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魔王軍が株式会社になったので、勇者が株主総会で魔王を追放した  作者: レモンティー


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■第十九話 魔王軍の社員食堂を一般開放したら、魔界最大の飲食チェーンになった

社長就任、七か月目。

俺は社員食堂で昼食を取っていた。

今日のメニューは、オーク特製の肉料理。

相変わらずうまい。

「……これ、普通に店で売れるんじゃないか?」

俺が呟くと、エリナが顔を上げた。

「……店?」

「ああ」

「社員食堂の料理を、一般向けに販売するということですか?」

「そうだ」

エリナは少し考えた。

「……面白いですね」

「だろ?」

「ただし、社員食堂と一般店舗は分ける必要があります」

「……何で?」

「社員の福利厚生を維持するためです」

「なるほど」

こうして魔王軍株式会社は、飲食事業へ参入した。

最初の店舗は、魔王城の城下町。

店名は……

【魔王食堂】

「……そのままだな」

俺が呟くと、吉岡が答えた。

「知名度を重視いたしました」

「……まあ、分かりやすいか」

メニューは、魔族の伝統料理。

オークの肉料理。

ゴブリンの野菜炒め。

ドラゴンの火炎焼き。

スケルトンの骨付き肉。

「……待て」

俺はメニューを見つめた。

「スケルトンの骨付き肉って何だ?」

吉岡が説明した。

「スケルトン料理長が考案した料理でございます」

「……本人の骨じゃないよな?」

「もちろん違います」

「……よかった」

「牛の骨でございます」

「普通だった!」

開店初日。

店の前には長蛇の列ができた。

魔族だけではない。

人間の商人。

冒険者。

旅人。

さまざまな客が集まっていた。

「……すごいな」

俺は店の外を見渡した。

エリナが微笑んだ。

「魔族の料理を食べられる店は、人間界にはほとんどありません」

「……なるほど」

「珍しさも人気の理由でしょう」

開店から一か月。

魔王食堂は大繁盛した。

売上は予想を大幅に上回った。

二号店。

三号店。

十号店。

次々と店舗が増えた。

半年後。

魔王食堂は、魔界最大の飲食チェーンになっていた。

「……すごいな」

俺は報告書を見つめた。

エリナがうなずいた。

「飲食事業は、会社の新たな収益源になっています」

「……ああ」

そのとき、吉岡が慌てて入ってきた。

「社長! 大変です!」

「今度は何だ!」

「魔王食堂の新メニューが、大問題になっています!」

「……何だ?」

吉岡はメニュー表を差し出した。

【新商品】

【魔王激辛カレー】

辛さレベル:一~百。

「……普通じゃないか」

吉岡が震える声で答えた。

「レベル百を食べた人間が、火を吐き始めました!」

「……は?」

「しかも、ドラゴン並みの火力です!」

「…………」

十号店の開店前、厨房で一つの鍋を巡って喧嘩が起きた。

「人間の客には辛さを抑えろと言っただろ!」

「これがうちの味だ!」

オークの料理長ボルドが、若い店長と睨み合っている。

俺は鍋の中を覗いた。

赤い湯気が立っていた。

「何を入れた?」

「竜唐辛子です。ほんの一粒」

「一粒で床が焦げてるぞ!」

エリナが試食を止めた。

代わりに厨房の端へ、種族ごとの味覚検査票を並べた。

人間、オーク、吸血鬼、ドラゴン。

食べられるものも、適切な温度も違う。

「誰でも同じ皿を食べる必要はありません。ただし、何が入っているかは分かるようにしてください」

ボルドは腕を組んだ。

「看板料理を変えろってことか」

「違う。選べるようにするんだ」

俺が言うと、彼はしばらく考えた。

「じゃあ辛さを三段階にする。竜唐辛子は注文した客にだけ出す」

「三段階目は?」

「生きて帰れるかどうか」

「それはメニューじゃない!」

繁盛の陰では、社員食堂の席が足りなくなっていた。

一般客が押し寄せ、夜勤明けの社員が食事を取れずに帰る日が出ていたのだ。

俺は店舗責任者を集め、社員食堂と一般店舗の仕入れを分けるよう指示した。

社員の昼食を削って売上を作るなら、会社の目的が逆になる。

その夜、ボルドは俺を厨房に呼んだ。

「社長。十号店まで増えたのはいいが、若い料理人が疲れてる」

「人を増やそう」

「人数だけじゃない。俺の料理を再現しようとして、みんな無理をする」

彼は古びたレシピ帳を見せた。

分量は『大鍋いっぱい』『火が青くなるまで』としか書かれていない。

「これ、誰にも伝わらないぞ」

「俺には分かる!」

「だから困ってるんだよ!」

翌週から料理人たちは材料を量り、温度を記録し、店ごとに味を確かめた。

ボルドは最初こそ不機嫌だったが、若手が自分の料理を再現すると、誰よりも大きく笑った。

客の行列の先には、休憩を取れない調理員がいた。

