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体操服から始めるニート生活  作者: 兎虎彩夜華
12/26

閑話 青島隆二と夏休み

 



 時は2019年。8月の第3木曜日。

 俗に言う、お盆の日だ。


 7月の新盆以来、墓参りに来ていなかったこともあって、前に挿した花は茶色くしな垂れている。

 高梨依鶴(たかなしいづる)のマネージャー兼イズモの副社長である青島隆二(あおしまりゅうじ)は2年ぶりに夏休みを貰い、旧盆の今日、嫁の墓参りに来ていた。


「ごめん。久しぶりだな。ちょっと、姫さんが倒れちまって忙しかったんだ」


 青島は、独り身である。その表現が正しいのかはわからない。嫁は何年も前に行方不明になったし、息子は嫁の妹に預けている。まあ、一人邁進中なのだから“独り身”と言う言葉の範囲に収まっていることだろう。


 花立てをゆすいで新しい花に変え、線香に火をつける。ろうそくに火がつきにくいのはいつも通りだ。墓石の上から柄杓で水をかけ、手を合わせる。


「じゃあ、玉ちゃんとこ行ってくるわ。俺の息子は身長伸びてるかな?グレてたりして」


 海岸線を走らせている車は先月発売したばかりのイズモ社製で、暗めのグリーンを基調とした半自動運転の電気自動車だ。


 30分ほどで眺めは海の青から森の青に変わった。この山を越えれば息子たちが住む街に着く。街のどちらかといえば外側にある一軒家。そこに息子の明澄(あずみ)は嫁の妹家族と暮らしている。


「玉ちゃん、お土産買ってきたよ」


「よかったのに。午前中はどこ行ってたの?明澄が早く来て欲しいって叫んでたわよ?」


「墓だよ。あいつの墓」


 そういうと決まって玉は眉を寄せる。


(とよ)ねえはまだ……明澄の前でその話はしないでよ?」


「了解了解。お邪魔しますっと。んで?旦那は?離婚できそうなの?」


 革靴を脱いで廊下を進む。いつもなら子どもたちが抱きついてくるのだが……買い物にでも行ってんのか。


「あーうるさいうるさい。三十路(みそじ)手前の女の子に普通そんなこと聞く?ほんと、子供たちに聞かせないでよ?客間は左ね」


 わかんなくてもしょうがねえじゃん。この家、どの障子も同じ色してるしどこがどこかわかんないんだから。


「お前も子供だろうが。子供3人も産んだんだから子供じゃねえのか?まあどっちでもいい」


「ざんねーん。子供は4人でーす」


「なっ!俺の明澄は絶対やらんからな?」


 客間に入る前に小指ぶつけたし。いってえ。


「違いますー。あの人と……作っちゃったー!今妊娠3ヶ月目。もうほんと、心から愛しちゃってるからしょうがないよね。名前ももう決めたんだよ?探す系のたずねるの(じん)とゆめの()尋夢(じんむ)!どう?まだあの人以外には言ってなかったんだけど、いい名前だから自慢したくって」


 って事は、旦那と会って、また子供作って帰ってきたってことかよ。


「そんなことやってたらいつまでも離婚できねえじゃねえか。金は足りてんのか?」


「大丈夫ー。明澄の分は有り余ってるからちゃんと貯金してるよ?1人だけ特別扱いもできないからね。後の3人は、動画で結構稼いでるからそれで養ってまーす。あと、あの人から貰ってるちょーっとの養育費と、市から出る3人目手当?みたいなので毎月5000円ずつ貯金できるくらいには」


