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叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧版  作者: tempp
第7章 位波家心中事件

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あなたに触れたい

 僕は家。家だよね?

 何だかわからなくなってきちゃった。

 『幸せなマイホーム』になりたかった僕。『幸せなマイホーム』でみんなを幸せにしたかった僕。

 大好きな柚ちゃん。守りたい柚ちゃん。

 僕は柚ちゃんを助けたかった。柚ちゃんを幸せにしたかった。だから誰か助けてくれる人を探してた。僕じゃ柚ちゃんどころか誰にも声も届かなくて、どうしようもなかったから。

 僕が呪いのバイアスの1番底に閉じ込められてたからなのかな。


 そんな時にお兄さんと会った。藤友晴希お兄さん。

 お兄さんは既に呪われていて、だからなのか僕の声が届いた。ひょっとしたらお兄さんの呪いが僕の呪いを引き寄せたのかも知れない。不幸だって言っていたから。だから僕は一生懸命お兄さんに届くように扉を作った。


 お兄さんは不思議な人だった。

 お兄さんにここに住みたいか聞いてみたら、いい家だけどもう自分には家があると言っていた。

 お兄さんが僕に住んでたらとうだったのかな?

 お兄さんは幸せになったかな。


 多分今のお兄さんが住んでたら、お兄さんは僕とは関係なく不幸だった。

 どんな呪いかはよくわからないけど、お兄さんはその呪いのせいで不幸になるんだから、お兄さんが不幸になっても僕のせいじゃないと思えたのかもしれない。


 その次にお兄さんと夢で話した時。

 『幸せなマイホーム』は嫌だといわれた。すごくびっくりした。みんな幸せになりたいんじゃないの?

 でもみんなを不幸にするのもみんなを幸せにするのも、両方ともその人をねじ曲げることだと言われて気がついた。僕がみんなを幸せにしようと思ったのがいけなかったのかな? 結局僕には何もできなかったけど。


 位波のお父さんとお母さんが喧嘩をしている時、柚ちゃんがやめてって叫ぶと2人は仲良くなった。よかったって柚ちゃんは喜んでいた。僕も位波のみんなに仲良くして欲しかった。

 でもそこから何か変になった。お父さんはいつもニコニコしていたけど、家に帰る時間がだんだん遅くなっていった。それで帰ってくる時は酔っ払ってることが増えた。お父さんが何を言っているのかわからないし、柚ちゃんの言葉もよく伝わらないみたいだった。お父さんはニコニコしてたときとは別の人みたいにお母さんを殴った。柚ちゃんはそれを止めようとして、でも止まらなくて。なんだか余計に変なことになっちゃって。


 柚ちゃんがお母さんのかわりに掃除しようとしたらお母さんが自分でするから大丈夫って言った。でもあんまりお掃除はされなかった。でも柚ちゃんが1人でするとよけいに散らかる。だからお母さんはまた、自分が掃除をすると言った。

 でもやっぱり何かおかしくなった。お母さんは突然何か、違う人みたいに怒ったり、柚ちゃんを叩いたりするようになった。物を投げつけたりすることもあった。


 そのうちお父さんが帰ってこなくなった。柚ちゃんはどうしていいかわからなくなって、玄関でお父さんの帰りを待っていた。お父さんの靴を見ながら。お父さんのためにオムライスに絵を描いたりしながら。


 柚ちゃんの思う『幸せなマイホーム』と現実がどんどんずれていって、柚ちゃんはお部屋に閉じこもった。柚ちゃんのお部屋の中では柚ちゃんは少しでも『幸せなマイホーム』でいられたから。

 僕は柚ちゃんを慰めたいと思ってた。でも僕の声は全然届かなくて、柚ちゃんがお部屋で泣きながら呟いているのを聞いていた。


 ここは幸せなマイホームなの

 幸せになるの

 うう おかあさん 怒らないで

 おとうさん 帰ってきて

 幸せなマイホームじゃないの?

