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魔王軍が株式会社になったので、勇者が株主総会で魔王を追放した  作者: レモンティー


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■第四十話 魔王軍が国境に橋を架けたら、通行料で戦争になりかけた

橋の開通式で、バルクは鋏を握ったまま動かなかった。

「俺たちは昔、この橋を壊す側だった」

村長がリボンの反対側を持った。

「なら、今日は一緒に開けよう」

二人が鋏を入れた。

前夜から両岸に並んでいた荷車のうち、東側の先頭が橋へ進み始めた。

西側の列は入口で待機したまま。

東側の入口の鎖は開通式で外されたものの、西側出口の料金所は通行許可を出さず、橋の中央で列が止まった。

完成した国境の橋には、二つの料金所が建っていた。

橋の東側には王国の旗。

西側には魔界の旗。

東側の入口から橋の中央まで荷車が詰まり、西側の出口の料金所で先頭が止められていた。

橋上に入れたのは先頭の数台だけで、残る百台近い荷車の大半は東岸の広場に待機させていた。

俺が料金所へ駆けつけると、王国守備隊長ハインツと魔界警備隊が、互いの通行許可を巡って言い争っていた。

「……なぜ動かない?」

「両方で通行料を取るからです」と吉岡。

「二回払うのか?」

「それだけではありません」

先頭近くで止まった荷車には、出産を控えた女性が乗っていた。

二つの料金所が互いの許可を求める間にも、彼女の呼吸は荒くなる。

「橋は誰のものだ」と役人が叫ぶ。

ハインツが剣の柄に手をかけ、向かいの警備隊も槍を構えた。

「双方、武器を下ろせ!」

俺は声を張り、続けて答えた。

「今は、この荷車を通す人のものだ」

出口側の門番が閉じていた鎖を外した。

橋上では兵士と御者が荷車を路肩へ寄せ、すれ違える幅の搬送路を確保する。

入口側の門番も新たな進入を止め、緊急搬送の荷車だけを先に通した。

俺は女性に付き添う村の産婆を呼び、対岸で待つ医療担当者へ引き継いだ。

女性が無事に運ばれたのを見届け、一般の荷車は料金の取り決めができるまで待機してもらった。

通行料の協議はその後でいい。

橋を造った理由を忘れた瞬間、橋は壁に戻る。

王国側は荷車一台につき銀貨二枚。

魔界側は積荷の価値の一割。

両方の役人が『うちの規則が優先』と言い張っていたのだ。

「橋を架けたのに、渡れないのかよ!」

ハインツは剣の柄から手を離し、険しい顔で言った。

「勇者殿、国境の主権に関わる問題だ」

「主権の話は協議でやれ。後ろで薬が傷む」

先頭の荷車には病院向けの薬品が積まれていた。

御者は疲れ切った顔をしている。

「開通を待って昨日の夜から並んでいます。馬が水を飲めていません」

「先に馬を休ませよう」

「馬は通行料を払っていませんが」と王国の徴税官。

「馬から銀貨を取れるなら取ってみろ!」

徴税官は黙った。

橋の設計図を広げる。

建設費の半分は魔王軍株式会社、残りは両国の商人組合が出していた。

維持費を通行料で賄う契約だ。

「料金の決め方は?」

エリナが契約書を指さした。

「『関係者で協議する』とだけあります」

「協議したのか?」

「それぞれが自国で協議したそうです」

「一緒に協議しろよ!」

昼になると、荷車の列はさらに延びた。

橋の上では鮮魚の氷が溶け始め、商人たちが怒鳴り合う。

傷みやすい荷は検品し、まだ運べる鮮魚は医薬品に続いて優先通行させ、傷んだ分は食用に回さず処分することにした。

「魔界のせいだ!」

「王国が欲張るからだ!」

そこへ子供の泣き声が響いた。

荷車の下で、小さな女の子が迷子になっていた。

「開通を待つ間に、人の波ではぐれたの。お母さんが向こうにいるの」

俺は橋の反対側を見た。

母親らしい女性が、兵士に止められている。

「通してやれ」

「規則です」と徴税官。

「じゃあ俺が抱いて渡る」

「勇者にも通行料が必要です」

「俺の通行料はいくらだ?」

徴税官は料金表をめくった。

『勇者』の欄はなかった。

「……前例がありません」

「今日作れ。迷子は無料だ」

女の子を母親に返すと、ハインツが俺の隣に来た。

「善意で規則を曲げれば、次は皆が例外を求める」

「じゃあ例外じゃなく、規則に書こう」

「何を?」

「人命救助と緊急医療は無料。それから、料金は一度だけ」

「簡単に言うな。王国の収入が減る」

「魔界の収入も減る。だから両方で決めるんだ」

エリナは地面に三本の線を引いた。

「まず橋の維持費。次に返済する建設費。最後に余剰金。これを混ぜると、どちらも取り分を増やしたくなります」

商人組合の代表が頷く。

「維持費を公開するなら、俺たちも負担額を確認できる」

「帳簿を両国の商人に見せるのか?」と魔界警備隊長。

「橋は両国の商人が金を出したんだろ」と俺。

協議の間、待機する荷車には両岸の商人組合が水と簡単な食事を配り、傷みやすい荷は日陰へ移して順次検品した。

