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叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧版  作者: tempp
第7章 位波家心中事件

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穴と呪い

 『幸せなマイホーム』ってなんだろう?

 まいほーむってなぁに? えいごなの?

 よくわからないけどしあわせってことなんだよね。

 ぼく、しあわせならわかるよ!

 みんなでなかよくしてとってもたのしいこと!


 ううん、でもあんまり今はたのしくないかな。じゃあ『幸せなマイホーム』じゃないってことなのかな。

 でもそれはだめなんだよね? 『幸せなマイホーム』じゃないと。

 みんながしあわせせになるにはどうしたらいいんだろう。

 そうだ! ひこうきの絵をいっぱいかこう!

 びゅーん。


「壁に絵を描いチャだめっテ何回モいってイるでシょう!」

「お母さん怒っちゃだめだよ、『幸せなマイホーム』なんだから」

「ギ、グ。ウ、ん、そウね」


 にこにこにこ。

 お母さんがこわい。おこっているときより、わらってるおかあさんのほうがこわい。

 おねえちゃん、おかあさんをおこらないで。

 なかよくしよう?


◇◇◇


 ぼんやりとカルセアメンタの前を通り過ぎる人の流れを見つめる。

 明日はようやくお休み。ここのところスプリングセールで休みは取りづらいし、この前の休みは同僚と交代したから、本当に久しぶりの休み。

 どうしようかな? 藤友さんをデートにでも誘ってみようか、と思っていたら藤友さんがやってきて、またお昼ご飯に行くことになった。


 デートだ。

 藤友さんのこと。藤友さんは高校生らしい。だからまあ彼氏というのはありえないんだけど、正直かなりカッコいいよね。なんかワイルドっていうか。モテるんじゃないのかな?

 春休みなんだろうしデートとかしないのかな。あ、でもまあうちのことがあるから無理なのか。だいぶん親しくなった気はする?

 でも藤友さんのことは全然知らないや。


「九里手さんは今日もオムライスなんですね」

「うん。好きなんだ」


 昔から好きで家でもよく作る。簡単だし。ケチャップは常備。

 昔から? いつからだろう。


「藤友さんはオムライスは薄焼きのとトロリのとどっちが好き?」

「どっちも好きだけど、あえていうなら薄焼きかな。極限まで薄く焦げずに作るのは案外難しいけど」

「料理するの?」

「まあ、多少なら」


 へぇ凄い。ますますモテそう。


「九里手さんは位波家の呪いを解きたいの?」


 おっといきなり直球。藤友さんはいつもストレートにくるよね。

 うーん、呪いかぁ。朝に1階の和室で女の人と男の子が寝ているのを見かけた。多分お母さんと弟なんだけど、やっぱり全然ピンとこなかった。話しかけても反応はないし。そもそも今までもあの家は知らない人がウロウロしていた。一番ひどい時は虫が天井からぼたぼた落ちてきてた。だからこの人たちがいても特に不都合もないっていうか。ふうんって感じ。

 あと、呪いがすごい快適になった。今まではいろんな人の変な感情がたくさん混ざっていて気持ち悪かったけど、急にずいぶんスッキリした、どころかとても落ち着くんだ。だから。


「正直なところこのままでいいかなって思ってる」

「そう。じゃあ友達を家に呼ぶのもこのまま?」


 藤友さんの表情はかわらない。やっぱり親しくはなれていないんだな。お客様対応を感じる。

 これからか。人を連れてこないとそのうち呪いは萎んでなくなってしまうんだろう。そうしたらどうなるのかな。なくなっちゃうのか。それはそれで嫌だ。


「続けると思う」

「どうしても?」

「うん」

「でもさ。今までばれてなくてもあんまり人数が増えると繋がりを辿って警察が調べに来るかもよ? 逮捕されちゃったらあの家から離れることになるよね」


 逮捕……?