 幸せなマイホームだよね

 ゆうくん

 ふぇえ 誰か 助けて


 柚ちゃんごめん。多分僕が『幸せなマイホーム』じゃなかったからダメだったんだよね。ごめんなさい。そう思って毎日暮らしてた。


 お兄さんは僕に、僕が不幸か聞いた。今までそんなことは全然考えたことはなかったんだけど、僕は不幸なのかな。

 お兄さんは自分は不幸であっても他に大事なものがある、だから俺は不幸だけじゃない、と言っていた。お兄さんの大事なものは何だったのかな。僕が不幸だけ見ていたのが駄目だったのかな。形のない幸せを求めすぎたのが駄目だったのかな。もっと、いろいろなものに目を向ければよかったのかな。


 柚ちゃんはいい子だった。本当にいい子で有一君のために絵を描いてあげていた。お父さんもお母さんも優しかった。お母さんの作る美味しいごはんを食べて有一君と一緒にアニメを見てた。

 お父さんとお母さんが最初の喧嘩を始めて、柚ちゃんは必死に止めた。喧嘩。家族っていうのは喧嘩をするもの。住んでいる人が見ていたテレビではそうだった。喧嘩を止めたのは駄目なことだったのかな。やっちゃいけないことだったのかな。

 でも僕は結局家だから何もできなくて。柚ちゃんがなんとかしようとしても駄目で。


  ここは幸せなマイホームでしょう?


 柚ちゃんはよく言っていた。僕は『幸せなマイホーム』。

 『幸せなマイホーム』というのは住んでる人を幸せにする家じゃなくて、幸せを持った人が住んでいる家だったのかな。よくわからないけど、結局今はこうなってしまっていて。柚ちゃんは空っぽになって呪いに混じっている。

 僕はどうしたらいいんだろう。どうしたらよかったんだろう。どこかで間違ってしまったのかな。


◇◇◇


「今はちょっと休もう」

「うん」


 公理さんがぼんやりしている。

 この人またなんか置いてきただろ。聞いても口を割らなかった。わざわざ置いていかなくても抵抗力の乏しくなった公理さんは呪いの中にぽろぽろと心を落っことしてきているんだと思う。

 でもかまわない。公理さんの結論は呪いに食われることだった。その意思が呪いの影響でもたらされたものでも、公理さんが最終的に選んだなら尊重したい。


 もちろん俺は公理さんを取り戻すことをあきらめるつもりはない。だがどうしようもないことはある。

 俺も俺の呪いの不運で殺されるならその前に自分で死ぬと随分前から決めている。たとえその心理すら呪いのせいだとしても、そうでなければ俺には何も残らないから。勝手に不幸にされて勝手に殺されるのは許せない。全部奪われて死ぬのは許せない。

 われ思うゆえにわれあり? 俺が選ぶというその認識が俺にとって重要なことだ。俺にとっては意味があるんだよ。俺はここにいたと。俺が消滅する間際まで俺がここにいることを俺が認識していること。

 小さすぎる抵抗なのかもしれない。その後結局俺のかけらも何もかもが無くなってしまうとしても。だってそれすらなければ、俺って一体なんなんだよ。


 だから公理さんがそれを選ぶなら俺は尊重する。俺がこの人を不幸にした。俺のせいで。だから最後の選択は奪えない。そこまでしてしまったら、俺はこの人の全てを奪うことになる。

 短い間でもせめて幸せな余生を。俺もどうせすぐ死ぬからさ。もしあの世があるなら終わった後に一杯やろう。あの世なら未成年が酒を飲んだって問題ないだろう?


 さて、愚痴はおしまい。

 だが本当にどうしたものかな。対策が何もない。

 ダメ元で柚を殺そうと思っていたが柚が外に出て来られなくなった。かといってあの家に殺しに行けば殺す前に殺される。殺されないように殺す。そもそも殺すこと自体に意味はないのかもしれない。


 現状の確認をしよう。

 当初の目的は扉の消滅と呪いとの関係の断絶。

 これはほぼ達成された。家の扉はなくなって、扉から家に飲まれる危険性はなくなった。首と左手指2本から呪いにつながっているが、俺が呪いに対する警戒を緩めることは有り得ないからここから呪いに侵入されることはもはやない。俺は安定した。クリア。


