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体操服から始めるニート生活  作者: 兎虎彩夜華
10/26

しいと予行練習

 


 時は2019年。7月の第2水曜日。

 午前5時30分。


 登校完了の予鈴まであと2時間半となった頃。


「うー。覚えれないー」


 体育大会まであと2日と迫った今日、(しい)が動画を見ながらダンスの特訓をしているのには理由があった。


「あの役員!ほんっとぶっ飛ばす!」


 空中都市計画やらドラマ出演オファーがなんたらとか言われて、五月は行けていた体育大会練習に六月は一回しか行けていない。もちろん立ち位置やダンスの変更点は連絡してもらっているが、身体で覚える時間がなさすぎて皆についていけなさそうな気がするのだ。あと、一歩の幅とかリズムと感覚で動くところは合わせないとどうにもならない。


「雛子ちゃーん!髪の毛くくってー?」


「くくるって……そんな短いのをどうしろって言うのよ?」


「だって暑いんだもん。しょうがないじゃん」


「しいちゃんが願掛けとか言って切るからじゃない」


 確かにそうだけど……

 先週、ぜうす先生に告白するために伸ばし直そうと思って腰まであった髪をバッサリ切った。髪は女の命って言うし?


「思った以上にジメジメしてて雨の日は続くし、天気予報あたりまくりで髪の毛も落ち込んでるの!」


「とりあえずハーフアップにしておくから、それで我慢して?」


「はいはい。てゆか、土曜日雨なの?」


『はい。雨です』


 IZUMOが断言するってことは本当に雨なんだろうけど、日曜日から本部へ出張だからどうしても土曜日に体育大会を開催してもらわないと、こっちとしては困るのだ。


「じゃあ行ってきます」


「行ってきますって、早すぎっすよ姫さん。お、今日は珍しく晴れてる」


 なんか最近、青島(コイツ)この家に定住化してない?


なるちゃんと絆那(はんな)ちゃんがダンス教えてくれるから 、成ちゃんの家寄ってから学校行くの」


「こんな時間から練習付き合ってもらえるなんて……お土産にメロンでも持って行ったら?」


 そう言って地下への階段を下っていった雛子ちゃんは、しばらくすると箱入りの高級メロンを持ってきた。しかも3箱。


「どうやって運べばいいんのかわかんないんだけど?」


「エイミーさんがこないだ置いていったアレ。使っちゃえばいいんじゃないですか?」


 青島の言う“エイミーが置いていったアレ”というのは、お母様に会いに行った時に彼女とノアが付けていた飛行補助装置――商品名は“天使の翼”というらしい――で、その名の通り翼が4翼付いている。

 エイミーが言うには、『これを付ければ成人男性を2人抱えてもヒョヒョイのヒョイですよ!』だそうだ。まあ、成人男性を両腕に抱えられる腕力があるのは実家の者たちぐらいだろうが。


「ほら、ダンス教えてもらいに行くんでしょ?早く行かないと、もう待ってるかもよ?」


「はいはい。いってきますっ」


 ニャインウェイに乗って久しぶりの外出。雨が降ってジメジメしていた昨日とは違って、そう、まさに雲泥の差!


 成ちゃんの家は、この町の学校に通う学生の大半が使う駅の西、つまり開発区にある。開発区といってもマンションとか高層ビルがあるわけじゃないけど。聞いたところによれば、別荘が立ち並んでますって感じらしい。今日は駅の西口集合で、そこで絆那ちゃんと合流することになっている。西口は東口や北口に比べれば通学する学生も飛行機疲れでホテル直行のサラリーマンも少ないので待ち合わせにはぴったりなのだ。


「おーい!依鶴(いづる)ちゃーん!」


「おはよう成ちゃん」


「うん!あんちゃんは3分後に到着する怠惰ライナーに乗ってくるって」


 どんなネーミングだよ!


「いいよなーあんちゃん。怠惰ライナーって世界一速いんだよ?しかも普通の電車より値段高いし。そんなのに毎日乗れるなんて羨ましい」


 世界一速いのに怠惰なの?どんな電車か見てみたくなってきた。


「てゆうかさ、さっきから飛んでるそれ何?」


「ああ、メロンだよメロン。雛子ちゃん……じゃなくてお姉ちゃんが持って行けって言うから」


「じゃあその黒いのは?」


「私の……じゃなかった。イズモっていう会社のニャインボット」


 一応私が社長って学校でも秘密にしてるし言わない方がいいかな?


「え!最近CMしてるやつ?予約殺到で発売中止間近って言われてるのに!もしかして発売初日に並んだの?」


「いや、親戚に留学するお兄ちゃんがいて。留学先で使えないからあげるって、もらっちゃった」


 大嘘ついてごめんね成ちゃん。


「えー!いいなあ。あとで乗せて?」


「いいよ。あ、絆那ちゃん来たし行こ!」


「え?あんちゃん依鶴ちゃんの後ろから来たのになんで分かったのー?」


「ひみつー」


「2人ともなんの話しとるん?」


「あははっ内緒内緒!あ、依鶴ちゃんに教えてもらったらいいんじゃない?」


「えーいじわるー!教えてよー!」


 *


 がらがらっ


 3人は揃って入室許可証を手にし、教室に転がり込んでいた。なんとか1時間目には間に合ったが、時間的には立派な遅刻だ。


「2人が遅刻するなんて珍しい」

「それに高梨さんが一緒に来るとか、青天の霹靂(へきれき)?」

「ふっふっふ」


 いやいやなんでよ。普通に登校してきただけじゃん。まあちょっと遅刻してきたけど?


