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叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧版  作者: tempp
第5章 カルト教団集団自殺事件

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目の写すもの

 頂いた本を読んでいた。

 『方法序説』という。デカルトという人が書いた哲学の本。哲学書を読むのはは初めてだ。なかなか面白い。

 真実は何かと考えるにあたって、真実ではない可能性があるものを全て排除することから始まる。そこには自己の肉体や感覚も含まれる。全てを削ぎ落としたとき、ただ一つ残るもの。


 我思うゆえに我あり?


 精神が何かと考える以上、『考える主体』としての精神自身は存在するということか。なるほどそれはそうなのかな。そしてその魂、つまり精神は神が等しく分け与えたものなのか。神は前提なんだな。

 哲学というから神を否定しているものかと思った。少し読みやすく感じる。


 それで魂で感じられるもの、数、自然現象、物理、そういった世界を紐解くものを人間は神の与えた魂で観測する。その魂には神が宿り、自身が神の構築する超自然界を認識することができる。

 ただし暑いとか寒いという感覚は体が感じることだから含まれない。まあ、肉体の感覚というのが確かに神の御技ではないというのは納得できる。

 ふむふむ。


 パタパタと音がする。

 神はどのように世界を見ているのだろう。神の目には世界はどのように映っているのか。そんなことを思いながら窓を開けた。

 爽やかな風が室内に吹き込み部屋を明るく照らす。

 この窓から飛んでいって、広い世界を巡れたら楽しそうだ。どこまでも青く晴れ渡る空を見ながらそう思った。


◇◇◇


 辻切ツインタワーを出た直後にLIMEが鳴る。


ForU♥:是非に是非に! 珍しいもの食べたいです!

できれば営業的に使えるやつ! 6時過ぎに伺っていいですか? 15:20

藤友晴希:わかりました。お待ちしてます。 15:26


 珍しいもの?

 営業的にということは女性に受ける且つ珍しいものか、うーん。やっぱり華やかなものかな。


 カラフルさをメインに組み立てる。

 メインにナスとズッキーニのトマトグラタン。紫と黄緑と赤とチーズの黄色が映える。お洒落かな? 

 それから一口で食べられるものも好まれたような。

 スライスした大根マリネを皿に見立ててその上にスモークサーモンとプチトマト、ケッパーと小さくカットしたレモンを乗せてバルサミコとオリーブオイルで和えたやつ。大根そのままだと乾燥してシワシワになるから一工夫。一口で見栄えがいい。奇麗に崩さずに盛るには少しだけコツがあるんだ。

 それだけじゃ何なので、女性受け定番だけどエビとアボカド、にタラモを加えたサラダ。盛り付けに一工夫。それからえーと。ジェノベーゼソースの帆立のカルパッチョ。ホタテの白とソースの緑が映えるけど色味が少し寂しいかな。スライスした赤カブを添えようか。

 うーん、肉が足りないな。

 2センチ角に牛ブロックをカットしてキャベツで巻いて楊枝で止めたのをグラタンで作ったトマトソースと一緒に圧力鍋にかけたひとくちブロックロールキャベツ。前に作った時に女子に口を大きく開けずに食べれてしかも可愛いと褒められたことがある。たいして珍しくもないかもしれないがこれでいいか。あとはいつも通りバケットとチーズとナッツを並べよう。


「藤友君うちに嫁にこない?」

「だーめ、ハルはうちの専属なの」

「いかない、却下」

「とくにこのロールキャベツ、モテそう。お店とか開いてるならデートで行くから教えて」

「ハルは高校生なの」

「えっまじで? やっぱ嫁に来て」


 かしましい人らだな。女性向けな仕事柄こうなるのかな? 男がキャッキャウフフしてるのは何か違和感がある。別にいいけど。


「それで請園恭生について聞きたいんだ。信仰とかそういう話」

「えぇ? あぁ集団自殺調べてるんだっけ。そうだなあ、あんまりよくは聞いていないけど」


 やはり『あんまり』の定義がよく分からなくなる。

 基本的にはHPに乗っていた通りの人物のようだった。まじか。くらくらする。

 密教の修行をしていたころに奥さんと知り合って伽耶さんが生まれる。しばらくは一緒に過ごしていたが、請園共生自身はフラリと旅に出たり山籠もりをしていて自由人だった。

 基本的には伽耶さんはお母さんとその親戚に育てられていた。請園恭生が山籠もりをしている間に伽耶さんのお母さんが亡くなった。急性心不全らしい。

 伽耶さんはなんとか伝手を頼って請園恭生に連絡をとった。連絡はとれたが精霊に忙しいとかで帰ってこなかった。その時伽耶さんは14歳。母方の親戚の家に預けられたようだ。無茶苦茶だな。

