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魔王軍が株式会社になったので、勇者が株主総会で魔王を追放した  作者: レモンティー


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■第百十九話 世界平和の授業で、元魔王が子供に論破された

一か月後。

俺とゼルガディスは、町の学校の門前で立ち尽くしていた。

応募後、二人とも授業案の事前審査と児童への接し方を学ぶ研修を終えた。

今日は俺たち二人の講師採用試験の模擬授業。

合否は授業後、校長と教員たちが決める。

聖剣は先に本人の意思で非常勤講師契約を結んでいる。

授業日の移送と台座の保管は、別途、学校が引き受ける取り決めだ。

「魔王を倒したときより緊張するな」

「わしは二千年近く恐れられた魔王だぞ。子供など恐れるものか」

そう言ったゼルガディスの手には、昨夜書き直した授業計画書が三枚あった。

教室には三十人の子供がいた。

人間も魔族も、同じ長机に並んでいる。

聖剣エクスカリバーは、学校に貸し出された専用の台座から声を響かせた。

『本日の進行役です。

自慢話は禁止。

質問には武勇伝ではなく、理由で答えてください』

「それ、昨日の授業リハーサルでも言われたぞ!」

『リハーサルでも自慢話を始めたからです』

子供たちが笑った。

最初の少年が手を挙げる。

「魔王は、どうして戦争したの?」

ゼルガディスは胸を張った。

「魔界の繁栄のためだ」

少女がすぐに聞き返した。

「じゃあ、戦争で家が壊れた魔族の人は繁栄したの?」

元魔王は口を開き、閉じた。

「……しておらぬ」

「じゃあ、失敗じゃん」

教室中がうなずいた。

「ぐっ……」

二千年近く恐れられた元魔王が、十歳の子供に一言で負けた。

次の質問は俺に来た。

「勇者は、どうして魔王を殺さなかったの?」

「最初は倒すつもりだった。でも、株主総会って方法を知ったんだ」

「それってずるくない?」

「ずるいと思う人もいるだろうな。でも剣で倒すだけなら、次の魔王が生まれるかもしれない。戦争を続けなくても暮らせる仕組みを作りたかったんだ」

聖剣が低く唸った。

『勇者の回答としては、少し成長しましたね』

「採点するな!」

別の少年が手を挙げる。

「強い人が間違えたら、誰が止めるの?」

ゼルガディスが俺を見た。

「勇者だな」

「俺だけに押しつけるなよ」

俺は黒板に三つの言葉を書いた。

『話す』『確かめる』『決め直す』。

「俺が社長になったころは、何でも一人で決めようとした。でも、それじゃ昔の魔王と同じだ。だから反対できる人が必要なんだ」

魔族の少年が、おずおずと手を挙げた。

「人間の子が、ぼくのお父さんは悪いって言ったら?」

隣の少女が顔を伏せる。

「おじいちゃんが戦争でけがしたから、怖かったの」

少年は唇を噛んだ。

「でも、ぼくのお父さんは今、橋を直してる。悪いことばっかりじゃない」

ゼルガディスは二人の目の高さまで膝を折った。

「怖い思いをさせたのは、わしたち大人だ。今すぐ仲良くする義務はない。だが、相手の今日を、昔のわしの命令だけで決めないでほしい」

誰も拍手しなかった。

二人はただ、小さくうなずいた。

「強い者が一人で決めないためには、どんな約束がいる?」と俺が尋ねた。

休み時間、子供たちは『けんかしたときの約束』を考えた。

順番に話す。

嘘をつかない。

困ったら先生を呼ぶ。

力の強い子が全部決めない。

「会社の会議と同じだな」と俺。

『学校の方が先にできています』と聖剣。

「ぐっ……」

授業の後半は、紙で作った百枚の株を使った。

三十人のうち九人を株主役に選び、一人十枚ずつ配った。

残り十枚はゼルガディスへ。

株を持たない二十一人は、質問する住民役、議事を見守る監査役、投票を数える係などに分かれた。

合計百枚であることを黒板に書き、子供たちにも確かめてもらった。

採決が終わるまでは株主役と持ち株を固定し、株を持たない子は集計係として投票の数え方を体験した。

採決後には役割を交代し、株式カードも新しい株主役へ引き継いだ。

「たくさん持っている人の意見だけで、何でも決めていいと思うか?」

「ずるい!」と声が上がる。

「だから、少ない人も質問できる決まりと、決め方を調べる人が必要なんだ」

「一人が全部持っていたら?」

「その人が勝手に決めちゃう!」

「そう思うよな。でも、一人が多く持っていても、法律や会社の決まりを破っていいわけじゃない」と俺は付け加えた。

「みんなで持っていたら? ただし、持っている数は同じじゃないぞ」

「数が違うと、たくさん持ってる人が有利になる! だったら少ない人の意見は、聞かなくてもいいの?」

「それは違う。票が多い人の案が通ることはあっても、少ない人の意見を聞かなくていいわけじゃない。質問や異議申立ての権利があるし、決め方が正しかったか監査で確かめることもできるんだ」

