表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧版  作者: tempp
第7章 位波家心中事件

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/83

星降る夜

 私は九里手柚。ここは私の家。半年くらい前に引っ越してきた。小さい頃にも住んでいた。

 私はずっと前から自分の中に穴が開いていて、凄く心細かった。

 私はいつも1人で。


 ううん、1人ってことはなかったんだ。施設でも友達はいたし、今のお店にも友だちもいる。

 大人になってから行くようになったクラブでも友達はできた。

 でも私はいつも欠けていて。何故かずっとそう感じていた。私は足りない。

 もう長い間ずっとこんな感じで。だからなのか何が欠けているのか自分ではわからなくって。

 今から思うとずっと寂しかったんだと思う。これが『寂しい』っていう感情。

 でもその『寂しい』はこの家に来て埋まった。


 この家には呪いがいた。この家が呪われているという話は不動産屋さんに聞いていた。

 それに頭おかしいと思うくらい家賃が安かったから。

 でも、なんとなくその家に惹かれたんだ。私にはこの家が温かいと感じた。

 幸せなマイホーム? なんとなくそんなイメージ。

 でも家はなんだか変だった。普通じゃなかった。

 

 引っ越してすぐ、新居だと言って友達を呼んだ。

 すると家は友達を食べた。

 何で!? と思って止めようと思ったけど、友達が食べられたぶん、私の穴が埋まった。


 どうしてだろう。これまでこの友達とは仲がいいと思ってはいたけど、一緒にいても寂しさは消えなかったのに。

 食べた友達は最初は呪いのなかで戸惑っていて、そのうち落ち着いて。でも不安そうで。

 私がいるよ、一緒にいる? と聞いたら友達は頷いた。

 そうすると友達は呪いのなかでつるんと溶けて、私と同じものになった。

 私の穴は埋まった。そして、友達の身体と友達がプツリとわかれて、身体はもう友達じゃなくなった。

 どうしようと思って、でも身体は無くならなかった。プツリと切れてしまえば、もう友達はここには戻れない。それにもう私の中に混ざってしまったし。だから私はその身体を処分することにした。

 つまり、そういうことだっんだ。全部のバイアスがなくなって、私がすっかり呪いと混じって初めて呪いの全てを認識した。呪いのしてきたことを。


 ある日、藤友さんという人が家を覗いているのに気がついた。公理さんの友達らしい。藤友さんは不思議な人だ。呪いに絡まっていたものを1つずつ外していった。そうすると、呪いはどんどんシンプルに身軽になっていった。


 呪いの中には私の友達以外のものも色々混ざっていた。でもその魂が1つずつ家の中から出ていって、そして最後には変な膜も全部取り払われて、私と呪いを隔てるものも取り払われた。私と呪いは完全に同じものになった。何も違和感がない。もとからこうだったような。過去の出来事は今も家の記憶という形では残ってはいるけど、それは編纂された本のように、今ではざわめいたり動くこともなく静かにそこに存在している。


 そういう状態になってしばらくたってから、あらためて私は私の中、呪いの中を見回した。そうすると、まだ私に混ざっていないものがいくつかあることに気がついた。藤友さんの指とか首とか。

 藤友さんからは明確な拒絶を感じる。藤友さんが私に混じりたいと思うことはきっとないだろう。これからも。これも呪いと混ざるまでは気が付かなかったこと。


 藤友さんとはまだそれほど仲良くない。まだ友達とは言えないかな。嫌いではない。でも藤友さん自身が誰かと混ざるのがとても嫌なんだと思う。だから藤友さんはきっとこのまま。どうせなら返したいくらい。


 それから私が完全に呪いと混じってから、私がなくした記憶が少しだけ戻ってきた。確かに私はこの家で暮らしていた。でもその記憶はとても遠くて薄ぼんやりしていて。位波楓、私のお母さん。位波有一、私の弟。確かに一緒に暮らしていた。でも、そう、それは単なる過去の記録に過ぎなくて、思い出は戻ったけどやっぱりあまりピンとこなくて。今の私とは断絶していて。なんだかこの人達に対してどう思っていたか、全然思い出せないよ。


