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叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧版  作者: tempp
第5章 カルト教団集団自殺事件

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食べちゃった

 なんだか白いな。ここはどこだろう。

 フワフワしている気がする。

 左右を見渡すと影が忙しなく動いていた。


  そろそろおいのりのじかん

  そうね きょうはなににいのろうかしら

  そらをとんでとおくにいきたいなぁ

  きのうはにほんむかしばなしをよんだ


 三々五々になごやかな声が聞こえる。

 なんだか楽しい気分になって来た。


「私も何か読もうかな」

  なにをよまれるんです?

  じょうねんろんですか?

  ししゃのしょ?

  よみあいをするのもおもしろいですね

  わたしはきょうはしゃもんかきょうにしようかな

  やっぱりかみさまをかんじるにはいらないところをはぶくしかないですよね


「いらない所?」

  まえにせんせいがおっしゃってた

  かみさまはひとにひとしくたましいをわけあたえた

  たましいだけになれれば わたしたちのすべてはかみさまになるのでしょう?

  かみさまをもっとかんじたい


 そのような声に耳を傾けていると、それぞれに何かを読み上げる声が響いて来た。様々な声はそのうち唱和し、一体化していく。

 気づくと私の口からも音が出ていて、多くの音と混じり合っていた。

 頭の奥がじんわりと痺れる心地がする。自分の内より何かが出でる。これはなんだろうか。なんだか黒い。それが皆からでた黒いものと混じり合う。それを神がどこかからみている。そう、あそこから。

 なんだか心地よくて夢のようだ。

 ……そうか、これは夢なのか。

 そう気づいた瞬間。世界はバラバラとひび割れ崩れ落ちてゆく。

 あぁ、私ももう少しここにいたいな、と思った。


◇◇◇


 さて、どうするかな。

 時刻は20時半。柚は家に帰っているかもしれないし帰っていないかもしれない。帰っていても帰っていなくても、いずれ俺が見ていることはバレてそうだ。いつわかるのかな。越谷泰斗は夢で家に入るときに『呪いの媒体』に包まれた。越谷泰斗であれば家に帰ったタイミングのような気はする。

 柚がリアルタイムでわかるのか、あるいは家に帰宅した時に何らかの方法で家か呪いから情報を受け取るのか。それはわからないが、知られる以上もはや侵入の時間を調整する意味は柚に追い出される可能性の有無の違いしかない。


 それに俺は招かれた。だから追い出されはしない気はする。そうであれば一度行って話をするのも手だろう。だが、今は公理さんがダメージを負っているから下手を打ちたくない。公理さんをこれ以上傷つけられない。それに視覚は俺の生命線だ。

 んん、公理さんが家に入ったように柚があの家からこのマンションに出てくる可能性はあるだろうか。越谷泰斗の時は呪いは扉を超えて出てきたが、あれは単に『呪いの媒体』で蠅の実体を伴うものではなかった。


 柚と交流する目的と効果の検討。

 そもそも俺の1つ目の目的は俺に降りかかった家の呪いの解消。扉の消去。それから2つ目は公理さんの魄の奪還。3つ目はあの家から柚を連れ出すこと、

 柚の立ち位置がわからないことによる問題点。柚の意思と状況認識を聞くことは肯定にしろ否定にしろ3つ目の解決に役立つ。これまで家と話した結果では、家は呪いの存在を望んでいない。だが柚は柚の家で人を殺しているのは家であるかのように言う。

 仮に柚のいうことが本当で家が人を殺しているのだとしても、人を家に連れて帰るのは柚だ。柚は人が死ぬことを前提に家に連れて帰っているとしか思えない。全員かどうかはわからないが、柚が連れてきた人間の多くは死んで2階で冷蔵庫に詰まっている。つまり、柚は既に呪いを実行し不幸を拡散する存在になっている。既に『呪いの依代』である可能性。

