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叫ぶ家と憂鬱な殺人鬼(旧版  作者: tempp
第2章 橋屋撲殺事件

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呪いを解いて

 橋屋家の情報を一通り集めると、昼になっていた。次は柚を訪ねよう。

 昨日公理さんから聞いたところでは、柚が働いているのは辻切ツインタワーにあるカルセアメンタというシューズブランドだ。オフィシャルにも使えるが遊びもあるという華やかな職業に向く高級靴店。

 タイミングよく電話が鳴る。


「ハル、どこいる? 生きてた?」

「生きてるよ、今から友達のところに偵察に行く」

「……まじで? じゃあ俺も行く、しばらく休みとってるんだわ」

「大丈夫なのか?」

「大丈夫、卒業式終わって当面の仕事は急いで片付けたから、入学式始まるまでしばらくは休める」


 ツインタワーは辻切駅の北側にある16階建の高層タワーで、8階層まで商業施設、それ以上はオフィスになっている。

 レストランフロアで待ち合わせた公理さんはいつもどおり至極眠そうにあくびをかみ殺していたけど、派手目の赤いシャツに黒いスキニージーンズ、ハンチングに焦げ茶の革のクラッチバッグとお洒落に装っている。やっぱモテそうだよなこの人。


 カフェで昼を食べながら事前の情報収集。でも公理さんが柚について知っていることはそれほど多くはなかった。

 大学から東京へ進学、故郷は北陸。もともと男性用の靴が好きだったが男性用ブランドは基本的に女性販売員を取らない。だから遊びのある大人のデザインで男女両方の靴があるカルセアメンタに就職した。

 趣味は音楽。プログレとかテクノ系の聞き専で、クラブで公理さんと知り合って付き合いは3年ほど。よく飲みにいくけど彼女ではなく、公理さんとは価値観が合って落ち着くんだそうだ。飲みに行く頻度からも話しぶりからも他にあんまり深い友達も彼氏もいなさそう、でも結局そのくらいしか情報は知らない、と公理さんはジンジャエールを飲みながら締めた。


「引っ越した家のことはどうやって知った?」

「いい家だから見に来ないかって誘われたんだ。でもその時なんか凄い嫌な予感がしてさ」

「行かなくてよかったな」

「まあ家の手前まで行ってても逃げ帰ったような気はするけどね」

「まず、聞く内容を明確にしよう。知りたいのは家の内情だ。中から見た現況が知りたい。異常はないか、異常を感じてないか」

「それなら無難に家の様子を聞くところから始めようか、歌菜のことは触れるかどうかだよな……」

「その辺は任せるが可能そうなら聞いてほしい。それから……」


 公理さんは諦めた顔をする。


「わかってるよ、もう」

「事前に家の全体像をおさえたい。2階の情報も必要だ」


 ドリンクをわきによせて、少しざわつく店内で公理さんと手を組む。傍から見ると腕相撲してるように見えそうだな。

 そっと目を閉じると明るいリビングがあった。


◇◇◇


「幽霊、昨日より少ない。やっぱ昼だからかな。それからなんか変。なんかブレてる。家具とかが二重に見える。1つは存在感がなんか違う」

「なんだそれ?」

「うーん、なんで言えばいいのかな。例えば昨日友達が座ってたソファと別のソファがダブって置かれてる。新しく発生した家具はなんなのかな?」


 ふうん。家具が2つ? よくわかはないが視界がダブるのは目が悪くなりそうだな。昨日と今日の違いか。夢に入ったこと。家に頼まれごとをしたこと。手掛かりは乏しく要素は絞れない。保留だ。

 リビングを出てトイレを確認し、洗面所に入り風呂を覗く。広くてきれいなシステムバスだ。いいなこれ。


「うっわ、なんでこの風呂こんな血まみれなんだよ、浴槽に肉片浮いてるぜ?」


 前言撤回。


「それは家の幽霊の話? 俺には見えないんだけど」


「うう、生々しすぎる。なんだこれ? 昨日の歌菜ちゃんと同じくらいリアル。家が見た映像、なのかな。これ、柚がやったのか。そうとしか思えない。多分この風呂は直近の記録。直近で風呂が血塗れになって、それを家の幽霊が強く記憶している、のかも? 増えた家具も家の記憶なのかな?」


 公理さんには風呂と歌菜は同じようにリアルに見える。俺は歌菜は見えて風呂が見えないのは、風呂が幽霊だからなのか? 風呂の幽霊? 意味がわからないぞ?

