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魔王軍が株式会社になったので、勇者が株主総会で魔王を追放した  作者: レモンティー


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■第四十七話 魔王軍の物流が王国を支え始めたら、国境が閉鎖された

国境の門には、昨日までなかった鉄鎖が巻かれていた。

門の向こうに人間王国の旗。

こちら側には魔界の商人、荷馬車、そして行き場を失った荷物の列。

「通商は本日をもって停止する!」

城壁の上から王国守備隊長ハインツが宣言した。

「王国議会の命令だ。魔王軍株式会社からの貨物は一切通さない」

「昨日まで普通に買ってただろ!」

俺が叫ぶと、ハインツは苦い顔をした。

「私もそう思う。だが命令は命令だ」

魔王を倒した勇者が、魔王軍の社長になってからというもの、人間王国との取引は増え続けていた。

農具も石鹸も薬も、いまや国境を越えて届く。

便利になった分、王国の議員たちは恐れたらしい。

「生活の必需品を魔王軍に握られている。いつでも王国を脅せるではないか」と。

「脅す気なんかない!」

『社長、その剣を握りながら言うと説得力が半減します』

俺は慌てて聖剣から手を離した。

荷馬車の列を調べると、事態は思ったより深刻だった。

先頭は薬品輸送車。

王都北部の診療所へ送る薬が積まれている。

次は小麦粉。

その後ろには乾燥野菜、石鹸、工具。

「薬は温度管理が必要です。ここで二晩止まれば使えなくなるものもあります」

薬剤師のマルタが言った。

昨日の鉄道騒動で山向こうの診療所に薬を届けたばかりだというのに、今日は国境で足止めだ。

「向こうの病院に代わりの薬は?」

「備蓄は少ないと聞いています。先月の熱病で使い切ったそうです」

列の後方では、パン屋が小麦粉の袋を抱えて泣きそうになっていた。

「今日届かなければ、明日のパンが焼けない。店には予約が入ってるんだ」

俺は国境の門を見上げた。

「ハインツ! 薬だけでも通せないか!」

「軍の命令で例外は認められない!」

「病人は軍の敵じゃないだろ!」

答えはなかった。

魔王城から駆けつけたエリナは、門の前に机を置いた。

「社長、怒鳴っても門は開きません。必要なのは三つ。貨物の一覧、配送先の証明、そして王国側の責任者です」

「責任者ならあそこにいる!」

「守備隊長は命令を実行する人です。変更する権限があるとは限りません」

俺は舌打ちしかけて、やめた。

兵士だったころの俺なら、門を壊して進んだだろう。

だが今それをすれば、魔界の荷物が武器と同じ扱いになる。

「王国側の病院長に連絡できるか?」

「伝令を走らせています。それと、王国商人のグレゴールにも」

「グレゴール?」

「彼の倉庫にも王国向けの荷が積まれています。商売上の利害が一致するなら、協力する理由があります」

「この前まで株を買い占めようとしていた相手だぞ」

「だからこそ、損失には敏感でしょう」

エリナは涼しい顔をした。

確かに、商人にとって荷物が止まることほど腹立たしいものはない。

昼過ぎ、門の向こうからグレゴールが現れた。

高価な外套に、いつもの嫌味な笑み。

「勇者殿。今度は剣で税関を切り開くつもりですかな?」

「やらない。やったらエリナに怒られる」

「それは賢明ですな」

妙に納得された。

グレゴールは手元の帳簿を見せた。

「私の商会も困っています。王国から魔界へ送る鉄材と紙が、向こうの倉庫で腐っています」

「鉄は腐らないだろ」

「商機は腐るのです」

悔しいが少し格好いい言い回しだった。

「じゃあ議会を説得してくれ」

「私ひとりでは足りません。魔界の会社が物流を止めれば王国が困る。それこそ議員たちの主張を証明してしまう」

「俺たちが止めたんじゃない!」

「事実と政治的な印象は別です。だから病院長と、王国側の商人組合に発言してもらうのです」

グレゴールは嫌な男だが、商売の仕組みはよく知っていた。

閉じられた国境の向こうで、薬の箱を待つ人がいる。

俺は検問所の扉ではなく、許可証の不備から確かめることにした。

夕方、王国の病院長から返書が届いた。

『必要な薬が届かなければ、患者の治療を中断する。

輸入元の所属を理由に医療物資を止めることに反対する』

続いて商人組合からも署名が集まった。

それでも門は開かない。

ハインツは城壁の上で拳を握っていた。

「気持ちは分かる。だが、議会から新しい命令が来なければ動けない」

「なら、門を開けなくてもいい方法はないか?」

