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叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧版  作者: tempp
第5章 カルト教団集団自殺事件

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飛び立つ

 俺たちの魂魄について。

 夢又は扉等を通って直接あの家に行けば、俺たちの魂魄は食われる。

 扉から覗く場合、公理さんは見ているだけであれば問題はない。俺はおそらく扉のギリギリ内側にいるから食われることがないが、家に接しているせいか家の呪いに接した時間に応じて機能が失われる。恐らく魂魄が麻痺するとかそういうことなのだろう。ただこれは一時的なもので、こちらに戻って一定時間過ぎれば回復する。

 それが今まで観測したことから仮定される帰結だ。


 夕方までに何度も扉を覗いた。請園恭生は教団員の首吊りを目にしてしばらく茫然自失となり、その後気を取り直して順番に目をくり出し、目は容器に詰め、松果体を別のタッパに詰めたようだ。


「何故くり抜いてる? あんたの希望じゃないんだろう」

  そうなんだけどね みんなの希望だからせめて叶えたい

  もともと私が言い出したことだし


「叶えたらどうするんだ」

  私も死のうかと思っている

  だがその前に報告をしないといけない

  これまで世話になったんだから


「その目と松果体はどうするんだ」

  目は持って行って供養してもらうよう頼む

  松果体をとりだすために目をくり抜いたけど、そのままにしてはおけないから

  松果体はみんなの希望通り世界を渡らせよう

  なんでそう考えたかはわからないんだけどね 鳩と一緒に世界に羽ばたきたかったんだ


 そう言って請園恭生は松果体の入ったタッパを持って屋根裏に登った。真っ暗で公理さんには屋根裏は見えなかった。俺は饐えたような臭いとがさがさと動く音を聞いた。2人とも見えないのは危険だ。危険に対処できない。急いで目を開けた。

 屋根裏に何かがいる。

 その後、17時半ごろ、請園恭生は目を入れた瓶を持って家を出た。そうすると、やはりここに瓶を持って戻った者がいるということだ。

 公理さんと屋根裏を確認するべきか話し合ったが、結局見えないのに確認も何もないということになりそのまま変化を見守ることにした。


 柚の呪いも柚の部屋に入ってこれない。扉越しならそれ以上汚染は増えない。けれども柚の呪い自体も動けなくなるのだろう。柚の部屋の中にいる限り俺の体に付着した呪いが俺から出ていくこともないようで、感覚は回復しなかった。

 そうすると少しずつ扉を通して呪いをあの家に返すしかない。目を開けていれば喪失は回復する。しかしくり返しはやはり負担が大きく、返す量より蓄積する量が多くなった。回復までにより長い時間がかかるようになった。一瞬明日に回すかという考えが浮かんだが公理さんに時間がない。不調は公理さんに隠す。味覚はもう随分前からなかった。唇をわずかに噛んでも味がしない。バレたら公理さん怒るんだろうな。


 誰もいない間はなるべく細切れに入って負担を減らす。5分に1度、10秒ほどだけ扉を開けて様子を伺う。

 20時過ぎに柚が帰ってから2階の電気をつけてくれた。柚は何故か俺たちが呪いを解くことについては協力的に思える。でも俺たちが魂の状態で扉の中で立ち入ったら恐らく食われるんだろうな。意図がよくわからない。

 2階でかち合ったときに簡単に挨拶をしたが、覗いている限りではあまりこちらに興味がないようだ。それから柚の帰宅で柚の呪いが活性化した。呪いは俺を食わないものの俺に纏わりついた。危険性は上がった。俺の体への滞留と負担が増えた。柚の呪いはこれまでの呪いと違って1つ下のバイアスから『呪いの媒体』を引き寄せているのではなく、やはりそれだけで独立に存在している気がする。得体が知れない。

 ようやく待ち望んだそいつが現れたのは22時を過ぎたころだった。


「いる。なんかサラリーマンっぽい男の人。風呂敷に入った荷物を持っている。多分目の入った瓶」


 そいつは2階の電気をつけるそぶりをしてから、惨状を目にして腰を抜かしたようだ。まあ、目を繰りぬかれた41人分の死体だもんな。その後1階に降りて何か家探しをしたようだ。最終的には屋根裏に目を持っていくのだろうが、所在を見失わないよう時折リビングに降りて様子をうかがう。だが柚の部屋以外では呪いを防げない。しばらく前から既に嗅覚はない。公理さんには言えない。


