10話 お茶会2
「...お前、クリエラ・グラスか?」
「え?!あ、えぇ。」
リアンは、私を不審者を見るような目で見ながら言った。
「着くのが遅かったけどどうしたの?」
「ディランお兄様!来ていらしたんですね。私...恥ずかしながら、迷ってしまって。」
「あぁ、なるほど。」
「ここは広いからな。無理もない。でも、時間がかかり過ぎじゃないか?」
ディランは私が遅れた理由に納得してくれたが、リアンは納得してくれなかった。でも、この庭園で迷う人は少なくないはず。
「すみません。リアン様が迷宮庭園の中の何処にいるかを従者達に聞かなかった事が悪かったのです。以後、気を付けます。」
私が頭を下げたら、不機嫌そうに"別に謝ることじゃないだろ。"と言われた。
そういえば...
「初対面から令嬢をお前呼ばわりするとは...。」
「別にいいだろ。年も同じだし。」
「いや、それはそうですけど...。」
「まぁまぁ、二人共。仲良くいこうじゃないか。ね?」
「「別に仲悪くはないです!!」」
私の声とリアンの声が、見事にハモった。
「(リアンって紳士的な男子かと思っていたけれど、全然違うのね。)」
ちなみに、(前世の)私の好みは紳士的な王子様タイプだ。優しく甘やかしてくれる人がいい。彼はそんな人物からは少し遠いけど。
恋愛なんて出来るのだろうか。結婚なんて、先が長いのに。
「(これは苦戦しそうね。)」
しかし、死亡フラグを折るため、頑張るしかない。
「(いざという時は、この国から出ていって、皆と縁をキッパリと切るしかないか。)」
生まれた時から暮らしてきたこの国を手放す事は出来るだけしたくない。婚活、頑張らないと...!
「(それにしても、ディランに対しては普通に接するのに、どうして私にはキツく当たるのかしら。)」
まぁ、いつか分かるだろう。
「ぐ〜」
私のお腹が鳴った。そういえば、まだ夜ご飯を食べていないんだった。お腹を押さえながら恥ずかしさを誤魔化すように下を向く。
「はぁ...これでも食べたらどうだ?」
「え?あ、ありがとう...。」
リアンが私に差し出したのは、サンドイッチ。花の縁取りがされた平皿に、BLTとラズベリーのサンドイッチが1つずつのせられている。BLTは満足出来そうなボリュームで、ラズベリーは私の大好物だ。
そして、隣に紅茶が置かれる。ダージリンに...レモングラスがブレンドされている?
「...美味しい。」
美味しいサンドイッチに、美味しい紅茶。思わず顔が綻んだ。
「ならよかった。」
「美味しいよね。この紅茶。ラズベリーはクリエラの好物だし。」
リアンはツンとそっぽを向いてしまったが、ディランは微笑んでくれた。
★★★
その後、リアンと(まずは)友達になるべく、たくさんお話をしてから、家に帰った。
「ん〜!やっぱり良い香り!」
そして今はお風呂に入っている。シャンプー&リンス作成後、私はバスソルト作りの研究を始めていた。
良い香りのお風呂は体をリラックスさせてくれるし、内容によって肌荒れ・赤切れ・冷え症、その他諸々の改善に効果がある。
「(なにより、良い香りのお風呂はテンションが上がるのよね。)」
剣術や体術等、本来男性が習う事をしているとはいえ、一応私も乙女だ。
「お嬢様、あまり長湯をしているとお祖父様が心配なされますよ。」
エミリーが扉を叩き、催促する。私は急いでお風呂から上がり、体を拭いて服に着替えた。
「ごめんなさい。遅くなったわね。」
「大丈夫です。...ん?お嬢様、何か良い香りがするのですが、今度は一体何をお作りに?」
彼女はそわそわ辺りを見渡している。そりゃあ、浴場に良い香りが漂っていたら気になるだろう。
「これよ。」
私はバスソルトをつめた瓶を箱から取り出し、エミリーに手渡す。
「塩?と、これはローズマリーですか?こっちはラベンダーにゲルマニウム。」
私が様々な植物を採集しに行くので、いつもついてきてくれるエミリーも、段々植物の名前や効能を覚えてきている。
「これはバスソルトよ。精油も使ってるわね。」
「バスソルト?」
バスソルトと言っても、私が感で作っただけだが。
ちなみにレシピは簡単で、岩塩とハーブを混ぜたものに精油を数滴垂らしただけ。香りが足りない場合、お風呂に入れる時、精油を足してもいい。
「へぇ〜。本当に凄いですね、お嬢様は。こんなものも作ってしまうなんて...。」
エミリーが感心しながら瓶を見る。そういえば、エミリーを含む従者達の手はいつもあかぎれが出来ていた。
「はい。これを試してみて。ゼラニウムとベルベノンを混ぜてあるの精油はラベンダーよ。」
「え?!い、いいんですか?!」
エミリーの顔がパァっと明るくなる。私はあかぎれた彼女の手を握り、微笑む。
「勿論よ。この手、毎日毎日頑張っているのよね。痛いでしょう?」
「と、とんでもない。それが、私達の仕事ですので。」
「でも、痛いはずよ。特に水場での仕事なんか、しみてとくに痛いでしょう?これは、あかぎれに効くの。まぁ、他にも効果はあるけどね。」
「お嬢様...ありがとうございます。」
「いいのよ。何時ものお礼だと思って。」
★★★
「そうだ。お嬢様、お茶会はどうでしたか?」
「え?あ〜、うん。楽しかった...かな?緊張はしたけど。」
「お嬢様、多くの方々に囲まれていましたからね。」
「なんでそれを?!」
「私はお嬢様のメイドですので。」
エミリーはついてくる予定は無かったよね...?
「でも、あのリアンって人、なかなか面白そうね。」
「それは良かったです。」
エミリーは瓶をポケットに直し、私の話に耳を傾ける。
「ツンとしてるように見えたけど、行動は割と優しかったの。まぁ、今日会ったばかりだからなんとも言えないけど。そうだ。来週はそのアレク家に遊びに行くの!」
「それは楽しみですね。」
「ええ!妹にも会えるらしいの!」
「では、お菓子を用意しておきますね。」
「ありがとう、お願いね。」
取り敢えず、嫌われはしなかった今日。来週で一気に距離を積める。
「(まぁ、今まで前世でも恋愛をしてこなかった私は、距離の詰め方なんて分からないんだけどね。)」
考えても仕方がないので、私は眠りについた。
★★★
クリエラがアレク家のお茶会に参加したその日の夜、クリエラのメイドであるエミリーが、グラス家の執務室の扉を叩く。
「エミリーです。失礼します。」
「どうしたんだい?」
書類整理をしていたクリエラの祖父が手を止める。
「お手紙です。」
「またか...すまないが、断ってくれ。」
「かしこまりました」
「何時まで待ってくれるか...。」
「...失礼しました。」
二人共、少し顔に影が入る。
ークリエラは、思いもしなかった。
ー前世の記憶に、いくつか抜け落ちている点があるなんて。




