、私から急用以外電話するなって言っておいて電話するのもかっこ悪いかなと思って」


「マジっすか」


「うん。まじまじ。だからさ。頑張れっ」


「いやいや、姫さんならどうにか出来るでしょ。さっき姫さんが言ったように、このプロジェクトの出来に俺たちの未来がかかってるんっすよ?」


「でもさそれ、瀬中じゃどうにもならないんだったら結局どこに落ちても落ちることには変わりないじゃん。私たちは悪くない証拠があるって言ってたし。本当は私そっちに行きたかったのに、行かせなかったのは青島だよね。それでこんな宿泊学習に行かせといて、助けてとか都合よくない?」


「それは……そうかもしれないですけど。でも、落ちたところで人が死んだりでもしたら、それこそ独立どころじゃないんですよ?」


「ごめん、青島。こればっかりはたとえ電波妨害が無くなってもどうにもできない。瀬中に頑張れって伝えて」


 別に、しいが力不足な訳じゃない。


 青島たちを手伝いたくない訳でもない。ただ……




 ゴンドラ内に、もう少しで中腹の駅に到着するというアナウンスが流れた。これを降りてゴンドラを乗り換えれば数分で山頂に到着する。そうすれば、4時間後に墜落しても5時間後に墜落しても一緒だ。


 何故なら、担任が待っているから。そう、極度のアナログ人間が。


 彼は生徒が少しでも電気の通った物体を手にしていれば叩き割る。それがパソコンでもスマホでも、超高級な腕時計でも。かつて彼が受け持っていたクラスでは、彼の授業中は雨でも雪でも電気をつけず、壁掛け時計は外され、砂時計が教室内の時間を操り、エアコンどころか扇風機一機も稼働させなかったのだとか。

 彼がいるというだけでその中学校の人気度が急落する。そんな封印されし悪魔(かれ)が何故今、しいのクラスを受け持っているのか!そうそれは、残り6ヶ月で前の担任が産休に入ったから!そういう訳で、しいのスマホもパソコンも、彼の目に入れば100%ミンチにされてしまう。命の危機も日本のピンチも何もかも、奴の前では通用しない。


 よって、山頂まで行って頑張ってどうにかするという選択肢は皆無なのだ。


「そう……すか。わかりました。自分らでどうにかやってみます」


「よろしく」


 電話を切ってゴンドラを降りる準備をする。


 きっとこれでいい。これでいいんだ。そう思うしかなかった。


「おい、本当にそれでいいのかよ」

「そうですよ、いいんですか?プロジェクトがなんとかって男の人、言ってましたよ?」

「いやいや、今年はアナログジジイがいるから作業なんてできないだろ」

「無理ゲーじゃね?」

「ふっふっふ」


 金髪ポニテとスキーウェアちゃん(仮)が三人組と言い争っているが、結果は目に見えている。


 ゴンドラを降りた後、しい達はトイレ休憩を取って次に乗るゴンドラの列に並ぶことになった。


「と、その前に、例のアナログジジイ?に電子機器を壊されたくない人は先生にスマホとか出してね。先生がまとめてロッカーに預けて費用学校持ちにするから。特に高梨さんは」


 と言って先生は両手を広げて差し出してくる。


「もう無用の長物だし、元から預けるつもりだったけど、そういうことなら遠慮なく」


 先生の腕にパソコンが入った鞄をかけて、ついでにスマホを手に置く。


「重っ。これ、どうやって持ってたの?」


「お父さんの会社の極薄パワードスーツです」


 そう言ってトイレへ向かおうとすると、金髪ポニテが追いかけてきた。


「なあ、おいったら。ウンコか?私、相良(さがら)ってんだ。よろしくな」


「ウンコじゃないし」


 そんなやりとりをしていると、スキーウェアちゃん(仮)も追いかけてきた。


「ちょっと待って。私も」


 個室に入っても大声で喋り続ける金髪ポニテ改め相良の話を聞きながらパワードスーツを脱ぎ手を洗いに行くと、案の定、彼女はまだ個室の中だった。結局いつまで経っても出てこないので、しいはスキーウェアちゃん(仮)改めニイナと先に集合場所に帰った。