 まあ、贅沢しなかったらそんなもんか。


「そろそろあの子達買い物から帰ってくるかな。もう、スイカ買ってきてって言ったのに、絶対寄り道してるわ」


 客間に荷物を置いてそのまま玄関へ戻る。子供達を出迎えるために何分待つんだか……って思ってたけど、すぐ帰ってきた。


「ただーいまー!スイカ買ってきたよ!」

「おばちゃんに桃と梨とマンゴーもらったよ?」


「え、五瀬(いつせ)(ひょう)!お金は払ったの?ちょっとー!」


 五瀬と氷はそのまま奥のリビングへ走っていく。きっと果物を野菜室に仕舞いに行くのだろう。


「ままん。おばちゃんがタダで持たせてくれた。払える分は払うって言ったけど、いいって、押し付けられた。ちゃんとお礼は言った」


「三毛はしっかり者でよろしい!明澄は?」


「駅に37分着だから、あとちょっとで帰ってくる」


「我が息子、父の帰省時に不在とはいい根性だなあ。おら、こちょこちょこちょー」


 三毛の脇にこしょばし器を差し向ける。研究に研究を重ねた居眠りチェアの振動を弄って作ってみた。


「何してんの、父さん」


 三毛を観察していると、いつのまにか敷居のそこに明澄が立っていた。


「何って、実験だよ実験。それより明澄、背ぇ伸びたな。俺の身長越す気か?ま、高校行ったらもう伸びねーな」


 明澄の癖っ毛を撫でくりまわし、思春期男児とのイチャラブを周りに見せつける。


「大丈夫か、三毛。父さんは容赦ねえからな。あとでマッサージしてやる」


 無理やり手を押しのけて、三毛の前で屈んだ明澄はこしょばされてヘニョヘニョになった三毛を介抱してやっている。明澄もらしくないが、三毛も三毛らしくないふにゃふにゃした笑顔を浮かべている。


「おうおう、優しくっていいじゃねえか。それで?昼飯は何かな?」


「オレはいらない。どうせ今年もカレーだろ」


「おい、いらないってなんだよ。明澄!あずっおい!」


 青島のことを無視して明澄は帽子を掛けて代わりにヘッドホンを取り、二階への階段を上がっていく。


「思春期か?厨二病か」


「まあそんなもんよ。中3だしねえ」


「ふーん」


「ねえ3人ともいつまでそこに突っ立ってんの!カレー焦げちゃうじゃん!早くこっち来て!」

「三毛も早く来て?(りゅう)おじちゃんとゲームする話忘れちゃったの?」


「わかったわかった。五瀬、氷、ゲームはカレーの後な。まずは昼メシの準備だ」


「はーい!」「はーい?」


 玉の歌声に合わせてそれぞれ準備をしていく。


「手ーを洗ってお皿を持って?ごっ飯は6分の1!ルーは適度に、スプーン持って。はい、いただきます!」


「いただきまーす!」

「いただきます?」

「いっただっきまーふ」


「いっつもこんな感じなのか?」


「隆おじちゃん!いただきますは?」


 氷の拳骨が隆二の頭を直撃する。


「すまんすまん。いただきますって。こんな美味しいのに明澄、ほんとに食わねえのかよ。あとでお仕置きだな」


 食べやすくカットされた夏野菜がとろけて飽和する。そこまで辛いわけではないが、熱くて汗が一筋伝い落ちた。白飯とルーを交互に口に運び、口内でスパイスを米に絡ませる。今度は米とルーをごちゃ混ぜにしてから口に運んで……


「きっと彼女に誘われて一緒にご飯食べたのよ。言えないだけ。照れ隠しよ。五瀬と氷は5年生、三毛は3年生でしょ。普通そこらへんでグレてくるのに従順で素直だから、明澄のあれも滅多に見られないもんだって言って静観してまーす」


 玉がテヘッとウインクしてくる。


「あいつ彼女いるのか。ま、迷惑かけるようなら叱ってやってくれ。すまんな五瀬、氷、三毛。カレー食ったら明澄と話するからゲームは延期な」


「えー!なんでよ!約束したじゃん!」


 いや、約束はしてねえだろ。


「ゲームはカレーの後って言ったのに?明澄兄さんとの話の後って言ってなかったのに?」


「しょうがないよ氷にい。明澄にいは思春期で厨二病でリア充なんだから」


 なんだかんだでうまく青春してるってことか。


「ご馳走様。ちょっと会話してくるだけだから、ちゃんといい子で待ってろよ。ゲーム、今日中にするから。約束。約束でっきる人こーの指とーまれ。ほらっ5、4、3……」


 しょげていた子どもたちがスプーンを放り出して指にとまろうとする。


「おい玉ぁ、お前、俺の指とまるとか子どもかよ。三毛潰れてるぞ」


 指にとまった三毛の上に玉が飛びついてきて、三毛は玉の持つデカブツで圧迫されている。


「あらやっちゃった。ごめん三毛。おーい、みけー?」


 今日は三毛……とんだ災難だな。


「何してんの、父さん」


 いつのまにか冷蔵庫のお茶を取り出す明澄(あずみ)がいた。


「この指とまれ。そっちは?やっぱり食いたくてカレー食いにきたってか?」


「風呂だよ風呂。さっきまでスライムが爆散して汚れた部屋掃除してたから。五瀬、氷。実験装置全部使い物にならないから明日廃棄してもらうし片付いたらお前らの部屋にしていいぞ」


「やったー!明澄にい大好き!」


「待って五瀬?明澄にいスライムで汚れてるよ?」


 明澄に飛びつこうとする五瀬を氷が全力で引き止める。明澄は滑らかな動きでキッチンで手を洗って2人の頭を撫でた後に廊下へ消えていった。


「俺も風呂入ろっかな」


「サプライズ!」

「びっくり大作戦?」


 ぴょんぴょん走り回る2人をとっ捕まえて玉がスプーンを握らせる。


「お前ら。俺が風呂上がるまでにカレー食べ終わってなかったらお仕置きだからな」


 その言葉にルーと野菜を口にぶっ込む子供たちを横目に客間へ着替えを取りに行く。待って風呂どこ?


