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魔王軍が株式会社になったので、勇者が株主総会で魔王を追放した  作者: レモンティー


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■第六話 暗黒銀行の頭取が、魔王より恐ろしかった

魔界最大の金融機関。

その本店は、黒い大理石で造られた巨大な建物だった。

入口には二体のガーゴイルが立っている。

「……物々しいな」

俺が呟くと、エリナが答えた。

「銀行ですから」

「銀行って、こんなに怖い場所だったか?」

「魔界では普通です」

受付に向かう。

「頭取に会いたい」

すると、受付のサキュバスが微笑んだ。

「ご予約はございますか?」

「勇者ジークだと伝えてくれ」

サキュバスの笑顔が消えた。

「……勇者?」

「そうだ」

「少々お待ちください」

彼女は奥へ走っていった。

数分後。

俺たちは頭取室へ案内された。

そこにいたのは、巨大な黒いドラゴンだった。

「……ドラゴン?」

「我が名はバルガス。暗黒銀行頭取だ」

「銀行の頭取がドラゴン!?」

「何か問題でも?」

「いや……」

バルガスは金色の目を細めた。

「勇者よ。用件は分かっている」

「……そうか」

「魔王軍株式会社の経営権を奪いたいのだろう?」

「ああ」

「我が銀行の持株比率は十パーセント」

「知っている」

「その議決権が欲しいのだな?」

「そうだ。ただし株を譲れとは言わない。銀行自身の判断で、俺の経営案に賛成してほしい」

「借金を踏み倒す気なら、反対だ」

バルガスは笑った。

「ならば、条件がある」

「……何だ?」

「魔王軍株式会社の借入金を、どうするつもりだ?」

「借入金?」

エリナが資料を開いた。

【魔王軍株式会社 有利子負債】

金貨二億枚。

「…………」

俺は目を疑った。

「……二億?」

「はい」

「時価総額八千万枚の会社が、二億枚も借金してるのか!?」

バルガスがうなずいた。

「戦争には金がかかる」

「……そりゃそうだろうけど」

「魔王軍は毎年、多額の軍事費を使っている」

「なるほど」

「しかも最近は、勇者による幹部討伐で損失が拡大している」

「…………」

俺は返す言葉を探した。

バルガスは続けた。

「特に、勇者ジークという男による被害が大きい」

「……俺だな」

「その男は、弊社の融資先が所有するドラゴンまで破壊した」

「…………」

「おかげで物流部門の損失が膨らんだ」

「……すまん」

「何?」

「いや、何でもない」

エリナが話を戻した。

「頭取。魔王軍の経営改革によって、返済能力を改善する計画があります」

「ほう?」

「軍事費を削減し、民間事業へ転換します」

「具体的には?」

「魔石発電、物流、農業、医療、住宅建設です」

バルガスは考え込んだ。

「……悪くない」

「では?」

「だが、条件がある」

「何でしょう?」

「勇者ジークが、個人保証人になることだ」

「……個人保証?」

「そうだ」

バルガスは笑った。

「魔王軍の借金、金貨二億枚の保証人になれ」

「絶対に嫌だ!」

即答した。

バルガスが驚いた。

「なぜだ?」

「二億枚なんて払えるか!」

「勇者なら何とかなるだろう」

「勇者を何だと思ってるんだ!」

エリナが静かに口を開いた。

「頭取。それでは経営改革の意味がありません」

「……何?」

「個人保証ではなく、事業の収益と資産を基準に融資条件を見直すべきです」

バルガスの目が光った。

「……ほう」

「戦争依存から脱却すれば、長期的な返済能力は改善します」

「確かに」

「そのためには、魔王様の解任が必要です」

沈黙。

バルガスはしばらく考えた。

そして、ゆっくり笑った。

「……面白い」

「では?」

「よかろう」