 それからお父さん。何年か前に一度手紙を出したけど拒絶された。名前はもう覚えていない。でもそうか、靴だ。私は玄関でお父さんの帰りを待っていた。お父さんが帰ってこなくなってから。靴がないから帰ってこないんだと思って、だから私は紳士靴が気になって、お父さんが帰ってこれるように紳士靴の仕事につきたかったんだ。

 全然ピンとこないけど、私と呪いはやっぱりずっと繋がってはいたんだな。呪いはずっとこの家にいた。呪いもずっと寂しかったんだろうか。もうすっかり混じってしまったから、呪いが考えていることはやっぱりわからないや。


「久里手さんはどうしたい?」


 藤友さんはよく私に聞く。

 友達でもない人。でも私に深く関わっている人。

 私はどうしたいのかな。穴が埋まって、とても満足して。それから?


◇◇◇


 するすると闇の中を辿って小さな家に向かう。

 右指か。呪いの中にある俺の魄って左半身と右手指2本だよね。どんな姿になってるんだと思って右手を見ると、右小指と薬指が宙に浮いていた。えっまじで?

 左を見ると左腕と左足はある。これ、すごいホラーだな。人体模型みたい。俺、どうやって歩いてるんだ?

 まあ、いいか。歩けてるし。そうするとハルは首と指2本が落ちてるのか。そっちの方がホラー。小さい柚はなんで俺を怖がらないんだろう。変なの。

 そんなことを考えながら闇の中を歩いていると小さな家にたどり着かなかった。


  公理さんこんにちは

「わぁすごいねぇ。どうしたの」

  わかんない


 小さな家はボロボロになっていた。捻れて、ペチャンコ?


「大丈夫なの?」

  だめかも でも公理さんにもらった『音楽』と『甘い物』はちゃんと無事

「そっか。ありがとう。それはよかったけどどうしよう」


 家はペチャンコで住めそうにない。せっかくおうちにしようと思ってたのに。あれ? でももともとは小さな光だった気がする。じゃあもう一回作れるのかな 新しい家を建てられるかな?

 家の残骸を集めてみると粘土みたいな塊ができた。作れそう。


「ハル、小さな家が壊れちゃった」

「『音楽』と『甘い物』は無事か?」

「大丈夫。小さな柚ちゃんが守ってくれたみたい。心配してくれてありがとう。それで新しい家を作ろうと思うんだけどアイデアある?」

「家を? 好きな形で作れるのか?」

「多分」

「それじゃあ一択だ。位波有一の形の家」

「ええ?」


 こねこねしてるといつも見る子供の姿になった。入れないよ? 僕と小さな柚ちゃんはどこに住めばいいのさ。もう?


  お兄さんこんにちは 直接話すのは初めてだね

「あ、こんにちは。いつもどうも。公理智樹です」

  これはご丁寧に 家です


 そういえば家はいつも大人の柚と一緒にいたから全然そう思わなかったけど、この小さな柚と小さな家は姉弟みたいでいいな。あれ? そもそも位波有一と柚は姉弟なのか。


「いつもの家になったけどどうしたらいい? 住めないんだけど」

「なんで住む前提なんだよ? 今の呪いの状況を聞け」

「あそっか」


「ねえ家 ハルの扉壊れたんだけど 今どんな状況?」

  今? あれっ? なんで呪いの中に?

「呪いに食べられたとこから伝って来たの 前にハルが言ってなかったっけ?」

  あっそういえばいわれたけど 今の状態?


