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叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧版  作者: tempp
第7章 位波家心中事件

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バイアスの向こう側

 俺は瀧本のバイアスを消滅させる前、その後にどうなるか考えた。

 今までの推論だと、『呪いの依代』は『黒い幽霊』に接触して『呪いの媒体』を呼び出す。つまり瀧本のバイアスの瀧本夏観は位波のバイアスの位波楓から『呪いの媒体』を呼び出した。しかし位波家はこの家を新築で買った。これより前の不幸などない。この下にバイアスはない。そうすると位波のバイアスの下には『黒い幽霊』も『呪いの媒体』もないはずだ。ここが最後の終着点。


 この前提に立てって、瀧本のバイアスを消滅させた場合に発生しうる事象について立てた仮説は2つ。

 1つ目。呼び出すものがない以上、呪いはない。呪いのない奇麗な位波のバイアス。この場合、瀧本夏観が引き出した『呪いの媒体』がなんだったのかという疑問が残る。

 2つ目。そうではなく、根源的なこの家を呪う存在が位波のバイアスの中に閉じ込められている。呪いで満ちたバイアス。この場合、ではこの呪いは一体何なのか、どこから来たのかという疑問が残る。この家は新築で元々の不幸などないのだから。


 だがどうやら後者だったようだ。そうすればこの呪いは何なんだ。これはバイアスが消滅したことにより表面化した位波家の呪い。柚の呪いはバイアスを超えて上から訪れる。だから柚の呪いとは異なる。この呪いは、何だ。


 そして俺はこの呪いの中に入れそうにない。位波のバイアスを消滅させるには、位波のバイアスを構成する位波楓と位波有一を家の外に出さなければならない。いずれにしてもこの呪いの中に入れる柚の協力が必須だ。


「九里手さんはこの人たちとずっと一緒にいたい?」

「そんな感じもないな、知らない人」

「じゃあ呪いを解いてしまってもいいんじゃないかな」

「ううん、よくわからないや。でももう仕事の時間だし、帰ったらまた考えるよ。それじゃあ、また」

「ああ、いってらっしゃい」


 なんかこれ、俺は柚と親しくなっているのかな。よくわからない。

 行ったかな? もうしばらく待ってみよう。柚の部屋なら呪いの影響がない。家は柚がいると呪いに閉じ込められると言っていた。それならば。

 しばらくすると予想通り家の声が聞こえた。


「お兄さん、こんにちは」

「こんにちは。柚がいると呪いから出られなくなったのか?」

「そうだね、そうかも。瀧本さんの時はなんとか出てこれたけど、呪いが濃すぎて僕に絡まりすぎてる感じ。出られないというよりは、僕が呪いの中に閉じ込められているのかな。出てこようと考えるのも難しいというか、何が何だかよくわからなくなる」

「何故今までと違う。お前を捕まえるのは柚の呪いじゃないのか?」

「あれ? そういえばそうだね。でも位波のバイアスの呪いはいままでよりも濃いから影響しているのかな」

「確かにな。今俺が廊下に出たら死ぬかな」

「どうだろう。でも扉越しでも危ないと思う。やめたほうがいい。それに家中がこんな感じなんだ」


 やはりそうか。見るからに濃度がやばいもんな。

 公理さんも霧のように奥が見通せないと言う。仮に大丈夫だとしても入って見えないならば話にならない。意味がない。


「俺と公理さんが食べられたところからそっちに入るのは危険なのか?」

「そっちに入るって?」

「昨日、公理さんが食われた部分から呪いの中に繋がったらしい。食われたほうはどうなっている?」

「え、そんなことが可能なの? 食べられた人はばらばらになって順番に消化されるだけだと思ってたんだけど」

「呪いの中にいる限りは安全なのかな? ざわざわしていたそうだが」

「お兄さんは何を言っているの?」

「俺も自分が何を言ってるのかはよくわからないよ。ただ家は呪いの中にいても消化されないまま自我を保っているんだろ? どうしてなんだ? 他の人や、食べられた人も消化されるまでは自我を保つのか?」

「僕が消化されない理由……?」


 困惑する声が聞こえる。

 そもそも家とはなんなんだ。この家の付喪神的な存在なのか? 今は柚がいるときは呪いから出られない等の一定の制限があるようだが、自由に呪いから出てきて俺に話しかけることができる。やはり特異な存在なんだと思う。


