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魔王軍が株式会社になったので、勇者が株主総会で魔王を追放した  作者: レモンティー


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■第十四話 魔王軍の創業者が、会社を訴えてきた

俺の机に、一通の封筒が置かれていた。

差出人。

【初代魔王ガルディオン】

件名。

【未払い創業者報酬請求通知書】

請求金額。

金貨十億枚。

「…………」

俺は封筒を閉じた。

「……吉岡」

「はい」

「昨日の箱、まだ開けてないよな?」

「はい」

「……じゃあ、どうやって手紙を出したんだ?」

「封印の隙間から魔法で送付されたようです」

「便利な封印だな!」

エリナが書類を確認した。

「ジーク様。まずは請求の法的根拠を調べましょう」

「……払わなくていいのか?」

「正当な債務であれば、対応が必要です」

「……十億枚だぞ?」

額が大きすぎて笑えない。

これを払えば、明日の給料が消える。

「はい」

「会社が潰れるぞ!」

「ですから、調査します」

エリナは冷静だった。

数日後。

古い契約書が発見された。

【創業者特別報酬契約】

契約書には当時の取締役会の印章がある。

ただし、後世の会社に承継されたかどうかは別問題だ。

創業者ガルディオンに対し、魔王軍の年間利益の一パーセントを支払う。

ただし、支払いは魔王軍が存続する限り継続する。

「…………」

俺は目を見開いた。

「……これ、本物か?」

吉岡がうなずいた。

「二千年前の正式な契約書でございます」

「……利益の一パーセント?」

「はい」

「……でも、最近は赤字だよな?」

「はい」

エリナが資料を確認した。

「過去の利益記録が必要ですね」

調査の結果。

魔王軍は、過去二千年間のうち、千年以上赤字だった。

さらに、契約書には重要な条項があった。

【年間利益が発生しない場合、報酬は支払われない】

俺は笑った。

「……つまり?」

エリナが答えた。

「請求金額は、大幅に減る可能性があります。ただし、二千年分の帳簿を精査する必要があります」

「よし。数字が確認できるまでは、払うとも払わないとも約束しない」

法務室で最初に見つかったのは、契約書ではなく、焼け焦げた帳簿だった。

「火事か?」

「戦争中、書庫を守るために一部を地下へ移したそうです」

エリナが手袋をはめて頁をめくる。

吉岡は二千年前の筆跡を読める唯一の社員として、窓際に座っていた。

「創業者への支払いは利益の一パーセント。ただし、当時の『利益』は金貨だけを指しません」

「じゃあ何だ?」

「領民から徴収した麦と薪です」

俺は椅子から立ち上がった。

金貨十億枚の請求より、そちらの方が気になった。

「その麦、誰が作った?」

吉岡は答えなかった。

代わりに帳簿の隅を指した。

小さな文字で、村の名前が並んでいた。

徴収した麦の量と、返還予定日。

その日付はどれも二千年前で止まっている。

「これを見せずに裁判を始めるつもりだったのか」

「初代魔王様の代理人は、報酬の部分だけを証拠として提出しています」

「だったらこっちも出す。隠したまま勝つのは嫌だ」

エリナは慎重に首を振った。

「記録が残っているだけでは、現在の債権者は確定できません。裁判で認められるかも別問題です」

「それでも調べる価値はあるだろ」

翌日、俺たちは城下町の古い家を訪ねた。

戸口に出てきた老婆は、ガルディオンの名前を聞くなり顔をしかめた。

「初代様を悪く言うつもりはないよ。でも、あの方が築いた城の石は、うちの祖父の祖父の、そのまた祖父が運んだものだ」

「記録は残っていますか」

老婆は押し入れから木札を取り出した。

城の印と、労働日数が刻まれている。

「返してほしいのは金じゃない。あの人たちが働いたことを、なかったことにしないでおくれ」

俺は木札を両手で受け取った。

訴状に書かれた金額が、急に小さく見えた。

公判に提出された証拠品の中には、煤けた給食鍋もあった。

