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21.試験


「次の講にて、得業生の選を行う」

その一言で、場の空気が止まった。

ざわつきはない。

だが、誰もが意識している。

(……来たか)

遅れて、実感がくる。

得業生。

選ばれれば道が開ける。

外せば——しばらくは埋もれる。

(面倒だな)

思わずそう思う。

目立ちすぎたくはない。

だが、落ちるのはもっと困る。

「難しい顔をしているな」

横から、清成。

「していましたか」

「している」

即答だった。

(誤魔化せないか)

小さく息を吐く。

「落ちる気はありませんが、上に出る気もありません」

そのまま言う。

清成は一瞬だけ黙って——

「欲張りだな」

と、笑った。

(まあ、そうかもしれない)

否定はしない。

試験は、二つ。

まずは筆。

紙が配られる。

漢文の読解。

史の解釈。

そして——

(論じろ、か)

ある状況に対して、どう動くかを書く。

筆を取る。

(この紙では長々とは書けないな)

強すぎず、弱すぎず。筋だけ通す。

余計な主張は削る。

(……こんなものだろう)

書き終えた時、まだ周りは動いていなかった。

(少し早いな)

ほんの一瞬だけ考える。

(やりすぎたか?)

——いや。

(もう遅い)

筆を置いた。

続いて、試問。

一人ずつ呼ばれる。

空気が、少し重くなる。

筆は誤魔化せても、口は誤魔化せない。

(嫌だな、こういうのは)

名前が呼ばれていく。

そして——

「道真」

(来たか)

立ち上がる。

前に出る。

視線が集まる。

(……多いな)

教師が口を開く。

「問う」

短い。

「地方にて凶作が続き、民が困窮している」

「租税は滞り、治安も乱れつつある」

「官として、どう動く」

(……具体的だな)

一瞬、考える。

(これは、外せない)

「……まず、負担を軽くします」

少しだけ間を置いて言う。

教師の目が、わずかに動く。

「ただし、完全には止めません」

続ける。

「国が持ちませんので」

場が静まる。

「猶予、あるいは分けて納めさせる」

「時間を稼ぎます」

教師は何も言わない。

(まだ足りないか)

少しだけ考える。

「それと——」

言葉を選ぶ。

「治安は崩させません」

一拍。

「強く抑えるのではなく、崩れぬ程度に」

「荒れれば、立て直しが効きません」

言い終える。

沈黙。

ほんの少し長く感じる。

やがて——

「……よい」

短い評価。

それで終わった。

席に戻る。

さっきより、空気がはっきりしている。

(……見られてるな)

面倒だ。

だが、避けきれない。

「悪くない」

清成が言う。

「筆も、口も」

(そこまで見てるか)

「外さないようにしただけです」

そう返す。

清成は小さく笑った。

「それが難しい」

(……まあ、そうか)

否定はしない。

試験は終わった。

だが——

(ここからだな)

結果が出る。

誰が残るか。

それで、立ち位置は変わる。

私は立ち上がる。

静かに息を吐く。

無難に生きる。

そのつもりは変わらない。

ただ——

(無難の基準が、上がってきたな)

そう感じていた。


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