33.朝議
朝堂院には、既に多くの官人が集まっていた。
公卿。弁官。記録役。
各省の官人たち。
朝議は、人が多い。
私は列の後方へ座り、小さく息を吐いた。
空気が重い。
まだ始まってもいないのに、疲れる。
「顔に出ていますよ」
小声。
隣を見ると、
長岡俊成がいた。
「仕方ないだろう」
「まあ、分かります」
俊成も疲れた顔をしている。
今日は式部省側として、文案整理を任されていた。律令法に当てはめ、郡司や守の任の面からも確認する。
つまり。忙しい。
上座では、既に公卿たちが並んでいる。
藤原良房。
源信。
藤原良相。
その下には、大納言、中納言、参議たち。
朝廷の中心だった。
「讃岐交易の件」
声が聞こえてくる。
やはり、それか。
だが。
上で議論が始まる一方、下でも手は止まらない。
文を書く者。
記録を取る者。
案を纏める者。
朝廷とは、こうして動いていた。
「式部省案、修正です」
紙が回される。
私は受け取り、目を通した。
利益配分。
朝廷六。
讃岐四。
さらに、讃岐側利益は交易へ協力する郡司らへ分配。
……上手い。
かなり。
「誰が纏めたんだ?」
思わず聞く。
俊成が小声で返した。
「上ですよ」
それで通じた。
つまり、公卿側。
恐らく式部大輔が纏めたのだろう。
「地方を抑えつつ、利益は取る」
私は紙を見ながら呟く。
「朝廷らしいですね」
俊成が苦笑した。
全くだ。
上座から声が響く。
「前例がない」
南淵年名の声だった。
すぐ後に、別の声。
「だからこそ、管理するのです」
藤原保則。
静かなやり取り。
良く耳をすませないと聞こえないが、想像通り揉めているようだ。
私は筆を走らせながら、上の声を聞いていた。
完全な拒絶ではない。
最初から、そうなる気はしていた。
紀夏井への支持が強過ぎる。
百姓。郡司。
それに僧まで賛成している。
ここで押さえ込めば、余計に面倒になる。
だから——
囲う。
朝廷の形にする。
その方が早い。
「式部丞」
長谷雄が紙を差し出してくる。
「追加です」
「またか……」
見る。
修正文。
監督権は朝廷が持ち、讃岐守が監督をする他に、勘解由使が年に一度、解由を行うらしい。
抜け目がない。
「綺麗に纏められている」
思わず漏れる。
すると長谷雄が小さく笑った。
「綺麗に纏めねば、通りませんから」
その通りだった。
上座では、まだ声が続いている。
だが既に、流れは決まりつつあった。
完全拒否ではなく。
限定許可。
管理付き。
朝廷監督下。
それが、落とし所になる。
私は静かに筆を置いた。
そして、ふと思う。
(これが、政治か)
誰かの正しさだけでは決まらない。
利益。面子。
前例。
地方。中央。
全部を抱えながら、国は動いていく。
朝議のざわめきを聞きながら、私は小さく息を吐いた。
どうやら——
官人、取り分け高官というものは、思っていた以上に面倒らしい。




