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叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧版  作者: tempp
第6章 瀧本家殺人事件

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56/83

有一とあつり

 明後日で夏休みが終わっちゃう。宿題は一応終わらせてるけど、なんだか夏休みの終わりって複雑な気分になる。

 なにかに焦ってるような、もったいないような、悲しいような、大事なものがなくなっていくような。

 結局夏休み中は漫画描いてただけなんだけど。

 32ページの漫画が2本かけた。実はこっそり出版社の漫画賞に応募する予定なんだ。

 むふふとほくそ笑んでると有一君がやってきた。有一君は4歳くらいの子供の幽霊だ。


「あっちゃんまんがみせて」

「もちろんですとも。今日はねぇ、このラズシニィっていう宇宙船がカンクトバトラニーっていう街を爆撃するの」

「わぁ、かっこいー!」


 有一君は内容はよくわからないんだろうけど、キラキラした目で私の漫画をとても褒めてくれる。ちょっとコアすぎて誰も読んでくれない漫画を。絵を褒めてくれるだけでもとても嬉しい。同士よ。


 ノックもせずに部屋の扉が開く。


「もう、お父さん、ちゃんとノックしてよ」

「すまんすまん、母さんが晩ご飯できたって」

「はーい、部屋片付けたら行きまーす」


 危ない危ない。漫画見られるところだった。

 そうだ。フラウにも餌あげなくっちゃ。


◇◇◇


 食材を買って公理さんのマンションに戻ると、公理さんはソファでテレビを見ていた。


「おかえり、遅かったね」

「ああ、柚と飯食ってきた。最初の事件の生き残りだった」

「うん、俺も電話して聞いた」

「昼飯何食いたい?」

「うーん、じゃあカレー。レトルトがあったはず。あ、ほんとにレトルトのを食べたいの。ハルの本格カレーも美味いけど、たまに食べたくなるでしょ? レトルトの」

「はいはい。別に遠慮はしなくていいからな? 料理は嫌いじゃない」


 食材を冷蔵庫にしまいながらの会話。米を早炊きしてレトルトを茹でる。簡単にトマトと胡瓜とレタスでサラダ。

 公理さんが食ってる間に俺はソファに寝転がって調べた内容を共有する。昼の間に原因を特定して、明日の朝に呪いを解きたい。


「なんかさぁ。呪いの影響だと思うんだけど、俺、今柚に食われてもいい気分になってる」

「呪いの影響だな」

「だよねー。それでね、呪いに持ってかれたところが空っぽな気がするの。だから持ってかれたほうにくっつきたいみたいな、ちょっと寂しい感じ」

「そういえば魄を食われるってどういう状況なのかな。真空になってるのかな」


 公理さんに目に見えた変化はないが、呪いの影響が少しずつ出始めている気がする。だが公理さんの中で呪いに対する抵抗感とか違和感がある間は何とかなる気がする。怖いのは、公理さんが呪いの存在を当然のことと認識し始めること。その変質はおそらく自分では認識できない。神目教団の例を見ても。だからよく見ていないといけない。


 俺も失われた指を見る。そう言われれば何か空っぽな気がする。右手で触っても感触は失われたまま。だが血行とか生理学的機序には問題がないせいか健康に見える。

 取戻したいとは思うが向こうに行きたいとは思わないな。奪われている量によるのだろうか。それとも俺の呪いが拒否してるからなのか。


 呪いの性質。越谷泰斗の時のことを考えると、呪いは集まる性質があるように思える。公理さんの魄は大きく2つにわかれ、奪われた魄は大きい。もう1つとは微妙につながっている。すべて食われれば呪いの中に集まることができる。それに公理さんは自分と呪いを意図的に混ぜた。そもそも呪いに対する抵抗が低くなっているのかもしれない。


「俺が食べられると柚の穴が埋まるんだって。なんかエロいよね。食べられちゃおうかな」

「公理さんの頭の中は年中そんなだな」

「まあなんていうか健全な成人男性だし? そういやハルは彼女作んないの? よく一緒にいる女の子いるじゃん」

「あれはない、絶対ない。ただの幼なじみだ」

「わぁ全否定。でも会わなくていいの? かわいいのに」

「あいつは春休み中は実家に帰ってる」


 そういえば柚は彼氏はいないのかな。いても呪いが食ってしまうのか。それとも本質的に食べたいのか。柚は他人を自分に取り込むという形で呪いを肯定している。

 呪いを解きたいのか、解きたくないのか。最終的にそこが問題になる予感がする。

 でもまあ、とりあえず見るか。

 時刻は14時。手を組んで扉を覗く。


◇◇◇


 柚の呪いはゆっくりと追いかけてきたが、気にせず駆け足で家全体を一通り回る。バイアスの消滅による変化と現状の確認は必須だ。1階のリビングには誰の気配もなかった。瀧本家の両親は今働いていないんだろうな。


