7-2、豚レバーの唐揚げ、砂肝の長ねぎ檸檬ペッパー炒め、青梗菜の胡麻和え
豚の肝臓と、砂肝、ホウレンソウ。
豚のレバーは牛乳に浸して三十分血抜きする。
その間に、砂肝だ。
砂肝とは、鳥が食べた砂利などを選別する臓器、砂嚢のことだ。
二つに切ったら、白い部分・銀皮をそぐように切り取る。銀皮は固くて食べにくいからだ。
そのあと、砂肝はごま油でよく炒めて、塩胡椒で味付けする。
砂肝の味の決め手が胡椒のため、瑞希は無理を言って金栄にそれを倉庫から持ってこさせた。
西域の大事な香辛料だ。金より価値がある。
そして、砂肝を取り出した鉄鍋で、みじん切りにした長ネギをさっと炒める。
本来は生のねぎだが、時代柄、品種改良されていないねぎを生で食べるのはからく、火をさっと通して辛味を抜き食感は残す。
ここに塩とレモン汁で味付けたら、砂肝の上にかけて完成だ。
「砂肝の長ねぎ檸檬ペッパー炒めです」
「だいぶ味付けが複雑だったが?」
「これ、檸檬がいい味を出すんですよ」
金栄が味見する。
ねぎのさっぱりしたレモン味と、砂肝の食感が合う。コリコリして好ましい。臓器など捨てるところを、料理とは奥深い。
「これは……酒のアテにしてもよさそうだな」
「はい、あいますよ」
そして、砂肝のはヘム鉄が豊富だ。ヘム鉄は赤血球の色素のヘモグロビンを生成する。これが不足すると貧血と診断される。
ヘモグロビンは酸素と結びつき体に巡らせる働きがあるので、ヘモグロビンが不足すると動機やめまい、息苦しさといった貧血の症状が出る。
「ほうれん草は茹でて、豆腐と白すりごま、砂糖、白湯で味付けた白和えにします」
「胡麻汚しに似ているな?」
「はい。黒ごまは胡麻汚し、白ごまや豆腐は胡麻和えと呼ばれます」
「なるほど、色でこんなにも違うのか」
そうこうするうちに、臭み抜きしたレバーを洗い、気持ち多めのニンニクと生姜、醤油と酒で下味をつけたら、片栗粉をはたいて揚げる。
「今のは?」
「ああ……この時代の肉の揚げ物は、塩で味付けてから煮るのが主流ですからね。肉に下地をつけて揚げることで、臭みも和らぎ、ご飯のおかずになります」
しかし、レバーは独特の風味のため、春妃は気に入るだろうか。
植物に含まれる鉄を非ヘム鉄と呼ぶ。
ヘム鉄のほうが鉄の吸収率がいいので、できればレバーを食べてほしいところだった。
それから、ヘム鉄は肉やビタミンCとともにとると吸収率があがる。また、亜鉛も同時に接種したいから、やはりレバーは万能なのだ。
「それでは、運びましょう」
「ああ。……それにしても、今日の食事は粥が進みそうだな」
味見したどれもが、頬が落ちるほどうまかった。
きっと、春妃も気に入るだろう。
果たして、青龍宮の春妃は、はくはくと食が進んでいるようだった。
「おいしいわ、どれも。すごく」
「ありがとう存じます」
やはり、料理人としてのやりがいと言ったら、誰かが喜ぶ姿を見た時が一番だ。
瑞希はにこにこと春妃を見ているが、ふと気づき、女官に注意事項を伝授する。
「血液中の鉄が増えるまで、三カ月はかかります。そこから安定するまでにさらに三カ月。さらに、血液中の鉄の値が安定しても、肝臓などににフェリチンとして貯蔵鉄がたまるまでさらに三カ月。できるだけ、ここに書かれた鉄のお食事をなさってください」
ずらりと書かれた食材に、女官たちは困惑している。
「呪術に使う生贄、でしょうか」
「え?」
「文字が読めませんわ」
そうだった。
言葉はなぜだか通じるが、書くとなると『日本語』はどうやら呪文のようにみえるらしい。
「よい。食材の件はわたしが改めて用意する。して、春妃」
「は、はひ」
「これから、妃として頼む」
ほかの下級妃たちのもとにも、金栄は通っているのだと聞く。
通ってなにをしているのかまではわからないが。
「お、おじいさんではないのよ、陛下は。嫉妬などしてないわさ。断じて」
そう、瑞希は小さくつぶやいた。




