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叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧版  作者: tempp
第7章 位波家心中事件

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即死を回避する方法

 俺は公理智樹。美容師。正確に言うと美容師をしていた。

 今はね、ちょっと体が動かないから髪を切ったりできないな。

 女の子が好き。かわいい女の子の髪を奇麗に切ってデコってもっとかわいくしたい。

 かわいいものをもっとかわいく。とても楽しいしなんだか嬉しい。女の子も喜んでくれる。

 男の子の髪? うーん、嫌いじゃないけどやっぱり女の子のほうがいいな。


 俺はちょっと呪われて体の半分を呪いに取られてしまったんだ。

 だから今の俺ははんぶんこ。半分だとうまく体が動かないんだよね。あっちに半分、こっちに半分。

 だからくっつけたいの。半分は不便。

 でも呪いから半分を現実に取り返すのは難しい。だから呪いの方に全部行っちゃおうと思っている。

 呪いの中は正直居心地は悪くないんだ。それにかわいい女の子がいる。柚ちゃんっていう。

 あっちに全部そろえて、柚ちゃんの髪を奇麗に切ってあげたいな。

 甘いものを置いていったらとっても喜んでくれた。嬉しい。

 手を繋いで冒険に出た。とても喜んでいたから、手を繋いで嬉しい気持ちをあげた。そうするともっと喜んでくれた。嬉しいな。

 散髪も持っていって、髪を切ってあげたらきっと凄く喜んでくれるはず。

 

 ……こっちに未練がないわけじゃない。

 俺は美容師として結構有名だし成功してると思ってるし、それからなんていうかモテるし。

 でもなんていうか敵も結構いて、それはそれで張り合いはあったんだけど。

 でもあの呪いの中はそんなものもなくてとても平穏で静かで。

 そういう世界も悪くないかなって少し思った。

 だからハルの首を取り戻せたら俺はあっちで柚ちゃんと暮らす。

 仕方なく、とかじゃ全然なくって、それはそれでいいかなと思ってるんだ。本当に。


 柚ちゃんはいい子だ。それにずっと1人だったんだよね?

 ずっと1人っていうのは寂しいよ。だからそばにいてあげたい。

 だけどもう少しだけ待ってて。

 ハルだけはなんとしても。


◇◇◇


 ゆるゆると細い道を通る感覚。なんとなく夢の中で白い道を通っている感覚に似ている。色が真っ黒いというのだけ異なる。なんとなく、呪いの中に自分がいるのがわかる。

 俺は遠回りして自分の首とかもう1本の指を回収しながら最後に公理さんの気配を残す小さな柚と家に出会った。とはいっても結局見えないんだけどな。

 通常空間の中で呪いを纏うなら見えるかもしれないが、ここは全てが呪いの中だ。区別がつかない。それにやはり俺が霊的なものを見るには特殊条件がないと無理なのかもしれない。

 それから今のところ俺の何かを食われている感覚はない。呪いの中だと考えなければ、思ったほど不愉快ではない。


「家、いるか」

  あれ? お兄さん? どうしてここに?

「俺も指を通ってきたよ。ここはあれだな、家の夢に少し似ているな」

  僕の夢に? ああでも何もないのは同じかな

「他に誰もいないのか? なんだかザワザワするが」

  んん ここには多分食べられた人がいるからその人たちなのかな

  でも僕はその人たちがわからない 認識できないというか


 ふうん。家は聞こえないのか。

 結局家はなんなんだ? 俺には見えないから幽霊とか霊的な何かなんだろうけど。あれ? 今俺はどういう状態なんだ? 指を見ると指だけあった。……指2本と首だけ? ホラーだな。

 そういえば俺は夢のなかでもここでも自分の体は見える。俺が認識しうるものが視覚情報として展開されているだけなのかもしれないな。これは考えてもあまり意味がないことだろう。


「すぐ帰る予定だったけど、家的にここはなんなんだ?」

  僕的に? ここはやっぱり呪いの中で、今は柚ちゃんの中

「やっぱり呪いは柚なのか?」

  今は区別できないからよくわからないけど、こんなに混ざってるなら柚ちゃんじゃないのかな

「小さな柚が混ざらないのはなんでだ?」

  えっあれ? そういえば小さな柚ちゃんは混じってないね 大きな柚ちゃんとは違うのかな


 俺は見えないけどその辺に小さな柚がいるのかな。


「柚ちゃんいる?」

  いるよ あなたがハルなんだね はじめまして

「そうだ。はじめまして、よろしくな。ああそうだ、公理さんがこっちに全部来たいらしい」

  うん ハルを元に戻したら一緒に住んでくれるって言ってくれたの

  だから私も頑張るね


 ……本当に腹立たしいな。今更公理さんにどうこう言うつもりはないが、首を取り返すかどうかは俺の事情だ。俺は俺のせいで他人の人生と意思を歪めるのは嫌なんだよ。本当に心底な。

 まさかそれでこっちに住むって言ってるのか? 馬鹿な。……でも最後の選択だ。一応確認して、変わらないなら尊重しよう。それに確かにここは呪いの中であるということを除いて悪い場所ではないのかもない。平穏だ。最後を過ごすには悪くないのかもしれない。


「ここはどういうところなんだ?」

  ここは家だよ?