 これまで最後のバイアスを消滅させたら家の呪いは解けると思っていたが、そんな単純な話ではないのかもしれない

 公理さんも俺も招かれた。普通に考えると家に入れば殺される。柚がいる場合はそのリスクがある。だが俺は扉を覗いていても目を開ければ逃げられるはずだ。柚は物理的には扉を超えては来ないだろうから公理さんは安全だろう。さてどうしたものかな。


「ハル、柚に会いに行こう? 直接話したい」

「……わかった。ただ、ヤバいと思ったらすぐ戻る。公理さんは絶対に中に入っちゃだめだ。本当に駄目だ。それからもし呪いか柚が扉を通ってこちらに来そうになった場合はすぐに言ってくれ。言えない状況なら、そうだな手に爪を立てるとか、なんらかの方法で知らせてくれ。すぐ打ち切る」

「わかった」


◇◇◇


「あらいらっしゃい。お茶は……飲まないのかな?」

「こんばんは。今日は挨拶に来ただけ」

「忙しないのね。……んん。今日は接客モードじゃなくていいよね」

「どうぞご随意に」

「そっちもタメでいいよ」


 リビングで目を開けると目の前のソファに柚がいた。

 靴の販売をしている時とは少し雰囲気が違う。まあそれはそうか。ここはプライベートだ。今の柚に敵対的な気配はない。小さい声で背後に異常はないか公理さんに呼びかける。


「ないけど何かの気配で満ちている」

「呪いか? それとも家?」

「家に近い気はするけどよくわからない」


 今のところ不運の予兆はないし、呪いの姿も家の姿も見当たらない。だが、確かにいつもの扉には感じなかった妙な雰囲気がある。柚がこちらを認識しているからだろうか。


「聞きたいことがある。あんたはこの家にいると影響を受けるタイプだろう? なぜ住んでいる」

「ここが私の家だから。それだけ」

「ここじゃなくてもいいだろう?」

「家賃が凄く安いの。たった18000円」

「ここの家のことはどのくらい知っている?」

「多分全部かな」


 全部。かえってわからないな。俺の立ち入り、公理さんの魄の喪失。家と呪いの存在。それから?


「請園伽耶を招いたのは偶然か?」

「伽耶ちゃんはただの友達だよ。色々お話聞いてたら昔ここに来たことあるって言ってたからびっくりしたけど」

「どうして殺すんだ? 友達なんだろ?」

「わお、ストレート。でも私が殺してるんじゃないんだよ。けどまあ確かに呼んだのは私だね」


 それを未必の故意という。殺そうと思ってナイフを刺すのが確定的故意。

 別に死んでもいいと思ってナイフを刺すのが未必の故意。

 家が殺してもいいと思って連れてくるなら未必の故意。


「もし家が殺さなかったらどうするつもりだったんだ?」

「別にどうもしないよ、それはそれでかまわないし。でもそうはならないだろうなとは思ってる」

「公理さんや俺を殺したい?」

「殺したいわけじゃないんだよ。どっちかっていうと仲良くしたいんだ」


 よくわからないな。殺されると思いつつ殺したいわけでもなく、殺す行為を仲良くするつもりで行う。ただ、柚自身は矛盾を感じていないようだ。ひょっとしたら既に呪いの影響下で、魂が変質しているのかもしれない。

 柚は既に『呪いの依代』なのだろう。『黒い幽霊』に接触して『呪いの媒体』を引き出し、その効果として『呪いの媒体』に人を殺させてる。

 まあ、あの家だもんな。最初に訪ねて行ったときの坂道を滴り落ちる『呪いの媒体』を思い出して、『呪いの家に住む』ことの異常性を再確認する。


「ちょっと部屋を見せてもらっていいかな」

「いいよ、電気はつけてあるからご自由に」

「……ありがとう」


 俺は公理さんに後ろを見張るよう小さく伝えてからリビングを出て階段を上る。

 2階の正面の部屋。昨日扉を閉じたのが18時過ぎ。今は21時前。集団自殺事件の死亡推定時刻はわからない。1日は切り替わっているだろうか? 切り替わっていなければ少し覚悟がいるな。

