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叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧版  作者: tempp
第7章 位波家心中事件

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全ての柚は柚なのか。

この話理屈っぽくてすみません。

 私は位波楓……。

 この家で暮らしている……。

 息子の有一と娘の柚と一緒に。

 娘……。


 あれ?

 でも最近なんだか変。

 この家に私たちじゃないものが暮らしているような……。

 おかしいわ。


 ……。

 台所から漂う匂い。

 これは私が作る料理の匂いじゃない。

 変……。


 ……。

 居間から聞こえる笑い声。

 でもこの声は誰?


 チラチラ視界の端に映る知らない人たち。

 有一はどこかしら。

 有一……?

 おかしいわね。


 チラチラ映る人影。

 女?

 女が私の家で主人と話している……?

 楽しそうな、声。


 ?

 ここは私の家。

 あなたはだれ……?

 どうして私の家で笑っているの?


 ここは私の家。

 私の『幸せなマイホーム』。

 だから出ていって。


 そう思った瞬間、私の中からとても強い力が溢れた。


 ◇◇◇


 コーヒーを淹れる。たくさんの砂糖も投下。頭を働かせるには糖分が必須。

 呪いとは何か。これは多分とても重要なことだ。俺は何を見ているんだ。俺は何を解除して何を幸せにすればいいのか。その結論が異なる。

 柚と呪いの関係性。ここを間違うと、これからの対処が大きく変わってくる気がする。全てのバイアスを消滅させたあとに俺たちの魂魄を取り戻せるかどうか。


  一度柚について整理しよう。

 感情は脇において現象面だけを比較する。

 ①扉から覗いた現実の柚。

 当然話せる。カルセアメンタで働いている。扉から覗いた柚が現実の柚と同じであることは、現実の柚の反応からも明らかだし、携帯を通じてリアルタイムで話した。そして柚がいる時に扉を覗いても子どもの柚は見えない。この柚が家にいる時、家は呪いに閉じ込められて出てこられない。

 ②呪いの内側にいる柚。

 公理さんが話をした柚。呪いの中にいて、同時刻に現実の柚と異なる場所、家の中に存在する。呪いの内側に家の存在は確認されていない。

 ③夢の中で会った子どもの柚。

 話せた。家と同時に存在しえた。その時①の柚は家にいなかった。

 ④夢の中で家が請園伽耶を食べていた時に見た柚。

 話せなかった柚。その時①の柚が家にいて、①の柚の時点に強制的に移動させられた。


 おかしい部分はどこだ。

 まず唯一会話ができなかった④の柚について。その姿ははっきりと見えたが話はできなかった。

 俺が話せなかったのは何故だ? ①が同じ場所にいたからか?

 そして①の柚が時間軸を統合したことで④は消失した。④が①になった。④と①は同じ?


 同じ夢なのに話せた③の柚について。

 ③は過去の現実とは異なる位波のバイアスの内側の夢だ。現在の所、①の柚自身が④のようにバイアスの内側と現在を連結することはない。

 連結。バイアスを超えられるものと超えられないもの。

 柚の呪いもバイアスを超えてきたが、そもそも『呪いの媒体』は1つ下バイアスから上のバイアスにに移動できる。だから呪いは本来的にバイアスを超えうるものだと思われる。

 一方、扉のない柚はバイアスを超えてくることはできない気はする。柚の声も姿もバイアスの中の存在には届かないからだ。バイアスを超えるには俺についた扉のようなものが必要なのかもしれない。


 ①と③の柚は異なる柚。

 ③の夢の中の柚は子どもの姿だったから、これは位波のバイアスの中にいる柚なのだろう。


 ③と④の柚の違い。

 ③の柚は話せた。こちらの問いかけに応答するということは単なる過去の記録ではなく独立した意思を有しているということだ。

 ③の柚には①④と異なる魂がある? 位波家のバイアスの中に現在の①の柚とは異なる③の柚の魂が封じ込められている?


 その意味はよくわからないが、①④は同じバイアスの外側にある同じものでその魂は1つ、③は位波のバイアスの内側にあり①④と異なり独立した魂を持っていると考えると整合性は取れる気がする。④は単なる過去の記録にすぎず、その魂は①と同じもの。そうであれば俺が④に話しかけられなくてもおかしくはない。ただのあの時点の記録に過ぎないんだから。


 だが③の姿が①と同じ用にはっきり見えていたのは何故だ。③はバイアスのなかで現実とは断絶している。魂が異なりバイアスで隔たれているというのならば現時点で①が生きているからというのは違和感がある。


 いや、違和感は無視しよう。理屈で考えよう。

 ②の柚は柚の呪いの中にいる。

 ①の柚は柚の主観でも呪いと繋がっている。


 公理さんはマンションにいる現実の公理さん①’と家の呪いの中の公理さん②’を繋げて呪いの中に入った。いわば現実と呪いの中に同時に別時点で存在するということは可能だ。


 柚と公理さんの違い。

 公理さんは①’と②’は同じ自分と認識しているようだ。②’の公理さんから何らかの情報を受け取っているとかそういう様子はなさそうだ。②’は普段はただの餌として呪いの中に転がっているんだろう。