俺の言葉に、エリナが顔を上げた。

「社長?」

「国境の中央に、両国が立ち会う場所を作る。薬をそこまで運んで、王国の病院が引き取る。通商再開じゃなくて、人道的な緊急引き渡しだ」

グレゴールは首を傾げた。

「それでも門の内側には入れませんぞ」

「門の脇に、古い水門があるだろ。水路の上の点検橋は国境線まで伸びている」

「人が二人すれ違うのがやっとの幅です」

「荷物を小分けにすればいい。検査は両側からやる」

エリナがすぐに反論した。

「安全を確認しなければ認めません。水門の橋は古いです。薬の箱だけでなく、作業員が落ちる危険があります」

「分かった。先に点検だ」

『今日は剣を抜かずに済みそうですね』

「お前は黙って見てろ!」

水門の橋を調べたのは、魔界のドワーフ職人と王国の工兵だった。

互いに疑いの目を向けながらも、板の傷みを確認し、補強材を当てる。

「この留め具、王国式じゃないな」

「魔界式だ。文句があるか」

「いや、よく考えてある。こっちの規格に合わせる金具を持ってこよう」

俺は第37話でネジ一本を巡って喧嘩していた職人たちを思い出した。

あの騒動で作った共通規格が、こんなところで役に立つとは。

夜になって、薬箱の引き渡しが始まった。

王国側の兵士が箱を開け、病院の薬剤師が中身を確かめる。

こちら側ではマルタが品名と数量を読み上げた。

「解熱薬、十二箱!」

「確認、十二箱!」

「消毒液、八箱!」

「確認、八箱!」

最後の箱を運んでいたとき、突然、王国の若い兵士が叫んだ。

「隊長! この箱に魔王軍の紋章が!」

周囲が凍りついた。

ハインツは箱を見下ろした。

黒い竜の紋章が、確かに押されている。

「中身は?」

「包帯です」

「検査は?」

「済んでいます。問題ありません」

ハインツは深く息を吐いた。

「なら運べ。紋章で傷口は塞がらん」

その一言に、兵士たちが動き出した。

閉ざされた国境の前で、荷車の御者が薬箱を抱えていた。

「商売の品じゃない。病院へ届けるんだ」

俺は王国の役人に許可を求めた。

相手が拒むなら、その理由を記録に残してもらう。

誰が困っているかを消したままの交渉にはしたくなかった。

検問所に取り残された荷車から、子どもの咳が聞こえた。

薬を運ぶ御者は通行許可証を握りしめていたが、書類の印が一つ足りない。

守備隊長ハインツは部下に命じた。

「荷物の中身と送り先を確認しろ。人命に関わる緊急輸送として記録を残す」

俺が礼を言うと、彼は首を振った。

「命令に逆らった責任は私が負う。だが、これを例外で終わらせるな」

その言葉を、俺は翌日の議会資料の一枚目に書いた。

出発前、病院の看護師から短い伝言が届いた。

『薬は届きました。

患者はまだ苦しんでいます。

でも、今夜を越えられます』。

俺は紙を折り、議会へ持っていく資料の一番上に挟んだ。

国境封鎖の知らせを受け、薬を積んだ馬車が橋の前で止まった。

俺は王国の衛兵に納品書を渡した。

「この荷物の宛先は敵じゃない。病院だ」

衛兵は迷い、上官へ伝令を走らせた。

交渉の時間を稼ぐため、俺たちはその場に簡易診療所を作った。

全ての薬を引き渡したのは、真夜中だった。

王国側の病院から感謝の伝令が届く。

門は依然として閉まったままだったが、薬だけは届いた。

「これで解決か?」

俺が尋ねると、エリナは首を横に振った。

「いいえ。今回は緊急措置です。小麦も工具も、まだ止まっています。物流の一社依存を減らす仕組みも必要です」

グレゴールが腕を組んだ。

「王国商会にも責任がありますな。安いからと輸送を魔界任せにしてきた。複数の経路を作らなければ、また同じことが起きる」

「お前がそんなことを言うとは」

「私だって、商売が止まるのは嫌いですから」

ハインツが門の向こうから声をかけた。

「勇者ジーク。今夜の件は報告する。だが明日、議会が何を決めるかは分からん」

「分かってる。俺も明日、王都へ行く」

「何をしに?」

「議員たちに説明する。魔界の荷物を止めれば、誰が困るのかを」

『社長、議会に剣の持ち込みは禁止ですよ』

「まだ何も言ってないだろ!」

エリナはすでに資料の束を俺の腕に載せていた。

「剣より重いものを持っていってください。数字と、患者の声です」

門の向こうで、病院へ向かう荷車の灯りが遠ざかる。

国境を越えたのは薬だけではない。

あの箱を受け取った兵士たちの判断も、きっと明日につながる。

俺は資料を抱え直した。

次の戦場は、王国議会だ。

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