13話 お祝いパーティーで王様を燃やそう!
「この部屋で私は殺されたの。そしてこんな姿に成り果てた」
ここは地下室。今まで気付きもしなかった部屋だ。内装は他の部屋と変わらないが、真ん中に大きな血の染みがある、汚いな。俺が手を押し当てて撫でると染みはキレイさっぱり消えた。
「ちょっと、私が死んだ証明をそんな気軽に消さないで......」
「いや、汚かったから」
「そうかもしれないけど...... まあいいわ。私はこの部屋で寝起きするから気にしないで頂戴ネ」
「分かった。他に紹介したい場所はあるか?」
「なくはないけど、今日はもう遅いでしょう? また今度にしましょう」
それで今日はお開きだった。トトはこの部屋にとどまり、シェフィは眠たい目をこすって部屋に入り、クラムは慣れない部屋で眠ったことだろう。俺も目を閉じると、すぐに意識は闇に落ちた。
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「うわー! すごい豪華! こんな広くて綺麗な部屋見たことない!」
「私はこの前来たわよ」
「ここは昔から変わってないワ」
「え? なんか2人ともずるい!」
俺たちは王城の大広間にいる。今日は俺がドラゴンを倒し、さらに街を瘴気から救ったことを祝うパーティーが開かれているのだ。ついでにコロッセウムでの賭けの賞金である金貨30000枚もいただくことになっているぞ。これが一番の楽しみなのは秘密だ。
「ねえねえリリ、料理がいっぱいあるけどどれが食べたい? 持ってくるよ」
大広間に置かれたいくつのもテーブルの上には、ところ狭しと豪華な料理が並べられている。このパーティーに参加している貴族やらなんやらがそれをパクついている。
「えーと、そこの端にあるパンを取ってくれ」
「いいの? ただのパンだよ? はい」
「パンは食事の基本だろ? パンを食べればディナー全体のレベルが分かるのさムグムグ」
「どう?」
「おいしいけど、大したことはないな。これなら父さんのパンの方が遥かに旨い。シェフィの作ったパンにも負けてるよ」
「私ってそんなに料理上手だったの?! やったー!」
「お前が作れるのはパンだけだろうが」
シェフィの頭に手刀を食らわせてクラムを見る。彼女はきちんとしたパーティードレスを纏っている。胸が強調されるデザインで、周りの男性陣を悩殺しているようだ。
クラムは結構顔が広いらしい。色んな人々に囲まれて忙しそうに会話している。身分の高い奴らにとってはパーティも仕事の一種なのだろう、御大層なことだ。
メイド服を着たトトはどこに、あ、見つけた。そこかしこを歩き回って大広間を観察しているようだ。彼女にとっては懐かしい場所なのだろう。
歩いている彼女を見て、席に座っていた老人が目を剥いて驚いた。手をワナワナと震わせて、椅子から腰を浮かしている。トトに話しかけようとしたが、首を振って椅子に座りなおした。顔見知りだったのだろうか?
「あのう、あなた様がユート=ゴナン=リリック様でよろしいですか?」
声をかけられた。振り向くと身分の高そうな娘たちが俺の元へ集まってきている。
「ええ、私がユートですが。何か?」
「やっぱり! 凛々しいお顔を拝見してすぐに分かりましたわ! わたくし、あなた様と仲良くさせていただきたいの」
俺の隣でシェフィが嫌そうな顔で女どもを見ている。それに負けてすごすご退散する女もいるが、それでも多くの女が俺に群がってくる。
「私も騎士様と良い関係を持てたらと思っていますわ」
「今度わたしの父とお会いしませんこと?」
「ユート様はわたくしとお話したいようですわよ?」
いい加減うるさいな。お前らなぞに興味はない。
「皆のもの静粛に! 国王のおでましである!」
大臣のような男が叫ぶ。大広間は静まりかえった。そして豪奢な服をまとった王が表れた。さっきまで空いていた玉座に腰をおろす。
「騎士ユート=ゴナン=リリック殿、御前へ!」
俺は女の群れを抜けて悠然と歩き始める。突然トトが駆け寄ってきて耳打ちしてきた。言うだけ言って、微笑みながら彼女はまた離れていった。
へえ、それが本当ならこのパーティーも中々楽しくなりそうだな。また歩き始めた俺は階段を昇り、王の目の前にたどりついた。
