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叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧版  作者: tempp
第7章 位波家心中事件

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ふさがった道

 柚が怖い。

 柚は昔から少しおかしな子だった。変なものが見えるという。幽霊でも見えるのかなと思った。幽霊というものが存在しているのは知っていた。私は見えなかったが、高遠という友人は幽霊が見えるたちで、それを副業にしていた。

 でもたぶん、柚が見えているのは幽霊というわけでもないようだった。一度、友人の高遠を家に招いて柚に合わせた。柚をひと目見た瞬間、俺には無理だと言って逃げ帰った。

 何が無理なのだろう。よくわからず後に電話で尋ねた。高遠は煮え切らない口調で柚はいろいろなものに影響を及ぼしやすい、と言った。よくわからないが柚には目に見えない力があって、それがいろいろなものに影響を与えるのだそうだ。

 それはなにか困ることなのかと聞くと、そうではないという答えが返った。柚は柚でのびのびと暮らしていれば、それはそれで問題はないそうだ。むしろおかしなことはしないほうが良いらしい。子どもとは自然に社会のなかでバランスを取っていくものだから、と。私は少しホッとした。


 その頃、私の一家は団地に住んでいた。団地といってもそれほど悪いところではない。比較的新しくできた公団だ。たまたまうまく入れた。柚は団地の子ども達ともすぐに友達になり、仲良く遊んでいたようだ。けれども、その関係は何か少しおかしかった。

 友達が柚の言うことを聞くんだ。一緒に遊んでほしいとか、あれをとって、とかそんな単純なものじゃない。誰々はもっと背が高いとかっこいいよね、というと、しばらくしたら急に背が伸びていた。誰々はかしこいね、というと、妻からその子の成績が急に伸びたと聞く。たまたまかと思ったが、その頻度が異常だった。

 高遠が言っていた影響を及ぼしやすいというのはこういうことなのだろうか。今はいい関係ばかりが構築されているような気はするが、なんだか恐ろしい。柚は色々なものを変えていく。一度柚がいじめなんかを始めてしまうと、酷いことになる、そんな予感がした。柚はいじめをするような子ではなかったけれども。


 だから私は団地ではなく、一軒家が欲しくて必死で働いた。団地の人間関係は濃すぎる。いつも同じメンバーが揃って当然のように遊び、暮らしている。この濃い人間関係は、どう転ぶかはわからない。だから柚が他の子どもに影響を及ぼさないように自分たちで家を構える。それがいいと思って。


 高台のある家を見つけた。

 建売住宅でとてもいい家だった。不動産屋は『幸せなマイホーム』です、と言って宣伝していた。私は柚に言った。

 

「柚、ここが私たちの『幸せなマイホーム』だよ」


◇◇◇


 これはひどい。

 部屋の外の廊下を見て思う。この家はこの部屋以外は呪いで満ちた。この部屋の外に魂の状態で1歩でも出たら即死だろう。扉から覗いても恐らく秒で全身が麻痺する。それほどの濃さの呪いが広がっていた。まさに一寸先は闇。お手上げだ。

 扉でも夢でも入れるのはこの柚の部屋だけだ。どうしたものかな。思わず呟きが漏れた


「家、俺はこれをどうしたらいいんだ」

「藤友さん、家がその辺にいるの?」

「いないよ」


 柚と公理さんの声がした。


 現状の分析をしよう。

 今の呪いは位波家のバイアス。位波楓が位波有一を刺した後に自殺し、その繰り返す1日という世界。柚はこの部屋にこもって助けを待っていたはずだ。


「そういえばこの部屋に小さい時の柚はいるのか?」

「とりあえず見当たらない」

「私以外に私がいるの?」


 少しだけ不思議そうな声。

 どうかな。確かに過去を繰り返しているのはそのバイアスに囚われた魂なんだろう。柚の魂は柚として実体をもってここに存在しているわけだから、他に小さな柚がいるのも不自然な気がする。魂が2つあることになる。

