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叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧版  作者: tempp
第7章 位波家心中事件

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桜を見よう

 幸せなマイホーム。ここは私の家。

 私はこの家でかわいい2人の子どもと暮らしている。

 大人しいけどよく笑う柚。元気ですぐに走り回る有一。

 私は専業主婦をしていて日中はだいたい有一と一緒にいる。

 夫は会社で仕事だし、柚は小学校に行くようになった。


 でも最近、2人が家を出ると、急にどっと疲れが出る。ぐったりして体が動かない。どうしてだろう?

 掃除とご飯の支度をしなくっちゃ。私はもともと家事が好き。おいしいご飯を作って夫の帰りを待って、家をピカピカにして。掃除機に有一が絡みついてくることもあるけど、メっていうとキャーって逃げていく。家事が終わったら有一に絵本を読んであげる。団地にいたころはずっとそんな感じだった。


 でも最近、家の中にいると頭がボーッとしてきてしまう。掃除も滞っている気がする。団地よりこの家が広いからかな。確かに広い。倍はいかないけど1.5倍くらいは広いと思う。掃除しないと。少なくとも家族で過ごすリビングくらいはせめて。でも、お願い、もう少しだけ休ませて。何かとても疲れてしまった。身体が凄く重い。


「お母さん遊んで~」


 有一がやってくる。かわいい有一。でも、でももう少しだけ休ませて。何かすごくつらいの、本当に。


「ねぇ~お母さん~」

「やめて! 本当にもう少しだけ静かにして」

「えぇ~」

「あっちいって! やめて! お願い!」


 思わず机の上においてあった本を壁に投げつけてしまった。どうして? 有一は私と遊びたい。あたりまえ。いつも一緒に遊んでいるもの。ごめんなさい。ごめんなさい。でも、本当に無理なの。つらいの。どうしたらいいんだろう。

 ……泣かないで。ごめんなさい。本当にごめんなさい。でも嫌、その泣き声。耐えられない。やめて。どこかにいって。苦しい。助けて。どうして。逃げたい。

 ……こコハ『幸せなマイホーム』なんカじゃナい。

 ……アれ?


◇◇◇


 公理さんが起きるまで俺にやれることは何もない。糞。この期に及んで俺にできることは何もないのかよ。腹立たしい。無力だ。


 手持無沙汰なので色々調べてみたが手がかりは特になかった。

 あの土地の来歴を調べてみたが、特に不審なことはなかった。古い航空地図を見るとあの辺りは元々林で、神社や寺があったというわけでもなかった。あそこで人が死んだとかそういう話も見当たらない。昔から呪われた地だとかそういうのも全くない。あの家、というかあの場所には位波家が住んだのが最初のはずだ。

 なのに何故だ。何故あの家はあそこまで呪われている。呪われる理由がわからない。何があの家を呪った? あの区画は何軒かまとめて建築された建売住宅だ。建材も同じだろう。他の家は呪われずあの家だけが呪われる理由がわからない。


 それから柚の父親について調べた。雑誌にあった名前を入れて検索したがヒットしなかった。

 最後に柚について調べたら2つのスレッドがヒットした。


辻切のライブ総合スレ ★45

1 名無しのターンテーブル 11/30 19:53:13 ID:YCwK2B2P


 辻切のおすすめのライブとかクラブハウスを紹介してね

 噂も歓迎!


>>前スレURL


553 無しのターンテーブル 12/06 02:12:42 ID:vElHd3IQ


 最近友達と連絡がとれないんだけど誰か知らない?

 辻切のクラブにいたんだけど。茶髪でneoって名乗ってたと思う



580 無しのターンテーブル 12/10 01:16:53 ID:2N2fER5C


 >>553

 ここでさらすのはどうかと思うけどneoの友達?

 うちもクリスマスイベント一緒に行く予定だったのに最近連絡とれなくてさ



586 無しのターンテーブル 12/11 12:13:41 ID:vElHd3IQ


 >>580

 ごめん、本当は彼女なんだ

 誰かの家遊びに行くっていってから連絡がとれなくなった

 もし何か事情しってるなら知りたい

 捨てアド置くからもし事情知ってら教えてほしい



602 無しのターンテーブル 12/14 10:11:37 ID:vElHd3IQ


 誰かyuzuっていう子知らない?



606 無しのターンテーブル 12/15 22:33:51 ID:YUfU1Yvv


 >>602

 知ってても教えるわけないだろ





辻切のライブ総合スレ ★46

1 名無しのターンテーブル 01/23 21:33:52 ID:DmyLyfo4


 辻切のおすすめのライブとかクラブハウスを紹介してね

 噂も歓迎!


>>前スレURL


108 無しのターンテーブル 01/31 11:52:13 ID:vbO0fKjj


 正月に友達の家に行くっていってから友達から電話繋がらんくなったんだけどそういう話って聞く?

 前にも見たような気がする


620 無しのターンテーブル 03/31 00:24:16 ID:2yp3KevBr


 このあいだ行方不明の奴いないかっていう回覧まわってきたけど何?



