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ツグミノミ〜魔獣たちに贈る終の診療録〜  作者: 透羽柚紀
CASE 01 神獣と呼ばれた魔獣
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6/11

【ツグミノミ】 CASE 01-5 神獣と呼ばれた魔獣 イルミルカル

 白銀のイルミルカルは老樹の下で、丸くなって眠っていた。

 黒い毛並みとは対照的な、闇夜に光る白銀の毛並み。


 本来なら月光を浴びて神々しく輝くはずの毛並みは、ところどころ艶を失い、細く痩せた身体は荒い呼吸に合わせて上下していた。


 呼吸は浅く、速い。


「もう少しだけ近くに居させて」


 あと一歩、一歩。

 イルミルカルたちの様子を見ながら、近づいていく。

 リナの様子が少しずつ、わかってくる。

 耳房は力なく垂れ、身体を使って息をしているのが分かる。

 ツグミは少し手前で、ゆっくりとしゃがみ込んだ。


「……リナさん」

 優しく名前を呼ぶ。


 白銀のイルミルカルの耳房が、かすかに震えた。

 ゆっくりと薄く目を開け、ツグミを映す。

 しかしながら、焦点が合っているのかわからない。

 視線が揺れている。


「ガルシア」

 ツグミは振り返らないまま口を開いた。


「少しだけ触れてもいい?」

 返事はない。


 代わりに低いうなり声だけが返ってくる。

 ツグミは微笑んだ。


「そうだよね」

 触られたくない。

 それが野生だ。

 しばらく黙って白銀のイルミルカルを見つめる。

 そして静かに手を膝へ戻した。


「お前達に何ができるんだ」

 ガルシアの声が聞こえてくる。

 警戒の声音の中に、少しだけ助けを求めるような色がにじんでいるような気がした。


 ガルシアと、ツグミ、リナ。

 ラグは、少し離れたところでそれぞれを見つめた。


「わからない。でも、診なければ何も始まらない」

 ツグミは嘘をつかない。

 できないことをできると言わない。


 魔獣に対しても態度を変えない。

 それは、ラグが好きなツグミだ。


「お前たち人間はいつも勝手なことばかり言う」

「うん」

「俺たちを神のように崇めておきながら、リナが病に倒れればあっという間に退治しにやってくる」


「……そうだね」

「俺はお前たちを信じることはできない」


 ツグミは、ガルシアの言葉を否定せずに、黙って頷いた。

 沈黙が落ちる。

 ラグはそれぞれを静かに見つめた。

 ツグミは、ガルシアとリナと、真正面から向き合っている。


 否定せずに、嘘をつかず、綺麗ごとを吐かない。

 だから、ツグミはツグミなんだ。

 ラグは無意識に拳を握りしめた。


 やがてガルシアが口を開く。


「……リナは、人間を怖がっている」

「うん」


「お前達は急に、俺たちを殺そうとしてきた」

「そうだよね。怖いよね」


 ツグミが頷く。

「私だって、怖いもの」

「ツグミさん……」


 ラグは、ガルシアを見つめた。

 ガルシアの目が少しずつ、和らいでいくように感じる。

 信用されているわけじゃない。


 けれど、ツグミの声がラグに届いているような気がした。

「死ぬことも怖いし、傷つくことも怖い。だから、ガルシアとリナが怖いのも当たり前だと思う」

 ガルシアの耳房がゆっくりと下がる。


「無理には触ったりしないし、近づいたりしない」

 ツグミは白銀のイルミルカルへ微笑みかける。


「ふたりが許してくれたら、それでいい。無理に近づいたりはしない」

 その言葉を聞いたガルシアは、長く息を吐いた。

 ほんのわずかに力が抜ける。

 そして白銀のイルミルカルの隣へ歩み寄ると、その頬へ自分の鼻先をそっと寄せた。


「リナ」

 低く、優しい声だった。

 白銀のイルミルカルはゆっくりと目を開ける。


 苦しそうに息をつきながらも、小さく首を動かした。

 ガルシアはツグミへ視線を向ける。


「……いい」

「ガルシア?」


 ガルシアはきつく、目を閉じた。

 夜の森に、風が吹き抜ける。

 枝葉が静かに鳴った。


 ガルシアは鼻先を空へ向け、長く息を吐いた。

 その仕草は、まるで何かを手放すようだった。

 再び開かれた目は、まっすぐにツグミを見つめていた。


「リナを診てくれ」

 ガルシアが初めて人間へ託した願いだった。

 リナは苦しそうに目を細め、ガルシアへ鼻先を寄せた。


 ガルシアは何も言わず、リナの隣へ身を寄せた。

 ふたりの様子が、ラグの胸をギュッと締め付けた。

■女王様のお茶会■

https://cookiequeen.chu.jp/2010.queen/top.html


■NOTEにて、ツグミノミの制作秘話を公開中

 ツグミノミ制作ノート https://note.com/nagiho_uosawa/m/m833291b12a8e

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