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体操服から始めるニート生活  作者: 兎虎彩夜華
11/26

しいと体育大会

 


 時は2019年。7月の第3火曜日。


 土曜日はIZUMO(イズモ)の予想が当たって大雨に。予定通りしいは出張に出かけたのだが、転機が訪れた。

 会談予定だった会社の本社がある国の元帥が死去したことによって火曜日の予定が空いたのだ。もうあちらの会社が会談どころではないご様子だったので、夜が明け切らないうちに急ぎ真堕町に戻り、雛子ちゃんに頼み込んで学校周辺だけ晴れにしてもらった。幸い、今日が最後の体育大会予備日だったので、決行されることとなった。




 開会式入場5分前の待機時間には本部テントに移動することになっていたので、(しい)は1人寂しく応援席を離れていた。途中、「私も、本部」と言う関さんと合流して本部に向かった。


「こないだはごめん。関さん、話あるって言ってたのに」


「あまね、で、いい。天に、音って、書いて、天音(あまね)


「関さんって呼ぶのなんかより百倍いいじゃん。それより、なんでここに?」


「ん。日光、浴びすぎる、と、アレルギー症状、出るから、DS」


「DSって?」


「ドクターストップ」


 ドクターストップがDSって、なかなか聞かないと思うんだけど。やっぱり天音ちゃんって面白いな。


 《入場開始、3分前です。生徒の皆さんは入場隊形に整列してください》


 そんなアナウンスとともに、各色から雄叫びが上がる。こういうのは体育大会っぽくていいよね。ちなみに、私たちは黒色だ。

 今年は黄色とペアらしい。他のペアは、緑と青、白と紫、赤とオレンジという具合だ。

 はちまきと言えば、赤オレンジや白紫など遠目でもよく見える色のペアは頭に、青緑は手首に、なぜか黒と黄色は右太ももに巻かれている。


 入場に備えて静まり返ったグラウンドにスターターピストルの音が響いた。軽快な音楽とともに各色の生徒たちがポップダンスで入場してくる。毎年この学校ってこんな感じなの?



 《開会宣言。生徒会長、関天神(せきあまでうす)さん》


「はい!」


 生徒会長が壇上で一礼する。


「兄者、今日も、かっこいい」


 なんて天音ちゃんが言うからびっくりした。アマデウスとあまねって。“天”で合わせようとしたんだろうけど、なんか納得がいかない。


「ただ今ご紹介に預かりました、関天神(せきあまでうす)です」


 今、わざと自分の名前強調したよね?


「本日は多数ご臨席賜りました来賓の皆様、ありがとうございます。また、生徒諸君は団結して頑張ってください。これより、第三回真校(しんこう)体育大会の開催を宣言いたします」


 ファンファーレと拍手が湿った空に響く。その後、校長挨拶や国旗・校旗の掲揚等が行われて開会式が終わった。


「えっと、私達が出る種目は……」


「プログラム、ナンバー、5番、学年種目、台風の目、12番、女子リレー予選、19番、色別演技、あと、21番、綱引き、22番、閉会式。だね」


 すご。全部覚えてるの?てゆうか思ったよりいっぱい。午後までに2個ならいけるか。


「ん。ありがと、天音ちゃん」


「ほう。ついに私の妹に友達ができたか」


「兄者」


「妹よ。確かに聞き取りにくいから区切って話すようには言ったが、文節で区切ると余計聞き取りにくいぞ?」


「ぬ不覚聞き取りやすくをモットーに分かりやすく聞きやすい発音発声周波数を研究してたどり着いた極致だと言うのに兄者には到底及ばぬということであるかよし帰って研究だ」


 そう言って走り出す天音ちゃんを天音兄が追いかけて行った。


 《校長先生、校長先生。お客様がお越しです。本部テントまでお越しください。校長先生。本部テントまでお越しください》


「おい、生徒をバックネットに集めろ。不審者対応班は西裏門へ急行だ」


 アナウンスの後そんな声が聞こえた。すでに西裏門に最も近いテントの中に生徒の姿がない。


「せっかく雛子ちゃんが晴れにしてくれたのに不審者なんて、ついてないなあ」


「たしかに、ついてないっすね」


 後ろを見れば、黒のバイクスーツに身を包んで髪をオールバックにした姿の青島がいた。


「いや、完全に不審者じゃん」


「姫さんの勇姿を拝もうと思って通りすがりの先生に声かけたら、走って逃げられたんすよ」


 刺又(さすまた)を持った男性陣が青島を大声で牽制している。


「はいはい。もう帰りますって」


 そう言いながら青島はポケットからクシャクシャの紙と小瓶を取り出し、渡してきた。


「一時的に秘術で体の時間を止める薬だそうですよ。それを飲めば疲れも暑さも関係ないとか。でも後からくる負担が半端じゃないので極力使わないようにとのことです。雛子さん特製ジュースとか羨まし。ああ、あと、その紙は神楽剣志の個人情報をまとめたファイルの術式です。恋、実るといいですね」


 恋とかそんなんじゃないってば。ほんっとお節介……放課後に見よ。おっとやべえ。人来たし隠そー。


「いづるちゃん、大丈夫だった?乱暴されてない?」

「高梨さん、なんか話してなかったか?」

「しいちゃん、ちゃんと見てなくてごめん」


 青島を追いかけて行く男性陣とは反対に、わこちゃん先生やぐちはま、それに何故か涙目のぜうす先生もやってきた。

 てゆうか私は小動物か!


