お宝を探せ!
公理さんが起きるまでにつまみが4品できた。酒は勝手にセラーからとってきてデキャンタしといた。
起きて開口一番俺を怒鳴りつけようとした公理さんは、目の前に広がる酒とつまみに振り上げた拳をそっと下した。チョロい。
残った鶏肉で作ったアヒージョ、薄切りにした蓮根フライ、茹でただだ茶豆、トマトのマリネ。それから切ったバゲットとドライフルーツ、各種チーズを皿に盛って、小皿にオリーブオイルと蜂蜜を添えた。
「……ハル、うちに住んでいいよ」
「何が見えた?」
公理さんは一瞬口元に手を当てて少しえずく。
そんなに酷いのか……。
「ごめん。もうちょっと後にして、まじで」
「わかった、すまない。それからしばらく休みなら頼みがある」
「……何?」
明らかに警戒した声。俺の信用が低下しているのを感じる。
「たくさんつまみ作っとくから俺が寝てから1時間半くらいたったら、それか少なくともヤバそうになったら起こしてほしい。どうせ明け方まで寝られないんだろ? 公理さんが眠くなったら起こして。俺は朝、公理さんが寝てる間に図書館に調べ物に行く。鍵を出しておいてもらえればドアポストから中に入れておく。友達とあの家の件は早く終わらせたいだろ?」
少し考え込む公理さんの前にあるグラスにワインを注ぐ。スペインの赤からはざらついた香りがした。俺はコーラ。チーズに蜂蜜を乗せて齧る。いいチーズはやっぱりうまいよな。俺は渋い緑茶が飲みたくなってきた。変かな? コーラより合う気はする。
「毎日同じくらいの飯作ってくれるなら」
「了解。それからできれば起こす時に殴るのはやめて欲しい」
「え~、だってハル、揺すっても起きないんだもん」
「他に方法があるだろ、首を冷やすとか?」
「首?」
「そう、グラスとか、濡れタオルでもいい」
「俺酔っ払うからなぁ」
「俺が死んだら公理さんも死ぬぞ? 声は聞こえないんだろ?」
「うぐぐ、頑張る」
次は大量不審死事件。
詳しくはまだ調べていないが、あの家の中で十数人の死体が見つかった。見つかった原因は異臭。周辺住民から苦情があり、警察官が立ち寄ったところ庭側の窓が割れて開いていて、中から死体が見つかった。それぞれの死体の関連性はない。
異臭がするということは腐乱しているということだ。公理さんが見た光景を確認するのは明日にしよう。今は気持ちよく酔っ払っているから。
「そろそろ寝る。ベッド借りる」
「おやすみ」
「ああ。また明日」
目を閉じる前に見た公理さんはつまみにご満悦のようだった。
◇◇◇
こんな夢を見た。
どこまでも広がる白い空と白い地面。俺は高台に座っていた。遠くで高い建物がキラキラときらめいていたが、霞がかかっていてよく見えない。
誰かが俺の袖を引く。
「お兄さん、ありがとう」
うん? なんだ?
隣に誰かがいるような感触。だが姿は見えない。
「お兄さんすごいね。僕は話しかけても全然聞いてもらえなかったから」
「いじめられてるのか?」
「ううん、僕はどっちかっていうといじめているほうなのかな」
そうなのか? 声はむしろ穏やかそうに聞こえるが。
「次の人たちは色々なんだ。色々な人が僕の家にやってきた。なんだか僕の家で家探ししていたっぽい」
「へぇ、何かお宝でもあるのか?」
「ないよ。なにもない。でも色々探してた。その人たちは今もまだ家にいる」
「ふうん?」
白い世界。そういえば反対側は何があるんだろう。
「お兄さん、振り向かないで」
うん?
「僕はお兄さんともう少しお話がしたいの」
「なんの?」
「……そうだなぁ。お兄さんにとって『幸せなマイホーム』ってどんなもの?」
『幸せなマイホーム』? 少し、頭が痛くなった。
幸せ、か。幸せってなんだったかな。もう随分遠い響きだ。俺は不運に呪われている。幸せなんてあるのかな。住んだら幸せになる家?