「わぁ、全然幽霊がいない」

「幽霊? どういうことだ?」

「今までは呪いで死んで一日を繰り返している幽霊がたくさんいたんだよ。神目教団の41人分が大きかったのかな。それが消えたから今は2人しかいない」

「2人?」

「そう。多分柚のお母さんと弟。まあ柚の呪いがちぎれた幽霊を振りまいてるから相変わらず禍々しくはあるんだけど」

「そうか、とりあえず2階に行く」


 2階にも誰もいないそうだ。いるのは柚の呪いだけ。

 柚の部屋に入って家と話す。瀧本家はお互いでお互いを刺して死んだそうだ。だからおそらく、その殺し合いを止めると呪いは解ける、気がする。やはり今までに比べて構造がシンプルだ。そのためには何故殺し合いをするかの理由の特定が必要。


「有一君が走り回ったりして、その音がみんなに聞こえたんだ。あつりさんが有一君をいい子だよって言ったらそこから瀧本さんの家族の仲が悪くなっちゃって、あつりさんがお父さんとお母さんを刺した」

「有一君?」

「そう、あつりさんは有一君と話ができたんだ」


 公理さんみたいに幽霊が見える人なのかな。

 どうやら位波有一と瀧本あつりはこの部屋で仲良くしていたらしい。


「その流れでなんで瀧本あつりが両親を刺すんだ?」

「なんでだかは僕にはよくわからないよ。でも最後の方はずっと喧嘩してた」

「ふうん。でもそうか、仲が悪くなった原因はやはり過去を見ないとわからないか」

「お兄さん、夢はやめたほうがいいと思う」

「だがな、時間がない。今ならまだ柚は帰ってこない。瀧本あつりと両親の関係が決定的に悪化したときが見たい。喧嘩の原因がわかれば説得がしやすい。それに柚の呪いはバイアスの違う夢にはまだ追いかけてきていない」

「それはそうだけど僕はもう呪いが何をどこまでできるかわからないんだよ。扉の方でもバイアスを超えてくると思ってなかったんだ。だから夢の中でも追ってくるかもしれない。そうしたらお兄さんは食べられちゃう」

「それはわかってる。だから夢でこの部屋と瀧本あつりを思い浮かべる。そうすればおそらくこの部屋に出られるはずだ。ここなら呪いは入ってこないから安全だろ? だから夢の中で、家、お前に外に柚の呪いがいるかどうか、安全かどうかを確かめてほしい。だめなら起きる」

「……わかった。でもちゃんとここを思い浮かべてね」

「もちろんだ」


◇◇◇


 こんな夢を見た。

 気がついたら白い部屋にいた。

 知らない部屋。ここはどこだろう。


「お兄さん、こんばんは。思い出そうとしないでね。魔法が解けるから。」


 すぐ近くから声がして袖口が引っ張られる。うん? 誰だ?


「ちょっとまってね。試してみる……、いなさそう。ううん、でも大丈夫かなぁ? お兄さん、何か様子が変になったら、例えば臭いがわからなくなったり耳が聞こえなくなったりしたら、そっちの右腕に書いてある字を見て。すぐにだよ。あ、今はまだ見ちゃダメ」

「うん? よくわからないがわかった」


 しばらくして、こっち、という声に従って部屋の外に出た。その瞬間、慄いた。部屋の外は暗く、まるで海の底のような重苦しさに満ちていた。海に沈んだ沈没船の中を歩くようだ。息苦しくて、身体中が何か粘液のようなものに包まれて、泳ぐようにしか動けない。進むたびに何か粘ついたものがまとわりついて暑苦しい。

 でも首筋が反応しないからさほど悪いものではないのだろうか? 俺はこの感覚に絶対の信頼を置いている。

 1階のリビングでは3つの影が争っていた。


  あなた このおんなをおいだしてください

  おかあさんやめて

  わたしが わたしがつまなのよ

  そんなことはわかっている

  じゃあどうして


「なんで喧嘩してるんだ?」

  このおんながここにいるから

  おかあさんどうしたの わたしよ あつりよ

  あつり あつりっていうのね にくい

  かあさん いったいきゅうにどうしたんだ


 ものすごく嫌な感じの黒い霧が影の一つから漏れていた。

 そうか、この息ができないような空気の流れはこの影からでている。


  ゆういち? ゆういちはどこなの?

  ぼくはここにいるよ おかあさん

  おまえたちはいったいなにをいっているんだ

  だまれ ゆういちをかえせ


 影が1つ増えた。


「ゆういちって誰だ?」

  だれのことかおれにもわからない

  わたしのこどもよ

  ぼくがゆういちだよ

  ちがう おまえはだれだ でていけ

  なにをいっている おまえもだ あつり おまえはわたしのこどもだろう


「ゆういちとあつりはどんな関係なんだ?」

  ちがう あつりはわたしたちのこどもで ゆういちは

  あつりなんてしらない ゆういちはどこ

  ゆういちはここだよ

  ゆういちは

  だまれ ころしてやる


 その瞬間、ぶわりと空気が震え、影の1人から黒い霧が波になり、滲み出て空気を浸食すると同時に額の傷が警鐘を鳴らす。

 何故急に額が? 首筋はどうした。どういうことだ、どうすれば。突然のことに狼狽る。

 逃げようと思ったが俺を覆う空気の粘度が増して動けない。全てがおかしい、そうだ右腕。なんとか右腕を見える位置に動かす。


『これは夢 家の夢』


 夢、家、そうか。息も苦しい。

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