「じゃあ、少ない人の話も聞かなきゃ駄目なんだね」

「そうだ。多数決は、少数の人を黙らせるためのものじゃない」

俺は黒板に二つの案を書いた。

『橋を先に直す』『学校の屋根を先に直す』。

株式カードは各自の机に置いたまま、株主役の九人とゼルガディスが持ち株と同じ枚数の投票用紙を受け取った。

一枚につき「橋」か「屋根」のどちらかを書いて箱に入れる。

集計係は百票すべてを数えた。

「橋が七十票、屋根が三十票。橋の修理が多数です。でも、屋根が雨漏りしたままなら困る子もいるよ」と監査役の少女が言った。

「その意見を議事録に残そう。屋根の修理は次の議題にして、雨漏りの危険も先に調べよう。決まった案でも、あとから問題が分かれば見直せる」と俺。

ゼルガディスが投票後、机に残した株式カードの一枚を掲げた。

「わしは昔、魔王軍株式会社を率いていたのだぞ」

「十枚持っていても、ほかの人の票は勝手に変えられないよ!」

教室は笑い声に包まれた。

だが、最後の質問は笑いでは終わらなかった。

「お金がなくなったら、また戦争するんじゃない?」

「その危険はある」と俺は答えた。

「だから仕事を増やす。農機具を作って、食堂を開いて、橋を直す。戦争以外でも暮らせる道を増やすんだ。うまくいかないときは、みんなで直す」

「悪い人がまた社長になったら?」

ゼルガディスが先に答えた。

「わしを追い出したのと同じように、規則に従って交代させればよい」

「魔王でも追い出せるの?」

「現に、わしがここにおる」

また笑いが起きた。

授業の最後に、子供たちは未来の夢を一枚ずつ書いた。

『魔族と人間が一緒に食べるレストラン』

『ドラゴンに乗れる安全な旅行会社』

『戦争を知らない子供のための学校』

一番小さな少年は、たった一行だった。

『お父さんが毎日帰ってくる会社』

少年はその紙を俺に見せた。

「本当に作れる?」

「事故が絶対に起きないとは約束できない。でも、危ないときに止められる会社なら作れる。帰れなかった人を忘れない会社にもできる」

少年はうなずき、紙を大切に鞄へしまった。

別の少年がゼルガディスに紙を渡した。

『けんかしたら、あやまる』

元魔王はしばらく文字を見つめた。

「謝っても戻らぬものはある」

少年は考えて、下に一行書き足した。

『こわしたものを直す』

「……それも、必要だな」

終業の鐘が鳴った。

校長と教員たちが見守るなか、子供たちは机を片づけ始めた。

ゼルガディスは雑巾を絞るのが下手で、床を水浸しにした。

「魔王って、掃除は苦手なんだね!」

「得意な魔王などおらぬ!」

「じゃあ、練習しよう!」

子供たちが笑いながら教えた。

片づけが終わると、校長が俺たちを廊下へ呼んだ。

「模擬授業は合格です。学校としてお二人を週一回の補助講師に採用したいと思います。正式な採用通知と勤務条件を書面でお渡ししますので、内容を確認してから承諾してください。授業計画は毎回、担任と確認してください」

「やった!」

「わしが補助だと!?」

『妥当な評価です』と聖剣。

校長は聖剣の台座を指した。

「今日も進行を助けていただきました。講師契約はこれまでどおり継続し、授業日の送迎も学校が責任を持ちます」

『台座の貸出記録と返却期限は守ってください。

私自身の授業への参加は、私が決めます』

「お前が一番、事務手続きにうるさいな」

校長との話を終えて廊下から校庭へ回り、教室の開いた窓の下で立ち止まると、夕暮れの空を荷物運びのドラゴンが飛んでいた。

窓際の台座にいる聖剣にも、ここからなら声が届く。

かつて街を焼いた翼が、今は薬と教科書を届けている。

「なあ、勇者ってもう必要ないのかな」

俺が聖剣に尋ねると、台座から返事があった。

『必要なときには現れるでしょう。

でも、できれば剣より先に話し合いを』

俺はうなずいた。

正式な採用通知と勤務条件を確認し、二人とも承諾書に署名したら、次の授業からは社長でも魔王でもなく、担任と相談して教材を準備する大人になる。

その日が来るのを、俺は楽しみにしていた。

ゼルガディスが隣でぼそりと言った。

「今日は三十人に負けた気分だ」

「勝ち負けじゃないだろ」

「……そうだったな」

俺たちは笑いながら、夕暮れの道を歩いた。

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