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叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧版  作者: tempp
第5章 カルト教団集団自殺事件

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取りうる方法

 この家に移り住んでから始めたこと。

 鳩を飼い始めた。

 みんなで祈りを捧げていると、鳩が窓から見ていることに気がついたんだ。

 あれは普通の土鳩と違って、首周りが茶色かった。調べるとキジバトというやつのようだ。足に足環が付いて数字がかかれていた。


 調べるとどうやらここの前の所有者の鳩で、前の所有者は既に亡くなっているようだ。この家にもともと住んでいた鳩か。足環から名前はフラウと読み取れた。

 そのうち誰かが餌をあげはじめた。よくなれているようで、私を含めて他の者にはなかなか寄ってはこないものの一緒に暮らしていたまだ若い女の子だけはすぐ近くまで寄ってくるようになった。


「先生、この子1人じゃ寂しいよ、私たちみたいにさ、一緒に住むお友達がいたほうがいいんじゃないかな。だってここは『幸せなマイホーム』なんだから」


 それもそうかな。そう思って天井裏を鳩小屋に使えるように改造して、9匹の鳩を追加で飼うようになった。みんなで順番で餌をやることになった。

 飼ってみると掃除は大変なものの、なかなか鳩は可愛かった。


「先生がこの前読まれてたご本では動物には神様が宿らないんでしたっけ」

「ああ、そうだな、たしかにそう書いてあった」

「それはなんだか可哀想ね。でも鳥の神様もいるんでしょう?」

「ああ、世界にはそういう神様や神獣もいるね。でもこの鳩は神様ではないからなぁ」


 フラウはクルクル喉を鳴らしながらこちらを見ていた。


「この鳩にも神様が宿るといいのに。何かいい方法はないかな?」

「そうだな、みんなで考えてみようか」


 屋根裏に新しく設置した窓を開けると10羽の鳩が一斉に飛び立ち、ひとかたまりの群れになって、風にのって家の周りをまわっている。薄い青い空に茶色と灰色と白の鳩が舞っている。なんだか清々しい気分だな。

 強い風がピュウと屋根裏に吹き込んだ。


◇◇◇


 公理さんの発想は俺と方向が逆だ。公理さんは最初に結論から考える。俺はだいたい原因から探る。原因から考えて無理な時に初めて結論から遡る。しくじるとどうせ死ぬし結論から考えると可能性が果てしなく広がるから。でももう少し思考の幅を広げたほうがいいのかもしれない。極限だ。可能性を広げよう。


 死ぬパターン。避けなければいけないこと。家に食われること。

 丸ごと食われたらその時点で死ぬだろう。今は部位パーツで食われている。奪われた首筋の外縁の感覚を探る。やはり自動で食い進められることはないようだ。そうであればあの家の中の空間で呪いに食われることを防げば足りるだろうか。

 扉から見ている限りは大丈夫。恐らくこちらから能動的に扉を渡らなければ食われることはない。これまでもそうだったよな。ただし越谷泰斗の時の『呪いの媒体』のように扉を渡ってくるパターンもある。けれどもあの時は渡ってきた時点で積極的な意思は失われたようだ。


 基本的に『黒い幽霊』も『呪いの媒体』も家に憑いているものなのだろう。扉の内に留まる傾向があるようだから、その外には支配が及ばないのかもしれない。あるいは量的な問題なのかもしれない。公理さんもよほどじゃない限り扉に立ち入ることはないだろうし、基本的に事前に相談してもらえるだろう。さすがにすでにヤバいのは理解しているはずだ、おそらく。

 問題は夢だ。俺は夢にいる間はそれが夢だと認識ができない。危険性を夢の中の俺に伝える方法がない。体に警告を刻んでも、いきなり真後ろにいると読む時間もないだろうしな。うん?


「公理さん、何故俺がヤバいとわかった? 扉に何が映った?」

「扉は開いていなかったよ。だから何があったのかは見てない。俺は柚と電話してた。柚はハルがうろついてるけど話せないと言っていて、しばらく話してると急に何かに気が付いたみたいに電話が切られた。そうしたら苦しみだしたから起こした」

「閉じた扉からどうやって入った?」

「……俺の半分は食われてるけどまだ家の中で未消化になってて、そこと少し繋がってる感じがするんだ。ハルが扉に挟まってるのと同じ感覚かどうかはわからないけど、体の中に向こうと繋がる扉、膜のようなものかな? そういうのがあるような。そこからハルを呼んだ。自分でもどうやったのかわからないけど、多分その膜を通ってハルに触った指2本分の魄がとられて。その時点でハルが起きた」

「それは自由に通れるのか?」

「ううん、咄嗟だったからよくわからない。どちらかというといつもは怖いから繋がらないように拒否してる感じ」

「なら、今後もそれを継続したほうがいい。それから俺がやばくなった時、家から呼びかけはなかった?」

「そういえば今回はなかったな」


 いつもなら俺を起こすのは家だ。

 いつもと違う点は柚が絡んでいること。今回の柚の行動は2パターンに分かれた。

 最初は俺が話しかけても反応がなかった。次に振り返った時はその目は俺を捉えていて、手を掴まれて動けなくなった。力が強いというよりはあの空間に縫い付けられたような感覚だった。

 過去のあの時点に俺はあそこにいないし柚と面識もない。なのにあの柚は『見てるだけじゃなくて来てくれた』と言った。あの柚はあの過去の時点より後の時間軸にいる柚。それに柚は能動的に動いていた。そうするとあれはリアルタイムな現実の柚の意思なのか? 何が違う? あの柚はなんだ。