俺は身を乗り出した。

「本当か!?」

「ただし、条件付きだ」

「何だ?」

「経営改革計画を正式に提出し、財務審査を通過すること」

エリナがうなずいた。

「承知しました」

こうして俺たちは、暗黒銀行の支持を取りつけるための交渉を進めることになった。

年金基金二十パーセント。

従業員持株会十五パーセント。

暗黒銀行十パーセント。

すべての条件を満たせば、支持の見込みは合計四十五パーセント。

だが銀行の十パーセントは、財務審査を通るまでは一票も確約されていない。

帰ろうとした俺たちを、バルガスが呼び止めた。

「もう一つ、見ておけ」

渡されたのは返済遅延先の一覧だった。

武器商会に混じって、小麦倉庫、診療所、孤児院がある。

「孤児院まで借金を?」

「戦争で親を失った子どもの食費だ。国は払わず、銀行が立て替えた」

「二億枚を返すために、そこまで取り立てるのか」

「返せなければ、ほかの預金者が損をする。銀行も魔法では金を増やせん」

エリナは現金収支表を開いた。

「最初の百日間、病院と孤児院への支払いを止めずに、武器部門の遊休資産から返済原資を作ります。ただし売却額は未確定です。審査の条件にしてください」

バルガスの爪が、魔王城の担保欄で止まった。

「城を競売に掛ければ早い」

「宿舎と診療所がある。住んでる連中を追い出すのは駄目だ」

「ならば、その分を差し引いた担保価値を出せ。数字で示せたら、議決権の件も審査に回す」

「賛成してくれるんじゃないのか?」

「銀行は約束の前に審査をする。勇者よ、ここは戦場ではない」

俺は聖剣から手を離し、計算書を受け取った。

そのとき、頭取室の扉が叩かれた。

銀行員が青ざめた顔で入ってくる。

「頭取! 西部の診療所が、本日の返済を待ってほしいと……」

バルガスはため息をついた。

「規則どおり差し押さえろ」

「待て!」俺は立ち上がった。

「薬を運ぶ馬車が、昨日の戦闘で遅れてるんだ。診療所を閉めたら患者が死ぬ」

「ならば誰が利息を払う?」

エリナが机に一枚の紙を置いた。

「勇者株式会社の売掛金のうち、入金が確定している分を短期の預託金にします。診療所の返済を帳消しにはしません。三十日だけ待つための担保です」

「俺の会社の金か!?」

「あなたが決めてください。ほかの仕入れにも影響します」

俺は数字を見た。

勇者印の聖水の次回仕入れを半分にすれば足りる。

「やろう。仕入れ先には俺から事情を話す」

頭取は預託書を眺めた。

「勇者よ。目の前の一軒を救うために、十軒の支払いを遅らせるなよ」

「分かってる。だから今、計算する」

エリナと二人で収支表を埋めた。

黒竜は初めて、こちらを急かさずに待っていた。

剣を抜くより難しい戦いが、まだ残っていた。

だが、取締役の解任には、原則として出席株主の議決権の過半数が必要だった。

まだ勝利は確定していない。

そして魔王も、黙ってはいなかった。

その夜。

魔王城。

「吉岡!」

「はい、魔王様!」

「勇者が株主を集めているそうだな!」

「はい!」

「ならば、こちらも対抗する!」

魔王は机を叩いた。

「株主総会の前に、勇者を倒せばよい!」

吉岡は静かに答えた。

「魔王様」

「何だ!」

「勇者様は現在、弊社の株主でございます」

「……だから何だ?」

「株主を暗殺した場合、重大な企業不祥事になります」

「…………」

「株価が暴落する可能性がございます」

魔王は黙った。

しばらくして、静かに言った。

「……では、どうすればよい?」

吉岡は眼鏡を押し上げた。

「対抗するには、株主の皆様に経営方針をご説明する必要があります」

「……説明?」

「はい。株主総会でございます」

魔王は震えた。

「……吉岡」

「はい」

「勇者と戦うより、恐ろしいではないか」

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