6-8、桃妃の秘密と陰謀
青龍宮には、桃妃が毒をあおる寸前だった。
慌てて瑞希がその手から毒の入った小瓶を取り上げる。
桃妃が憎々しげに瑞希を見ていた。
「ああ、本当に。今代の神女さまは頭が切れるとお噂はかねがね」
金栄はなにがなんだかわからない。
「ご兄弟を皇位につかせるために、陛下の暗殺に来ましたか? 木の星を持たぬ妃ゆえに、青龍さまに拒絶されて。青龍さまになにを食べさせたのです?」
木は土に剋される。
土の気を含んだ食べ物――いや。
「土の気を持つ、妃さまなのですね」
「やはり、腐っても神女。生まれ持った星を感じ取るお力がおありなのですね」
はは、と笑って、桃妃が椅子から立ち上がった。
そのまま瑞希の真ん前まで歩いて、
「あなたはいいわよね。みんなに愛されて。わたくしは、許嫁と引き離されて、家のために死ねと。だから、そうよ。陛下に山梔子を飲ませたのは、私」
「姉上……では、わたしを殺そうと?」
「そうよ。悪い? あなたは私を慕っていないかもしれないけれど。私はね、小さなころからあなたに取り入ることだけ教え込まれて。安寧を望み許嫁との婚姻の話が出た矢先、あなたが即位して、妃選びが始まって。ここぞと両親は、私を後宮に送り込んだのよ」
すべては、桃妃のはかりごとだった。
呪いなんてものは信じない。金栄の病は、仕組まれたものだった。
さらに、桃妃の顔が『曇っている』。
「嘘をついている……?」
桃妃の表情に隠されたのは――
「桃妃さまは……望んで妃になられたのでは?」
瑞希の言葉に、桃妃はなにも言い返せなかった。それが桃妃の答えだ。
「姉上……よもや、叔父上、叔母上に利用されて……」
はっと、桃妃が笑った。
螺鈿の箱にしまい込んだ山梔子を取り出し、
「これが、私が陛下を手にかけた証です。私を許さないで、金栄」
桃妃の目から涙がこぼれた。
それは、愛するものへの贖罪だった。
「金栄が、呪われてくれたら、私もあとを追えたのに」
「皇位だのなんだののために、大事な人を殺すことこそ、後宮にはびこる呪いなのです」
「なんとでも。私はそうね、もう助からないでしょうけれど。最後に一つだけ」
桃妃は、机の上にあった硯や書物を瑞希と金栄に投げつけて、そのまま後宮外へと逃げていく。
「待て! 姉上!」
「陛下、それよりも!」
青龍のうめき声が青龍の間から聞こえてくる。
瑞希は、桃妃を捕えるより先に、命を救う道を選んだ。
金栄は一瞬の迷いののち、瑞希に続いた。
青龍の間では、暴れ狂う青龍の姿があった。
「青龍さま……供物が足りない……!」
木の料理は、もう先ほど食べつくした。
どうすれば。
おろおろするばかりの瑞希のもとに、夜妃、紅妃、雲妃が現れる。
「神女さま! 玄武さま! お願いします!」
『任せておいてよ!』
夜妃の言葉に、玄武が青龍のそばに駆けた。
水は木を生み出す。とは、相生の関係だ。
そうだ、朱雀を玄武と白虎が抑えたように、青龍を玄武が支えればいい。
玄武がむむむ、と青龍に触れると、ぼぼぼ、と音がして、青龍と玄武が――
『あむう』
『ばぶ』
ふたりとも、赤子と化したのだった。
すべてが明かされ、金栄は思い悩む――暇もなかった。
現状、霊獣のすべてが赤子となり、後宮妃たちだけでは子育てが回らない。
「夜妃さま、玄武さまのお料理できました」
「おい、麒麟さまの料理は」
「先ほど出しましたよ。あ! 青龍ちゃん、危ないのはないないしましょうね!」
とまあ、麒麟宮は皇帝の宮のはずなのに、誰が主なのか全く分からない。
しかし、みんな赤ちゃん霊獣にめろめろで、子育てに忙殺されながら、日々が過ぎていく。