「大丈夫だし、青島だったから。普通に、会社の部下。だから、ね?だいじょぶだいじょぶ」


「そっか、良かった」

「誰かわからんけど大丈夫なんやな」

「後でゆっくり話そう。青島(あおしま)め。体育大会を邪魔しやがって許さない」


 そうか、ぜうす先生は体育大会を邪魔されたことに怒り震えてたのか。納得納得。まあそりゃあ私のこと心配して泣いてくれたりしないよねわかってましたー。そして私は要観察人物として見られている訳だー。


「ごめんなさい。部下のせいで体育大会中断させてしまって。今度、全校生徒分の詫び金持ってくる」


「いや、こんなこと滅多にないし、訓練とか防災になったと思えばいいよ。詫び金なんて」


「じゃあ体育大会終わった後に任意参加で立食パーティーだね。IZUMO(イズモ)、会場は体育館で準備完了は14時30分かな」


『了解しました。確認。真堕町立ジャンダルム大学付属中学校体育館に立食パーティーを設営します』


 IZUMO(こいつ)……その恥ずかしい大学名言うなよ。天音兄ですら真校(しんこう)って言ったのにさ。


「じゃあ、そう言うことだからさ。早く競技始めようよ」


「ああ、うん」


「IZUMO、アナウンス。“危険は去りました。プログラムナンバー1番の競技に参加する生徒はグラウンド中央で開始隊形で整列してください。また、その他の生徒は応援席に戻ってください”」


 《危険は去りました。プログラムナンバー1番の競技に参加する生徒はグラウンド中央で開始隊形で整列してください。また、その他の生徒は応援席に戻ってください》


 急に発せられた機械音に生徒たちは驚きながらも、それぞれが行動に移って行く。


「しいちゃん。ちょっといい?」


 わこちゃん先生とぐちはまと一緒に応援席へ向かおうとしていたところ、ぜうす先生に呼び止められた。


「どうしたの?」


「ちょっと目瞑って?」


 言われたままに目を閉じる。


「……を」


 なんて言ったのかわかんないけど、ぽんぽんと叩かれた後にふわふわっと頭を撫でられた。心地いい指にそのまま任せる。ふぁあああああああああああああ!ぜうす先生!反則!何ですかいきなりいいいい?


「目開けていいよ」


「何したの?」


「今日1日楽しく過ごせるおまじない」


 おまじないか、ぜうす先生らしいな。

 なんて、冷静でいられないんですけどおおおお?


「あんまり心配させないで?」


「ん」


「ほら、次台風の目だよ。いってらっしゃい」


 あーもう、ちょっとぜうす先生と距離置こうかな?


「あ。しいちゃんに(ぜうす)ノート返すの忘れてた」


 *


 体育大会はその後無事閉会し、しいと(なる)は体育館で立食パーティーを楽しんでいた。ちなみに絆那(はんな)ちゃんは急遽演目となったフラダンスの発表準備に行っている。


「惜しかったね。あと5点高ければ総合優勝だったのに」


 結果は競技で準優勝、綱引きで優勝、色別演技は黒黄で優勝となった。


「でも、絆那(はんな)ちゃんが上手くやったから色別演技勝てたんだよね」


「迫真の演技、凄かったよね!」と(なる)ちゃんが言う。


「まあ、でも綱引きと色別演技で優勝したのは変わらない事実だし。明日も波に乗ってこー!」


 そうか。明日からは文化祭か。まあ当然私は非参加だけど。聞いたところによると祭とは名ばかりの講演会らしい。それのどこに波に乗るところがあるのか分からないないけど。


依鶴(いづる)ちゃんも来ればいいのに」


「ごめん。明日からまた用事があって、パーティー終わったら飛行機で行かないとだから」


「そっかー大変だね。お土産、買ってきてね?」


「りょーかいっ!ちょっと呼ばれてるから行ってくるね」


「いってらー」


 ちゃんとスーツに身を包んだ青島は並ぶだけで“一般人”のしいを目立たせてしまう。それを承知で手招きする青島にうざったささえ感じる。


「何?」


「何ってなんすか。緊張緩和材っすよ。昼間の小瓶、使ったんでしょ?」


 ポケットから取り出した小瓶がすごい怪しいものに見えるから、警察がいないか不安になるのでこういう所で出さないでほしい。


「使ってないけど?」


「うっそだー!どんな手使ったんすか?」


「嘘じゃない。お守りを、貰っただけ」


「まあいいっすよ。パーティー終わったらすぐ行かないといけないんで校庭にジェット機を用意させてるんですが。まだお友達には話してないんですか?社長だってこと」


「言わない方が得なこともあるでしょ?」


 なんでテレビ見てて気づかないのか不思議だけど。声や姿は分からなくても流石(さすが)に名前は知ってるでしょ?年齢も公開してるし。


「じゃあまた3時間後に」


「はいはい」


「さっきの、誰?」


 ひゃううううう!


「びっくりした!驚かさないでよ天音(あまね)ちゃん!」


「ごめんごめん。天音がいなくなってる間に何があったのかなーと思って」


「その喋り方……」


「驚いたでしょ。さっき話した使用人さんの言葉遣いを真似てみたの」


「そっか。普通になっちゃったんだね。前の喋り方も好きだったのに」


「じゃ、元に、戻す」


 うん。天音ちゃんらしい。


「天音ちゃん、食べ物取った?」


「まだ」


「じゃあ、一緒に回ろうよ!」


「いいよ」


 みんな、今日を楽しく盛り上げてくれてありがとう!

「みんな、今日を楽しく盛り上げてくれてありがとう!」


 やっばい。声に出てた。


「私も、しいちゃんの、おかげで、今日、楽しかった」


「依鶴ちゃーん!フラダンス始まるよー?」


「はいはーい!今行くー!本当に今日は楽しかっ……た」



 押し寄せる波は一瞬にして、しいの意識をかすめ取っていく。


「依鶴ちゃん!依鶴ちゃん!」


 そこに幸せそうなしいの寝顔はなかった。



遅くなってごめんなさい!

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