 その後伽耶さんが18歳の時、請園恭生は突然神の啓示を受けたと言って親戚の家に伽耶さんを引き取りに来たが伽耶さん自身に拒否られる。まぁ、なんていうか、気持ちはわかるぞ。18歳なら自立できる。俺でもそうする。宗教家の親というのはいろいろ辛そうだ。


 その後、請園恭正は伽耶さんの住んでる親戚の家の近くのアパートを借りてなにやらわけのわからない宗教活動を始める。伽耶さんは嫌気がさして大学に行くのを機に引っ越した。請園恭正はその後もそのアパートに住み続けた。それから20年ほど請園恭正は同じような暮らしをしていて、10年ちょっと前にあの家を購入してに引っ越してきた。

 ずっと空き家でかなり安かったらしい。

 請園恭正は結婚した当初から奥さんに、奥さんが亡くなってからは伽耶さんに毎月多額の仕送りをしていた。だから伽耶さんは今まで働かずに暮らしてきたらしい。

 請園恭正が何故金を持っているのかは誰も知らない。請園恭正が働いているとは思えない。ひょっとしたら実家が金持ちなのかもしれないとみんなが思っている。


「伽耶さんは請園恭正のほうの実家を探したりはしなかったのかな」

「なんてゆーか、関わりたくないって思ってたみたい。そっちの親戚とは会ったこともないみたいだし。まーそーだよねー、なんか変人な気がするもん」


 気持ちはわかる。変なやつの親はだいたい変なやつだ。


「そうすると伽耶さんが請園恭正と一緒に暮らした時期はほとんどないのかな」

「そうみたいだね。でも結局伽耶ちゃんは生活費もその教祖様に頼りきりだし、たまに呼び出しがあった時に嫌々行ったとは言ってたな」

「呼び出し?」

「うん、よくわかんないんだけど謎の儀式をするんだって。で儀式終わったら100万単位のお金貰って帰ってくるんだって。そのころに俺のお客さんだったらよかったのにねー」

「儀式ってどんな?」

「うーん、聞いた話だとみんなで好き勝手祈るのをただ見てるだけだって。それで最後に神の目なんたらって祈るの。なんだかよくわからないんだよね。伽耶ちゃんもあんまり説明得意じゃなかったし」


 公理さんのグラスにボトルを傾け、内倉さんのカップにコーラを注ぐ。

 内倉さんは仕事前は飲まないらしい。酒キャパはお客さんのためにとってあるんだとか。内倉さんはグラタンをお気に召したようだ。青いココット皿がどんどん空になっていく。


「うっちー、神目教会だから目に祈ってるの?」

「うーんそういえば神目ってなんなんだろうね? 公理んわかる?」

「神様の目じゃないの?」

「公理ん、神様の目ってなんなのさ」

「神様がいて、その目?」

「まて、そもそも神目教の神は何なんだ?」

「そこなんだよね。聞いてる範囲では日本の神様でもイエスキリストでもお釈迦様でもないみたいだけど、みんなそれぞれに別々なものに祈って最後に神の目に祈る」

「別々なもの? 同じ宗教じゃないのか?」

「なんでもいいの? それじゃあ空飛ぶスパゲッティモンスターは?」

「ハハ、それもありなのかも。でもそういうのって宗教としてありなの?」


 空飛ぶスパゲッティモンスター教。

 ダーウィンの『神と断絶した進化論』と『全ては神が創りたもうた創造論』が争ったときに、神が作るならスパゲッティが作ってもいいじゃないか、というアイロニーにプロダクトデザインされた宗教。


「どういうことだ? 結局神目教には神はいないのか?」

「うーん、伽耶ちゃんの言ってることだからやっぱりよくわかんないんたけどさ、伽耶ちゃんの認識だとどの神様に祈るかはどうでも良くて、神を信じる事が大事みたいっていってた。じゃあその神ってなんなのさっていうね? 正直俺にはよく分かんね」

「結局神の目ってなんなの? 神はいないわけなの?」

「だからわかんないって。公理ん、俺にお金以外のこと聞かないでぇ〜」


 神を前提としないけれど神を信じることが大事?

 ホームページには信仰は自由だと書いてあった。そもそも宗教団体がそのホームページでわざわざ自身の教義について信仰が自由と書くだろうか?

 なんだか物凄い違和感があるな。何かおかしい。


「神目教には教義とか禁忌はなかったのか?」

「うーん、聞いた範囲では神の目が見てるから正しい行いをしようってだけっぽい。伽耶ちゃんは雰囲気がなんか気持ち悪いって言ってたけど」

「なんか雑じゃない? 何をする集まりなんだろう」

「よくわかんないよね」

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