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ツグミノミ〜魔獣たちに贈る終の診療録〜  作者: 透羽柚紀
CASE 01 神獣と呼ばれた魔獣
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2/11

【ツグミノミ】 CASE 01-1 神獣と呼ばれた魔獣 イルミルカル

「ツグミさん。また、しゃがみ込んで。このままでは、日暮れまでに次の村に着きませんよ。今日も野宿になりますよ」

「んー」


 返事をするツグミは、ボーッと地面を見つめている。

 ツグミの視線を追いかけていくと、地面には、バッタが干からびている。


「死んでる」

 ツグミの言葉に、ラグは深く息を吐く。


「虫ですよ?」

「お墓を作ろう」

「ツグミさん、そんな時間はありません。今日だけで何回足止めされてると思ってるんですか」

「すぐに終わるから」


 ラグの同意を確認する前に、ツグミは道端の土を落ちていた木の棒で掘り始める。


「今度から、スコップでも持ち歩いたらどうですか?」

「それ、良い考えだね」

「嫌味です!」


 ラグの叫びも、ツグミには右から左。

 ツグミに怒りながら、ラグは渋々とツグミの横にしゃがみ込んだ。


 日暮れまでに、2つの山を超えて、大きな町に出る予定だった。

 すでに日暮れ間近。


「匂いがする」

 土まみれの手を叩きながら、ツグミが立ち上がった。


「今度は何の匂いですか?いい加減にしないと……」

「人の匂いがする。村があるから、今日はそこに泊まろう」


 ツグミが道の先を見つめる。

「また、適当なことを言って誤魔化さないでください」


 ツグミはラグの声が聞こえているのか否か。

 スタスタと無言で歩き出してしまう。迷いのない足取りは目的地に向かってまっすぐ向かっている。


 ラグがわざとらしくついたため息にも、反応はない。


 *******************


「ほら」


 しばらく歩いた先。

 山間地に小さな村を見つけた。


「本当にあったんですね」

 ぽっかり口を開けて、村を見つめるラグにツグミが笑った。

「うん、人の匂いがしたから」


 ラグはつい、ジトーっとツグミを見てしまう。

 そんな馬鹿な、と笑い飛ばせない不思議な力がツグミにはあった。


 初めて会ったあの日から、ツグミは変なヤツだった。

 ラグから見れば姉ほど年上なのに、生活能力に乏しい。


 当時、ひとりで旅をしているなんて信じられなかった。

 今だって、その評価は変わらない。


 でも、今のラグは知っている。

 ぼんやりしていて変なヤツ。


 でも、死に向き合うことができる優しいヒトだ、と。


「イルミルカル」

 ツグミが不意に魔獣の名を呟いた。


「えっ? どこにいるんですか!?」

 ラグは慌てて辺りを見回した。


 村の入り口。

 人の姿もちらほらある。

 こんな場所で獰猛で肉食のイルミルカルがいるのか。


 しかしながら、ラグの焦りはすぐにため息に変わった。


「なんだ、銅像ですね」


 村の中央に腰の高さ程度のイルミルカルの銅像が建てられていた。


 小柄なラグよりもひと周り大きいが、しなやかに動くことができる細身の身体。後肢の筋肉が発達していて、数メートルジャンプすることもできるという身体能力も伺える。


 本来、イルミルカルという魔獣は黒い毛で被われており、月明かりを受けると銀に輝くというのが一般的だ。


 月光の魔獣とも呼ばれる所以でもある滑らかな黒い毛皮が、銅像では白銀に彩られている。


「あんたたち、旅の者か?」


 話しかけてきたのは、白髪の腰の曲がった女性だった。

 しわがれた声でふたりに話しかけてきた。


「この村に旅人がくるなんて何十年ぶりだろうね。どっから来たんだい?」

「北の方から旅をしています。素敵な村ですね」


 警戒した声色の彼女の言葉に、ツグミが即答した。


「山間の小さな村で、旅の者すら立ち寄らない場所だ。そんな場所が良い村かね?」

「えぇ、だって」


 ツグミは、視線を銅像に向けた。

「イルミルカルが守っている村でしょう?」

 彼女は一瞬面食らったように目を大きくしたが、弾かれたように笑いだした。


「そうだとも、我がイヴィ村は銀のイルミルカル様に守られた村だ。よくいらした、歓迎しよう」

 