 家は考え込み始める。小さい男の子がうんうん唸ってるって変なの。それにしてもこの子は確かに家だ。家の感じがする。ふぅん。


「小さな柚ちゃんはどう? 家はなんで壊れたの?」

  うーん なんかぐらぐらしてぱきっときた

「地震みたいなのかな。柚ちゃんは怪我はしなかった?」

  大丈夫だと思う

 

 周りを見渡す。最初に来た時とあまりかわらないような。あ、そうだ。


「大きな柚、いるかな?」


 呼び掛けて、しばらく待っても返事がない。大きな柚はいないのかな。そういえば穴が埋まって満足って言ってたらしいけど、満足したからいないのかな?


「公理さん、どうだ?」

「家は考え中」

「じゃあ先に俺の指から探せるか試してもらえるかな」


 指、ね。

 俺とハルは今片手を恋人繋ぎしてる。なんかやだ。こういうのは女の子としたいのに。試しに小さな柚ちゃんと反対の左手を繋いでみる。うん、こっちの方がいいよ。不思議そうな目で見られたけど。

 そうだハルだ。お互いの小指と人差し指の魄は呪いに喰われていて、それぞれなくなった断片が接してる。ええと、この俺の右手の指のところから現実の向こうにあるハルの指を感じてこの呪いの中にあるハルの指を探すの?

 ちょっとまって、それってどういう意味なの。何をやったらいいのか全然わからない。


  公理さんどうしたの? 手がかゆい?

「あ、柚ちゃんあのね。この右手の指の切れてるところが外に繋がってるんだ。それでね、すぐ隣にハルの左手の指の入り口があって、俺と同じようにここの呪いに繋がってるはずなの」

  そうなの?

「うん。それでそこをくっつけるとこの呪いの中でハルのいる場所がわかるかなと思って」

  うーん 触ってみていい?

「いいよ」


「ひあっ」

「どうした公理さん!?」

「あ、大丈夫。すごくびっくりしただけ。小さい柚ちゃんの指が俺の左指を通ってそっちに出てないかな」

「わからないな、俺に幽霊は見えない」


 そういえばそっか。

 なんか冷たいゼリーが指の中入ってきたみたいでちょっと気持ち悪かった。いまもムズムズする。


「柚ちゃんあのね、俺の指の隣のこの辺にここへの入り口ないかな」

  うーん


「ぎっ」

「ハル、大丈夫?」

「なんだこれ、ゾワゾワして気持ち悪りぃ」


 繋いでいるハルの手がぷるると震えている。やっぱこれ気持ち悪いよな。


「柚ちゃん。ハルの指に入れたみたいだけど、この指の先がこの呪いの中にあるはずなんだ」

  うーんえーと あ あっちかな


 小さな柚ちゃんと恋人繋ぎしたまましばらく歩く。やっぱり女の子の方がいい。かわいいし。俺の指とハルの指が柚ちゃんで繋がってて、何かが行き来して気持ち悪い。なんか変な感触が広がっていく。

 しばらく歩いて柚ちゃんは立ち止まってしゃがむ。その手は細長い指を摘んでいた。薬指かな。指の形からだけではよくわからないけど、繋がりをたどって見つけたってことはこれがハルの指なんだろう。指を繋ぐのを解いてもらう。ふう、落ち着いた。


「ハル、見つけた。多分指1本。他のも探す?」

「大丈夫。集められるのがわかっただけいい。それを家に預けてもらえないか?」

「家? いいけど」


 家のところまで戻ると家はまだうんうん唸っていた。なんだか面白い。


「ねえ家。そろそろ時間だから俺は一旦帰る」

  わかった ごめんね 僕も今の状況がよくからない

「うん なんか壊れてたみたいだし」

  今のところわかったのは、この呪いの中に実体の柚ちゃんと呪いが混ざってて区別がつかなくなってる

「そうなの? でも大きな柚は玄関から家の外に出られたみたいだからどこかで別れているんじゃないのかな」

  そうなの? じゃあその辺も考えてみる

「うんうん。ありがとう、またね。柚ちゃんもまた」


 小さな柚はニコニコと小さく手を振っている。

 やっぱり何かあげたいな。うーん。あげていいもの。

 これならどうかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