 よくよく聞いてみると、公理さんの認識では幽霊というものはその周辺情報を保持しているらしい。幽霊が服を着ているのもそのせいで、服の情報を持って幽霊として存在しているそうだ。確かに素っ裸の幽霊というのは聞かないし、確かに服は人じゃない。


「幽霊っていうのは情報媒体なのか?」

「ううん、俺もよくわからないけど俺のイメージでは人の魂に情報を組み合わせたもの、かな。だから幽霊って死ぬ直前の最も記憶に刻まれた姿で現れる。情報が失われたものは人魂の姿で、情報量が多いほどより明確な姿で再現される。殺された人の幽霊の姿が悲惨なのは多分そのせい。情報が多いほど幽霊はその情報に囚われる。ぼんやりしたり足がないいわゆる『幽霊』はその中間だと思ってる。自分の足なんてあんまり覚えてないもの」

「その情報量って何で変わるんだ?」

「多分……死んだ時のインパクトかな。他にも要因は色々あると思うけど。たくさんの情報、恐怖とか痛みとか色々なものをもって死ぬと情報量が多い気がする。この家ではたくさん人が死んでるんだろうから、情報量は多いんだと思う。」


 そうすると風呂は情報量が多い家の幽霊の記憶? 幽霊って記憶するのか? よくわからないな。でも血塗れの風呂は俺には見えないから風呂も幽霊なんだろうけど。幽霊がなんなのかわからなくなってきた。

 階段を登り2階にあがった瞬間、手をぎゅっと握られる。


「どうした?」

「なんかやばい空気感。ぞわぞわする」


 俺は一旦階段のほうを振り向いて、公理さんに奥を見せる。


「正面の部屋と左手の部屋がやばい気がする。なんか薄暗い。リビングと和室の上かな。右手の部屋はなんか奇麗だ」


 右手側の部屋から覗く。オフホワイトのベッドとクローゼット、机と本棚。簡素だがどことなく生活感があった。柚の部屋かな、そんな気がする。


「ここ、全然幽霊いない。逆に変な感じ」

「セーフティポイントだと思うか? いざとなったときに逃げ込める場所が欲しい。昨日試したがこの状態で俺はこの家から外に出られない」

「うーん、わからないけど可能性はある。他のところは幽霊がいなくても千切れたやつが漂ってた。でもここはいない、あちょっと待って、右を向いて」


 こうかな。


「4歳くらいの子供がいる。あれ、でもこれ……家? よくわからないけど今は悪い感じはない」

「ちょっと話してみる」


 俺は振り返るが何も見えない。霊なんだろうな。


「家、いるか?」

「こんにちは、お兄さん。また来てくれてありがとう」


 姿は見えないが、昨日夢で会った家の声がした。


「ここは他の霊は入れないのか?」

「そうだね、ここは一番古い位波さんのお母さんが入れないから他の霊も入れないみたい。位波有一(ゆういち)君だけは入れて、今僕は有一君の姿を借りてる」

「そうか、俺は幽霊は見えないんだよ。だからこの家の幽霊も見えないんだ。今は友達に協力してもらってこの家を見ている」

「あ、それがお兄さんの向こうにいた人だね。そっか、脅かしてごめんなさい、誰だろうと思って」


 昨日のことか。家は俺の肩越しに公理さんを覗いていただけなのか? この悪気がないような口ぶりにしては随分な狂気を感じたが。


「それより昨日呪いを解くって言ったな、どうすれば解けるんだ?」

「僕にも正直なんでこんなことになってるのかよくわからないんだ。でも、どんどん呪いが積み重なってどんどん悪くなっている。だから上の方から呪いを取り除いてもらえないかなと思って。1番上は橋屋さんっていう家族なんだけど」