初代魔王の無償配給で使われたものだという。

「これを売れば借金の足しになります」と吉岡が言う。

ガルディオンは箱の中から怒鳴った。

「その鍋で何人が生き延びたと思う!」

俺は鍋底に刻まれた村の名前を読んだ。

「だったら、その村の人に証言してもらおう」

契約の正しさと、過去に救われた命は、どちらも調べる価値がある。

エリナは創業者の古い契約書を光に透かした。

「署名はあります。でも、従業員に説明した記録はありません」

俺は剣の柄に手を伸ばしかけて止めた。

古い約束を力で破るのは簡単だ。

だが、次の世代に残すなら、誰が何に同意したかを確かめなければならない。

ガルディオンの訴えを退けても、創業時の約束が消えるわけではない。

エリナは判決文とは別に、古い出資記録の調査を提案した。

「勝訴と清算は別です」

俺は封印箱の前に、その調査日程を置いた。

公判の日、ガルディオンは封印越しに巨大な顔を映し出した。

『余がいなければ魔王軍は存在しなかった!』

「そうだろうな。でも、一人で作ったわけでもない」

俺は木札の写しを示した。

『それは何だ』

「城を造った人の記録だ。あなたの報酬を考えるなら、この人たちの分も考えよう」

初代魔王は黙った。

代理人が慌てて異議を唱えたが、裁判官は記録の調査を命じた。

その日の判決は出なかった。

裁判所は次回までに、請求額の算定根拠と、麦の配給を売上に含めた理由を双方が提出するよう求めた。

代理人は唇を結び、吉岡は焦げた帳簿の複写を抱え直した。

「勝ったのか?」と俺が聞くと、エリナは首を振った。

「いいえ。相手の主張を調べる機会を得ただけです。次は、こちらの数字も疑われます」

「それでいい。都合の悪い数字を隠したまま勝っても、また誰かが泣く」

十億枚を払わずに済んだわけでもない。

それでも帰り道、エリナが言った。

「ジーク様。今日、会社の歴史に新しい項目ができましたね」

「訴訟費用か?」

「いいえ。創業に協力した人々の名前です」

俺は手元の数字から目を離した。

初代魔王が何を所有しているかは、これから調べる。

だが、魔界そのものを誰か一人の持ち物として扱うつもりはなかった。

その日の夕方、エリナが古い帳簿を二冊並べた。

「おかしな点があります。報酬の計算に使われた利益と、実際に会社へ入った金額が一致しません」

「帳簿の間違いか?」

「違います。飢饉の年に、ガルディオンは村へ麦を無償で配っています。その麦の価値を、後の経営陣が売上として計上していたようです」

「配った麦で、創業者への報酬が増えるのか?」

「その計算なら、です。契約で認められるかは裁判所が判断します」

俺は背筋が寒くなった。

善意の配給を、二千年後の請求書に変えてしまったのか。

翌朝、俺たちは初代魔王の代理人に資料を渡した。

「これはガルディオン様に不利な証拠ですよ」と代理人が驚いた。

「だから渡す。俺たちに有利な帳簿だけ並べたら、魔王と何も変わらない」

箱の向こうから低い声がした。

『……あの麦は、飢えた子に食わせるためのものだ。

余の儲けではない』

エリナはその発言を議事録に記した。

請求額はまだ決まらない。

だが、初代魔王自身が、初めて十億枚という数字に異議を唱えた。

ところが、調査が一段落した翌朝、吉岡が別の書類を持ってきた。

「社長。さらに問題がございます」

「……今度は何だ?」

「初代魔王様は、会社の設立時に土地を提供していたようです」

「……土地?」

「はい」

「どこだ?」

吉岡は魔界地図を広げた。

そして、指を置いた。

「……魔界全土でございます」

「…………」

俺は固まった。

「……全部?」

「はい」

「……それで、何が問題なんだ?」

「魔王軍株式会社は、魔界全土の土地使用権について、創業者との契約を確認する必要がございます」

「…………」

俺は天井を見上げた。

「……魔王を倒したら、地主が出てきた」

エリナが静かに言った。

「経営では、よくある問題です」

「絶対によくないだろ!」

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