↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王軍が株式会社になったので、勇者が株主総会で魔王を追放した  作者: レモンティー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
89/120

■第八十九話 天災だと思っていた雷が、営業部の発注書だった

神界の裁判所で、俺は被告席ではなく傍聴席に座らされた。

「あなたは人間界の代表ではありません」と書記官は言う。

「俺が代表かどうかはともかく、ここで決めたことで困る人がいる。話くらい聞いてくれ」

エリナは裁判官に、港の船長と農村の代表が署名した意見書を提出した。

「彼らは神界の契約当事者ではない」と裁判官。

「しかし損害を受けています。契約に署名していないからといって、被害が存在しないことにはなりません」

ゼルガディスが腕を組む。

「昔の魔王裁判なら、裁判官ごと城を壊していた」

「だからお前を連れてきたんだよ。今回は壊さない見張り役だ」

元魔王は不満そうに座り直した。

俺たちは証言を一件ずつ記録させる。

判決が出る前に、まず声を届かせる必要があった。

裁判所に提出された発注書には、雷を落とす回数だけでなく「新規契約見込数」の欄があった。

港の船長は破れた帆を掲げた。

「これが広告費なのか」

神界の営業部長は、被害を想定していなかったと答える。

セラフィが席を立った。

「私はその目標表を配りました。数字の意味を聞かずに」

俺は彼女を責める前に、記録係へ命じた。

「発注を止めた時刻も残してくれ。誰がいつ止めたかまでが責任だ」

裁判官は被害者の陳述を正式に受理した。

だが判決文の準備書類には、雷の発注元として「世界運行管理部」の名が残っていた。

神界商事の営業部だけで完結する話ではない。

エリナはその名称を控え、取引台帳の供給元番号と照合するよう吉岡に頼んだ。

休廷中、エリナが発注書を机に並べた。

落雷の時刻、座標、契約締結日。

三つの欄が不気味なほど整っている。

「落雷の翌日に避雷設備の契約が増えています」とエリナ。

「災害の後だから当然じゃないのか?」

「それだけなら問題はありません。でも、この雷は契約が成立する前に発注されています」

俺は数字を追った。

「まさか、売るために雷を落としたのか?」

「そこまで断定するには、誰が指示したかを調べる必要があります」

裁判所の廊下には、屋根を焼かれた農家が座っていた。

「神界は自然災害だと言った。だから補償も出ないそうだ」

彼が見せたのは、焦げた家の鍵だった。

「家族は無事だった。でも次の雨が来たら、寝る場所がない」

俺は剣の柄を握り直した。

裁判官を脅したところで、屋根は直らない。

「判決を待たずに、仮の屋根を届ける。費用は記録して後で請求する」

「勝手に修理したら、補償が減るんじゃないか?」

「その心配も書面に残す。あなたが不利にならないよう、エリナに確認してもらう」

農家は初めて顔を上げた。

午後の審理で、神界の営業部長は胸を張った。

「我々は災害対策設備の普及に貢献しました」

港の船長が焼け焦げた航海日誌を突き出す。

「船員の命まで販促費に入れるな」

セラフィは震える手で一枚の資料を提出した。

「これは私が営業部にいた頃、配った目標表です」

「機密情報の漏洩だ!」と元同僚が叫ぶ。

「機密のままなら、被害者は自然現象だったと信じたままです」

彼女は目を伏せなかった。

「私は数字を配りました。その数字が何を意味するか、確かめませんでした」

俺は彼女を見た。

責任を認めるのは、責任から逃げるよりずっと怖い。

裁判官が発注元の担当者に尋ねた。

「この座標へ雷を送る指示は誰が出しましたか」

「隣の村の予定でした。配送部署の入力ミスです」

農家が立ち上がった。

「間違いで家が燃えたら、責任はないのか?」

担当者は答えなかった。

裁判官は発注票と実行記録の保全を命じ、被害者の陳述を正式に受理した。

補償の審査も始まる。

それは判決の終わりではなく、ようやく事実を争える場所に立ったということだった。

裁判官は追加の発注記録を読み上げた。

「避雷設備の営業目標と落雷計画が、同じ承認番号で処理されています」

営業部長は首を振った。

「部門間の事務的な便宜です。災害を起こす意図はありません」

エリナは二枚の書類を示す。

「では、営業部が落雷予定地を事前に知っていた理由を説明してください」

「顧客への提案を早めるためです」

「顧客は、自分の家に雷が落ちると知らされていたのですか」

答えはなかった。

セラフィが席を立つ。

「私が目標表を配ったとき、雷の回数が増える理由を誰も尋ねませんでした。数字が達成されると、皆が喜びました」

「お前は命令したわけじゃないだろ」と俺。

「でも、止める機会はありました」

彼女の声は小さかった。

俺は傍聴席から彼女を見た。

責任を認める人間が、必ずしも一番重い責任を負うとは限らない。

沈黙した人と命令した人を、同じ一行にまとめてはいけない。

裁判官は、発注を承認した管理者と実際に雷を送った部署の記録を分けて保全するよう命じた。

「誰か一人に全部を押しつけるためではありません。何が起きたのかを明らかにするためです」

農家は小さくうなずいた。

「それなら、俺の家のことも、ちゃんと書いてくれ」

「もちろんです」とエリナ。

「家だけじゃない。牛小屋も、種籾もだ」

吉岡が慌てて欄を増やした。

「被害項目が増えました!」

「最初から被害はあったんだ。紙の欄が足りなかっただけだろ」

俺の言葉に、吉岡は静かに頭を下げた。

裁判所の外では雨雲が広がり始めていた。

俺は農家に傘を渡そうとしたが、彼は首を振った。

「傘より屋根を頼む」

「分かった。今日中に届ける」

夕方、農家の家に仮設の屋根が届いた。

ガンドルが職人を連れてきて、雨漏りを塞いでいる。

「これで終わりか」と俺が尋ねると、農家は首を振った。

「畑が焼けた。来年の種もない」

「なら、来年の収穫まで確認する」

エリナが復旧費の欄を追加し、吉岡が担当者と確認日を記録した。

「報告書が増えますな」

「増やせ。今度は誰の家が焼けたか、名前まで書くんだ」

農家は帰り際、修理に来た職人へ何度も礼を言った。

職人は首を振る。

「礼なら、次に困った家があったとき手を貸してくれ」

俺は二人の握手を見て、補償とは金を払うだけの話ではないと感じた。

裁判所を出ると、セラフィが立ち止まった。

「私の証言で、昔の同僚は職を失うかもしれません」

「隠しても、焼けた家は戻らない」

「そうですね」

彼女は自分の手帳に、被害者の家を訪ねる日付を書いた。

そのとき、神界の営業部から追加の発注票が届いた。

予定表には子供たちの通う学校も載っていた。

誰もその数字の意味に気づかなかったのだ。

次の落雷予定地は、まだ避難の済んでいない村だった。

「裁判が終わるまで待てないな」

俺は吉岡に命じた。

「発注停止の通知を、今すぐ届けろ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。