「隆おじちゃーん!反対の廊下の突き当たりみぎー!」

「多分明澄にいお湯張ってないからお湯張ってー?」


 気がきくな。

 反対の廊下ってことは、リビングじゃない方ってことか。突き当たりを右……めっちゃショッピングモールのトイレの入り口に見える。そういえばDIYしてるって言ってたな。結構きれい目でいいじゃねえか。


 服を脱いで半透明の押し戸を乱暴に開け放つ。

 湯張ってあるじゃん。


「ああ、尋夢もお風呂か。玉……母さんは?汚れたなら洗ってやるぞ」


 湯に浸かって蒸しタオルで目を覆っている明澄は心なしかさっきより老けているように見える。


「お前、いつ玉の旦那になったんだよ。てか、日本じゃ叔母と結婚できねえし」


「父さん⁈」


 異変に気付いた明澄が収縮していく。


お前(てめえ)、玉に手ぇ出したのか!」


「出してない出してない!今の俺は出してない!」


「話、聞いてやる。怒ってねえから話せよ」


 4〜5人用のでかい風呂に男の裸体が二つ並ぶ。


「うん……」


「話さねえと、これだぞよ」


 ざばーっと波を起こしながら立って、レッサーパンダの威嚇姿勢を真似る。


「なにそれ」


「話さなかったらこしょばすぞーの姿勢」


「ああ、なるほど。わかったわかった」


「さあ、話すが良い」


 再び湯に浸かってあぐらをかく。


「おれさ、夢の中ではいつも大人なんだ。それである日の夢で、母さんと父さんに会いに行かなくちゃって思ったんだけど、どこにいるかわかんなくて。とりあえず今の家に行こうと思って電車に乗ったらチンピラに囲まれて」


「だっさ」


「うるさい。それで、なんとか電車には乗れたんだけど、それは過去行きの電車で、駅で降りたら母さんと父さんが待合室でラブラブしてて。会う気失せたなーと思って帰ろうとしたらまたヤクザに追いかけられた」


「だせえ」


「うるさい。重要なところはそこじゃない」


「わかったわかった。それで?」


「歓楽街で玉ねえに助けてもらったんだけど」


「おう」


「恋人のふりしてあげるって言われてラブホに連れてかれて五瀬と氷ができた」


 ふと違和感に気付いた。明澄の夢は一体どうなってんだよ。とりあえず気付いたやつをそっくりそのまま伝えるしかねえよな。


「おかしくねえか?母さんは明澄が生まれた後に行方不明になったし、俺とイチャイチャしてたんなら明澄が生まれる前ってことだ。が、明澄の夢じゃ明澄より五瀬と氷の方が先に生まれることになっちまう」


「そこはまだ考え中。例えば、時間をすっ飛ばして夢見てる。本当は助けてもらってからラブホ行くまでに一回帰ったりデートしてるかもしれない。あとは、駅の中と外で時間軸が違うとか」


 明澄もちゃんと考えてたのか。まあ夢だしな。


「まあめんどくせえし、玉のこと幸せにしてやれるんなら勝手に旦那しとけ」


 そろそろ上がらないとタコになりそうな気がする。なんて理由をつけて風呂から出る。もう、俺の家族やばくない?この歳で孫3人もいるの?後から頭追いついてくるこの脳どうにかしたい。


「待って父さん」


「なんだよ」


「おれ、婚姻届出した覚えない」


「それこそ知らない間に出されてんじゃねえの」


「あと、父さんと一緒に暮らしたい」


「好きにしろ」


 頭パンクしそう。こんなんでゲーム出来ないって。(とよ)よ、俺の人生やばすぎるからどうにかしてくれ。


  *


 ちょうど2週間後。車で休もうとしているところに明澄(あずみ)から電話がきた。


『今電話大丈夫?』


「おう、明澄か。転校手続きは済んだか?」


『うん、そっちは大丈夫』


「どっちが大丈夫じゃねえんだよ」


『おれが転校する学校にKISのメンバーがいるって本当?萌えるんだけど』


お前(てめえ)、それどっから聞いたんだよ」


『父さんの部下』


「ったく、姫さんに手出したら許さねえからな」


『え、もしかして父さんの仕えてる人?』


「仕えてるとか言うな」


『あっはっやったー!今度会わせてね?じゃあね!』


 あいつ。玉のこと裏切ったら許さねえ。




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