 2階正面の部屋の扉をすり抜ける。電気がついて明るいが、やはり俺には何も見えない。広くて何もない部屋だ。


「公理さん、振り返ってもいいかな」

「うん、つまりアレだよね、ええと、……大丈夫」


 大丈夫かな。公理さんが心配だ。駄目ならすぐに目を開けよう、と思って振り返る。

 うわぁという声と同時に一瞬手から力が抜けるがすぐに握り返される。


「大丈夫か?」

「ハハハ、大丈夫じゃないけど一応覚悟はしていたから」


 乾いた笑いが漏れ、組み合う右手が少し震えている。俺は喜友名晋司のバイアスが消滅する時にたくさんの影が天井から垂れ下がっているのを見た。『呪いの媒体』が形作った姿だから少し違うだろうが、公理さんの反応からは状況は同じか。


「どうだ」

「ちょっと左右を見て……うん。ええと、41体。報道された人数と同じだ。それから右目が繰りぬかれてる」

「そうか、『黒い幽霊』や『呪いの媒体』の影響はあるか?」

「……死体の中に入ってるならわからないけど見た感じはない」


 ……中、か。考えてなかったな。『黒い幽霊』はわからないが『呪いの媒体』が中に入っているなら俺には透けて見える気がする。喜友名晋司の絵のように。あれは絵の具の下に黒い四角があったはずだ。だから『呪いの媒体』は今はない気がする。

 そういえばすでに死体があるのに『呪いの媒体』も何もないのは変な感じだな。どういう状況なんだ?

 部屋を出て柚の部屋に向かう。


「家、いるか?」

「こんばんは、お兄さん」

「柚はお前が人を殺していると言っていた。そうなのか?」

「……」


 少しの沈黙。それでおおよそ答えはわかる。柚の部屋の外では家も正気を保てないといっていた。言いたくないなら別にいい。


「柚は俺たちのことを認識している。これはいつからだ? 最初は目の前に立っていても気づかれていなかったと思う」

「柚ちゃんにお兄さんが追い出された時から。柚ちゃんとお兄さんの目が合って、呪いがお兄さんの扉と柚ちゃんを繋いだんだと思う」

「それからは常時俺が見ていることがわかるのか?」

「ううん、お兄さんとこの家を繋いでるのは僕。僕は家だからずっとここにいる。外に出られてもほんのちょっとの時間。だから柚ちゃんが外にいる間は柚ちゃんにはわからないと思う。でも帰ってきたらお兄さんが覗いていたかどうかわかるみたいなんだ。どうやってるのかはわからない。僕は特に教えていない。というか、僕は柚ちゃんと話せないから」


 寂しそうな声がする。そういえば家は家の中の者と話ができないのか。小藤亜梨沙をこの部屋に連れて来た時も話せないようだったな。


「柚は扉を通じて俺たちの方に来ることはできるのか?」

「そっちのお兄さんみたいに魂だけなら行けるのかもしれない。でもわからない」

「公理さん、俺と一緒にいる人の魄の半分がそちらにある。柚は返すと言っていたが、そういうことは可能なのか?」

「……多分それは逆で。お友達のお兄さんがこっちにまた来たら、こっちに残ってる方に全部くっつけるつもりなんだと思う。家にある友達のお兄さんは呪いと混じってるから、そっちにいるお兄さんがこっちにきたら呪いに全部まざる」


 やはり普通に返すつもりはないんだな。柚にとって俺や公理さんはどういう存在なんだろう。どうしたいんだろう。何故殺す?


「呪いから公理さんの魄を分離することは可能か? 今の請園恭正のバイアスを消滅させれば取り返すことはできるのか?」

「無理なんだ。もう僕が食べちゃった。ごめんなさい」


 食べた……だと!?

 同様で手に力がこもる。

 正面から、ハル? と尋ねる声がする。


「でもまだ消化してない。僕がお友達のお兄さんを食べきる前に呪いが全部なくなったら、残った分は返せると思う」

「ちょっと待て、家、お前は何なんだ。呪い本体なのか? どのくらい時間がある?」

「わからない……多分5日くらいかな。あと本当にごめんなさい」

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