「どうすれば取り除ける?」

「死んだ人たちは僕の家で毎日死んだ日を繰り返している。毎日同じ時間に死んでしまう。それを止めてほしい」

「どうやったら止められる?」


 少しの沈黙。


「わからない。どうしたらいいんだろう。でも1日を止めた後の方法はわかる。今、リビングの窓は閉じているように見えるけれど少しだけ開いてる。そこから一人ずつお外に出してあげて欲しい」

「俺にくっついてる扉から外に出すのは可能か?」

「多分その扉はこちら側からは僕か呪いしか通せない。僕が協力できる状態ならいいんだけど、この部屋以外だと僕も色々影響を受けておかしくなっちゃう。だから、あまり期待しないほうがいいと思う」


 確かに昨日リビングで会った家の印象と、夢や今この部屋で会っている家の印象は随分違う。この部屋の外だとああなってしまうのか。あまり話は通じそうになかった。狂霊というか、狂気を感じた。


「自然には出ていかないのか?」

「扉が開いてることに気が付かないみたい」


 くり返す死を止めて、リビングの扉から幽霊を捕まえて放り出す。幽霊って捕まえられるのか? 無理だよな? そもそも俺は見えないぞ。


「幽霊って触れないだろ? どうやったら気づく?」

「声は通らないかな。僕が声をかけても聞こえないみたいなんだ。僕はここで長いけどお話ができたのはお兄さんだけなんだ。だからお兄さんならお話ができるかなと思って」


 俺は幽霊と話せるのかな。そんな記憶はないが家も幽霊だというなら確かに今話せている。

 そうすると話し合いで幽霊を説得するのか。霊と話し合い? ううんまあ、人なら会話は可能なのかな。『人を説得する』考えると、繰り返しを止めるにはやはり繰り返しの原因を探らないといけないだろう。

 何故死を繰り返しているのか。幽霊に何が起きているのか。死を止めるため、そして幽霊に扉の存在を気づかせるためには情報が必要だ。そして外に目を向けない幽霊が外に目を向けるほどの切欠の手がかり。幽霊の思い。うーん。


「あの家で何が起こったか知る方法はないか」

「夢の中でなら。お兄さん、知りたいことを思い浮かべながら寝て。あぁ、そろそろ僕ももう限界。そろそろ有一君の姿を借りる力がない、またね」


 突然声が途絶え気配も消えた。力がない?

 少し待っても家は現れなかった。とりあえず調査を続けよう。公理さんに声をかけて柚の部屋を出て奥に向かう。リビングの上、2階の正面の部屋の扉をくぐり抜ける。

 閉じたドアを通り過ぎると10畳以上はありそうな広い部屋だった。重いカーテンの先からわずかに光が漏れている他は薄暗い。部屋の中には何もないように見える。まあこんな広い家に1人じゃ使い切れないよな。

 公理さんに見せるために振り替えると、ヒッという公理さんの声が聞こえて手が強く握られた。


「ハル、怖い。部屋の外に出て」

「わかった、和室の上も見るぞ」


 いったん部屋を出て右手の廊下に回って玄関の上の部屋を開く。上の方に明かり取りの窓がある3畳ほどの部屋には段ボールがいくつか積まれてあった。その奥の部屋は先ほどの正面の部屋から扉が繋がっていたような気がする。

 公理さんはあの正面の部屋には入りたがらないだろうな。それなら壁を抜けようか。壁を潜り抜けて和室の真上の部屋に入ると首筋に警告が走る。警戒すべき何かがある。雨戸まで閉められて真っ暗だ。妙に、寒い。振り返ったとたん声がした。


「無理! 起きて!」

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― 新着の感想 ―
[良い点]  前回は隣の住人のことも知ることができた。  これからどうなるのだろう?  と、思っていたら……。  この物語はその家にあったことと現在という二つの時間を行ったり来たりする物語なのだろう…
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