「家? 今は人の形をしているだろう?」

  そうなの? でも家は家だよ 住んでる

「あれ? 家は壊れてる?」

  うん ちょっとぱきっとなってる


 公理さんと聞いた話とズレるな。

 そういえば公理さんも変なことを言っていた。最初は光る粒だったのを家の形にしたって。それを今は位波有一の姿にしている。概念的な世界なのかな。人の認識が視覚化される世界。公理さんの頭の中で公理さんには子供の姿に見えているっていうだけなのか? 小さな柚には家は壊れた家に見えたままで、小さな柚はかわらず家に住んでいる。

 じゃあ俺も想像すればその姿を取ったりするのかな。家や小さな子供の姿を思い浮かべる。……だめか。俺は幽霊は見えないからな。もともとその光る粒自体が見えない気がする。


「家、俺は俺と公理さんの魂魄を俺の世界に持ち帰りたい。方法はないかな」

  お兄さんたちの魂魄は確かにこの呪いの中にあるけど この呪い自体は柚ちゃんの住む家である僕の中にある

  ここで食べられたからここにある ここは家の中なんだ

  お兄さんたちがどうやってこの家に意識を持ってきてるのかわからないけど 持っていくには落とした時と同じように扉からこの家に来るか 実際の家まで取りに来てもらわないと無理だと思う

「つまり、扉をまたつけて扉からあの闇に入るか、柚の住む現実の北辻の家まで取りに行くかなのか。扉は入った途端に動けなくなるのが関の山だし、行くのもちょっと無理だな。即死だ。他に何か方法はないかな」

  わからない ちょっと考えてみる

  ねえハル 公理さんいなくなっちゃうの?

「魄を取り戻せればそれが1番なんだ。だめか?」

  嫌 いかないで

「ううん、困ったな でもそもそも公理さんはこっちに魂魄を全て持ってきても生きていけないんだよ。だからこっちに全部来てもそのうち死ぬと思う」

  えっ死んじゃうの?

「わからないけど、その可能性は高いんじゃないかな。飯が食えないと……あれ? 違うのか?」


 公理さんは俺が作った飯を食って生きてる。飯の供給が止まると死ぬ。魂魄を全て奪われたら飯が食えない。仮死状態みたいになるんだろう?

 その状態でもいずれ肉体は死ぬ。死ぬとこちらの魂魄はどうなるんだろう? どこからかエネルギーが得られるのか? それとも魂魄だからエネルギー自体いらなくなるのか? 幽霊みたいに。いや、幽霊なのか。


「家、公理さんが全部こっちにきたらどうやって活動するんだ?」

  活動?

「そう。動くにはエネルギーが必要だろ? この呪いの中から供給されるのか? 小さな柚はどうなってる?」

  んんまって……それはないかな 柚ちゃんは柚ちゃんだから呪いからエネルギーを受けとっている でもお兄さんたちは呪いのごはんになるためにここにいるんだから どちらかというとエネルギーになるんだ

「まあ そうだよな。エネルギーがなくなったらどうなるんだ? 消滅するのか?」

  多分そう 存在が保てなくなる


 それならやはりこちらに来てしまえばエネルギーは供給されない。仮に呪いに直接的に食われることはなかったとしても、そのうち消滅するだろう。

 でもそのエネルギーというのが何かひっかかかるな。


「柚ちゃん、やはり公理さんはここでは生きていけない エネルギーが供給されない」

  そうなの?

「いずれその力を全て使い切って消滅するか、呪いに吸収される。呪いに吸収された場合は柚ちゃんのエネルギーにもなるわけだから、一緒にいるといえばいることになる」

  そんなの嫌 私は公理さんと色々お話したいの 音楽とか甘いものとか 公理さんと一緒にいたいの


 小さい柚は大きい柚と根本的に考え方が違うんだな。大きい柚はただ一体化したがっていた。おそらく区別を求めていなくて、一体化して意思も何もなく混ざり合った状態を歓迎している。小さな柚は混ざり合うのではなく人格を持った公理さん個人として一緒にいたい。この違いはどこで生まれているんだろう。


「でも無理なんだ。公理さんはここでは生きていけない」

  あの じゃ私が公理さんの世界にいけないかな 外っていうところにあるんでしょう?

「うん? 柚ちゃんがこっちにくるの?」

  そう だめかな

「どうだろう……そんなことできるのかな。でもできるかどうかはともかく公理さんには伝えてみるよ」

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