【ツグミノミ】 CASE 01-1 神獣と呼ばれた魔獣 イルミルカル
「ツグミさん。また、しゃがみ込んで。このままでは、日暮れまでに次の村に着きませんよ。今日も野宿になりますよ」
「んー」
返事をするツグミは、ボーッと地面を見つめている。
ツグミの視線を追いかけていくと、地面には、バッタが干からびている。
「死んでる」
ツグミの言葉に、ラグは深く息を吐く。
「虫ですよ?」
「お墓を作ろう」
「ツグミさん、そんな時間はありません。今日だけで何回足止めされてると思ってるんですか」
「すぐに終わるから」
ラグの同意を確認する前に、ツグミは道端の土を落ちていた木の棒で掘り始める。
「今度から、スコップでも持ち歩いたらどうですか?」
「それ、良い考えだね」
「嫌味です!」
ラグの叫びも、ツグミには右から左。
ツグミに怒りながら、ラグは渋々とツグミの横にしゃがみ込んだ。
日暮れまでに、2つの山を超えて、大きな町に出る予定だった。
すでに日暮れ間近。
「匂いがする」
土まみれの手を叩きながら、ツグミが立ち上がった。
「今度は何の匂いですか?いい加減にしないと……」
「人の匂いがする。村があるから、今日はそこに泊まろう」
ツグミが道の先を見つめる。
「また、適当なことを言って誤魔化さないでください」
ツグミはラグの声が聞こえているのか否か。
スタスタと無言で歩き出してしまう。迷いのない足取りは目的地に向かってまっすぐ向かっている。
ラグがわざとらしくついたため息にも、反応はない。
*******************
「ほら」
しばらく歩いた先。
山間地に小さな村を見つけた。
「本当にあったんですね」
ぽっかり口を開けて、村を見つめるラグにツグミが笑った。
「うん、人の匂いがしたから」
ラグはつい、ジトーっとツグミを見てしまう。
そんな馬鹿な、と笑い飛ばせない不思議な力がツグミにはあった。
初めて会ったあの日から、ツグミは変なヤツだった。
ラグから見れば姉ほど年上なのに、生活能力に乏しい。
当時、ひとりで旅をしているなんて信じられなかった。
今だって、その評価は変わらない。
でも、今のラグは知っている。
ぼんやりしていて変なヤツ。
でも、死に向き合うことができる優しいヒトだ、と。
「イルミルカル」
ツグミが不意に魔獣の名を呟いた。
「えっ? どこにいるんですか!?」
ラグは慌てて辺りを見回した。
村の入り口。
人の姿もちらほらある。
こんな場所で獰猛で肉食のイルミルカルがいるのか。
しかしながら、ラグの焦りはすぐにため息に変わった。
「なんだ、銅像ですね」
村の中央に腰の高さ程度のイルミルカルの銅像が建てられていた。
小柄なラグよりもひと周り大きいが、しなやかに動くことができる細身の身体。後肢の筋肉が発達していて、数メートルジャンプすることもできるという身体能力も伺える。
本来、イルミルカルという魔獣は黒い毛で被われており、月明かりを受けると銀に輝くというのが一般的だ。
月光の魔獣とも呼ばれる所以でもある滑らかな黒い毛皮が、銅像では白銀に彩られている。
「あんたたち、旅の者か?」
話しかけてきたのは、白髪の腰の曲がった女性だった。
しわがれた声でふたりに話しかけてきた。
「この村に旅人がくるなんて何十年ぶりだろうね。どっから来たんだい?」
「北の方から旅をしています。素敵な村ですね」
警戒した声色の彼女の言葉に、ツグミが即答した。
「山間の小さな村で、旅の者すら立ち寄らない場所だ。そんな場所が良い村かね?」
「えぇ、だって」
ツグミは、視線を銅像に向けた。
「イルミルカルが守っている村でしょう?」
彼女は一瞬面食らったように目を大きくしたが、弾かれたように笑いだした。
「そうだとも、我がイヴィ村は銀のイルミルカル様に守られた村だ。よくいらした、歓迎しよう」
気をよくしたのか、女性はシワだらけの手を差し出してきた。
ツグミはすぐにその手を握り返した。
「今日はこの村に泊まるつもりかね?」
「できれば」
「先ほども言ったように村には旅人が来ることもほとんどない。宿などないんだがね」
「えっ?!」
つい、声を上げてしまったのは、後ろで息をひそめていたラグだった。
「そんな……」と情けない声を出して、しょぼくれる。
素直なしぐさに、彼女は再び笑い出した。
「狭いところで良かったら、私の家に来るかい?今日の晩飯と寝床ぐらいは用意してやろう」
「いいんですか?」
ラグが身を乗り出して、目をキラキラさせた。
「もちろんだとも」
ツグミとラグは、顔を見合わせると声を合わせて「ありがとうございます」と頭を下げた。
****************
彼女は、ティアと名乗った。
ティアは若いころに子供を亡くして、その後相次いで夫も亡くしたという。
「さみしくないの?」
ツグミの直球の質問に、ラグの方が焦って「ツグミさん」と肘でツグミを突く。
「大丈夫だよ。お嬢ちゃんたち、もう何十年も昔のこと。あともう少しで彼らにも会えるんだ。あとはお迎えを待つだけだ」
優しく笑うティアに、ラグはホッと息をついた。
「あっ、ちなみに僕は男です」
ラグが遠慮がちに告げると、ティアは目を丸くした。
「おやおや、可愛い女の子が2人で旅をしているのかと思ったら、男の子だったのかい」
「よく言われます」
ラグは苦笑いを浮かべながら頭をかいた。
「女の子のほうが宿を貸してもらいやすいので、最近はもう、ラグも女の子でいいと思っています」
「おい、ツグミさんが言うな!」
10歳のラグは、目鼻立ちの関係かどうにも、女児と間違われる。
ひどく気にしていることをツグミも知っている。
それなのに、ツグミは真顔で「本当のことだよ」と告げた。
ラグは勢いよく地面を踏み鳴らして、ツグミをキッとにらみ上げた。
「そもそも、僕だけの一人旅だったら、とっくに町へ着いてますからね!」
「ん?」
ツグミは明らかに分かっていないような顔で、首を傾げる。
「何回も、何時間も、道草をしていたのはツグミさんです!」
「んー?」
とぼけているわけではなく、本気で分かっていないのだから始末が悪い。
「ツグミさん!」
真っ赤になって怒っているラグに、ティアは腹を抱えて笑った。
「いや、姉弟で仲が良いんだねぇ」
「姉弟ではありませんから!」
「おや、違うのか」
ツグミとラグは顔を見合わせた。
「ただの旅の仲間です」
ラグの告げた言葉に、ティアは「そうかい」とだけ返した。
「さぁ、おいで。大したものは作れないが、温かいスープでも作ろう。野菜の端切れぐらいしか入れられないがね」
ティアの背中を追って、ツグミとラグは村の中に足を踏み入れた。
■女王様のお茶会■
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■NOTEにて、ツグミノミの制作秘話を公開中
ツグミノミ制作ノート https://note.com/nagiho_uosawa/m/m833291b12a8e
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今夜、ヒツジを1匹差し上げます―動物たちの魅力を綴る―
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寄り道だらけの標本箱
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