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叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧版  作者: tempp
第7章 位波家心中事件

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私だけの呪い

お父さんへ


前略

 私は柚です。

 お父さんの連絡先は、施設に残されたこの高遠吉弥(よしや)様方の住所しかわからないので、こちらにご連絡します。


 私は来月で18歳になります。

 これまで私の生活費を施設に補助されていたと聞きました。ありがとうございます。私は来月施設を出て就職することになりました。住む所ももう用意しました。自立できそうです。これまでありがとうございます。


 お父さんがどんな方か知りたくてご連絡しました。私は家族と暮らしていた記憶、そそれより前の記憶がありません。

 だからお父さんがどんな人だったか全然覚えていません。

 だから会いたいとかそういうのは全然考えてなくて、ただ私の家族がどういう人が知りたくでお手紙しました。


 ご迷惑ならもうお手紙しません。でもご連絡いただければ嬉しいです。

草々


九里手柚 


◇◇◇


 柚への説得はうまくいった気はする。

 柚に話したのは仮定の段階で口からでまかせに近い気もするが、理屈的にもそんなにおかしくはないはずだ。なにより柚はこれまでの発言からも、自分の呪いを自分に身近な、つまりバイアスの外にいると認識している。柚と呪いはとても近い。


 いずれにしても、柚と呪いの関係がどうあれ位波のバイアスを消滅させないと話が進まない。

 1つずつ解決する。家はバイアスが積み重なって呪いになっていると言っていた。ならば位波のバイアスが存在する限り『呪いが解けた』状態にはならないし、俺についた扉は消えないだろう。

 家にかかっているバイアスの呪い。少なくとも家のバイアスを全て解けばこのバイアスに関する呪いはなくなるのだろう。この扉はバイアスを貫通するために呪いの底にいる家が設置したもの。バイアスがなければ扉は必要ない。家も全てのバイアスが消えれば扉はなくなると言っていた。まずは扉を消滅させよう。


 だがそれが家にとって解決といえるのかはわからない。みんなの呪いを解いてみんなを幸せにする。それが当初の家の注文だ。

 柚の呪いはバイアスの呪いとは別口と思われる。だから全てのバイアスを消滅させても柚の呪いは残るように思える。

 それに家の口ぶりでは位波家が死んだ時点では呪いは存在しなかった。すでに家の認識と現状がズレている。そうすると家が想定していない状況となっている可能性が高い。位波のバイアスが消滅した時、どういう状況になるかは未知数だ。


 けれどももう時間がない。公理さんの魄が消化されるまで後2日。圧倒的に時間が足りないし、それ以前に公理さんがもたなさそうだ。手がつけられるところから手をつけるしかない。俺も俺の魄を取り戻したい。


 魂魄を取り戻す方法。

 全てのバイアスを消滅させたあとに柚の呪いが存在し続けるのかはわからない。バイアスが何もなくなったら呪いが霧散し魄が帰ってくるのが最善だ。霧散しなかった場合、柚と柚の呪いが残る。

 さっきの話は口から出まかせだが、もし柚の呪いとバイアスの底にある呪いを混ぜて柚の穴が埋まるなら、それで柚が満足するなら俺たちの魄は戻ってくるかもしれない。これが次善。

 それでもダメなら柚を殺す。それで呪いが霧散するかどうかは賭けだ。霧散すれば帰ってくる気がしなくもないが、これまでの傾向では呪いはあの家の中に留まっている。


 無理だろうな。なんとなく無理な気はする。無理だったら呪いの中の俺の魄が消化されるまで待つ。呪いの中に入れるのは呪いに食われた魄が自分の魄と繋がっているからだ。呪いの中に入ってすらも追加で食われることがないならば、繋がりが消化されきってしまえば呪いの中に引き摺り込まれることはないだろう。俺と家との関係性は終了する。


 俺は首回りと指2本の魄は失うが仕方がない。

 問題は公理さんだな。公理さんはどうなりたいか。後2日で公理さんは消化される。今のままの状態で固定されるのがいいか、それともいっそのこと全部吸収されたいと願うか。柚が生きている間に決めてもらうしかないだろう。

 ろくでもない。ろくでもないけど今のところ他に方法は見当たらない。ああ、駄目だ、酷く落ち込む。なるべく切り離して考えよう。嫌だ。けれども他に方法が……。糞。

 方法は探し続けよう。俺だって少なくとも首回りは取り戻したい。胃が重いな。


「藤友さん大丈夫?」

「あ、うんごめん、考え事してた」


 目を上げると柚が俺を見ていた。俺は多分、近い将来この人を殺す。

 それでも昼飯を食べながら柚と一緒に位波のバイアスを消滅させるための作戦を立てた。頭を振って切り替える。


 位波楓の心中を止める方法。単純で、夫が出て行ったから心中をしたんだと思う。夫を呼び戻せばよさそうだ。だが柚に父親を聞いたが覚えてないし居所もわからないらしい。まあ、肝心の母親も覚えていないくらいだ。

 瀧本のバイアス内での様子では、位波楓は瀧本の夫を自分の夫だと思い込んでいた。男で夫であると認識できればそれでいいのかもしれない。位波楓はすでに狂っているのかもしれない。


 都合よく明日は柚は休みのようだ。俺の声は携帯越しでもバイアス内の人物に届く。それで話し合いでなんとかできないかな。

 今晩柚に位波楓の様子を確認してもらいつつ、追加で打ち合わせをすることにしよう。


◇◇◇


九里手柚様


前略

 お手紙頂きましてありがとうございます。

 また、ご就職おめでとうございます。


 お手紙頂いた所は知人の家で、その手紙を転送してもらいました。

 私は今、神津市から随分離れたところに住んでいます。申し訳ないのですが、知人にはあなたからの手紙は転送しないようにお願いしました。だからもう私には手紙は届きません。


 あなたと最後に会ったのはもう随分昔になってしまいました。

 その際、医者にあなたの記憶が失われていると聞きました。言い訳になりますが、落ち着くまでは連絡しないほうがよいと思い、そのままになってしまいました。申し訳ありません。

 私はあなたのことをずっと忘れようとしてきました。私は身勝手な父親です。あなたには本当に申し訳ないことをした。謝っても謝りきれません。


 あなたの今後のご活躍を心からお祈りしております。

 あなたに幸せが訪れますように。


草々


位波ーーより


◇◇◇


 父からの手紙には名前が書いてあった気がするけど、もう覚えていない。

 帰ってきた手紙の末尾の文章を見て、就職を断られた時のお祈りメールみたいだな、と思った。

 私はこれまで父に連絡した事はない。父からの連絡もなかった。だから父が私に会いたいわけじゃないんだろうなと思っていて、返事が来ないんじゃないかなと思っていた。登録された知人の連絡先も私が施設に入った時のもので随分古い。だから宛先不明で手紙が届かないかもなとも思っていた。

 でも手紙が来た。完全な拒絶という形で。でも私も別にいい。試しに出しただけだから。


 私の心には昔からぽっかり穴が開いている。友達はできるけど穴が埋まったりはしなかった。何かが大きく欠けている感じ。遠い昔に何かをどこかにおいてきたような。

 何が欠けているのかわからない。試しに父という人に手紙をだしたけれどもやっぱり他人としか思えないし、穴が塞がるとは思えなかった。正直この父という人には、記憶もないのだから思い入れは何もない。やっぱり私に家族はいない。


 でも何かな、この穴は心の奥で何かにつながっている気がする。でもどこにつながっているのかよくわからないや。友達には運命の人がいるんだって言われた。運命の人か。いつかそんな人が現れて、この穴が埋まるのかな。よくわからないや。

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