「何を探している?」

  資料だよ ここに残せない 全部回収しないと


「あんたらは何の団体なんだ?」

  そうだね 主には行動心理学とか行動経済学とかそういう研究をしている

  どういう時に人がどういう行動をとるかだな


「宗教じゃないのか?」

  違う 僕らが興味があるのは人を無意識のうちに誘導する方法だ

  方法は色々ありうる 宗教はアプローチ方法の1つだ

  1つの集団の中で特定の宗教を奉じる者が多ければそれによせたアプローチが必要となる

  特殊な条件下の心理的特異性が行動と心身にどういう影響を与えるかを計測していた

  請園さんのアプローチは独創的で興味深かった

  何故失敗したんだろう せめて理由がわかれば良いのだが

  再現性がない実験は無意味だ


 男が1階の部屋を総ざらいして再び2階に上がるころには触覚は失われた。手の感覚で公理さんにバレないだろうか。

 さっきから細切れに扉を行き来しているが回復が遅い。限界が近い。触覚はもう短時間では回復しない。

 男は屋根裏に上がろうとする。もう少し保て。公理さんに気付かれないように。


  自殺の際に鳩も殺したというなら不自然じゃないだろう


 鳩。そうかそれがあの屋根裏の気配と音の正体。帰巣本能か。帰巣本能は松果体から導かれる。何を考えてそんな発想に至ったのか理解できないが徹頭徹尾松果体だな。

 公理さんの見た窓にいた『黒い幽霊』は鳩の形をしていたようだ。そしてその鳩と信者が『黒い幽霊』で繋がっていたと言っていた。だが公理さんはその鳩の形をした『黒い幽霊』は人であるとも言っていた。1つ下の瀧本家のバイアスに鳩に関連する人物がいるのだろうか。


 鳩が新たな『呪いの依代』。その死亡によって1日が繰り返される。

 鳩は信者の松果体を食べた。家は目と言っていたが実際は松果体なのだろう。信者の願いは世界を巡ること。『鳩と一緒に世界を羽ばたく』。それが信者の、『呪いの依代』が望んだ呪いの効果。

 思えば他のバイアスと異なり請園恭生だけが黒く呪に染まっていたわけではない。あの信者たちも含めて『呪いの依代』だったのかもしれない。越谷泰斗と同じ理屈だとすれば信者の魂は松果体とともにあり、これを食った鳩は信者と一体化するのかな。


 それにしても鳩の餌になって世界を巡るのか。意味が分からない。デカルトを前提にしても鳩の松果体には神は宿らないだろ。動物には精神がないんだから。意味が分からないな。理屈としてもぐちゃぐちゃだ。すでに論理性のかけらもない。だが『呪いの依代』の中では理屈は通っていた。やはり呪いがその精神を変質させたんだろう。

 『呪いの依代』は鳩となり、鳩が死んだ時に1日を繰り返す。だからこの男を止めなければ。鳩を殺さないためにはどうすればいい? 鳩が飛んで行って戻らなければ、呪いのバイアスは消滅するんじゃないか? 考えろ。


「それはまずい。請園恭生は教団員の松果体を鳩に食わせた。伝書鳩なんだろう? 万一鳩が解剖されれば猟奇事件として行先を捜査されるんじゃないか」

  そんな どうしたらいいんだ


「むしろ全部外に出して完全に施錠をして戻ってこられないようにしたほうがいいんじゃないか? この家に止まるから問題なんだろう?」

  そうか そのほうがいいかもな


 ガタガタと窓が開くような音がして、鳩が羽ばたいていく音がした。そして音が消えた。

 しばらくして、とうとう何も見えなくなった。額の傷が唸るように痛む。だがまだ限界じゃない。夢の中で柚と会った時ほどじゃない。もう少し。ぐ。ぅ。限界だ。呪いは切り替わっただろうか? 公理さんが確認してくれているといいが。

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