642 無しのターンテーブル 04/02 04:33:41 ID:vPROFIFuc


 >>620

 それこの間俺にも回ってきたわ

 だれだれの知り合いで行方不明になったやついないかって

 なんなんこれ

 とりあえず心当たり教えといたけど


◇◇◇


 公理さんの呼びかけから噂が広がっているのかもしれない。状況によっては何かに使えるのかもしれないな。あの家には実際に死体がある。名目をつけて通報すれば警察が捜査に行って柚が捕まるかもしれない。連続殺人で在宅取調べはないだろう。逮捕される。


 捕まれば柚は家に入れない。だが柚がいないからといって俺があの家に入れるわけでもない。呪いはそもそも外には出ず、あの家の中にいるんだ。だから俺たちの魂魄を取り戻すのに柚のいるいないは意味がない気はする。

 それならむしろ家の中で協力してもらえる柚がいたほうがいい。効果としては少し柚が脅せるくらいか。

 うーん。


 少し時間が潰れた。そこで気がついて乾いた笑いが出る。俺も大概余裕がないな。ダメだ、こういう時こそ落ち着け。何か違うことを考えよう。そう思ってふと気がつく。音楽が流れていた。公理さんが好きだったプログレ。俺も嫌いじゃない。音楽か。ソファに転がって窓を眺める。全面窓の西向きの風景。夕方。なんとなくこの窓からは明け方と夕方ばかり見ている気がする。だからかな、この窓の風景は黄昏ているイメージがある。


 神津市の西には籠屋山という高い山がある。標高は2000メートルちょっとだったかな。その山にかかって日は少しだけ早めに落ちるけど、太陽がその山の向こうからさらに先の水平線に落ちるまでインターバルがある。雲が出た日には山の向こうできらめく太陽の色の光を雲が反射して、オレンジ色と藍色が混ざったような不思議な空の色がしばらく続く。寮のある新谷坂はより山に近くて日没が早く、オレンジ色より藍色の時間が少し長い。

 そんな違いを思いながらぼんやり見ていると、景色が闇になるより早く様々な色のネオンがきらめきだして、窓からの景色はより明るくなってきた。


 そうか、公理さんはこの明るさが好きなんだな。公理さんは寝るのが怖いから夜をなるべく遠ざけたいんだろう。寝るのが怖い、か。今はするっと寝ちゃったけどもう夢はみないのかな。途中で起こした方がいいのかな。いずれ柚が帰ったら起こす予定だし。とりあえずうなされたら起こすか。

 そう思ってベッド脇に移動する。公理さんが寝息を立てている。比較的安らかそうな表情のような気はする。幸せな夢でも見ているのだろうか。そうならいいな。起きたらまた、地獄が始まる。


 そう思っていると携帯が鳴った。柚からだ。

 時計を見るとまだ18時。


「早いね」

「ちょっと早引けしたの。これから帰るから19時くらいには手が空くと思う」

「わかった。その予定で進める」


 その間に飯を作るか。

 長丁場になりそうだから、パスタよりだらだら摘まめるものがいいかな。じゃあ鍋か。でも最近箸は不便そうだったから寄せ鍋とかより洋風がいいか。公理さんに食べやすいもの。ポトフ……でも甘味はわからなくなったのか。もう少し鮮烈なほうがいい。


 トマト鍋ならどうかな。甘味以外にも酸味もある。鶏肉の下味をつけて玉ねぎとかジャガイモをカット。フォークで刺すには大きめの方がいい。

 オリーブオイルとにんにくと鷹の爪を炒めて油に香りがうつったら、ソーセージと鶏肉を入れて焼き目を付ける。肉の焼ける香ばしい香り。使うオイルによって少しだけ味が変化する。それにいいソーセージは香りが甘い。玉ねぎとジャガイモを加えてしんなりしたらホールトマト缶を投入。カットよりホールの方がだんぜんうまい。一煮立ちしたらキノコ類を入れて香りと歯ごたえを増やす。しんなりしてきたらキャベツ。ブロッコリーは茹でて後乗せ。色味もいい。


「トマトパスタ?」

「トマト鍋だよ。パスタ連続も味気ないだろ?」

「トマト鍋?」

「食べたことない? 酸味があってうまい。ちょっとまって」


 公理さんを起こして椅子に座らせる。


「おなかすいた?」

「まだ大丈夫。先に食べたほうがいい?」


 あと15分で19時か。


「19時に始める予定。19時に始める予定。鍋はもう少し置いたほうがうまいから、その後でもいいかな。火を切って味をなじませた方がいいような気もするし」

「そっか、じゃあ楽しみにしてる」


 少しだけ回復したかな。顔色はやはりあまりすぐれないが、表情が少し戻ってきている。


「公理さん、欲しいものある?」

「女の子の髪いじりたい、ああ、ハルでもいいや」

「俺の髪は短いぞ」

「いいのいいの、ピンとかで留めたりしたい」


 ぷすぷすと髪に細いピンがささる。


「それ楽しいの?」

「うん、なんかやらないと落ち着かないと言うか。本当はリボンとかつけたいんだけどね」

「勘弁してくれ」

「ハルといつもよくいる女の子いるじゃん? あの子凄いかわいいからリボンだらけにしたいの」

「うーん、あいつもちょっと頭がおかしいからなぁ。でもこれ終わったら連れてくるよ。だから呪いに取り込まれるな」

「わかった。頑張る」


 少しでも公理さんを現実につなぎ留めたい。俺の勝率を上げるためにも。ああ、勝率とか。半分は純粋に公理さんが死ぬと寝ざめが悪いだけだ。

 早くこの夜を超えたい。

 それで日常に戻って花見をするんだ。もうすっかり散ってるだろうけどかまわない。桜の木があってそこに俺の大切な友達がいれば。

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