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2-2、玄武さまのためなら、苦手な虫も我慢して農作業!

「まあ、いいにおい」

「よかった。食欲はおありなんですね」


 そうして、膳を卓に置くと、夜妃は、まずサバのパン粉焼きを口に入れた。


「おいしい……臭みがない」

「そうだろう、夜妃。このものがひと手間加えたからな」


 なぜ金栄が偉そうにするのだろう、と思いながらも、瑞希はなにも言わなかった。

 次にすり流しを飲む。


「豆腐の……なんでしょう」

「はい、豆腐を鶏ガラのスープでのばしました」

「すーぷ?」

「あ、あつものです。上に載せたのは、アーモンドです」

「種子ね。おいしいわ、どれも」


 最後に、少し形は不格好だが、なつめのパウンドケーキを夜妃が食べる。

 口がもくもくとうごいて、ふんわりと夢見心地になる。


「甘くて……生のなつめが、あいますね」

「そうでしょう? なつめはビタミンB6が多い食品なんです。バナナでもよかったのですがこの時代にはないので。そして、サバなどの青魚のオメガ脂肪酸、豆腐のマグネシウムなど、緊張型頭痛に効くものでつくりましたので」


 また始まった、という顔で、金栄があきれている。初めて聞く単語に、夜妃は面食らっているようだった。


「夜妃。このもののいうことはわからぬだろうが。わたしを見ろ。このものの食事でここまで回復した」

「噂はかねがね聞いておりましたが……」

「はい。あと、珈琲は飲まないでください。それから、頭痛をやわらげるストレッチをお教えしますので、日常に取り入れてみてください!」


 本当に、この神女はは何者なのか、金栄も測りかねている。



 さて。

 夜妃の食養生はあとは料理官たちに任せるとして、金栄は玄武宮の中心部にある、玄武の間に瑞希を連れて行った。


「まあ、こうなるとは思いましたが」

「そう言うな。夜妃はまじめな妃ゆえ。呪い……いや、頭痛か。頭痛の間も、玄武さまに供物をささげていたらしいが……何分、玄武さまもお弱りのようで」

「それで、私にまた、供物を作れと」

「そうだ。それが五行神女の役目でもあるからな」

「その、五行神女って、いったいなんなんですか? 私にはそんな特別な力はありませんよ?」


 そうなのだ。

 もしも瑞希が本当に神女だったなら、この世界に来た時点でなんらかの力――神力とか、そういったものを授けられてもいいものを。


「五行神女は……この国を支える、大事な存在なんだ。それらは、星読みたちが選び出すというが」


 つまり、この世界に召喚されたのが瑞希で、その星読みたちも焦っている、ということだろうか。


「歴代の神女たちは、どのような方だったのです?」

「そうだな……書物によれば、霊獣の力を制御し、操ったとされている」

「へえ、霊獣さまの」


 無自覚なのか、と金栄は思う。

 どこからどう見たって、麒麟さまは瑞希に特別になついている。

 今日だって、麒麟を寝かしつけるために金栄は引っかかれるわ踏まれるわで大変だった。

 とはいえ、麒麟はいまはせいぜい一歳児くらいのまだまだ赤子。

 土の気を取り戻して元に戻れば、このように世話を焼くこともないだろう。


「それで、玄武さまの供物を私に作れと……玄武さまは確か、水」

「ああ。水の作物は……まだ土の気が戻ったばかりで、作物として後宮にはなく」

「えっと、それで?」

「ああ。だから、後宮に届くのを待っていたのでは遅いので、ともに探しに行くぞ」

「探しに? ええと」

「なんだ、どうした」


 ここにきて、なににも動じないと思っていた瑞希がしり込みする。

 金栄は不思議そうに瑞希を見る。


「私、虫だけはどうしても、どうしても無理なんです!」

「……は? ……ははっ、あはは、なんだ、そなた。虫が嫌いと? ははは!」


 無遠慮に笑われて、さて瑞希は赤面した。

 こういうことは昔にもあった。


「おじいさんみたいなこと、言わないでくださいよっ!」


 瑞希は夫婦で割烹を営んでいた。おじいさんもまた、食材の仕入れは自分からするような人だったから、よく農家へ連れていかれた。

 その先で、芋虫やら毛虫やら。とにかく、瑞希は虫が嫌いだ。嫌いを通り越して、泣く。


「なに、大丈夫だ。わたしは虫は平気ゆえ」

「そういう問題じゃ……見るのも嫌なのです……!」


 そうこう歩くうちに、玄武の間の扉を開け、その先にいるぐったりとした霊獣を見て、瑞希は前言撤回せざるを得なくなった。


「あんなに苦しそうに……」


 そばにより、玄武の背中にそっと手を置いた。

 瞬間、かっとあたりが輝いて、玄武が瑞希にすり寄った。


『待っていたわ。お姉さま』

「え、お姉さま。女の子?」

「そなた、やはり玄武さまの声も……やはり神女で確定だな」


 そんなこと今言わなくていいものを。

 瑞希は玄武の背中を撫でつけて、「少し待っていてね」と額を寄せた。

 玄武も弱々しく鳴き、さて、瑞希はやる気満々である。


「陛下。行きましょう、食材調達」

「急にやる気になったな。では、そなたはなにを作る?」

「玄武さまの水は黒い食べ物と塩辛いもの……胡麻と青梗菜(チンゲンサイ)、黒豆、もち米と小豆、昆布と魚を」

「はっ、この一瞬で『献立』を考えるなんて。そなた、本当に神女というよりは、料理人だな」


 かくして、二人は衣を着替えて、市井に繰り出す。



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