気をよくしたのか、女性はシワだらけの手を差し出してきた。

 ツグミはすぐにその手を握り返した。


「今日はこの村に泊まるつもりかね?」

「できれば」

「先ほども言ったように村には旅人が来ることもほとんどない。宿などないんだがね」


「えっ?!」

 つい、声を上げてしまったのは、後ろで息をひそめていたラグだった。


 「そんな……」と情けない声を出して、しょぼくれる。

 素直なしぐさに、彼女は再び笑い出した。


「狭いところで良かったら、私の家に来るかい?今日の晩飯と寝床ぐらいは用意してやろう」

「いいんですか?」

 ラグが身を乗り出して、目をキラキラさせた。


「もちろんだとも」


 ツグミとラグは、顔を見合わせると声を合わせて「ありがとうございます」と頭を下げた。




 ****************


 彼女は、ティアと名乗った。


 ティアは若いころに子供を亡くして、その後相次いで夫も亡くしたという。


「さみしくないの?」


 ツグミの直球の質問に、ラグの方が焦って「ツグミさん」と肘でツグミを突く。

「大丈夫だよ。お嬢ちゃんたち、もう何十年も昔のこと。あともう少しで彼らにも会えるんだ。あとはお迎えを待つだけだ」

 優しく笑うティアに、ラグはホッと息をついた。


「あっ、ちなみに僕は男です」

 ラグが遠慮がちに告げると、ティアは目を丸くした。


「おやおや、可愛い女の子が2人で旅をしているのかと思ったら、男の子だったのかい」

「よく言われます」

 ラグは苦笑いを浮かべながら頭をかいた。


「女の子のほうが宿を貸してもらいやすいので、最近はもう、ラグも女の子でいいと思っています」

「おい、ツグミさんが言うな!」


 10歳のラグは、目鼻立ちの関係かどうにも、女児と間違われる。

 ひどく気にしていることをツグミも知っている。

 それなのに、ツグミは真顔で「本当のことだよ」と告げた。


 ラグは勢いよく地面を踏み鳴らして、ツグミをキッとにらみ上げた。


「そもそも、僕だけの一人旅だったら、とっくに町へ着いてますからね!」

「ん?」

 ツグミは明らかに分かっていないような顔で、首を傾げる。


「何回も、何時間も、道草をしていたのはツグミさんです!」

「んー?」


 とぼけているわけではなく、本気で分かっていないのだから始末が悪い。


「ツグミさん!」

 真っ赤になって怒っているラグに、ティアは腹を抱えて笑った。


「いや、姉弟で仲が良いんだねぇ」

「姉弟ではありませんから!」

「おや、違うのか」

 ツグミとラグは顔を見合わせた。


「ただの旅の仲間です」

 ラグの告げた言葉に、ティアは「そうかい」とだけ返した。


「さぁ、おいで。大したものは作れないが、温かいスープでも作ろう。野菜の端切れぐらいしか入れられないがね」


 ティアの背中を追って、ツグミとラグは村の中に足を踏み入れた。

■女王様のお茶会■

https://cookiequeen.chu.jp/2010.queen/top.html


■NOTEにて、ツグミノミの制作秘話を公開中

 ツグミノミ制作ノート https://note.com/nagiho_uosawa/m/m833291b12a8e


■動物について魅力を知りたい方はこちら

今夜、ヒツジを1匹差し上げます―動物たちの魅力を綴る―

 https://note.com/nagiho_uosawa/m/m4b763f3fffeb


■眠れない夜の時間の過ごし方はこちら

深く息をついたら、今夜も夜更かし文庫へ

 https://note.com/nagiho_uosawa/m/m988b09404fe8


■美術館・博物館・旅行などについて

寄り道だらけの標本箱

 https://note.com/nagiho_uosawa/m/m126d250ba74a


■暮らしと医療について考えたい方はこちら

月夜に眠るくらげ ──暮らしから始まる在宅療養──

 https://note.com/nagiho_uosawa/m/m7b0707ab2dcf


■女王様のお茶会の図書館館長 モリ館長について知りたい方はこちら

モリ館長と月夜の小さなお話

 https://note.com/nagiho_uosawa/m/m7f0b3dac7b12

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