「僕は家だ。お父さん、建築家の人と大工さんに立ててもらった。この呪いは僕の上にのしかかっているものだから、僕とは別の存在だと思う、そう思うんだけど」

「やはりよくわからないな。呪いについて他になにかわかることはあるか?」

「ええと。呪いは人を食べてエネルギーを得ている。僕がここにいられるのもそのエネルギーを使ってる。1番上の呪いが得たエネルギーがその下の呪いに、という風に順番にエネルギーが流れていって、最後に僕のエネルギーになる。今は位波さんの家が1番上で、これがなくなれば呪いはなくなるんじゃないかな」

「呪いはいつからあった?」

「いつから? いつだろう。僕がはっきりわかったのは、位波のお母さんが瀧本のお母さんを睨んだ時。その時に位波のお母さんから黒いものが出てきたと思う」

「それは今のこの呪いと同じものか?」


 俺は廊下を指差す。黒く塗り込められた呪いの層。


「あれ? そういえばあの時はこんなに強くなかった」

「それにおかしなことがある。この家で繰り返されているのは位波楓が死んだその日なんだろ? 瀧本と会った時に初めて呪いを感じたというなら、それは位波楓が死んだのよりずっと後の時点のはずだ。ならこれはなんだ」

「えっ」


 呆然とした声がする。


「そういえば、柚ちゃんのお母さんが死んだ時は呪いなんてなかった。じゃあこれは何?」

「位波家がバイアスを構築したのは位波楓か位波有一の死なんじゃないのか?」

「位波さんは亡くなって同じ毎日を繰り返すようになったんだ。でもその時には呪いなんてなかったし、バイアスはどうだったかな……」


 あれ? バイアスっていつ発生するんだ?


「バイアスを構築する者の死によってそのバイアスは封印される。そして『呪いの依代』は封印された前のバイアスから『呪いの媒体』、つまり呪いを現実化するための力を引き出す。そうだったよな?」

「それはそうだと思うけど」


 それであれば、繰り返しが発生した時にバイアスも構築されるという仮定は矛盾しない。バイアスが発生しなければ引き出すも何もない。ただそこに呪いとしてあるわけだから。あれ? それじゃ駄目なのか? 何故バイアスなんてものが存在する。何故呪いを閉じ込めた。まるでそれを封印しようとしたかのように。

 それから、位波家とはなんだ?


「家、お前は昔起こった不幸が新しい不幸を呼ぶから『呪いの媒体』を前のバイアスから引き出さないと呪いは効果がないって言っていただろ? だが位波家の前にバイアスはない。何故くり返してる? 何がくり返させている? このエネルギーはどこからきているんだ」

「前なんてない……位波さんは僕に初めて住んでくれたんだ。最初、幽霊になった位波のお母さんと有一君は自分のエネルギーを削って存在していたような気はする。でも呪いを実行するには家に溢れさせるほどのエネルギーがいるよね。位波のお母さんにはそんな力はなかったはずだ。何が起こってるんだろう」

「わからないなら保留。今後の課題だ。それから確認だが、お前についているのはこのバイアスの呪いだけなんだよな? バイアスをすべて解けば扉は解除されるのでいいのか?」

「うん。僕はこのたくさんのバイアスの1番下にいる。だからお兄さんに届くようにお兄さんに扉をつけた。バイアスがなければ扉なんて要らないでしょう? 僕を閉じ込めているのはこのバイアスの呪いだと思うんだ。だからこのバイアスがなくなれば僕は自由になれるはず」


 その発言の違和感。今家を縛っているのは柚の呪いじゃないのかな。そうするとこの呪いの正体もひょっとして。この呪いの形状、求めるもの。これまでの情報で呪いは1つの可能性を指し示す。

 けれども未確定。それは位波のバイアスを消滅させればわかるし、消滅させないとどのみち扉は俺から外れない。


「とりあえずこのバイアスをなんとかしよう。この呪いを解くにはどうしたらいいかな。呪いの中身を調べる方法はあるのかな」

「わからない。僕は呪いの中にいると何が何だかわからなくなる。柚ちゃんがいる時は特にそう」


 やはりそうなのか。そう言う意味なんだろうか。

 取り得る手。結局俺か公理さんがこの中へ入らないといけなさそうだな。その前に一度だけ夢を試そう。

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