 新しい目標が目標たりえるのか。

 首と左手指2本の奪還。正直指はあきらめてもいい。あったほうがいいが必須ではない。問題は首。これは俺が生き残るためには最重要の器官の1つだ。

 不運というものは常にゆっくりやってくるものじゃない。油断すると一瞬で命を刈り取っていく。逃げられない状況で車が突っ込んで来るとかはそのタイプ。だから普段は首筋がざわめく路地なんかには入らないし、どうしても入らざるを得ない時は可能性と回避方法をよく検討してから入る。そういうのは月1回くらいの確率である。


 今は家の呪いで俺の不幸を消費しているけれど、それが終了したら新しくやってくる不幸がどんな形かはわからない。だから俺の余生は多分大体そのくらいだ。ああ、取り戻したいな。ないと死ぬ確率が数倍増だ。正確にいうと俺の余生が数倍減。


 だが奪還自体が即死と同義ならこれまた意味がない。俺は生きるために首を取り戻すんだから。

 どうしたものかな。俺も一度あちらに、呪いの中がどういう状態か調べにいくのがいいか。他にやれることはない。ならばやらない選択はない。座して死を待つ選択肢は俺の中にはそもそもない。


 公理さんが言うところの呪いの中の家はセーフティゾーンらしい。

 俺の指1本が家に預けられている。指のある家は安全なのだろう。

 これまで俺は柚自身にとって、招き入れるべき客ではなく拒絶すべき存在と認識されていた。呪いはまさに呪いの中。危害が加えられて然るべき場所。

 だから、危険性を考慮して俺が呪いの内側には入らなかった。だが今は柚と呪いが混ざっていて区別できないようだ。だから柚の意思というのは相対的に薄められているんじゃないかな。という淡い期待がもてるのかもしれない。


 だから今なら入るリスクは多少は低下しているのかもしれない。公理さんがさっき入っても、心を落っことすことを除いて何かに浸食された気配はなかった。

 呪いの中は危険かもしれない、しかしおそらく即死はしない。それにさっき指に感じた小さな柚とやら。拒絶するような感覚はなかった。俺の指の中に小さなパイプが通ったような感覚。ここを中心に渡れば小さな柚、家の比較的近くに出られる気がする。


「公理さん、次は俺が短時間呪いに入ってくる」

「危険じゃない?」

「大丈夫だよ。さっき公理さんが拾ってきてくれた指の近くに出る予定だから。それにすぐ帰ってくる。あと繋ぎやすいようにまた手を組んで」

「わかった」


 そっと伸びてくる手のひら。抵抗しないな、恋人繋ぎ。あんなに嫌がってたのに。

 ああこの人は本当に駄目になっている。本当に壊れてしまったんだろう。中心すぎてわざわざ言わなかったけどさ。多分この人が置いてきたのは『人に対する感情』っていう気持ちの関連だ。馬鹿なやつ。


「ハル、ちゃんと戻ってきてね」

「わかってる、隣失礼」


 公理さんはそっと奥にずれた。隣で寝るのも絶対拒否されたはずだ。置いてきたのは『誰かに触れたい気持ち』とかかな? 触れられたくない気持ちは触れたい気持ちの反対だから。


 はぁ。もう。まあ。でも。

 布団に横たわって目を閉じる。

 俺は呪いに対する抵抗心を失わない。ここらへんはもう本能みたいなものだから心配はしていない。長い付き合いだ。だから柚の呪いに対してもそうそう心に侵入されたり魂を奪われることはない。それは俺が最も嫌う行為だ。

 実は俺は公理さんがもう駄目だと思って内緒で呪いに潜ってみようと思った。試してみたが入れなかった。呪いに心なんて許せない。許せるわけがない。生理的嫌悪。


 今は別のルートができた。左薬指に通ったパイプ。信頼できそうな小さな柚が作った細い道。俺は公理さんなら信用できる。だからここから公理さんの指を経由して呪いに入る。ゆっくり、少しずつ。意識は半分くらいこちらに残したい。難しいけどなんとかならないこともない。さっき公理さんと柚で位波家に変な二人場織したのが役立ってるのかなこれ。妙な感じ。

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