 *



 本当に相良さんが帰ってこないので、列に並ぶことにした。結局帰ってきたのは列に並び始めてから5分ほど経った後だった。

「すばるも高梨依鶴も、置いて行くなんてひどいじゃん」


 何故かフルネームで呼ばれたのは置いといて、どうやらスキーウェアの彼女の名前は新名(にいな)というのは苗字で、下の名前はすばると言うらしい。


「その名前男みたいで嫌って言ったじゃん。あの後もずっと一人で喋ってたの?」


「私はすばるって、響きが良くて好きだけどな……てか、個室出た時にそこらへんのおばちゃんにへんな目で見られたし!どうしてくれるんだよ」


「私のせいじゃないし」


 しいが参加しなくてもそんな会話が30分も続いた。



 山頂まで行くゴンドラに乗り込み数分後、ついに山頂に到着した。

 ここは結構標高も高くて、山頂のはずなのに、学年の半分も泊まれる宿泊施設(俗に言う青年自然の家)があるらしい。ちなみに、学年の残り半分はもうちょっと行ったところに同じような山があって、そこで野営するらしい。待遇の差半端ないな。


「なあ、あれって……」

「アナログジジイじゃね?」

「ふっふっふ」


 トリオが言う通り、なんとかの家の玄関の前に、ゴルフのクラブを持ち仁王立ちしているジジイがいた。


「ああ、やっと来ましたか。全くあなた達は、あんなよく分からない箱に二度も乗るなんて。私は一番最初から山を登ろうとあれほど行ったのに学年主任は何を考えているんですかねえ」


 バリバリ電気で動いていても、一応公共の乗り物は壊すのを我慢できるらしい。


「それで子どもたちは、もう中に?」


「ええ。部屋で15時まで自由時間です。あなた達も、早くしないと夕飯作りに遅れますよ」


 そう言ってジジイはその頬を吊り上げて笑顔を作った。


「ところで、どうしてこんなにも臭うのでしょうか」


「へ?」


 一瞬8人はフリーズした。


「臭います。ぷんぷん電気の臭いがしてきます。あなた!」


 そう言ってジジイは相良を指差す。


「ちょ、何すんだよ」


 ジジイは相良のリュックを無理やり剥ぎ取り、中身をその場でぶちまけた。


「ありました。ありましたよお」


 その瞬間、ジジイはクラブを握りしめ、出てきたスマホをコテンパンにし始めた。神楽先生含め、みんなで止めにかかったが、シールで埋め尽くされたケースはもちろん、画面も割れて再起不能というほどに破壊された。


「なんて事すんだ!ようやっとさっき今日配信のアプリを入れたとこだったのに!電波悪くて10分もかかったんだぞ!」


 トイレでそんなことしてたのか。


「もう、行っていいですよ。満足です満足です」


 そう言ってジジイは広場の方へ歩いていった。


「何ですか、あれ。感じ悪いですね」

「やめなよ永峰君。神楽先生にスマホを預けなかった相良さんも悪いよ」

「だからって、あんな風にしなくても良いだろ」

「やっぱりあのジジイ狂ってね?」

「ふっふっふ」


「相良さん……私、帰ったら中身の復元とかやるよ?だから気を落とさないで。運が悪かっただけだよ」


「もういい。私が悪かったんだ。もしかしたらって思ったんだ。アイツが来るってのも知ってた。だから、ほら、中入ろうぜ」


 そう言って相良は泣きもせず笑いもせず、ただ下を向いて中に入っていった。




山頂に着くまで4ヶ月もかかってしまいました。ごめんなさい。次の話には文月先生が書いてくださったイラストもあるので是非見ていってください。

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