それが幸運であっても不運であっても、他の者に運命を捻じ曲げられるのはもう嫌だな。それはやっぱり呪いのようにしか思えない。
俺と逆で幸運に振り切れてる奴が友人にいるが、正直ああなりたいかといわれると疑問だ。むしろ断る。普通がいい。
「幸せってなんだ?」
「なんだろうね、僕にはよくわからないけど、多分住んでる人が笑ってることじゃないかなと思ってる」
それはなんだか幸せそうだな。でも。
「それは別に家が幸せなんじゃなくて幸せな人が住んでるだけなんじゃないのか?」
「そうか、そうかもね。でも僕の家に住んでる人は最初は幸せでもどんどん不幸になっていくんだ」
どんどん不幸、という言葉が俺に刺さる。俺はそもそも大体不幸だよ。どん底だ。でも俺の中には不幸以外のものもある。どん底でも、大事な友達とその思い出がある。
「不幸であっても不幸だけが全てじゃない。俺は不幸だけど大事なものも持っている。不幸だけを見ているか、それ以外も見ているのか、その違いじゃないのかな。ただ、幸せな家、不幸せな家、というのがあるのだとしたら、何かのバイアスが働いているんだろう。そちらの方向に住む者の意思や運命を捻じ曲げる何かが」
「そうか、そうかもね。お兄さんありがとう。お兄さんはその1番上のバイアスを1つとってくれた」
「俺が?」
何のことだ。
「お兄さんありがとう、話せて楽しかった」
隣で立ちあがる気配がした。つられてそちらを振り向くと、目の端に色が映る。
なんだ? と思って見ると、そこには一軒の家があった。
家。これは。そうか。これは夢。また、世界がひび割れ始める。
「家、お前は不幸なのか?」
返事の前に俺は目を覚ました。やはり頬の痛みとともに。
◇◇◇
濡れタオルで頬を冷やす。まじ痛い。
呪いを解く前に俺の歯が全部砕けそうだ。
「公理さん、もっと穏当に起こして」
「らっておきらいんらもん」
すっかり目が座っている。話すだけ無駄だな。起こしてくれただけで御の字だ。悪い人ではないんだがやはり公理さんをあまり信用しない方がいい気もする。夢を見たくない時はきちんと目覚ましをセットしよう。
外はまだ暗いが時刻は4時半。中途半端だし、もう一度寝ても起きる前に公理さんが寝そうだな。起きるか。
体を起こして布団を明け渡し、俺のかわりにベッドに倒れた公理さんに布団をかける。一応俺が起きるまで待っててくれたんだな。だが。テーブルを見るとまさに『食い散らかされた』という様相だった。それにひどく酒臭い。
ラップを買ってきといてよかった。手早く食べ残しを片付け、窓を少し開けて換気する。さらりと夜明け前の独特な風が室内に入り込む。今日も無事に夜を超えた。
家の情報では、次の事件ではいろいろな人が宝探しに来たそうだ。図書館で以前ざっと新聞を調べた時も死体に関連性はないようだった。
色々な人、というのはSNSとか街BBSを連想させる。それから宝探し。そういえばその前に住んでいたのは喜友名晋司、画家だ。宝と言うのは絵だろうか?
街BBSを検索する。
『辻切 喜友名 宝』 3件
神津廃墟スレ ★8
1 神津名無市民 6/03 17:19:49 ID:C2PwK2YB
ここは神津市内の廃墟について語るスレです
このスレは廃墟への侵入を推奨するスレではありません
廃墟は霊以外にも物理的危険、DQN的危険が潜んでいます
廃墟に侵入する場合は完全自己責任でお願いいたします
>>前スレURL
958 神津名無市民 11/02 17:19:49 ID:a2b5aeT2
北辻の芸術家廃墟のうわさってマジなん?
960 神津名無市民 11/06 00:11:48 ID:Y3MizNBU
>>58
芸術家ってあれ? 喜友名晋司?
961 神津名無市民 11/06 15:51:44 ID:a2b5aeT2
>>60
そうそう、友達が宝探しに行くって言って帰ってこない
962 神津名無市民 11/06 23:49:31 ID:Y3MizNBU
>>61
あれ個人宅だろ? 不法侵入で逮捕されたんじゃないか?
逮捕なら2週間くらい連絡とれなくてもおかしくない
神津廃墟スレ ★9
1 神津名無市民 8/30 09:54:39 ID:K2YCwB2P
ここは神津市内の廃墟について語るスレです
このスレは廃墟への侵入を推奨するスレではありません
廃墟は物理的危険、DQN的危険が潜んでいます
廃墟に侵入する場合は完全自己責任でお願いいたします
>>前スレURL
278 神津名無市民 1/03 00:25:47 ID:d3IQvElH
友達が年越しで北辻の廃墟住宅に宝探しに行って帰ってこないんだけどどうしたらいい?
280 神津名無市民 1/04 02:52:41 ID:R5C2N2fE
>>278
新年から何やってんのwwwww
281 神津名無市民 1/04 06:54:15 ID:d3IQvElH
>>280
いや、マジなんだって
大分酔っ払ってたからさ、そのあと行方不明なんだ
帰ってこない
282 神津名無市民 1/04 10:00:27 ID:WkQcdRAB
>>281
喜友名に突っ込んで帰ってこないっていう話は前スレにもあったよ
あそこマジでヤバいんじゃね?
DQN系とかの意味で
喜友名の家に財宝はあるん?
1 夢追い名無市民 8/24 19:15:34 ID:N+QFNgut
北辻3丁目の丘の上の喜友名っていう家に財宝が隠れてるって聞いたけどほんと?
誰か聞いた奴いる?
最後のスレはレスがついていない。
LIMEかSNSかはわからないが、あの家に財宝があるという話がどこかで広がっているようだな。
後で図書館で検索してみよう。
沸いた湯をゆっくりと渦を巻くようにドリッパーに注ぐ。湿った土を思わせる芳醇な香りが湯気とともに立ち昇る。コーヒーの柔らかな酸味が心地いい。少し寝ぼけた頭がようやく目覚めた。
窓の外がほんの少しだけ明るくなっていた。