俺は売上表より先に厨房の交代表を確認した。

食堂の一般開放初日、入口でオークの母親が立ち止まった。

「人間と同じ席で食べてもいいのかい」

隣の人間の行商人も戸惑っている。

ボルドは二人の前に同じスープを置いた。

「冷める前に食え。喧嘩なら食後だ」

先に匙を取ったのは母親だった。

行商人も一口飲み、「うまい」と漏らす。

売上表に載らない出来事を、俺は今日の成果として覚えておくことにした。

「これなら俺が休んでも店が回るな」

「休む気があったのか?」

「一日くらいはな」

初めての休日、ボルドは一般客として魔王食堂に現れた。

「いらっしゃいませ!」

若い店員が声を張る。

「おすすめは?」

食堂チェーンの二号店で、ボルドは最初の皿を客に出す前に戻した。

「冷めてる」

売上を急ぐ店長は顔をしかめたが、ボルドは言った。

「腹を空かせた客を、数字にするな」

その夜、保温用の魔石を追加発注した。

開店初日、厨房でオークの料理長が鍋を抱えていた。

「人間のお客に、俺の料理を出していいんですか」

俺は客席を見た。

小さな人間の女の子が、湯気の立つ皿を待っている。

「料理長の名前をメニューに書こう」

料理長は驚き、慌てて前掛けを直した。

女の子は一口食べて笑った。

翌日、店の入口には種族ごとの席札がなくなっていた。

料理が売れた以上に、その変化が嬉しかった。

「本日の煮込みです。料理長が休みなので、少し味が優しいですよ」

「……それは褒めてるのか?」

俺は隣の席で笑いをこらえた。

新店舗の開店前、料理長ボルドは大鍋の前で腕を組んでいた。

「味を同じにするだけなら簡単だ。でも客の顔まで同じにはできない」

彼は新人に、注文を間違えた客への謝り方を教えた。

俺が「料理より接客が難しそうだな」と言うと、ボルドは鼻で笑った。

「だから人を育てるんです。鍋は勝手に育ちませんから」

ボルドは新メニューの値段を見て眉を寄せた。

「この値段じゃ、夜勤の連中は毎日食えない」

エリナは採算表を開いた。

利益を出す店と、社員を支える食堂。

両方を続けるため、俺たちはメニューと補助制度を分けて考えることにした。

「現在、王都で三十人が火を吐いております!」

「販売中止だ!」

「承知いたしました!」

「……被害は?」

吉岡は書類を確認した。

「建物五棟が全焼しました」

「…………」

俺は額を押さえた。

「……また損害賠償か」

エリナが静かに言った。

「ジーク様」

「……何だ?」

「火を吐けるカレーというのは、別の用途があるかもしれません」

「……用途?」

「例えば、寒冷地での暖房です」

「…………」

俺は少し考えた。

「……商品化するのか?」

「安全性を確認してからです」

「……だよな」

こうして魔王軍株式会社は、新たな研究を開始した。

【魔王カレー由来・火炎魔力研究】

俺は研究報告書を見ながら呟いた。

「……うちの会社、何屋なんだ?」

吉岡が答えた。

「魔王軍でございます」

「もう軍じゃないだろ!」

閉店後、十号店の帳簿を開いた。

売上は増えたが、厨房の残業代と廃棄食材の費用も膨らんでいる。

「看板を増やせば儲かると思ってた」と俺。

「店長が倒れたら、その店は明日開けられません」とエリナ。

翌日から、新店の出店条件に『休憩時間を確保できる人員』を加えた。

ボルドは不満そうに唸ったが、若手に包丁を渡した。

「俺の味を盗め。ただし休みの日には厨房へ来るな」

それが、魔王食堂で初めて交わされた『休日の命令』だった。

料理人の休暇制度を作ると、意外な問題が出た。

ボルドが休んだ日の売上が、普段より良かったのだ。

「料理長、顔が怖いぞ」

「俺がいない方が繁盛するとは何事だ」

「お客さんが安心して注文できたんじゃないか?」

「それはどういう意味だ!」

エリナは売上表の裏に、苦情件数を書き込んだ。

ボルドがいる日は味の評価が高い。

いない日は待ち時間が短く、子供連れの客が増えている。

「どちらも良い点があります。厨房を一人の才能に頼りすぎていたのかもしれません」

ボルドは唇を尖らせたが、若手の料理を一口食べて頷いた。

「こいつの煮込みは俺より優しい味だ。だが、それがいい客もいる」

「認めるんだな」

「料理のことならな。社長の経営はまだまだだ」

「そこまで言うか!」

十号店の店長たちは、地域ごとの料理を一品ずつ加えることになった。

魔王食堂の看板を守りながら、その町で食べられる味を増やす。

初めての試食会では、スケルトンの店長が自信満々に空の皿を出した。

「これは?」

「断食中のお客様向け、香りだけのコースです」

「皿だけで料金を取るな!」

「香りは付いております」

「せめてスープくらい出してくれ!」

厨房から鍋を持ったオークが顔を出した。

「スープは追加料金だ」

「やっぱり商売上手だな、お前ら!」

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