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魔王軍が株式会社になったので、勇者が株主総会で魔王を追放した  作者: レモンティー


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■第十五話 勇者、魔王軍の借金を返すために魔界の不動産王になる

緊急経営会議。

議題は、魔界全土の土地使用権だった。

「……つまり、どういうことだ?」

俺が尋ねると、エリナが説明した。

「初代魔王ガルディオンは、魔界の土地の一部について古い権利を保有していた可能性があります」

「……一部?」

「はい。魔界全土という主張には、まだ証拠がありません」

「……よかった」

「ただし、魔王城周辺の土地については、正式な契約書が残っています」

「……どれくらい?」

「魔王城を中心に、半径五十キロメートルです」

「広いな!」

エリナはうなずいた。

「しかも、現在は多くの施設が建設されています」

「……施設?」

「住宅、商業施設、工場、倉庫、学校、病院です」

「……なるほど」

俺は少し考えた。

「……だったら、土地を有効活用すればいいんじゃないか?」

エリナが微笑んだ。

「そのとおりです」

「……どうする?」

「まず、土地の所有権と使用権を整理します」

「うん」

「そのうえで、未利用地を開発します」

「……開発?」

「住宅地、商業施設、物流拠点です」

俺は目を見開いた。

「……不動産事業か!」

「はい。ただし、土地の権利が未確定の場所に会社の金を投じるわけにはいきません。まず契約が確認できた区画だけを対象にし、建設費と家賃収入の見通しを審査します」

「家ができる前に、返せるかどうかを考えるのか」

「住む人を途中で追い出さないためです」

こうして魔王軍株式会社は、不動産開発事業を開始した。

最初に着手したのは、魔王城の周辺だった。

かつては荒れ地。

魔物が徘徊する危険地帯。

だが、今は違う。

魔王軍が戦争をやめたことで、治安が改善し始めていた。

「……ここに住宅を建てよう」

俺は地図を指さした。

エリナがうなずく。

「魔族向けの集合住宅ですね」

「そうだ」

「種族ごとの生活環境も考慮する必要があります」

「……例えば?」

「ドラゴンには巨大な住居が必要です」

「……確かに」

「スケルトンは食事設備が不要です」

「……そうだな」

「ヴァンパイアには遮光設備が必要です」

「……なるほど」

「オークには頑丈な建物が必要です」

「……分かった」

俺は拳を握った。

「種族別の住宅を作ろう!」

こうして魔王軍株式会社は、魔族専用住宅の開発を始めた。

ドラゴン用の巨大住宅。

スケルトン用の低維持費住宅。

ヴァンパイア用の完全遮光住宅。

オーク用の高耐久住宅。

そして、ゴブリン用の小型集合住宅。

事業は予想以上の反響を呼んだ。

魔界各地から入居希望者が殺到した。

「……すごいな」

俺は申込書を見つめた。

エリナが微笑んだ。

「魔界では、住宅不足が深刻だったのです」

「……そうだったのか」

「はい。戦争に資金が使われ、民間住宅の建設が遅れていました」

俺は言いかけた反論を飲み込んだ。

一号棟の建設予定地を調べに行くと、杭の上に洗濯物が干されていた。

「ここ、空き地じゃないのか?」

吉岡が図面を広げる。

「台帳では未利用地です」

「じゃあ、あの家は?」

小屋から出てきたゴブリンの女性が、俺たちを睨んだ。

「二十年前から住んでるよ。税金だって払ってる」

彼女が見せた領収書には、魔王軍の古い印が押されていた。

吉岡の耳がぴんと立つ。

「旧軍の住宅管理課です。部署は戦争で解散しています」

「解散したら、住んでる人まで消えるのか?」

俺は図面を畳んだ。

住宅を建てるつもりが、先に人の家を壊しかけていた。

エリナは現地調査のやり直しを提案した。

測量士だけでなく、住民代表も立ち会わせる。

境界を引く前に、井戸と通学路と市場への道を地図に書き込む。

「これ、道路が一本増えるだけで家賃が上がりそうだな」

「そうですね。住民が住み続けられる制度も必要です」

俺たちは新築住宅の一部を従来住民向けの家賃に固定し、立ち退きが必要な世帯には移転先を先に用意することにした。

ところが建設開始の日、ドラゴンの現場監督が首をかしげた。

「社長、この基礎では翼を畳めないぞ」

「翼って家の中で広げるものなのか?」

「子供は寝相が悪い」

その隣ではスケルトンの大工が、窓の向きを気にしていた。

「吸血鬼の入居者には日光が強すぎます。しかし窓を塞ぐと隣の住人の部屋が暗くなる」

種族別に棟を分けるだけでは済まない。

生活の違いを押し込めると、隣同士で揉めるのだ。

設計会議は三日続いた。

俺は途中で何度も眠りかけたが、住民たちは誰も席を立たなかった。

一号棟の設計を見直し、工事が進んだころ。

入居募集の初日には、申込書が予想の三倍届いた。

エリナは抽選箱を持ってきたが、俺はすぐに手を伸ばせなかった。

「先着順じゃ駄目なのか?」

「仕事を休めない人や、遠方の住民が不利になります」

「じゃあ抽選か」

「それだけでは、住まいを失った人が後回しになります」

俺たちは住居を失った世帯向けの枠と、一般募集の枠を分けた。

どちらの条件も掲示し、選考に異議を申し立てる窓口を作る。

「家を建てるより、入居者を決める方が難しいな」

「建物には寸法がありますが、暮らしには事情がありますから」

数か月後、一号棟の完成式の日。

子供たちは新しい階段を競争して駆け上がった。

