7-6、道中の霊獣のお世話は大変!
麒麟宮に連れられて、金栄は瑞希を振り返った。
「そなた、五行の料理……その力こそが、神女のあかしである自覚はあるのか!?」
ああ、そういうことか、と瑞希は納得する。
そう言われれば、歴代の神女にもなんらかの特殊な力があったと聞いているし、そもそも。
「そうですね。この時代の食生活を大々的に変えてしまえば」
歴史がゆがんで、未来でおじいさんに会えなくなるかもしれない。
危なかった、と瑞希は内心で金栄に感謝する。
「では、もう厨房には行かぬように」
「ま、まあ……陛下のお料理を作るのは、いいのですよね?」
「……わたしが同伴する、という条件付きでな」
はい? と返事する瑞希を置いて、金栄は霊獣たちのもとへ行く。
「霊獣の寝かしつけの時間だ。そなた、帰ってこぬから見にいけば。料理人に気を許すなど、あってはならぬことだ」
「そうですね。陛下よりは心通じ合える同志だったんですがね」
「なに!? わたしよりも料理人たちの肩を持つのか!?」
金栄が大げさに瑞希に迫る。
手をつかまれて、逃げ場をふさがれて。
まっすぐに見下ろされて、瑞希は息をのんだ。
おじいさんですら、こんなに迫られたことがないのに。
ささ、と金栄から距離をとる。
「い、いいえ。すみませんねえ、私が悪かったですよ」
「わかったならいい。さあ、霊獣さまのもとへ行くぞ」
そうして、あわただしい一日が終わる。今日も霊獣たちは、元気だ。
さらに五日後。
出来上がった襦裙を身にまとい、輿に乗った大行列が市井を練り歩く。
「こら、白虎さま。静かにしてくださいな」
『みゃ?』
「う……かわいくてなにも言えないわ……!」
先帝の御陵に向かうべく、輿が後宮妃と金栄を乗せて練り歩いていく。
その中で、ひときわ大きな輿は、人目に触れぬよう箱形の、大きないわば部屋のような作りになっている。
というのは、霊獣さまをともに連れて行かねばならなくなったからである。
「まったく。お留守番させるわけにもいかないものねえ」
霊獣は、基本的にそばに後宮妃か神女、皇帝がいなければならない。
先帝の時代は、霊獣は本来の姿だったから、こうやって後宮妃を連れ立って出かける際も、『姿を隠す』ことができた。
しかし今の霊獣は赤子。
「はいは、ご飯の時間……ああもう、陛下は私ばかりこき使う!」
食事はあらかじめ作ってきたものの、一人で五つの霊獣を扱うのは無理が過ぎた。
「あっ、玄武ちゃん、だめよ、お外は」
『あぶう』
「め」
『みゅうう』
うるうると目を潤ませる玄武にほだされそうになりつつ、羽ばたく朱雀を止める。
「朱雀くん? お空はないないですよ? ここは輿のなかです」
『ぷぎゅう?』
なんで?という顔をされてしまっては、もうどうしようもない。
白虎は一番末っ子だからか、すやすやと眠っている。
「白虎ちゃんは寝てるから。ああ、青龍ちゃんはやんちゃなのだから!」
青龍は輿の窓を開けようと手をかけていた。
「大丈夫ですか?」
外から聞こえたのは、夜妃の声だった。
「だ、大丈夫では、ないです」
かた、と輿が開く音がして、とっさに瑞希は、霊獣を背中に隠した。
しかし、日が暮れたそこには、後宮妃と金栄しかいない。
「今日はここに泊まる」
金栄が言うと、霊獣がぴゃっと外に飛び出していく。
そのまま、各々の後宮妃の腕の中に飛び込んで、目いっぱい甘えている。
「地味にショックなのだわ」
「そういうな。麒麟さまは、そなたになついている」
「ああ……というよりは」
麒麟はどうも、金栄とのきずなを測り兼ねているようだった。
あるいは、
「やはり、陛下はめったに麒麟宮で子育てにいらっしゃらないので、私のほうが『まし』といった感じじゃないんでしょうか」
「辛辣な……わたしとて、麒麟さまとのえにしくらい」
金栄が麒麟に手を伸ばすと、やはりというか、引っかかれた。
『うー』
「麒麟ちゃん、ダメよ。この方があなたさまの主人なのですよ」
『うぴゅう?』
じゃあ瑞希は?みたいな顔をされて、瑞希はうっと言葉に詰まった。
「そうよね、麒麟ちゃんは私の子供よねえ!」
ほかの霊獣が、最近ことさら自分の後宮妃になつき始めて、多少の寂しさがあった。
だから余計に、すり寄る麒麟がかわいくて仕方がない。
「これ、そなたが甘やかすから、余計にわたしになつかない」
「それはそれ、これはこれ、ですよ」
ねー。と瑞希は麒麟に頬ずりする。
麒麟は瑞希に甘えつつ、ちらりと金栄を見ている。まるで、『二人の仲を取り持つように』。
「麒麟さま……はあ。では、今夜はわたしは、神女の部屋にともにいるとしよう」
「え!? ちょっとそれは困りますが!? 私にはおじいさんというれっきとした旦那さまが」
「そういうのは今はいい。麒麟さまは……わたしとそなたが仲良くいてほしいそうだ」
ほら、と指さす麒麟が、『にゅ!』と返事をした。
「ええ、麒麟ちゃん!? 私は、私は!」
おじいさん、浮気はしていませんよ、ただこれは、子育て。子供の言うことに逆らえる親なんていないから、それだけですよ!




