7-1、新たな青龍宮の春妃
かくして、新たな青龍宮の後宮妃が決められる。
桃妃の消息は、金栄が追っているが、今も見つからない。
「姉上を苦しめたのは、わたしだったか」
「陛下……陛下は桃妃さまを、姉としか?」
「なんだ、嫉妬か?」
「はぐらす……怪しいですね」
とはいえ、早急に正しい後宮妃が迎えられた今日、金栄は厳かに任命式を終えた。
金栄直々に選んだその娘の名前を、春妃といった。
年齢は金栄よりもだいぶ年の離れた三十。
だからか、あいさつもそこそこに、麒麟宮にいつかない。
「春妃さま、来ませんね」
「なに、緊張しているのだろう」
現状、霊獣は後宮妃が皆で集まってお世話している。
最近、麒麟さまがあんよを覚えて、みな大慌てだ。
「見てください! こちらに来ました!」
というのは、朱雀宮の紅妃だ。
紅妃は後宮内で一番の年下であるため、まるで弟や妹ができたかのように嬉しそうだった。
「そういえば。春妃さま。寝込んでおいでだそうよ」
青龍さまをあやしながら、夜妃が言った。
夜妃は二十一だからだいぶしっかりしている。
金栄より二つ下らしいが、夜妃のほうが大人だ。
「寝込んで? でも、青龍さまはこうして無事であるし……呪いではないでしょう?」
白虎宮の雲妃が答える。
雲妃の顔のただれはすっかり鳴りを潜めた。
その素顔はどの妃よりも美しく、ならば肌がただれた皮膚は、余計にショックだっただろう。
雲妃は白虎の頭を撫で、白虎は『みょん』と鳴いている。
「ああもう、わたくしの白虎さま、かわいすぎませんこと?」
「わかります~」とみなが口をそろえてこたえる。
そんな中、青龍が寂しそうに扉に向かって鳴き声を上げた。
『むがう』
「青龍さま?」
もう少し大きくなれば、霊獣たちも言葉を話せるようになるのだろうが、いかかんせん今は、表情やしぐさで把握するしかない。
見るに、青龍宮の春妃を呼んでいるようだった。
「じゃあ、連れて行ってみましょうか」
瑞希は青龍さまを抱き上げて、青龍宮へと足を向けた。
青龍宮につくと、ふらつく足取りで春妃が迎え入れた。
「よくいらしてくださいました」
それは単なる体調不良というよりは。
『がうみゃう』
嬉しそうに青龍が足をばたつかさえる。春妃は手を伸ばし、いとおしげに青龍を抱きしめた。
「青龍さま。春妃にございます」
しかし、すぐに春妃は椅子に腰かけ、上体を起こすのも精いっぱいのようだった。
やはりこの症状は。
連れだって一緒に来た妃たちに青龍を預け、瑞希は春妃に向き直る。
「失礼しますね」
まず顔色が青白かった。それに、スプーンネイル――つまり、爪がスプーンのように反っている。
さらに、下瞼をめくれば、『白い』。
重度の貧血だ。
「いつもお体がだるく、すぐ疲れる。お倒れになることも多いのでは?」
しかし、春妃は一瞬押し黙ってしまう。
後宮で弱みを見せれば、即、死につながるのは誰もが知っていることだ。
困ったな、とつぶやく瑞希だが、瑞希の後ろに見えた人影に、春妃は恭しくこうべをたれた。
「陛下。このような場所になに用でしょうか」
「後宮妃を訪ねるの皇帝のは役目ではないか」
きっと、夜妃が気を聞かせて金栄を呼んだのだ。
どこまでも聡明な妃だ。
「して。春妃。そなた、体調が悪いと」
「お、お許しください! 後宮では呪いが流行っていると……呪われたなどと知れれば、わたくしに行き場などございませぬ!」
どうやらこの妃、『身分が低い』出身の妃なのだとか。
今回の青龍宮の主選びは、身分ではなく純粋に、青龍さまの相性で決めた。つまり、星読みが定めた、木の星を多く持つ人間だ。
「案じることはない。そなたを選んだのはわたしだし、この神女はそなたを害する気もない。そもそも、そなたのそれは呪いでなく病。だろう?」
金栄が言うと、瑞希は力強くうなずいた。
「春妃さま。お任せください! これは、鉄欠乏性貧血です。お食事を気を付ければ、よくなりますよ!」
「さ、さようですか……と、年増の妃ゆえ、追い出されるかと」
「そんなことは! そんなことを言ったら、私は八十二ですよ!? まだまだお若いのに!」
「え? っと」
「ああ、神女の言葉は気にするな。我々が知らぬ事情がおありなのだ」
何度聞いてもしっくりこない。瑞希は八十二歳の老婆なのだと。
行動力も、発言も――いや、発言は確かに年寄り臭いところはあるが。
「では、お料理を作ってまいりますね!」
意気揚々と、厨房に向かう。