 ②の柚は意思を持っていた。だが①の柚は②の柚を認識していないようだった。②の柚は呪いの中で公理さんに食べられたいか聞いてきた。①の柚も瀧本家を食べるかどうか検討していた。

 ①の柚は②の柚を認識してはいないけど、本質は①と②は似通っている。まるで同じもののように。


 呪い。そうか、違和感の正体。

 現実とは異なる子ども部屋の様子がはっきり見えたことだ。俺自身はこれまで家具は過去の霊が触れている狭い範囲でしか夢の中で認識できなかったのに、③の夢では子供部屋の全景が見えていた。机の上に置かれたクレヨンやぬいぐるみ、室内のおもちゃ箱。

 あの部屋は現実には存在しない。だが俺がはっきり見えた。

 思えば④の柚の部屋も同じように明確に見えていた。俺は夢の中では家の外形、壁や天井等の躯体部分ははっきりみえていたけれど、家具までは見えなかった。だが④も家具まで明確に見えていた。


 再度前提の確認。

 俺が見えるものは呪いだけ。霊は見えない。これは最初一貫している。だが呪いは今まで『呪いの媒体』という黒いなにかの形以外で見たことはなかった。

 けれどもあのくっきり見えた③の小さな柚と柚の部屋、④の柚とリビングの姿は呪いなのだろうか。俺が見えるのならば、そうとしか考えられない。

 もし③と④の柚とその部屋の家具が呪いの姿そのものなのであれば、③と④で俺が呪いの姿として明確に見えたのは納得できる。

 公理さんが扉を通して小さな柚が見えなかったのは何故だろう。呪いであれば俺と公理さんは見え方が違うことがある。保留。


 それから③でも④でも黒い柚の呪いが夢の中に現れた。共通する黒い呪いの存在。そしてその呪いの内側は②の柚がいる。②の柚の姿は公理さんは見えなかった。見えていたのは真っ暗な闇だ。黒い闇と考えれば、俺が夢の中や扉を通して見た呪いの姿と合致する。つまり公理さんは②の柚の姿を見ていた。

 そして③は②に飲まれた。④は①に移動した。いや、あくまであれは夢だ。魂を持つ過去の記録だ。現在とは直結しない、はずだ。除外。

 だが②〜④の呪いの全てがその場にあるということは論理的には矛盾しない。そしてこれに直結した①の柚。


 そうであれば今存在するバイアスを消滅させるとどうなるのか。魂魄は取り戻せるだろうか。


 柚は自分に穴が空いているて人を食べると穴が埋まると言っていた。穴とは何かが欠けているということだろう。食われた者は呪いの中で消化され、呪いに混ざる。①と③は魂が異なる柚であれば、もともとは1つの柚だったんじゃないだろうか。

 そうならば、バイアスの消滅によって①と③の柚が1つになることができれば柚の穴はうまるのではないか。柚の穴が埋まれば柚は満ちて、俺と公理さんの魂魄を取り戻すことはできないだろうか。


 だが、これはあくまで理屈の話だ。

 そこまで考えて、『柚が呪いである』が何を意味するのか、①の柚と他の柚の関係はよくわからなかった。

 ①の柚は今も人として普通に働いている。俺が会って会話をした①の柚は少なくとも肉体を持っていた。人にしか見えない。バイアスを超えられない。呪いとは感じられない。


 やはり何かが引っかかる。

 柚は何だ? 呪いとは、何なんだ。

 結局バイアスを開放するとどうなる。保留。


◇◇◇


 おかしいな。

 この家は『幸せなマイホーム』じゃなかったのかな。


 引っ越してきた日、この家はキラキラしてた。

 私だけの部屋もできた。うふふここは私の部屋。ゆうくんはまだ小さいからお部屋は大きくなってからなんだって。

 前に住んでいたところは団地。たくさんの人が住んでた。団地の前には公園があって、そこで同じ団地の子とたくさん友達になった。あの子たちと遊べなくなるのは寂しい。引っ越すから学校も変わって友達も変わったけど、でも今の学校もそんなに悪くない。担任の先生が優しくてかっこいい。前の学校の先生も優しかったけど。


 でもお父さんが帰ってこなくなって、お母さんがすぐ怒るようになった。どうしてなんだろう? 前の団地の時もお父さんの帰りは遅かったと思うんだけど。ここは『幸せなマイホーム』なんだよね。『幸せなマイホーム』じゃないとおかしいんだよね?

 毎晩、お父さんが帰ってこないかなと思って玄関を見つめている。そこにお父さんの靴はなくて。今日も帰ってこないのかな。お父さんの靴。帰ってきて。


 コツンと頭を部屋の壁に当てると、なんだか暖かかった。

 ねぇ、『幸せなマイホーム』なんだよね?

 うん、そうだよね。何がおかしいのかな?

 私はこの家が好き。私の部屋が好き。

 私、学校に行くのが怖い。学校は好きだけど、学校に行くときに1階を通らないといけない。お母さんが見ている。お母さんが怖い。お母さんは怖いものになってしまった。お母さんは怖いもの。

 この部屋にずっといちゃだめかな。私はここにいたい。

 だめかな。ねぇ、だめ?

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