11話 急展開
「え?!いやいやいやいや、どういう事です?!」
私は机をバンッと叩く。祖父は軽く咳払いをして"はしたない"と告げるが、そんな事はどうでもいい。
「...こればかりは仕方が無いんだよ。」
「嫌です!絶対に嫌です!」
アレク家とのお茶会から何ヶ月かたった現在、私とリアンの関係は良好だった。だから、このまま頑張ればあと何年かで婚約の話が来ると思っていた。
しかし、問題が起こった。
「何故ワトソン家のご子息ーダニエル様との縁談が来ているのですか?!」
ワトソン家のお茶会は断った筈なのに!!
「取り敢えず、会うだけでもいいと向こう側は言っているのだが...。」
「えぇ...。」
「お祖父様、何もそんなに...。クリエラだって嫌がっていますよ。」
そうだ。ダニエルなんかと会って、もし婚約する事になったら...。
見えるのは、私が殺される世界。そんなの嫌だ。
「(いや、待てよ?)」
仮にダニエルから婚約したいと言われても、断れば良いのではないか?
「(それだ!)」
私が"会うだけなら"と告げた直後、新しい記憶が蘇った。
「(待って。確か、クリエラを好きでもないダニエルが、クリエラと結婚したのって...!)」
ゲームでは、クリエラはダニエルの婚約者だ。それは、決して恋愛結婚ではなく、クリエラがワトソン家のお茶会で傷ができたからだ。その責任を取るために、ダニエルはクリエラと結婚したのだ。
「あ、あの!」
「旦那様ならつい先程、お茶会出席を電報で伝えるために部屋から出られましたよ。」
「嘘...でしょ?」
いや、走れば間に合うかもしれない。
なんとしてでもこのお誘い、お断りしなければ!
★★★
「あいつ...大丈夫かな。」
グラス家の玄関扉に手をかける者が一人。リアン・アレクである。
数日後、リアンのもとに手紙が届いた。クリエラからだ。
手紙の内容はこうだ。
ーーーーー
親愛なるリアン様へ。
私達が文通を初めて数カ月。あの時咲いていた薔薇の花弁も散り始めていることでしょう。そして、私の心は枯れそうです。
先日、ワトソン家が縁談を持ちかけてきました。正直めちゃくちゃ嫌です。絶対ダニエル様と結婚したくないです。どうしましょう。もうなんかめちゃくちゃ嫌です。
クリエラより。
ーーーーー
"何時もの口調はどうした"と突っ込みたくなるような文章で、別の意味で感情的過ぎる。
「それにまさか縁談とはな...」
しかも、相手は"あの"ダニエル。クリエラは、彼の悪い噂を知っているのだろうか。
「とにかく、話を聞いてみるか。」
★★★
「嫌だぁ〜!!ぐすっ、うっ、ずびっ」
どれぐらいたったのだろうか。
リアンが家に顔を出した。それだけの事なのに、とても嬉しく感じた。そして、気が付いたら泣いていた。
リアンは"ん。"と言って頭を撫でて、落ち着かせてくれようとしてくれた。だが、それで余計泣き出してしまった。
私は、怪我を防げなかった。ワトソン家との会談の終わり、たまたま通りかかった釜を持ったメイドが、私の前でコケてしまった。
その釜の中には熱湯が入っていたらしく、私の右腕と右足に少し、火傷が出来てしまった。
医者には"何年かしたら治るだろう"と言われたが、ダニエル様は"それでも、責任を取らなければならない。"と言って聞かなかった。
何度も大丈夫だと言ったが、駄目だった。"傷物になっては、誰も貰ってくれなくなってしまう。それは勿体無い。"と。
「そんなにアイツとの婚約が嫌なのか。......誰か想い人でも?」
リアンの言葉にピクッと肩が動く。
想い人...か。
つい、リアンを見てしまう。そして、私を見ていたらしい、彼と目が合う。
あれ?リアンって、こんなにカッコよかったっけ?瞳も、凛々しいのに、どこか憂いを帯びていて...。
「リアンがいい...」
そう言って、ハッとした。一気に顔に熱が集まる。
リアンは目を見開いた後、すぐ顔をそらしてしまった。そんなところが、彼らしいと思うのだが。
「でも、駄目だよね。」
私は、下を向いた。
「え?」
「いずれ消えるとはいえ、怪我をしてしまった事に変わりはないもの。私のは、傷物よ。」
「...それは違うと思う。」
「えっ。」
顔を上げると、少し緊張したような、何かを決心したような、そんな顔をしたリアンが、私を見詰めていた。
「俺はそれでも構わない。その...ク、クリエラさえ良ければ。」
どういう事だろう?
私が小首をかしげていると、リアンは大きなため息を着いて、荷物を取った。
「帰るの?」
「あぁ。....少し、用ができた。」
「そっか。」
少し、寂しく感じたのは言わない。
「クリエラ。」
「何?」
「すぐ折れるんじゃないぞ。」
「ん?う、うん。」
彼は、去っていった。
「(さて、ここからどうするかな。)」
それにしても、ワトソン家からの誘いを最初は断ったのに、また誘われた。しかも今度は、話が飛んで縁談だ。
「(もしかして、物語補正?)」
だとしたら、私が死ぬのは確定なのだろうか?
「(あがくしか、ないか。)」