 位波楓という『呪いの依代』の死亡によって位波楓がその一日をくり返している。それを前提としても、柚はここから救出された。惨劇のその日を過去に追いやり、そして今に至って柚はここに存在している。

 死んではいない柚はバイアスの中に囚われてはいない気はする。第一柚はこれまでもバイアスの外にいた。そういえば請園恭生のときの第三者機関の男は死んでいるのだろうか。少なくとも1日が繰り返された時点、鳩に毒餌をやった時点では生きていたんじゃないかとは思うのだが。確かめようがない。

 それにあれは繰り返しを発生させた者だから柚とは異なるような気もする。彼がいないと鳩が死なない。柚はここから動かず心中事件自体には関係していない。だから結局のところはわからない。


「九里手さん、今はまだ朝だ。この時間だと位波楓と位波有一は家のどこかにいると思う。俺は部屋の外に出られないから調べてきたら?」

「そうだね、わかった」


 柚はするりと廊下の闇の中に溶け込んでいく。

 本当にお手上げだな。聞いた話では位波楓はこの部屋に入れない。瀧本夏観のように強引に連れてくれば入らなくもないのかもしれないが、少なくとも俺はここを出られない。呪いの中に入れる柚も幽霊は触れないだろう。位波楓をこの部屋に連れてこられるとしたら位波有一くらいだが4歳児と聞く。大人を連れてくるのは無理だろうな。


 さきほどから家は呼びかけても出てこない。これもどうしたものか。

 出れ来られない理由は想像はつくが、いないものは仕方がない。


「ハル、呪いを観察しようよ」

「観察?」

「そう、キワまで寄れる?」


ギリギリまで近づく。塗り込めたような闇で、この部屋の外は、部屋の前だけではなくすべからく呪いで埋まっている予感がする。


「この中に入ったら食べられるよね?」

「まぁ、そうなんだろうな」

「俺、食べられてみようかな」

「ちょっとまて、それは無しだ。何考えてる」

「俺がこの間自分の中から呪いに入った時、食べられてる感覚はなかったんだよ。ただただその呪いの中にいる感じで」

「だとしてもだ。公理さんの魄はもう半分くらい食われてる、公理さんが行くくらいなら俺が行く」

「でもハルが行って死んじゃうと扉が使えなくなるでしょう?」

「公理さんの目がないと俺も対策が立てられない」

「そうか、困ったね」


 そんな話をしていると柚が戻ってきた。表情は出て行った時とかわらない。いなかったのかな。


「2人は1階の和室にいた。でもやっぱりピンとこなかった。初めて会った人に思えるよ。あれがお母さんと弟なのかな。やっぱり話しかけても全然反応がないんだ」

「九里手さんはどうしたいんだ? 瀧本家のように呪いを解きたい? このままがいい?」

「呪いを解くといなくなっちゃうんだよね」

「そうだな」

「あの2人を食べるとどうなるのかな」

「食べたいのか?」

「よくわからない。知らない人と同じ感覚。家族とは思えないかな。だからあんまり食べる気はしない。まだ藤友さんのほうがまし」


 ましとかで食われたくはないんだけどな。

 でも自分を殺そうとした親か。普通は取り込みたくはないよな。

 柚も何かおかしい。瀧本のバイアスのときから、呪いではなく柚自身も相手を食べたがっているような発言が増えた。バイアスの中の者たちを被食者として認識している。

 呪いが柚の魂を捻じ曲げているのだろうか。これまでの『呪いの依代』と同じように?


 それにしてもやはりいたのか。位波楓と位波有一。公理さんも昨日2人の姿を見たと言っていた。やはり霊媒師とやらのせいで瀧本夏観に同化して消えたわけではないんだな。瀧本のバイアスが消滅したと思われた時点で分かりやすく『呪いの媒体』の形状が変化した。そしてそれはとても濃い呪い。位波のバイアスが表面化したと考えていいだろう。

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