 そうか、家の外の世界では連れてきた人はいなくなっているのか。私の中に混ざっているからいなくなったというよりむしろ身近に感じているくらいなんだけど、確かに客観的に見たらそうだよね。


「どうしたらいいかな」

「俺にはわからないよ。俺は公理さんを取り返したいから呪いは解消したい。もちろん自分の魄も取り戻したい」

「そう……私は今の状況が安定しててとても落ち着くんだ。だから変えたくないのが本音かな」

「そっか。例えば何かを代わりにすることはできない?」

「代わり?」

「他に安定する方法はないかな」


 安定か。今の家は落ち着いている。代わりになるもの。わからない。


「九里手さんはなんで人を食べてるの? 普通に友達になるんじゃダメなの?」

「なんで? 親しくなったら一緒にいたくなるでしょう?」

「他の方法でもあるでしょう? こんなふうに一緒にご飯を食べるとか」

「いつも一緒にいたいんだよ。変かな」

「どうなのかな。俺は1人でいる方が好きだからな。そういう心境はよくわからない」

「そういうもの? いろいろだね」

「ひとつ聞きたいんだけど、九里手さんはどうして呪いの影響を受けないの?」


 どうしてって?


「私、呪われてるんじゃないの? だから呪いと繋がってるんだと思ってた」

「呪いは人を呪う存在、『呪いの依代』の恨みとかそういう気持ちが呪いの起点になっている。それがたくさんの人を不幸にする。位波家では多分位波楓が『呪いの依代』。でも九里手さんは位波楓のことなんとも思ってないよね。位波楓は九里手さんに影響を与えていない」

「そうなの? でも私は家にいる呪いとは仲良しだと思う」

「その九里手さんと仲良しの呪いは位波家のバイアスじゃなくて九里手さん自身の呪いじゃないの? もっというとその呪いは九里手さん自身」


 私が呪い? どうして?


「九里手さんは繋がってるんでしょう? あの呪いと。それからさ、九里手さんは前にさ、あの家に住んでた以前の記憶がないって言ってたじゃない? だからあの家のことを忘れてる。九里手さんは昔、位波家のバイアスの下に記憶を置き忘れて来たんじゃないかな。」


 私の記憶……? 記憶を置いてきた?

 ううん、全然わからないしピンともこない。

 あの呪い自体も何かを思ったり考えたりしているようにも思えない。そういえば和室にいた女の人と男の子に何も思わないけど、記憶を取り戻したらなにかまた違ってくるのかな。


「九里手さんさ、穴が空いてるって言ってたじゃない? 仮に位波家のバイアスの下に九里手さんの記憶があったとする。それは本来久里手さんの一部。本来一緒にあるべきものなのに別れてしまったから、穴が空いていると感じているんじゃないかな。それで今はさ、位波家のバイアスがある。九里手さんとその1つ下が隔たっている。位波家のバイアスを消滅させて、その中にあるもの全部を九里手さんの呪いが食べたらその穴は埋まるのかもね。記憶と一緒に」

「そうなの?」


 藤友さんは絶妙に私から視線を逸らしながら、優しそうな感じでコーヒーをスプーンでかき回している。嘘はついていなさそうだけれども、その意図がよくわからない。


「わからないけどそうなるかもしれない」

「でも呪いがなくなるのは嫌なんだ」

「ううんそうか。でもね、俺も位波家のバイアスと九里手さんの呪いは別々に独立していると思う。だからバイアスが消滅しても、バイアスの下の位波の呪いはともかくとして、九里手さんの呪いの力は残ると思う」

「そうなの?」

「だってそうじゃないとおかしい。九里手さんの呪いはバイアスを超えて俺を追いかけてきた。バイアスを超えるってことは九里手さんの呪いは普段はバイアスの外にいるんだ。バイアスを消すというのは全てを外にするということじゃないかな。だからきっと、久里手さんの呪いは大丈夫。だから位波家のバイアスは消してしまおう? 位波楓も位波有一もピンとこないなら、家と九里手さんの呪いと九里手さんのお友達で全てを埋めた方がスッキリするでしょう?」


 家を私と呪いと友達で埋める?

 それは、なんだか、とてもしっくりきそうな提案。

 んんんでも言ってることがよくわからないな。

 でも前に呪いが何かって考えたことがある。家。家の呪い。やっぱり家だよね。家自体が呪いなら、家は位波家より前にあったもの。私じゃ、ないよね?

 位波楓、位波有一。母さんと弟。やっぱり全然ピンとこない。あの人達はいらない。会ったら違うかもと思ったけど、やっぱり他人としか思えない。

 あの2人がいなくなって私と呪いと私の友達で暮らす。それはなんだか、とても魅力的に思えた。

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