「おう、久しぶりやな依鶴さん。朝から登校せんくてもよかったのに」


「うわぁ。ぐちはま、それ言っていいの?先生なのに。それより、予行練習は?外晴れてるけど……」


「あっ!言うの忘れとった。予行、3時間目からやで」


「最っ低ー!」


 思わず鞄を投げてしまいそうになった。投げないけど。てか、席座ろうと思ったけど自分の席知らないし!なんなんだろ。


「依鶴ちゃん依鶴ちゃん。このクラス、席自由だからとりあえずどっか座ったら?今日1人お休みだから、やっくんの隣と関さんの後ろと空いてるよ?」


 ナイス絆那ちゃん!


 近い方って言えばこっちかな?目の前の子が関さんだと思うけど、関さんって女の子だよね?すっごい髪の毛短くてザ・ボーイって感じだけどスカートはいてるし。なんか面白そう。


「どうする?今から数学の授業やけど」


「しゃーないから受けてあげる」


「うわぁ。しゃーないって言われてる!」

「ぐちはま、ださーい」

「ふっふっふ」


 どうせ中学校の数学とか超簡単じゃん。

 持ってきたのは新型の体操服と水筒、メロンとはちまきと日焼け止めか。筆記用具ないじゃん。よし、前の席の関さんに借りよう。


「あの関さ……」


 要件を言い終わる前に左手が回されてきた。しかもその手にはシャーペンと消しゴム、ルーズリーフの束が握られている。エスパーか。しかも左手を後ろに回しながら右手で何かを高速で書いてるし。怖え。


「あ、ありがと」


 そのまま授業中は終始、もらったルーズリーフにシャーペンで次の企画案を書き起こすスタイルで押し通した。


 *


 さて、時は午前11時30分。

 お弁当の時間まであと45分30秒……なのだが。


「ふええー」


 生徒たちは休憩席で5分間休憩に入っていた。勿論立ちっぱなしだったので、しいは半分くらい液状化している。なんとかその液体を拾い集めているのが絆那ちゃんで、持っている紙で仰ぎながらしいの体温を下げようしているのが(なる)ちゃんという具合だ。


「だいじょぶ?依鶴ちゃん、無理したら午後の色別演技の練習に響くよ?」


「でも。体育大会出るって約束したから、ちゃんと練習しないとかっこよく見えないでしょ?」


 そんな話をしているところに保健の(わこちゃん)先生がやってきた。


「真面目だねえいづるちゃんは。クーラーボックスに氷枕と保冷剤、ありったけ入れてきたよ」


「あ、吉崎先生だ!今日も完全防御ですね!」


 どうやら成ちゃんの目についたのはクーラーボックスではなく、わこちゃん先生の日焼け予防の方らしい。上からサンバイザー、サングラス、マスク、長袖のTシャツにアームカバー。どこからどう見ても変質者だ。これが完全防御形態なのか。成ちゃんもうまく言ったものだ。


「さ、そろそろ休憩も終わるし二人とも行った行った!しいちゃんは私が責任を持って休ませとくから心配ご無用!」


「ちょっと、(しい)は」


 成ちゃんと絆那ちゃんの目線がしい達から離れた瞬間、わこちゃん先生がこちらを睨みつけてきた。「その目力で今にも凍りそうだから大丈夫だよ」なんて言えない鋭さ。


「今の自分の状況がわかってないくせにね。ほら、運動不足で脱水症状の生徒さんは介抱されなくちゃ。保健室まで歩けるね」


「むむう」


 結局クーラー全開の保健室でお弁当の時間まで待って、しいたちのクラスだけキンキンに冷えた教室でお弁当を貪った。


「あ、メロン切らなきゃ。でも包丁とか持ってきてないんだよねえ」


「ん」


 目の前にはナイフの持ち手を差し出す関さんの姿があった。この子、なんでもポケットでも持ってんのかな?


「ありがとう」


「あとで、はなしが、ある。みんなが、げこう、する、ときに、ちょっと、じかん、ちょうだい」


「あ、うん。いいよ?」


 関さんのナイフでメロンをカット。みんなで仲良くメロンタイムだ。


「高級メロンすっげー」

「美味すぎだろ!」

「ふひっふひっふひ」


 “ふっふっふ”が“ふひっふひっふひ”になってる。この人ふしか言えない人じゃなかったんだ。

 たしかにおいしい。雛子ちゃん、このメロンどこで買ったんですか……


 そうこうしているうちに、手を洗いに行って不在になっていたぐちはまが帰ってきた。


「おーい、そろそろ外に出なあかんから準備してー。朝配った紙忘れずになー」


 やっと私の出番か。朝教えてもらったのはちゃんと覚えてるし、あとは合わせるだけ。


 エネルギー充填ひゃくにじゅっぱーせんと!最終せいふてぃ解除!出発(てえ)ー!



 ……開始10分でへばった。外に出て、リーダーの話聞いて、一回通した。終わり。それでまた溶けて、保健室で急速凝固中。


「もうちょっといけると思ったのになあ」


「いや、しいはよく頑張ったよ」


「そ?ぜう、す……せん、せい……は、やさしい……ねぇ」


「おやすみ」


「すぅー」


 そんな話をしたような、気がする。




ちょっと整理です。(呼称的な)


杉下成宮(すぎしたなるみや)(なる)ちゃん

安西絆那(あんざいはんな)→絆那ちゃんorあんちゃん


担任の先生:浜口→ぐちはま

保健の先生:吉崎和湖(よしさきわこ)→わこちゃん先生

よくわからないけどしいちゃんが大好きな先生:神楽剣志(かぐらけんじ)→ぜうす先生

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