「俺が電話した時、ハルは過去の夢の中にいたんだよね? 柚はハルがいるのが今の現実と違うところだと気が付いたんじゃないかな」

「今と違うと気が付いた?」

「そう、だから柚は過去にずれた時間を現実に合わせたの。ハルが現実にいたと考えないと俺が夢に入れる意味が解らない。夢は家の過去の記録だろ? 夢で現実の柚と会ったときに過去の柚はいた?」


 思い出す。過去の柚はソファに座っていたが、振り向いて柚が目の前にいた時にソファにはいなかった気がする。俺が和室を覗いてから振り返るまで数秒ほどだっただろうから見失う可能性は少ない。


「それなら多分、どうにかして過去にいたハルを現実につれてきたんだと思う。さすがに俺が過去に潜れるとは思えない。過去の時点とか家の記憶って俺には把握しようがないじゃない?」

「確かにこのそうだな……じゃあ俺が食われたのはおそらく現実でのことだ」


 そうすると今後夢に入るのは難しいか? 夢に入れば現実に引き摺り込まれて死ぬのか。正直もう夢には入りたくない。

 いや、今回は特殊だ。今回の過去は現実と繋がる柚の構築途中のバイアス上での出来事だ。だから世界線が異なる請園恭生のバイアスに潜るときは事情が違うかもしれない。

 だが万一あの柚と家にバッティングしてしまえば、次は逃げられるとは思えない。しばらく夢に入るのは控えた方がいい。怖い。


 もう1つ、気になるのは扉が開いていなかったということ。

 いつも夢の中ではヤバくなる前に家が夢だと告げて世界が壊れた。その時に恐らく過去と現実を繋ぐ扉が開く。開けているのは恐らく家。今回は公理さんが夢の中に無理に入ってきて初めて俺は夢であることに気付いた。公理さんが助けに来なければ俺はおそらくあのまま喰われて死んでいた。


「公理さん、鏡は割れてる?」

「うん? 特に割れてる感じはないよ」


 今回は家が扉を閉じたわけじゃない。

 そもそも橋渡しはなかった。家は俺をこちらに帰そうとしていなかったということだ。いつもは夢と公理さんの間で緩やかに橋渡しがなされて段階的にこちらに戻っていた気がする。家が無理に戻そうとした時は鏡が割れた。

 夢を出たときの痛みを思い出す。俺が無理に戻ろうとしたときの瘡蓋を剥がすようなベリベリした痛みがあった。だから今回扉を無理に開けたのは俺。


 家は呪いと同じものなのだろうか。柚は人を殺しているのは家だと言った。公理さんも最初に歌菜を食っていたのは家と言った。その前提だとさっき俺を食ったのも家で、和室にいた薄い影は請園伽耶で家が食ったのだろう。公理さんがいなければおそらく俺も全部食われた。

 そうすると、やはり訪れた人間の魂魄を直接食っているのは家? 現在時点の未完成の柚のバイアス上で呪いを遂行しているのは家自身なのだろうか。だがそれなら何故呪いを止めようとする?

 家は柚の部屋以外は正気が保てないように言っていた。家ってなんだ。呪いを実行する家と俺に呪いを止めるように言った家は形は同じでも意思が2つあるということなのだろうか。家に聞かないとわからないな。保留。


 方針の策定。

 そうだな……。何もしないという手はない。公理さんのためにも早期解決は必須だ。

 明日柚がいない時間帯に扉から入って家に聞くのがいいのかもしれない。扉の安全性も不確かだが他に方法がない。夢よりはまだ即死リスクは低そうだ。

 ……それまでは公理さんを寝かさないとだめだな。限界そうだ。俺はそれなりに寝たからな。ああ、俺は自分のことばかりだな。心配そうな公理さんの顔を見て逆に少しおちついた。心配をかけても仕方がないしな。申し訳ない。

 つまみでも作るか。


「公理さん食べたいものあるか?」

「なんとなくグラノーラな気分」

「寝る前にグラノーラ食うのか? 変なやつだな」

「あのカリカリしたの好きなんだよね。フルーツ入れてね」


 フルーツをたくさんカットする。グラノーラって酒に合うのかな? とりあえずラムを温めて砂糖とバターとシナモンを入れる。ホットバタードラム。いい香り。ラムの香りは好きだ。めったに作らないがケーキに入れたりもする。本当は割るのがいいんだろうけど俺は飲めないから適当。あぁ、失敗したな。重めの耐熱マグは片指3本じゃ持ちづらい。

 俺のせいだ。全部。ああ、だめだな、気をつけないと意識がマイナスに落ち込む。よくない。


「寝れそうか?」

「多分ね。温かい甘い酒もたまにはいいな。ぽかぽかする。なんか久しぶりにゆっくり寝れそう」

「そうなのか? 変なやつだな」

「右手も全部動かなくなったらあーんしてくれる?」

「まあ、仕方ないな」

「ハル、まじめだねぇ。入らないようにするよ、なるべく」


 本当に俺は自分のことばかりだな。少し反省した。公理さんは俺のためにさらに指2本を失った。……すまない。本当に。


 今のところなんだかんだ言って身の回りのことを手伝おうとすると断られる。移動以外は1人でなんとか風呂トイレもこなせるようだが指が動かないと厳しいだろう。正直、公理さんは俺より背が高いから介助は結構大変だ。消化される前に取り戻さなければ。

 だが不確定な状態で夢に入るのはリスクが大きすぎる。俺が死ぬと結局公理さんの魄も取り戻せない。他に何か手はないか。

 うつらうつらしている公理さんに毛布をかけながら考えた。

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