スケルトンの老人が手すりの高さを確かめ、吸血鬼の母親が遮光扉を何度も開け閉めする。

その様子を見たガルディオンの代理人が、俺に言った。

「土地の契約が決着していない以上、ここは暫定的な利用です」

「分かっています。だから建設費も契約条件も公開する」

「随分と面倒な王ですな」

「王じゃない。社長だ」

「なおさら面倒です」

「その面倒な契約書に、お前も署名するか?」

相手はため息をつきながら、住民の立会欄に名前を書いた。

俺は笑った。

机の上の地図に、立ち退きを拒んだ一家の家を小さく書き込んだ。

完成した一号棟の最初の入居者は、あのゴブリンの女性だった。

「前の家より広いね。井戸も近い」

土地の値札を見たとき、俺はそこに住む家族の名前を思い出した。

返済計画から立ち退きの強制を外すよう求めた。

一号棟の入居が始まったあと、俺たちは第二住宅区画の整備に着手した。

そこには、百年以上使われた共同井戸があった。

測量士は図面の上で井戸を消した。

「移設すれば区画が増えます」

だが住民たちは反対した。

干ばつの年も枯れなかった井戸だという。

俺は販売計画を一度止め、井戸を中心に道を引き直させた。

エリナがため息をつく。

「利益率は下がりますよ」

「井戸を埋めて得る利益なら、最初から要らない」

第二住宅区画の道路計画を修正した帰り、一号棟に住むあのゴブリンの女性を訪ね、新しい家の感想を聞いた。

「家賃は変わらないようにした」

「それはありがたい。でもね、社長」

「何だ?」

「前の家にあった柱の傷、残しておきたかったよ。子供の背丈を刻んでたんだ」

俺は返事に困った。

新しい建物を建てれば、古い暮らしの全部を運べるわけじゃない。

翌日、解体材の保管庫から柱を探し出し、玄関に据え直した。

「そこまでしなくてもよかったのに」

「不動産って、土地だけ売る仕事じゃないんだな」

その後、第三住宅区画では古い空き家を改修して住戸にすることになった。

改修費を安く見積もった俺に、現場のドワーフが雨漏りした天井を見せた。

「住むのは帳簿じゃない、人間だ」

雨漏りの下で、入居を待つ親子が毛布を抱えていた。

「いつ入れるんですか。宿代はもう払えません」

俺は工期表を見た。

屋根の補修を急げば予算を超える。

予算を守れば、親子はさらに一週間待つ。

エリナは未着工区画の外構工事を後回しにし、その費用を仮住まいと屋根の補修へ回す案を示した。

「工期を守るために、住む人を待たせるのは本末転倒です」

俺は変更理由を入居希望者全員に知らせるよう頼んだ。

誰かの順番を勝手に飛ばしたと思われないためだ。

俺はその区画の入居予定を一週間遅らせ、仮住まいの費用は会社が負担することにした。

利回りの数字は下がったが、屋根は確かになった。

第三住宅区画の入居準備が進むころ、俺は雨上がりの道に立ち尽くした。

車輪が泥にはまり、病院へ向かう荷車が動けない。

「家は建てました」と現場監督が言う。

「道がなければ住めないだろ」

計画図には道路も排水も描かれていた。

ただし、予算欄は空白だった。

エリナが静かにペンを置く。

「売上になる建物だけを先に作った結果です」

俺たちは開発の順番を変えた。

道路と排水の予算を組み直した数日後、俺は一号棟のゴブリンの女性を訪ね、工事の進捗を伝えた。

女性は笑って、玄関に移した柱の横に新しい印を刻んだ。

俺の身長だった。

「何で俺の?」

「社長が来た記念さ」

「子供扱いかよ!」

さらに次の第四住宅区画の計画説明会では、耳の長いエルフの親子が設計図を見て首をかしげた。

「窓が低いと、子供が外を見られません」

一方、背の低いゴブリンの職人は「台所が高すぎる」と言う。

設計士が困り果てる横で、俺は紙を裏返した。

「全員に同じ家を売るんじゃない。暮らせる家を一緒に考えよう」

それは利益率の計算表にはない項目だった。

第四住宅区画の隣にある売却候補地を見に行くと、家の前で老人が薪を割っていた。

「この家も会社の資産ですか」

俺は答えられなかった。

エリナは契約図面を畳んだ。

「土地の値段を決める前に、住んでいる人の権利を確認しましょう」

利益の計算は、そのあとだった。

「……なら、もっと建てよう」

「ただし、資金計画が必要です」

「……分かってる」

「無計画に建設すると、初代魔王様と同じになります」

「……それは嫌だな」

こうして俺たちは、需要調査と資金計画を進めながら住宅事業を拡大した。

数か月後。

魔王軍株式会社の不動産事業は、安定した収益を生み始めた。

だが、ある日。

吉岡が慌てて社長室に駆け込んできた。

「社長! 大変です!」

「今度は何だ!」

「ドラゴン用住宅に、重大な問題が発生しました!」

「……何だ?」

「入居したドラゴンが、寝返りを打ったところ……」

一拍。

「隣の住宅を三棟、押し潰しました!」

「設計した奴を呼べええええ!」

吉岡が静かに答えた。

「設計責任者は、ドラゴンでございます」

「本人かよ!」

俺はすぐに現場へ走った。

幸い、隣の三棟は入居前の建物で、けが人はいなかった。

それでも近くの住民を避難させ、ほかの住宅にも損傷がないか調べさせた。

「笑い話で済ませるな。ドラゴン用の敷地と隣家の間隔を見直すぞ」

エリナがうなずく。

「原因が分かるまで同型住宅の新規入居は止め、設計を第三者にも点検してもらいます」

「寝返り一回で三棟壊れる設計なんて、二度と通すな!」

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