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魔王軍が株式会社になったので、勇者が株主総会で魔王を追放した  作者: レモンティー


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■第百一話 聖剣が証言台に立ったら、世界の嘘が全部ばれた

聖剣は証言台に置かれると、まず宣誓文に文句をつけた。

「真実しか話さぬが、わしを物扱いするな」

書記官が困り果てる中、俺は鞘を立て直した。

聖剣は声を低くした。

「持ち主の命令に従った日も、従わなかった日も覚えている。今日はその両方を話そう」

聖剣の剣身に、昔の戦場が映った。

燃える家。

逃げ惑う人々。

俺がまだ勇者と呼ばれる前の光景だ。

「この映像を全員に公開する」と裁判官が告げた。

傍聴席から一人の女性が立ち上がった。

「待ってください。その家には私がいました」

女性は、映像の中の少女が自分だと言った。

顔を隠して暮らしてきた。

今ここで名前まで公開されれば、子供たちにも過去が知られる。

『真実を示すのが、私の役目だ』

聖剣が言う。

「誰のための真実だ?」と俺は確かめた。

『嘘を暴くためだ』

「だったら、被害者をもう一度さらし者にする必要はない」

エリナは証拠を二種類に分けるよう求めた。

裁判官だけが確認する原映像と、個人が特定される部分を伏せた公開記録だ。

「改ざんだ!」と神界の代理人が叫ぶ。

「原本は保存します。第三者による照合も受けます」とエリナ。

「公開しないことと、存在しないことにするのは違います」

聖剣はしばらく黙っていた。

『私は斬るべき相手を間違えたことがある』

「今日も間違えそうだったな」

『うむ。

証言は続ける。

ただし、あの人の名前は私の口からは出さぬ』

女性は礼を言わなかった。

ただ、ようやく椅子に座った。

その静けさを、俺は勝利の拍手より重く感じた。

裁判官は、聖剣の記憶がいつ誰によって記録されたかを確かめた。

映像だけでは命令の責任者を断定できない。

エリナは軍の命令簿と避難記録を提出し、映像と照合できる箇所に印を付けた。

「映っているから、すべて真実だと言うつもりはありません」と彼女。

「何が確かで、何がまだ確かめられないかを分けたいんです」

聖剣は不服そうに光った。

『私の記憶を疑うのか』

「お前を疑うのと、証拠を確かめるのは違う」

『面倒な世になった』

「それが裁判だ」

次に映ったのは、俺が戦場で橋を斬り落とした夜だった。

敵軍を止めたつもりだった。

だが橋の向こうには、逃げ遅れた村人もいた。

「その命令を出したのは誰ですか」と裁判官。

聖剣は答えた。

『当時の持ち主、ジークだ』

傍聴席がざわめいた。

俺は椅子から立った。

「俺だ。橋を落としたのは俺の判断だった」

『あの夜、私は反対した』

「覚えてる。聞かなかった」

「なぜ?」

「敵を止めることしか考えていなかった。橋の向こうに人がいると知っていたのに、間に合うと思い込んだ」

遺族の一人が尋ねた。

「それで、あなたは英雄になったんですか」

俺は答えられなかった。

英雄と呼ばれた日付は覚えている。

でも、橋を渡れなかった人たちの名前は知らなかった。

「調べます」と言いかけて、言い直した。

「記録を調べ、分かったことを報告します。許してくれとは言いません」

休廷になると、最初に発言した女性が俺を呼び止めた。

「顔を隠してくれて助かりました。でも、村が焼けたことまで隠さないでください」

「分かりました」

俺はエリナに公開資料の確認を頼んだ。

本人が望む範囲で証言を残し、原映像は裁判所が保存する。

証拠を守ることと、生き残った人を見世物にしないことは両立できるはずだ。

証言が終わると、書記官が困った顔をした。

「証人名簿に、剣を記入する欄がありません。物品一号でよろしいでしょうか」

『よろしくない!』

「名前を書いてくれ」と俺。

「こいつが話したことは、俺の言葉じゃない」

聖剣は一瞬黙った。

『……持ち主にしては、分かっておる』

「その言い方はやめろ」

法廷を出たあと、俺は聖剣の刃を布で拭いた。

いつもなら嫌味の一つも飛んでくるのに、今日は静かだった。

『真実を話せば、必ず誰かが救われると思っていた』

「話さなければ、誰も選べない。でも、話し方は選べる」

『次は、先に相手の顔を見よう』

俺はうなずいた。

聖剣が初めて、斬る前に立ち止まった日だった。

翌朝、エリナは公開記録の試案を持ってきた。

村の位置、避難者の人数、橋が落ちた時刻。

個人の顔と住所は伏せられている。

俺は紙をめくり、最後の欄で指を止めた。

【命令を出した者の氏名】

そこには俺の名前があった。

「ここは隠さないのか?」

「被害者の名前と、命令者の名前は同じ扱いにはできません」

エリナは静かに答えた。

「あなたが責任を取るために必要な記録です」

俺は署名した。

自分の名を英雄の記録以外に残すのは、思ったより手が重かった。

公開前の説明会には、あの女性も来ていた。

彼女は資料を一枚ずつ読み、地図の村名を指した。

「村の名前は消さないで。あそこには人が暮らしていたんです」

「分かった。名前は残す。ただ、誰がどの家にいたかは出さない」

彼女はうなずいたあと、聖剣へ目を向けた。

「あなたが映した家には、私の母もいました。母は逃げられませんでした」

聖剣の光が揺れた。

『覚えている。

だが、助けられなかった』

「謝らなくていい。忘れないでください」

『忘れぬ。

私は記録する剣だからな』

「記録するだけじゃ足りない」と俺が言うと、女性は首を横に振った。

「記録がなかったから、私たちは何十年も何も言えなかったんです」

その言葉を聞いて、俺はようやく剣が今日、何をしたのか理解した。

夕刻、裁判所から追加の照会が届いた。

映像に残る別の命令について、当時の軍の責任者を特定したいという。

「また仕事か」と俺が呟く。

『真実には残業手当が出るのか?』

「お前、さっきまで感動的だっただろ!」

『感動と労働条件は別問題だ』

俺は笑いながら、新しい記録の束を開いた。

翌日の掲示板には、証拠を公開する範囲と異議の申し立て方法が並んだ。

誰でも閲覧できる部分と、裁判所が保管する部分を分けた理由も書いてある。

吉岡は文字を大きくし、読み書きが苦手な人には説明係を付けた。

聖剣はその前でしばらく黙っていた。

『私は剣だから、文字を読む者ばかりだと思っておった』。

「剣のくせに世間知らずだな」

『お前に言われたくない!』。

通りかかった女性が小さく笑った。

あの人が笑える場所を残せたことが、俺には何よりの証拠だった。

掲示板の前で、聖剣は小声で言った。

『今日は少しだけ、役に立てたか』

「ああ。かなりな」

『ならば、明日も証言台に立つ』

「お前は剣なんだから、まず休暇届を出せ」

『証言と休暇は別問題だ!』

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