緊急搬送はその都度、双方の確認を受けて優先通行させた。

話し合いは夜まで続いた。

王国は一律料金を譲らず、魔界は積荷比例を主張した。

誰も相手を信用していない。

そのとき、荷車の御者が口を挟んだ。

「空の荷車と、薬を積んだ荷車を同じ値段にするのは変です。でも、高価な薬ほど高いのも困る」

全員が黙った。

「……確かに」とハインツ。

橋の上で向かい合う商人たちは、通行料の数字より先に互いの荷を見た。

どちらも腐りかけた食料を積んでいた。

そこで、車軸の数と重量で基本料金を決め、医薬品と救援物資を運ぶ車両、緊急搬送の車両は通行料を免除する案が出た。

両国の徴税官は同じ小屋に入り、一枚の領収書を発行する。

収入は共同口座へ入れ、維持費を差し引いた後に契約割合で分配する。

「帳簿を改ざんしたら?」

「両国の監査人が月ごとに照合します」とエリナ。

「監査人まで喧嘩したら?」

「そのときは社長が間に立ってください」

「俺の仕事、減らないな!」

その席で人間側は、さらに軍用馬車も無料にするよう要求した。

魔族側が反発すると、俺は橋の修繕費を示した。

「軍用というだけでは無料にしない。両国とも、医薬品・救援物資の輸送と緊急搬送だけを免除する。それ以外は同じ基準で払う」

両国の代表は計算書を見つめ、徴税官と商人組合も含めてこの案を承認した。

さらに御者の提案を受け、半年ごとに利用実績を集計して維持費の負担割合を協議し直す条項も加えた。

共同通行所の規則にすべて書き込み、双方が署名した。

翌朝、前日から待機していた一般荷車を到着順に誘導した。

病院向けの薬品と救援物資は、優先通行に加えて通行料も免除する。

前日の緊急搬送と鮮魚の先行便は、臨時通行として別に記録してあった。

二つの料金所の看板が外された。

新しい看板には『共同通行所』と書かれている。

共同通行所の正式営業が始まり、最初の一般荷車が橋を渡る。

薬を積んだ御者は、何度も頭を下げた。

「ありがとう。病院へ急ぎます」

「安全運転でな!」

ハインツは腰の鞘に収まった剣を軽く叩いた。

「勇者殿。昨日は本当に、戦争になると思った」

「橋一本で?」

「橋一本だからだ。互いに一歩も譲れない場所が、ちょうど真ん中にできた」

俺は橋の欄干を叩いた。

「だったら、真ん中で会う場所にすればいい」

午後、橋の中央で小さな市が開かれた。

魔界の野菜と王国の薬草が並び、両国の子供が同じ焼き菓子を取り合う。

「社長、また揉めています」と吉岡。

「今度は何だ?」

「焼き菓子の最後の一個です」

「それは半分に切れ!」

エリナが請求書を差し出した。

「ところで、共同通行所の看板代は社長の提案経費です」

「また俺の賞与からか?」

「今回は橋の維持費からです」

「助かった……」

「ただし、社長が勝手に注文した『世界平和記念・巨大勇者像』は自費です」

「そんなもの注文してない!」

吉岡が小声で言った。

「元魔王様が社長名義で発注しました」

橋の向こうからゼルガディスの笑い声が聞こえた。

戦争は避けられたが、社内の争いはまだ終わりそうになかった。

その晩、共同通行所の正式営業初日の収支が締められた。

通行料収入より、馬の水場の整備費が大きい。

「共同通行所の営業初日から赤字です」とエリナ。

「橋って儲からないんだな」

「橋だけで儲けようとすると、開通初日のようになります」

俺は窓から国境の灯りを見た。

荷車の列はもう止まっていない。

橋の価値は、帳簿の外を行き来していた。

開通から数日後、共同通行所の負担割合について、橋の片側から新たな不満が出た。

「魔界の荷車のほうが多いのに、維持費を半分ずつ払うのか?」

エリナは通行記録を見せた。

「半年ごとに利用実績を確認して、負担割合を見直す条項があります」

「そんな条項、誰が入れた?」

「開通初日に御者さんの意見を受け、両国の代表と商人組合が署名した条項です。利用実績が分かってから協議する約束になっています」

俺は感心した。

会議室にいる偉い人より、毎日橋を渡る人のほうが必要なことを知っている。

だが、ハインツは険しい顔をした。

「半年後に揉めるだけではないか」

「揉めるさ。でも、そのために剣を抜く必要はない」

「そう言い切れるのか?」

「言い切れない。だから、次に揉めたときの話し合いの場所まで決めておく」

共同通行所の隣に小さな会議室を作ることになった。

壁には両国の地図を一枚ずつ掛け、真ん中には長い机を置く。

「机は一つでいいのか」とハインツ。

「二つにしたら、また境界線ができるだろ」

彼はしばらく考え、それから笑った。

「なるほど。橋だけでなく、会議室まで共同か」

「会議室にも通行料を取るなよ」と俺は念を押した。

俺は窓から街道を眺めた。

商人の荷車が一台、戦場だった道を通り抜ける。

平和はまだ細い道だった。

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