王は尊厳に満ちた顔で俺を玉座から見上げている。俺は立ったまま王を見下ろしている。
「貴様! 王の御前ではひざまずくのが当然の礼儀ではないか!」
振り向くと大臣のような男が顔を真っ赤にして叫んでいる。やれやれ見る目のない奴ってのはこれだから。こいつを黙らせようか、それとも無視しようか。
俺が悩んでいると王がスッと片手を上げた。許容のポーズだ。大臣は茹で上がったタコみたいな色をしたまま黙る。王をやってるだけあって器はそこそこみたいだな。
「竜を倒し、魔を祓った剣をここに」
王は厳かにしゃべり、両手を俺の前に差し出す。武勲を上げた者はそれに用いた武器を王に口づけで祝福してもらうのが習わしなのだ。キモチワルイ。だが、これはチャンスだ。
俺は鞘からスラリと剣を抜く。そこらで買った鉄の剣だ。それを握る感触を確かめ、俺は王の喉元、顎の下に剣を突きつけた。
「騎士ユートどの、お戯れは止めなされ。今ならこのことには目を瞑ろう。我はこの国の王......」
「クソ自己紹介を止めろ。おい、トト。1匹だけか?」
「ええ、少なくともこの広間には『それ』だけね」
「リリ?! 何してるの、それ王様だよ?!」
シェフィの混乱した声が背後から聞こえる。その他に声は聞こえない。物音もない。驚愕のあまりにクラム含めてご身分の高い方々はフリーズしてしまったようだ。
「今すぐ殺してもいいんだが後で説明するのが面倒だな。クラム、こっちにこい」
視界の端に駆け寄ってきたクラムの揺れる金髪がうつる。
「はい、来たわよ。でも私に何をさせるつもり?」
「燃やせ」
「は?」
「王よ、動かなければ今すぐに命までは奪わん、後で好きに逃げるがいい。だから大人しく燃えてろ」
「本当に燃やすの!? というか死ぬでしょ」
「クラム、このおっさんの肩書きと俺、どちらを信じる?」
「もう、分かったわよ。後で文句言わないでよね!」
彼女は王に掌を向け、魔法の炎を浴びせた。王の豪奢な衣服が燃え上がる、肉に火が移る。イヤな臭いだ。王は苦悶の表情を浮かべてのたうつが、玉座からは離れない。俺が剣を突きつけているからだ。
それは突然始まった。大広間の皆が息をのむ音が聞こえてくる。王の体が奇怪にねじれ始めたのだ。顔面は歪んで恐ろしげな輪郭に変形している。
衣服が燃え尽きた後、玉座には所々王のパーツを残した人型の魔物が座っていた。息が荒い。こいつが王になりきって国を治めてたってわけだ。
「いつから王のフリをしていた?」
俺は魔物のノドに浅く剣を刺す。紫の血がタラリと流れる。
「も、もう10年ほどになる。魔王様の命令だ。平和になにごともなく統治せよ、と命じられて俺はその通りにしただけなんだ助けてくれ。戦闘能力もない雑魚の俺が姿を見破られたらもう何もできねえよ」
「この国以外にもお前みたいなのが忍び込んでいるのか?」
「ああ、その通りだ。全ての国じゃあねえが、潜り込んでるみたいだ。俺も詳しいことは知らないけどな」
魔物の額に一筋の汗が流れる。俺は言葉でたたみかける。
「嘘だな。お前はそれ以上のことを知っている」
「......」
「これ以上は話せないか?」
「......」
「無理か。なら仕方ない、さっさと逃げろ」
「ええ?! 逃がしちゃうの!?」
シェフィが驚きの声を発した。大広間に集まった人々もざわめき始める。
「俺は逃げてもいい、と言った。こいつは俺を信じて情報を吐いた。だから俺は約束を守る」
俺は魔物から剣を抜く。
「感謝するぜ旦那。あんたみたいに話の分かる奴に会えてよかったぜ。あばよ!」
彼は背中から羽を生やし、弾かれるように窓を砕いて外に飛び出した。人々に怒りのようなざわめきが広がる。
俺は無表情に玉座を見つめながら右手の剣を投げた。剣は破られた窓を抜け、真っ直ぐ魔物を貫いた。魔物は力を失い、落ちて、見えなくなった。ざわめいていた人々は言葉を失う。
「逃げろと言ったが、追わないとは言っていないぞ」
しばしの沈黙。そして割れんばかりの大歓声。背中に人々の喜びの声が響いているみたいだ。俺は軽く左手を上げる。静粛に。
「さて」
グルリと回って人々を見渡す。期待の目、感謝の目、羨望の目。全部が俺を見上げている。俺は玉座にどっかと座った。
「皆はこれからどうしたい?」




